FENICS メルマガ Vol.17 2015/12/25

1.今月のFENICS
メリークリスマス!あなたはどこでクリスマス、新年を迎える予定ですか?
東京は昨日のイヴもあたたかな一日でした。もう、すでにフィールドにいらっしゃる方もおられるかと想像します。
FENICSも、NPO法人化して1年がたとうとしています。ひたすら前を向いて走り、丁寧さもかけていたかと反省。新年は心あらたに出発したいです。
シリーズも出版が遅れておりますが、丁寧に、しかし来年は初めからスピードアップします。寝かせてしまっていた原稿に、また新たな味をつけていただきたくお願いすることもあるかと思います。なにとぞ、よろしくおねがいいたします。分野をこえたシリーズは現状の出版市場では難しいこともありますが、じわじわと認知度もあがってきています(希望)。
まだご購入でない巻がおありでしたら、FENICS特典をお使いください。

それでは本号の目次です。

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1.今月のFENICS
2.私のフィールドワーク(大門碧)
3.フィールドワーカーのおすすめ(大矢根淳)
4.フィールドごはん(藤本麻里子)
5.今後のFENICSイベント
6.チラ見せ!FENICS
7.FENICS会員の活動

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2.私のフィールドワーク
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「劇場通い」
大門碧(1巻『フィールドに入る』分担執筆者)

ガラス張りの入口を入ると、赤が基調のおしゃれなカフェ。割高なビールやソーダ、ポップコーンが販売され、まるで日本の映画館。奥にはどっしりした扉。そこを入れば客席が700席を超す豪勢な劇場が姿を現す。東アフリカの内陸、ウガンダ共和国の首都カンパラで、私が盛り場でショー・パフォーマンスに従事する若者たちの調査を開始した2006年、この劇場ラ・ボニータは老舗劇団エイボニーズの劇場として運営を開始していた。
ある日、私が追いかけていたパフォーマーのひとりがエイボニーズに入団したと聞き、その子のいる劇場ラ・ボニータの楽屋入り口に駆けつけた。するとその子が私を舞台にのせることを看板俳優に提案。そうして2010年2月、私はラ・ボニータの舞台で「年老いたウガンダ人男性の恋人役」として出演することになった。日本で演劇に興じていた私は趣味半分と演劇人たちと知り合いになりたい半分で、劇場通いを始めた。この劇団は同じ演目を毎週末1ヶ月近くおこなう。チケット代は安食堂での食事10回分以上と高い。しかし劇団員には無料招待券が手に入る。そこで私も、研究対象者の若者たち、滞在する長屋の大家、近所の人びとなど、調査生活を助けてくれた面々を招待した。招待した人びとは喜んでくれて私もお礼ができた気分でうれしかった。
ところが数回で終わると思っていたラ・ボニータへの出演は、それからのちウガンダに行くたびに当然のように課せられるようになった。きちんと謝礼もしてくれるので、断りにくい。自分が計画している調査との時間のやりくりに困る。突然朝呼び出されて、撮影するから練習場所に来いと言われることもあった。なんでも私が帰国中に公演される芝居で使う映像を撮りたいとのこと。劇団の意向に振り回されながら、むこうが私を使うなら私も!と、自分のシーンが出来上がっていく過程を観察・記録したり、隙をついて役者たちに質問を投げかけたりして、少しでも自分の調査につながるように努める日々である。
今でもリハーサルに来いと言われ、劇場の客席に座り出番を待っていると、調査しなくてはと焦る気持ちが襲う。でもここにいて人びとの公演準備を眺めていると、私の調査がもともとここから始まったことを思い出す。公演準備の裏側に居合わせるのがただただ好きだ。そこからアフリカでは、ウガンダではどんな公演のつくりかたをしているのだろうと興味が広がり、今に至る。調査者と出演者という立場のはざまでゆれながら、しかし私を含めてカンパラの演劇文化がまわっているのならば、こんなにも光栄なことはないと思うのだ。

