FENICS メルマガ Vol.84 2021/7/25 
 
 
1.今月のFENICS
 
 暑い、フィールドに行けない、しかし海外から日本へ多く人のやってくる奇妙な夏が始まりました。
 COVID-19の感染とオリンピック。オリンピック会場で大量に賞味期限まえの弁当が破棄されているという報道。なんとも言葉がありません。地道に市民が【ひとり親家庭等への支援】フードパントリー(食料品無料配布会)の開催をしている感覚とあまりにギャップがある行為です。
 どのような行動をとるべきか、価値観もばらばらになり、この状況をどう捉えていいのか分からない子ども、若者たちも多くいます。
 若者に選挙権の重要性、日本社会内の格差と政治、日本と世界の状況を多角的に知り、考える機会をつくることが切実な問題になってきました。小さな機会でけっこうです、FENICSと一緒に若者向けに何かやろう!と思う方は、ぜひお声かけください。
  今月に二回、コロナ禍にフィールドに行けない若手向けのFENICS協力イベントを開催しましたが、いずれも大盛況でした。開くだけでなく、実際にどう行動するか、につなげていかねばなりません。
 
 ついに、増田研・椎野若菜編、FENICS100万人のフィールドワーカーシリーズ『現場で育む フィールドワーク教育(FENICS 100万人のフィールドワーカー4) 』が来月に発刊されます!
 大変、大変、お待たせをしました。文理の分野をこえ、小学校・中高・大学、大学院、と教育の現場も縦断した画期的な巻です。お楽しみに!
 本メルマガをご購読の方(会員登録をしている方)にはお得な入手法があります。詳細はメルマガ本体をご覧ください。
 
 先月末は総会を開催しました。ご参加のみなさま、ご意見をくださった方々、まことにありがとうございました。総会イベントもあったため会員内の交流時間が十分にもてず残念でした。
 本メルマガは、正会員と、賛助会員と、FENICSシリーズ著者の方々、メルマガ購読会員の方々がお読みになっています。
 FENICSの活動は、正会員と賛助会員の方々からの年会費1,000円をベースにしており、ほかはボランティアで成り立っています。活動に賛同いただいている方は多いのですが、会費、寄付がきわめて少ないのが現状です。
会費・寄付のシステムも新しくしました。なにとぞ、ご協力のほど、改めてお願いいたします。
 
 正会員・賛助会員になってくださる方は、総会への出欠Googleフォーム記入をお願いいたします。
 昨年度より新しい会費システムsyncableを導入しました。
 
 それでは本号の目次です。
 
ーーーーーーーーーーー
1 今月のFENICS
2 フィールドワーカーのライフイベント③<連載>(網中昭世)
3 フィールドワーカーのライフイベント④<連載>(本田ゆかり)
4 FENICSからのお知らせ (新刊がでます!/ライフイベントのfacebookページ開設)
5 FENICS正会員の活躍(夏休みの子どもにいい企画!:田島知之、久世濃子、野口靖
ーーーーーーーーーーー
 
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜~~~~
2.フィールドワーカーのライフイベント:連載③
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜~~~~
 
アフリカ滞在にむけた助走―生後1年
 
    網中昭世(FENICS正会員・モザンビーク社会経済、国際関係・アジア経済研究所)
 
大人も練習が必要
初の子連れ海外調査をヨーロッパで試し、気が付くと子連れ海外経験がないのは子の父親だけではないか。父さんも練習が必要だ。子持ちのフィールドワークは、シングル・マザーでなければ、子・配偶者持ちのフィールドワークでもある。ツレは研究者ではない。ましてや彼の人生は、私のフィールドであるアフリカ(しかもメインはポルトガル語圏)とは無関係だ。よって、私の場合、ケアすべき人間は子1人と大人1人。再開した就職活動にようやく手応えを感じつつ、少し先のことを妄想したりもした。
 
「もし〇〇に就職が決まると3年目以降に2年間の在外研究があるから(耐えられるかどうか…)試しにアフリカ行ってみてよ。」(括弧内、心の声)
 
