FENICS メルマガ Vol.128 2025/4/25 
 
 
1.今月のFENICS
 
  新緑が美しく、すがすがしい季節となりました。新年度・新学期のリズムにも、慣れだした頃でしょうか。そして、今年のフィールド調査の計画も具体的にたてようとしている時期でしょうか。
 4月になってからも、幼児を持ちつつフィールドワークに出かける予定の若手研究者から2件、相談を受けました。他方で、在宅介護のために東京を離れたフィールドワーカーもお二人いらっしゃいました。自らのライフイベントと、家族の状況と、「フィールドワーカー」の両立。
FENICSのネットワークにいらっしゃる方々の経験知を互いに学びつつ、励みにしつつ、新しい発想を得ながら、さまざまな形の「フィールドワーカー」を模索したいと、改めて思いました。
 本号では、FENICS正会員のお二人が親子での「フィールドワーク」の様子を寄稿くださっています。お楽しみください。
 
 また、FENICSサイトにアクセスできないというご連絡をいただきました。FENICSがレンタルしているさくらサーバーのほうで規制強化の変更があったようです。とくにApple の safari は、プライベートリレーの設定をOffにすればよいみたいです。弘前大学にも同様の事例が載っていました。https://itc.hirosaki-u.ac.jp/blog/ufaq/32382
ご参考になさってください。

 

 最後に、FENICS設立から10年となり、活動を拡げるためにFENICS会員についての登録のお願いのお知らせがありますので、下記、どうかよろしくお願いいたします。
 
それでは、本号の目次です。
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1 今月のFENICS
2 私のフィールドワークー連載①   (吉崎亜由美)
3 子連れフィールドワークー連載③(松井生子)
4 FENICSからのお知らせ
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2. 私のフィールドワーク
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サウジアラビアへのウムラ(小巡礼)①  
                 
         吉崎亜由美(地域研究/桐朋学園教諭/FENICS正会員)
  
 我が家は息子2人と夫がボーンムスリム(生まれながらのイスラム教徒)、改宗ムスリマ(改宗した女性のイスラム教徒)の私の4人家族。夫から、「ハッジ(メッカへの大巡礼)に行きたいね」と言われる度に、(ムスリムの義務である五行の1つであることは分かっているが…)「ウムラ(小巡礼)で練習してからね」と答えていた私。気が乗らない理由は2つ。1つは「習慣が違う国の人がテントで宿泊するので、とにかく大変」「たくさんのムスリムが1か所に集中するので、押されて亡くなる人もいる」「必ずインフルエンザにかかる」など、ハッジに関するいい噂を聞いたことがないこと。日本人ハッジ経験者によると、ハッジには「忍耐」が必要なのだそう。  
  
2つ目はハッジの時期が仕事の休みと合わないこと。ハッジ(大巡礼)とは、ヒジュラ暦(イスラム暦)の12月の巡礼月(ズーアルヒッジャ)の8日から13日まで行うメッカ巡礼のことである。それ以外の時期に行われるメッカ巡礼をウムラ(小巡礼)という。ヒジュラ暦は太陰暦なので1年は約354日、太陽暦の西暦より11日短い。今年のハッジは2025年6月4日 (1446年ズーアルヒッジャ8日)から始まる予定なので、猛暑になる時期である。ハッジでムスリムが1か所に集中する理由は、8日のメッカのカーバ神殿での礼拝に始まり、9日のメッカ東方のアラファーでのウクーフ(悔い改め)、10日のメッカとアラファーの中間にあるミナーの谷での悪魔の石柱への投石、10日の日没よりイードゥル・アドハー(羊などを屠る犠牲祭)を行うなど、ハッジの時期と場所が決まっているからである。   

 ということで、私と息子たち(22歳と24歳)が休みとなる2024年の年末年始からお正月にかけて、ウムラに行くことになった。ところが、どうしたらウムラに行けるのかがよく分からない。夫がサウジアラビア大使館に問い合わせると、「オンラインでウムラビザを取得してください」とのこと。オンラインで調べてみると、「ウムラのためにサウジアラビアに渡航する場合、以下の予防接種を受けなければなりません:COVID-19、ナイセリア髄膜炎、四価髄膜炎、季節性インフルエンザ」とある。予防接種の値段を調べてみると高額で、接種機関も限られている。夫に相談してみると、「そんなこと、聞いた事ない」。髄膜炎の予防接種のために医療機関に問い合わせたが、よく分からず、結局、私のみが職場でインフルエンザ予防接種を受けただけで、ウムラに行くことにした。ウムラビザは1人1万8000円と高額。1年間何度も入国できるウムラビザなので、渡航ギリギリに取得することにした。
  