【フィールドへの行き方】
関西空港からどこかで一度乗り換えて、18時間ほどのフライトでウガンダ共和国のエンテベ空港に到着。そこから車を使って40分ほどで首都カンパラの中心部に到着。近年は渋滞することが多く特に帰国時は注意。劇場ラ・ボニータはカンパラの中心部に位置するバスの停留所(オールドタクシーパーク)から徒歩15分ほど。坂を上るのが面倒な人にはオートバイタクシーで5分足らず。劇団エイボニーズのHPはhttp://www.vcl-theatrelabonita.com/ebonieshome.html
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3.フィールドワーカーのおすすめ
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大矢根淳(4巻『災害フィールドワーク論』分担執筆者)

被災地で生活再建やコミュニティの復興を息長く追いかける災害社会学を専らにしています。被災から10年、20年と、同じ人と場所を繰り返し何度も訪ねて、同じお話を幾度も繰り返し聞いています。それでも聞き取り調査を終えて夜、宿に戻ると、興奮冷めやらずなかなか寝付けません。そこで登場するのが地酒…、というのではなく、今日は別角度から…。
私の場合は、昨晩まで自宅のベッドで寝る間際に読んでいた小説、それも、シリーズもので、私自身が苦なくその世界に溶け込んでいける、恐らく自身が持つ記憶、原風景にそぐう、そうした舞台が設定されている小説がいいようで、被災地調査には必ずそうした小説を携行します。
東京の自宅ベッドでのそれを読んでいた昨晩と同じ光景が頭の中に広がって、不思議とリラックスして眠りにつけます。昭和の三多摩で幼少期を過ごした私には、松本清張の描く甲州街道や青梅街道の郊外風景は何となくdeja vuですし、逢坂剛の描く御茶の水は、高校時代、背伸びして通った喫茶店「さぼうる」や古本屋の色彩と匂いが…。先週末、東日本大震災の被災地の一つ・石巻に持参したのは、『泥流地帯』(三浦綾子)でした。昭和一桁・北海道生まれの父から、何かのおりに幾度となく聞かされていた、北海道の山岳風景を思い浮かべつつ眠りに落ちました。
フィールドでリラックスして自分のリズムを刻む工夫…、必要ですね。

『泥流地帯』(三浦綾子著)
http://www.shinchosha.co.jp/book/116206/

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4.フィールドごはん
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藤本麻里子(11巻『衣食住からの発見』分担執筆者)

タンザニアの島嶼部、インド洋に浮かぶザンジバルの漁村で調査していると、日々多彩な魚介類を食べる機会がある。ザンジバル島北西部の漁村では、サバやアジ、カタクチイワシにイカと、日本でもお馴染みの魚たちが日々の食卓に上がる。それらはクミン、カルダモン、クローブなどザンジバルで栽培されている各種スパイスで調理され、日本とは一味違った魚料理が日々味わえる。
もちろん、日本で出会ったことのない珍味もあった。スワヒリ語でチュワレ(chuwale)と呼ばれる巻貝は、その見た目からは想像もつかない絶品だった。チュワレは浜辺からそう遠くない浅瀬で、女性や子どもたちがバケツを片手に採集する。貝殻の奥に入り込んでいる身を、子どもたちは小さな棒で器用に引っぱり出す。塩を揉んでサッと茹でた後、レモンを絞って細かく刻んだココナッツの果肉と和えれば潮の香り満点のおかずが一品出来上がり。最初に子どもたちが採集してきた地味な巻貝を見せられた時には、「これ、食べられるのかな?」なんて疑っていた私だが、今ではザンジバル島南東部を訪れると「今日はチュワレはないの?」と最も楽しみにする食べ物となっている。
*「チュワレのココナッツ和え」の写真チュワレのココナッツ和え

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5.今後のFENICSイベント
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ブルキナファソのアニメ作家の作品を見ることができます!ふるってお運びください!