というわけで、子が1歳になる頃、父子ともに黄熱病ほか諸々の予防接種を5、6本打ち、2014年8月に3週間、モザンビーク、アンゴラ、南アフリカでの史料収集の調査に付き合ってもらうことにした。当時、飲食店を経営していたツレは、猛暑の8月は元々客足が遠のく時期と割り切って、稼げたかもしれない営業利益と店舗の家賃を犠牲にしてくれた。私は同伴する二人分の旅費を自己資金で賄い、厄介なビザの手続きも3人分。
 モザンビークと南アフリカでの宿泊地は、友人宅に世話になることになっていた。モザンビークで私はいつもより緩めのスケジュールで公文書館調査をこなし、ツレにも現地の雰囲気を掴んでもらいつつあった。ポルトガル語圏とは言え、今回の滞在地は首都だし、英語も通じるという私の事前情報に対して、ツレの反応は「…全然通じないよ。」
 
危機管理にはネガティブ思考
ツレの反応に対して、主観とは恐ろしいものですなぁ…と、どこ吹く風の私の頭の中は、次の渡航先で私の調査歴が最も浅いアンゴラのことでいっぱいだった。モザンビーク滞在中もアンゴラの情報をチェックしていると、隣接するコンゴ民主共和国(DRC)との国境を封鎖したとのニュースが目に留まった。当時、西アフリカでエボラ出血熱の感染が拡大していたが、私が行くのは南部アフリカ…と思っていた。しかし、DRCでは過去にエボラ出血熱の症例が確認されており、アンゴラは先手を打ってDRCとの国境を封鎖したのだ。自分たちの危機意識のレベルを上げる必要を感じた。
  
モザンビークにて急遽、家族会議が開催された。議題はアンゴラ行きをどうするか。安全策を講じるためには、物事を極力悪い方向に考えるべきだ。もしも、私たちのアンゴラ滞在中に国内でエボラ出血熱の症例が確認され、私たちが南アフリカに移動する頃に1歳の子が偶然発熱などしたら、エボラ出血熱を疑われて南アフリカの検疫に留め置かれるかもしれない。そこでこそ本格的に具合が悪くなり、ますます検疫から出られず、日本への帰国の日程も目途が立たなくなりかねない…。
 

南アフリカにて、友人の同い年の子と

 予定は未定である。私たちはアンゴラ行きを取りやめ、モザンビークから直接南アフリカに移動した。無駄になった労力と費用についてはキレイに忘れることにした。南アフリカでは日程の変更にもかかわらず、現地の友人たちが快く迎え入れてくれた。宿泊先となる友人宅に到着後、ツレはそれまでの緊張感が途切れたのか、熱を出して2日ほど寝込んだ。南アフリカ人の10年来の友人は私に言い放った。「Akiyo、Haru(私のツレ)はアフリカまで遥々ベビーシッターしに来たわけじゃないのよ!」私は内心「えぇっ、違うの?」と思いながら、友人がそのまた友人にベビーシッターを依頼するに任せた。私は目当ての史料収集に出かけ、後日、回復したツレはヨハネスブルグ市内の観光に出かけた。
 
 最終的には無事に帰国し、秋風が吹く頃に採用内定の通知が来た。家族を同伴する長期の在外研究がいよいよ現実的になってきた。
 
(次回は、子5~6歳のモザンビーク長期滞在です。)
 
(つづく)
 
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
2.フィールドワーカーのライフイベント④
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 
海外日本人社会というフィールド ―駐在員の妻として、女性研究者として―
   本田ゆかり(東京外国語大学大学院総合国際学研究院 特別研究員)
 
 今回は、日本人の駐妻と日本人社会以外との関りについて書く。語学力の問題もあるので日本人社会以外との関りやネットワークの広げ方はそれぞれだが、個人的には現地の人や諸外国の人びととの関りを深めたほうがいろいろな情報を得られるし、現地生活を楽しめるのではないかと思う。 
  
