FENICS メルマガ Vol.129 2025/5/25 

 
 
1.今月のFENICS
 過ごしやすい時期が短くなった日本ですが、5月は比較的、すがすがしい日が多かったように思います。みなさま、いかがお過ごしでしたでしょうか
 スーパーマーケットで主食の米が普通には手に入らないという事態は、ちょうど朝ドラで描かれている戦時下の家庭の食料状況すら想像させられます。さらには
戦争に科学が利用されてしまったという反省から、日本学術会議は生まれたという背景がありますが、それがいま、政府による介入が可能となる「特殊法人」化する法案が審議されています。黙っていることは、目の前で起こっている事象を認めていることと同義となってしまいます。学問の世界だけでなく、教育の現場にもじりじりと、政府の思惑が仕込まれていく。フィールドワーカーとして、何ができるのか。うかうかしていられません。

 下記のお知らせにも記しましたが、来週末に筑波大学にてFENICSのブースが開設されます。人類学関係の方々に、おめにかかれることを楽しみにしています。 

それでは、本号の目次です。
 
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1 今月のFENICS
2 私のフィールドワーク③(山本貴仁)
3 私のフィールドワーク②(吉崎亜由美)
4 FENICSからのお知らせ
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2. 私のフィールドワーク
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私のフィールドワーク③
〜オブロニからKwabenaになるまで〜
    山本貴仁(東京外国語大学/ガーナ大学 学部生)

みなさんこんにちは!
昨年8月より、東京外国語大学からガーナ大学に留学中の山本貴仁です。
現在、ガーナ中部の農村にて日本のNGOのインターンをしつつ、フィールドワークを行っています。現地でフィールドワークをするにせよ、NGOの職員として活動するにせよ、地域の人々との信頼関係の構築は言うまでもなく重要です。今でこそ地域の人々とは親しい友人になっていますが、村に最初にやってきた時は、信頼関係の構築が本当に可能なのかと思うほど過酷な状況でした。

アフリカに行くと誰しも経験することだと思いますが、最初は怒涛の「China」、「オブロニ(現地語で“外国人”)」攻撃を浴びます。さらに、「シンチョンチン」といった中国語を真似た音声模倣によってからかわれるといった二次攻撃も受け、精神的に削られます。前回お伝えしたとおり、私が活動する地域は金の違法採掘が非常に盛んな地域です。違法採掘のために中国人労働者が多数地域に入ってきた過去があり、「アジア人」をからかう傾向は、他地域に比べても強いように思われます。

写真1 試行錯誤の最初の1週間

明らかな差別ではありますが、この地で生きる以上、どうにか対応していかなければなりません。「“China”ではなく、“Japan”だよ」と伝えると、素直な子どもたちは「Japan!」と声をかけてきます。ただし、国籍で呼ばれること自体に、私は違和感を覚えました。もっと「私」という個人を知ってほしい、という思いが強まったのです。差別的な言動は無視し、こちらから現地語で挨拶をし続けました。

私の現地語での名前「Kwabena(火曜日生まれの意)」として自己紹介を重ねました。会話が大好きなガーナの人々は、私が現地語を話すことに驚き、興味を持ってくれます。こうした状況になると、信頼関係を構築することは比較的容易になります。また、私自身、子どもたちと遊ぶことが大好きなこともあり、毎日村の子どもたちと遊びました。最終的に、地域の子どもたちからの認知度がほぼ100%となり、村のどこに行っても「Kwabena!」と声をかけてもらい、大人にも認識してもらうことにつながりました。

写真2 近所の学校に遊びに行くと、「アイドル」が来た状態にな

加えて、村の集会や教会への参加、ラジオへの出演などを通じて、多くの人々に知ってもらうことを心がけました。
滞在期間が2ヶ月を超えてくると、村における私のアイデンティティは、「オブロニ」という抽象的なものから、「Kwabena」という具体的な人物としての存在に変わっていきました。
 

写真3  毎日一緒に遊んでいる「弟」のSalom

定期的に日本人の知り合いを村に招いていますが、人々が差別的な言動をすることはありません。かつて違法採掘で働いていた中国人労働者は、地域とのつながりを持つことに消極的だったようです。その対照として、私が積極的に地域社会と関わってきたことで、肌の色が違う「他者」を受け入れる意識が、地域に徐々に醸成されてきたのではないかと感じています。私が村中を歩き回り、多くの人に顔と名前を覚えてもらっていることから、ついに村の議員選挙への出馬要請が来ました!
KwabenaからAssembly Manになる日も近いでしょうか。
(ガーナ国籍がないので、当然冗談ですが。)
                             
つづく

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3. 私のフィールドワーク
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サウジアラビアへのウムラ(小巡礼)②                    
   吉崎亜由美(人文地理学/桐朋学園教諭/FENICS正会員)
 
17:30香港発の飛行機に乗り、22: 40にサウジアラビアの首都リヤドに到着。翌朝6:50の国内線に乗り、8: 30メディナに到着。預言者ムハンマドﷺの墓があるメディナは、メッカに次ぐイスラームの聖地。世界中からムスリムが集まる宗教都市である。予約したホテルまでタクシーで行き、チェックインすると、英語よりもウルドゥー語(パキスタンの公用語)が通じる。