「アフリカのアニメーションとドキュメンタリー:その表現の挑戦」

内容:
アフリカの民話をもとにしたサバンナの動物たちの物語、短編アニメーション・シリーズ「野ウサギとライオン」、「ソアンバ、サバンナの王様」のほか、ブルキナファソのプラスチックごみと環境問題を題材にしたドキュメンタリー「氾濫(1):プラスチックごみ」を上映し、作者のヤメオゴ自身が作品のねらいなどについて語ります。

日時:2016年1月21日 17:45~20:00
場所:AA研マルチメディア会議室(304)
アクセス:http://www.aa.tufs.ac.jp/ja/about/access

講師:クラベール・ヤメオゴ (Africartoons Studio, Burkina Faso)
上映作品*:
(1)野ウサギとライオン (8分)
(2)ソアンバ、サバンナの王様 (10分)
(3)氾濫(1):プラスチックごみ(30分)
言語:英語
*英語の字幕付き、必要に応じ日本語で解説します。

コメンテイター:岡崎彰(AA研フェロー)

連絡先:fenicsevent@gmail.com
主催:基幹研究「アフリカ文化研究に基づく多元的世界像の探求」
協力:FENICS
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6.チラ見せ!FENICS
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100万人のフィールドワーカーシリーズ第11巻
『フィールドの見方』(増田研・梶丸岳・椎野若菜編)
「欲の根源は食欲」(阿部幹雄)

2006年秋、国立極地研究所の本吉洋一教授から、セール・ロンダーネ山地地学調査隊(以下、セルロン隊と略)のフィールドアシスタントを務めて欲しいと依頼があった。調査期間は白夜の夏だが、気温は氷点下30℃、風速30mのブリザードが吹き荒れるという。しかも氷河はクレバスが多くて危険きわまりなく、日本隊は過去に大事故を起こしている。
初めて、そして危険であることに魅力を感じた私は、「行きます」と即答した。“探検”の匂いが漂う誘いだったからだ。
食料をどうするか。セルロン隊で最も重要で、難しい問題だ。飛行機で全物資を輸送するため、食料の軽量化が絶対条件。昭和基地で越冬する隊員が1年間に必要とする食料は約1トンであるが、第49次セルロン隊(2007/2008)の場合は7人分、3ヶ月間の食料を1トン以内に収めなければならなかった。つまり、普通の南極観測隊の食事なら約2トンになる食料を、2分の1の重量にしなければならなかった。軽量化するには、フリーズドライ食料しか考えられなかった。……

(11巻のご注文はFENICSホームページhttp://www.fenics.jpn.org/よりログインして、サイト内のオーダーフォームからご注文いただくと、FENICS紹介割引価格でご購入いただけます。ぜひご利用下さい)
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7.FENICS会員の活動
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FENICSメンバーもかかわる、そしてFENICSの方々も多くがご関心をもたれるシンポジウムのご案内です!

1月11日@北九州市立大学北方キャンパスにて公開シンポジウム「フィールドワーク教育ってなんだ?」

FENICS会員である木下靖子さんをはじめ、「フィールドからの学びはフィールドワーク教育になり得るのか」という視点から、現状に対する批判も含めて、それぞれの活動の背景や実践成果、
そしてその可能性について議論します。フィールドワーク教育としてのノウハウがあるとすれば、それはどこにあるのか。

また前日の1月10日には、エクスカーションとして、北九州の成人式(ソフトヤンキー観察)と、シンポジウムに登場する大學堂と魚部の視察会を予定しています。

↓下記のリンクにフライヤーを置きました、ご興味のある方は、ぜひご参加ください。
1月11日:フィールドワーク教育シンポジウムのご案内
http://www.apa-apa.net/data/fwe.pdf
1月10日:シンポジウム前日エクスカーションのご案内
http://www.apa-apa.net/data/fwe-pre.pdf
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お問い合わせ・ご感想などはこちらよりお寄せ下さい。
https://fenics.jpn.org/contact/
メルマガ担当 梶丸(編集長)・椎野
FENICSウェブサイト:https://fenics.jpn.org/

寄稿者紹介

文化人類学 at 京都大学 アフリカ地域研究資料センター

災害社会学 at 専修大学 |

霊長類学 at 京都大学,アフリカ地域研究資料センター