 各国駐妻同士の横のつながりでは、趣味のサークルのほか、交流・慈善活動を目的とした婦人会などがある。個人的な付き合いももちろんそれぞれにある。私は専門である日本語教育の分野で現地の学校をサポートするほか、スラム女性の自立支援を行う職業訓練校のお手伝いなどをしていた。

 私には日本語教育のスキルがあるので、ありがたいことにどこへ行っても重宝される(社会から求められている感覚が心に沁みます)。これまで、行く先々で大学の授業を担当させてもらったり、スピーチコンテストの審査員をさせてもらったりした。現地就労不可の駐妻なのでボランティアだが、海外では日本語教育人材が不足しており飛び入りでも何かさせてもらえる場合が多いのだ。日本語を学ぶ外国人は日本に関心が高く、こちらは教師という立場なのでとても親切にしてくれる。同僚の先生方とも親しくなり、現地の方々と近くなれるので異文化理解も進む。これから何か学びたいと思っている駐妻さんがいれば、日本語教育はおすすめしたいスキルである。

大学で代講を頼まれ、息子連れで授業したこともありました。

奧に座る小さいのが3歳の息子。

 また、パキスタンではスラム女性の職業訓練校をお手伝いしていた。ここにくる女性は大変厳しい人生を生きている。身に纏う衣服をはじめ日々の行動、職業や結婚の選択まで制限があり、それは貧しいほど厳しい。従わなければ最悪の場合名誉殺人のようなことも起こる。パキスタンのようなイスラム教の国ではクリスチャンの貧民が多く、イスラマバードにもクリスチャンコロニーと呼ばれるスラムが数多くある。クリスチャンは多数派のムスリムからさまざまな迫害も受けている。富裕な家庭の掃除夫として働くのはこのような人々だ。しかし、スラムに生きる貧しい女性でも、裁縫や美容のスキルを身につければ収入を得て自立し、子供に教育を受けさせることができる。パキスタンにいる間、私はこの職業訓練校の活動を支援し、治安の良い場所ではなかったが3歳の息子を連れて何度もスラムの中にある学校を訪れた。私の滞在中には生徒数が増えていき、別のスラムに分校もできた。
  
しかし今、この学校は危機に瀕しているらしい。主力講師として育てた人材が借金を踏み倒して逃げてしまったり、この活動に目を付けた原理主義的なイスラム教徒から殺人予告の脅迫を受けたりするなど、さまざまな困難に直面しているそうだ。私は学校運営を行うパキスタン人の友人から直接この話を聞いたのだが、私が何かできるほど物事は簡単ではないので大変歯がゆい思いだ。このような展開も含めてすべてが私のようなお気楽駐妻の想像を超えており、現地の人と関わること、現地事情を知って自分がどう行動すべきかを考えることの大切さを改めて感じる。
(つづく)

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
4.FENICSからのお知らせ
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
(1) FENICS100万人のフィールドワーカーシリーズ 新刊来る!
(2) ライフイベントに関するfacebookページをつくりました。
* * * *
(1)ついに、FENICS100万人のフィールドワーカーシリーズ『現場で育むフィールドワーク教育(FENICS 100万人のフィールドワーカー4) 』が来月に発刊されます!
 
8月初旬にはできあがる予定です。
 
以下のオーダーフォームで古今書院担当者に注文すると、FENICS紹介価格(15%引)になります。
 
通常、古今書院よりお送りする場合は送料715円(税込)かかりますが、新刊刊行期間限定で、2021年9月末日まで、送料が無料になります。
 
これを機会にぜひご利用ください。
書店では割引はできません。FENICS紹介割引を利用される方は、必ずフォームご記入の方法で注文をお願いします。
 
 
<目次>

イントロダクション(増田研・椎野若菜)
 
PART1 自然を読む実習のかたち
第1章 海洋で多彩なフィールドワーク研究をするために(梅澤 有)
第2章 自然を記載する「マニュアル化できない」フィールドワークの重要性(宮本真二)
第3章 サルと学ぶフィールドワーク実習(井上英治)
第4章 フィールドワークで気づいた「なぜ?」から問いを立てる ― 中学校・高等学校におけるフィールドワークのすすめ(吉崎亜由美)
 