アラブ首長国連邦でも、アメリカでもホテルや店、タクシーではウルドゥー語がよく通じるのと同じだ。ホテルのバスで、預言者モスクに礼拝に行った。バスに乗り合わせた親子に「どこから来たの?」と聞くと、「エジプトから」。「私たちは日本から来た」と言うと「ウェルカム」と言われた。「日本からはるばるアラブに来たから、ウェルカムなのかな?」と思った。預言者モスクに行くと人が多くてビックリ。モスクの礼拝は男女別々に行うので、毎回、私と息子たちは別々の場所で礼拝し、待ち合わせをすることになる。12月のサウジは冬であるが昼間の日差しが強いので、モスクにある大きな傘の下に座って、礼拝の時間を待った。ちなみに、預言者モスクの巨大アンブレラ250基を製造・設置したのは、大阪の太陽工業。開閉式で美しいデザインが特徴的である。その後、メディナの預言者モスクには何度も訪れたが、旅行代理店HISのビブスを身につけた日本人女性が礼拝する姿を1度見ることができた。  

 

写真3 世界中から預言者モスクを訪れるムスリムと巨大アンブレラ

写真4 ファジュルの礼拝のため、預言者モスクに集まるムスリマ


預言者モスクには預言者ムハンマドﷺの墓があり、男女別々の入り口から見学する。幸いなことに、ファジュル(夜明け前)の礼拝の後に、その機会が訪れた。(しかし、私はこの時点では、これから何が起こるのかを理解していなかった…)預言者モスクで働くのムスリマがアラビア語で何か指示をしている。指示があり、みんなが立ち上がり、走り出すのでついていくと、感極まって号泣する人、人でひしめき合う場所で礼拝を始める人、写真やビデオを撮る人で大混雑。私はここでやっと、自分が預言者ムハンマドﷺの墓の隣にいることを理解し、その様子を撮影し、みんなにならって礼拝した。写真は、息子が撮った預言者ムハンマドﷺの墓。モスクで教わったNusukというアプリから応募し、夜中の見学チケット2枚を何とか取ることができたので、夫と長男が墓を正面から見学することができた。

写真5 預言者ムハンマドﷺの墓

イスラム暦では、預言者ムハンマドﷺがメッカのクライシュ族の迫害から逃がれて、メディナへ脱出した年をヒジュラ元年1月1日(西暦622年7月15日)と定めている。アンサール(援助者)と呼ばれるメディナのムスリムは、メッカから逃れてきたムスリムに、喜んで財産を分け与えたと言われている。

写真6 預言者ムハンマドﷺが最初に建設したとされるクバ・モスク

写真7 アル・キブラタイン・モスク

写真8  ウフドの戦いで亡くなった殉教者の墓地

写真9 ハンダクの戦いの駐屯地 セブン・モスク

写真10 巡礼者のためのホテルが立ち並ぶ、メディナの町並

写真11 メディナのおみやげの定番、ナツメヤシ



写真6は、預言者ムハンマドﷺが最初に建設したとされるクバ・モスクである。写真7は、アル・キブラタイン・
モスクである。アル・キブラタイン・モスクで礼拝中の預言者ムハンマドﷺに啓示があり、キブラ(礼拝の方角)がエルサレムからメッカに変わったことから、このモスクには2つのキブラが示されている。写真8は、625年3月にバドルの戦いの復讐のために、メッカの大軍がメディナに攻めてきた際に起こったウフドの戦いにより亡くなった殉教者の墓である。ウフドの戦いで亡くなったハムザの墓もどこにあるのか、分からないように葬られている。写真9は、塹壕(ハンダク)の戦いの駐屯地および監視の役割を果たしたセブン・モスクの1つ。実際には7つではなく、6つのモスクがある。ハンダクの戦いでは、627年3月にメッカの大軍が再びメディナを攻めた時に、預言者ムハンマドﷺは町の周囲に塹壕を掘らせたため、メッカ軍は2週間後になすすべなく退いたと言われている。このように、メディナでは預言者ムハンマドﷺの足跡をたどることができる。
 
つづく
 
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4. FENICSよりお知らせ
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 来週末、2025年6月7日、8日と筑波大学で文化人類学会の研究大会が開催されます。
FENICSでは、ブースの設置をいたしますので、ぜひ遊びに来てください!!