条件にムスリム名でない場合には、ムスリムであることの証明書が必要とあった。ちなみに、サウジアラビアは観光立国を目指して、2022年からムスリム以外にも観光ビザを発行しているので、誰でも旅行することができる。航空チケットやホテルはオンラインで予約した。ホテルに英語で質問すると、アラビア語で返事が返ってくる。メディナからメッカへの移動は新幹線でと決めて、チケットの予約のサイトを調べてみると、rail ninjaと怪しい。実は、サウジアラビアのeビザ申請サイトも日本の選択肢がなぜか、新宿アイランドタワー。偽サイトのような翻訳で、試しに私のビザだけを申請し、様子を見たほど不安になった。でも、サウジに行ってみると、予防接種の確認もなく、ビザ取得のサイトも、rail ninjaも本物で一安心した。サウジの旅の予約もスマホでできる時代なので、旅行代理店が減少するのも無理はない。

私は前日まで仕事をして、夜に渡航の準備をした。我が家は、身軽な感じで国内外の旅行に行くのだが、今回のウムラ4人分の荷物は、小さなスーツケース2個分。早朝のフライトなのでタクシーで空港へ行き、飛行機に乗って一安心。最初の目的地が香港で、サウジへのフライトまで少し時間があることが分かり、急遽香港でエアポートエクスプレスに乗り、ハラールランチを食べに行った。

 

写真1 香港駅の外で集うフィリピン人のメイドさん

写真2 ハラールレストランSAFFRONのペルシャ料理(波斯美食)



香港駅を降りると、段ボールの上に座って談笑する女性が通路の両サイドを占領していてビックリ。調べてみると、香港で働くフィリピンのメイドさんたちが休みの日に集まっているとのこと。人であふれるセントラルを通り抜け、ペルシャ料理店SAFFRONに入ると客で満席。ラムケバブセットを注文したら、円安の影響なのか、1人あたり218香港ドル(4000円以上)と高かったがおいしかった。
 
つづく
 
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3. 子連れフィールドワーク
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子連れフィールドワーク@カンボジア (3)2024年 ~ 6年生、再びカンボジアへ
 
       松井生子(文化人類学・東南アジア地域研究/日本女子大学 学術研究員/FENICS正会員)
 
子どもが6年生になった2024年の夏、また一緒にカンボジアへ行くことにした。2017年の日本文化人類学会大会のFENICSサロンで、発表者の方が、子どもと一緒にフィールドに行けるのは3年生くらいまでで、大きくなると友達付き合いのほうが大事になって一緒に来てくれなくなると言われていた。そういうものなのだろうと思っていたが、都心で子どもが少なく、学校の外で遊ぶ友達がいないせいか、自分の子どもは6年生になっても親べったりである。加えて、夫は病を患ってから体力気力が減退し、あいかわらず長期間子どもの世話を頼むことができない。そういうわけで、今回もまた子連れフィールドワークとなった。

写真1. エビを食べて満足

今回は2週間ほどの渡航で、調査村のベトナム人の集住場所で10年ぶりに悉皆調査をおこない、世帯の構成、年齢、職業、生活状況のデータを得ることを主な目的としていた。
  村に着くと、子どもは外に出るのを嫌がり、家で漫画を読み、絵を描いて過ごしていた。しかし高床の家の居住部分である2階は前面に壁がなく、手すりがついているのみである。このため、家に完全に引きこもることはできず、常に外界の刺激を受けることになる。家の横の小道は川に続いていてしょっちゅう人が通り、鶏や犬がうろうろしている。子どもはやがて高床の部屋から下りて家の子猫と遊ぶようになり、近所の子どもと仲良くなって家にいることが少なくなった。

写真2.今回も孫のハンと一緒にスマートフォン。階下の縁台にて。

生活面では、2022年の渡航時と同じく、子どもは現地の料理を食べず、村では基本的にインスタント麺をお湯で戻して炒めたものしか食べなかった。野菜を食べないので、代わりに食後はバナナを食べた。だが、私のフィールドの母が川でとれた大ぶりのエビをゆでて出してくれると、珍しく食べる気になり、おいしかったと言って喜んでいた。4年生のときは家の外にあるトイレに私が連れて行き、洗い場で水を汲んで手を洗う補助をしたが、さすがに6年生になるとトイレに1人で行き、手を洗うようになったので、この点も楽になった。この記事を書くためにフィールドノートを見ると、子どもに友達ができた件は記録していたが、他はほとんど子どものことを書いていなかった。調査で忙しかったということもあるが、子どもに手がかからなくなった証だろう。
 
この連載を始めるまでは、正直、子どもが成長したとはそれほど感じていなかった。特に今回はカンボジアで何かを学んだり、カンボジアを契機として本人に変化があったという形跡があまり見られず、「日本でもカンボジアでも一緒。成長がない」と思っていた。しかし文章にしてみると、泣いてばかりだった4年生のときと比べ、物事の受容度が高くなり、子どもは格段に成長している。日本の日常からカンボジアの日常への移行がスムーズで、境目がない。この、カンボジアで身構えることがなく、いつもの自分でいられるということが、実は成長だったのだと気づいた。
                                      