PART2 カリキュラムの海外展開
第5章 教室も教科書もない南極から授業する(澤柿教淳)
第6章 北海道大学 南極学カリキュラム―極地研究を次の世代につなぐために(杉山 慎)
第7章 文系学部生のフィールドワーク研修―国際協力に関心をもつ学生のゼミの研修の事例(杉田映理)
第8章 インターンをしながら調査する国際保健(増田 研)
 
PART3 実践:教室を飛び出す
第9章 授業で野宿者と出会う―学生と教員はどのようにアプローチしたか (山北輝裕)
第10章 一般の人も巻き込むフィールド実習形(中村一樹・山中康裕)
第11章 学生と歩んできたフェアトレード活動(子島 進)
 
編集後記(増田 研)
 
(2)フィールドワーカーのライフイベントについて、サロンの場だけでなく情報交換をする場をfacebook上に設けました。
https://www.facebook.com/groups/325035039078804

 科研で子連れの場合、また助成金のこと、「おさがりをまわします!」といった情報をメンバーで共有したいです。ご関心ある方は、ぜひ参加してください。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
4.FENICS会員の活躍
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
(1)田島知之さん(霊長類学/京都大学/FENICS正会員)
 
【小川珈琲主催】夏休みにオランウータンと環境問題について学べる「オランウータン学校」で講師をなさいます。
対象:小学生4~6年むけ!
 
お申込み、こちら→https://peatix.com/event/1990661
 
(2)久世濃子さん(霊長類学/FENICS正会員)
先日、ご紹介した久世濃子さんの『オランウータンに会いたい』あかね書房、が第67回青少年読書感想文コンクールの課題図書(小学校高学年の部)になったことを記念するイベントです。
 
こちらもあわせてごらんください。
 
日時:2021年8月15日(日) 11:00~12:00
 
対象:小学生5,6年生と保護者様向け!
お申込みは、こちらのサイトから→https://www.orangutan-research.jp/news/event/20210815.html
 
 
田島さんと久世さんはボルネオの森で共同研究されてきました。NPO法人「日本オランウータン・リサーチセンター」としても研究活動なさっています。
 
(3)野口靖さん(メディアアート/東京工芸大学/FENICS正会員)
 
 野口靖さん(FENICS正会員、6巻『マスメディアとフィールドワーカー』執筆者)が「色」に関する下記の展示会を企画、監修なさいました。
世田谷、三軒茶屋にある生活工房でのギャラリーです。フィールドワーカーなら、発見が多くあること間違いなし!
 
◆「色覚を考える展 ヒトと動物の色世界」 概要
【日程】 2021年7月24日(土) ~ 8月29日(日) 9:00 ~ 21:00 ※ 祝休日を除く月曜休み
    (7月24日~ 8月22日まで開催時間を9:00 ~ 20:00に変更します)
【会場】 生活工房ギャラリー (東京都世田谷区太子堂4-1-1キャロットタワー3階/三軒茶屋駅直結)
【入場料】 無料(関連イベントは有料のものもあり)
【共催】
公益財団法人せたがや文化財団 生活工房
東京工芸大学 色の国際科学芸術研究センター
【企画・監修】
東京工芸大学芸術学部インタラクティブメディア学科教授・色の国際科学芸術研究センター長 野口 靖
【生活工房 URL】
 
・ 8月1日(日) ギャラリートーク
展覧会場を巡りながら、野口さん自身が見所を分かりやすく解説します。
・ 8 月14日(土)ワークショップ 「不思議なステンドグラスをつくろう」
陳軍さん(東京工芸大学)によるワークショップを開催。 
偏光板やセロハンを使って角度により色や形が見え隠れするステンドグラスをつくりながら多様な動物の色の世界について学びます。
 
ほかにも関連イベントがあります。
::::
 
以上です。お楽しみいただけましたか?
みなさまからの情報、企画、お待ちしています。
 
====--------------======
お問い合わせ・ご感想などはこちらよりお寄せ下さい。
メルマガ担当 椎野(編集長)・澤柿
FENICSウェブサイト:http://www.fenics.jpn.org/