 
開催場所:筑波大学筑波キャンパス(中地区|3A・3B棟) 〒305-8577 茨城県つくば市天王台1-1-1
 
このところ対面のイベントが少ないことから、みなさんとお目にかかる機会も少なくなっています。
今年度、今後、FENICSと共催したい、という活動のアイディアや、出版物の話し合いなどできれば幸いです。FENICSフィールドワーカーシリーズはあと3冊をだすと完結します。すでに絶版になっている巻もありますが、古今書院の関さんも同じブースコーナーにいらっしゃいますので、再版の希望を話し合いたく思います。みなさんのほうからの希望の声も必要です。
また、8巻『災難・失敗を越えて(仮)』は目下編集中で、執筆者の方々へご挨拶したく存じます。さらに『共同調査のすすめ(仮)』『フィールド技術のDIY(仮)』については、執筆希望者も募集したく思っています。これぞ!と思う方、いらしてください。
改めてご連絡もしたいと思っております。
 
【100万人のフィールドワーカーシリーズ 既刊】
第1巻 フィールドに入る
第2巻 フィールドの見方
第5巻 災害フィールドワーク論
第6巻 マスメディアとフィールドワーカー
第7巻 社会問題と出会う
第4巻 現場で育むフィールドワーク教育
第9巻 フィールドワークの安全対策
第11巻 衣食住からの発見
第12巻 女も男もフィールドへ
第13巻 フィールドノート古今東西
第14巻 フィー ルド写真術
第15巻 フィールド映像術
 
 下記、ふたたび正会員への入会のお願いです。よろしくお願いします。
     ☆   ☆   ☆   ☆   ☆
  FENICSは、2015年01月06日にNPO法人化して以来、10年をむかえました。
 
これを機にさらに、背景がさまざまな正会員のみなさまと共に新たな「フィールド」を作り出していく、共に「フィールドワーク」という行為を楽しみ、次世代の「フィールドワーカー」を育てていく、という活動にしたいと考えております。
近年、AIを始めとする技術の発展によって、私たちの暮らし、学問、芸術やビジネス、行動の仕方も大きく変わってきました。しかし実際に足を運ぶ、実際に見る、聞く、会って話す――こうしたフィールドワークという行為が、コロナ禍を経てふたたびフィールドに戻れるようになった今、それまで以上に、重要であることを再確認している方も多いのではないでしょうか。想像以上に、人間はその場に行くこと、共有することで、多くを感じ、多くの情報を得ることができる!と。
 
世の中全体が忙しく、追い詰めるような時間軸となっている今だからこそ、本業のあと、ふと放課後の部活動に赴くように、あるいは本業の新たな展開を探るべく、FENICSの企画に参加していただきたいと思っています。さまざまなフィールド(地域、テーマ)に関心のある人と接触して、多くの情報を得て、各人が広い意味での人生の、あるいは仕事としての「フィールドワーク」につながる何かを感じ、考えられる場にしたい。そうした知的な心の躍動感があってこそ、これからの進路、生きる道も豊かになっていく。
学問領域は、あいかわらず縦割が強く、横のつながりによって別の分野のフィールドワーカーと出会いにくいままです。FENICSは、学際的な学問を超えたフィールドワーカーの出会いの場、協働の場として、さらなる発展をめざします。
 
1) 正会員のみなさま
 今年度、FENICSの関連イベントとして、企画がございましたら、お寄せください。6月に総会がありますので、年間予定にいれられるよう、ともに考えていきたく思います。
 
2) 正会員へのお誘い
 メルマガ購読のみをなさっているみなさま、ぜひとも正会員への登録をお願いいたします。
FENICSの運営は、ボランティアで成り立っています。皆さまからの会費によって、特定の組織や分野の作法にこだわらず、自由に、共に、フィールドワークに関する、分野を超えての活動をしませんか。
 
昨年の総会での決定を受けて、2025年度より会員の種別および年会費を下記のように改定することになりました。
 
■会員①(議決権あり、年収300万以上の方) 3,000円
 ◎FENICSのNPO法人活動に主体的に参画する個人で、FENICSの運営に関する総会の議決権があります.
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 ◎FENICSフィールドワーカーシリーズを割引購入いただけるほか、各種イベントの参加が会員割引となります.
 
■会員②(議決権あり、年収300万未満の方)1,000円
 ◎FENICSのNPO法人活動に主体的に参画する個人で、FENICSの運営に関する総会の議決権があります.
 ◎FENICSメルマガやイベント情報を得ることができます.
  ◎ご自分の企画をFENICSと連携をとり、実現が可能です.
 ◎FENICSフィールドワーカーシリーズを割引購入いただけるほか、各種イベントの参加が会員割引となります.
 
*年収等については自己申告制(特に書類等の確認は不要)ですので、ご自分に合った会費プランを選択ください。
 
■賛助会員(議決権なし)1口 1,000円
 
  ◎FENICSの活動趣旨に賛同し寄付してくださる個人・組織・企業等です .
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*賛助会員には、総会の議決権はありません.
 
今回の改定では、これまで1000円だった正会員の年会費を3000円とするのに加えて、新たに学生や若い方等も参加しやすいように「会員②」を設けました。今後はできれば寄付も集めつつ、会員の皆様も一緒に提案・企画していただき、共にプロジェクトを立ち上げて使いたいと思います。
 
なにとぞ、ご協力のほど、お願いいたします。
 
 
以上、お手数おかけしますが、よろしくお願いいたします。

 
以上です。お楽しみいただけましたか?
みなさまからの情報、企画、お待ちしています。
 
 
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