つづく
 
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4. FENICSよりお知らせ
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  FENICSは、2015年01月06日にNPO法人化して以来、10年をむかえました。
 
これを機にさらに、背景がさまざまな正会員のみなさまと共に新たな「フィールド」を作り出していく、共に「フィールドワーク」という行為を楽しみ、次世代の「フィールドワーカー」を育てていく、という活動にしたいと考えております。
 近年、AIを始めとする技術の発展によって、私たちの暮らし、学問、芸術やビジネス、行動の仕方も大きく変わってきました。しかし実際に足を運ぶ、実際に見る、聞く、会って話す――こうしたフィールドワークという行為が、コロナ禍を経てふたたびフィールドに戻れるようになった今、それまで以上に、重要であることを再確認している方も多いのではないでしょうか。想像以上に、人間はその場に行くこと、共有することで、多くを感じ、多くの情報を得ることができる!と。
 
世の中全体が忙しく、追い詰めるような時間軸となっている今だからこそ、本業のあと、ふと放課後の部活動に赴くように、あるいは本業の新たな展開を探るべく、FENICSの企画に参加、あるいは共に企画していただきたいと思っています。さまざまなフィールド(地域、テーマ)に関心のある人と接触して、多くの情報を得て、各人が広い意味での人生の、あるいは仕事としての「フィールドワーク」につながる何かを感じ、考えられる場にしたい。そうした知的な心の躍動感があってこそ、これからの進路、生きる道も豊かになっていく・・

学問領域は、あいかわらず縦割が強く、横のつながりによって別の分野のフィールドワーカーと出会いにくいままです。FENICSは、学際的な学問を超えたフィールドワーカーの出会いの場、協働の場として、さらなる発展をめざします。
 
1) 正会員のみなさま
 
 今年度、FENICSの関連イベントとして、企画がございましたら、お寄せください。6月に総会がありますので、年間予定にいれられるよう、ともに考えていきたく思います。改めて、ご連絡いたします。
 また、メールでご連絡しましたように、再登録をお願い申し上げます。改めて、下記をご覧ください。
   
https://syncable.biz/associate/FENICS/donate/membership
 
2) 正会員へのお誘い
 
 メルマガ購読のみをなさっているみなさま、ぜひとも正会員への登録をお願いいたします。
FENICSの運営は、ボランティアで成り立っています。皆さまからの会費によって、特定の組織や分野の作法にこだわらず、自由に、共に、フィールドワークに関する、分野を超えての活動をしませんか。
 
昨年の総会での決定を受けて、2025年度より会員の種別および年会費を下記のように改定することになりました。
 
■会員①(議決権あり、年収300万以上の方) 3,000円
 ◎FENICSのNPO法人活動に主体的に参画する個人で、FENICSの運営に関する総会の議決権があります.
 ◎FENICSメルマガやイベント情報を得ることができます.
 ◎ご自分の企画をFENICSと連携をとり、実現が可能です.
 ◎FENICSフィールドワーカーシリーズを割引購入いただけるほか、各種イベントの参加が会員割引となります.
 
■会員②(議決権あり、年収300万未満の方)1,000円
 ◎FENICSのNPO法人活動に主体的に参画する個人で、FENICSの運営に関する総会の議決権があります.
 ◎FENICSメルマガやイベント情報を得ることができます.
   ◎ご自分の企画をFENICSと連携をとり、実現が可能です.
 ◎FENICSフィールドワーカーシリーズを割引購入いただけるほか、各種イベントの参加が会員割引となります.
 
*年収等については自己申告制(特に書類等の確認は不要)ですので、ご自分に合った会費プランを選択ください。
 
■賛助会員(議決権なし)1口 1,000円
 
  ◎FENICSの活動趣旨に賛同し、寄付してくださる個人・組織・企業等です.
  ◎FENICSメルマガやイベント情報を得ることができます.
  ◎FENICSフィールドワーカーシリーズを割引購入いただけるほか、各種イベントの参加が会員割引となります.
 
*賛助会員には、総会の議決権はありません.
 
今回の改定では、これまで1000円だった正会員の年会費を3000円とするのに加えて、新たに学生や若い方等も参加しやすいように「会員②」を設けました。今後はできれば寄付も集めつつ、会員の皆様も一緒に提案・企画していただき、共にプロジェクトを立ち上げて使いたいと思います。
 
なにとぞ、ご協力のほど、お願いいたします。
 
 
 
以上、お手数おかけしますが、よろしくお願いいたします。
 
 
以上です。お楽しみいただけましたか?
みなさまからの情報、企画、お待ちしています。
 
 
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メルマガ担当 椎野(編集長)・澤柿
FENICSウェブサイト:https://fenics.jpn.org/