FENICS メルマガ Vol.25 2016/8/25
 
1.今月のFENICS
 
日本の夏は猛暑。もっと暑いところに、あるいは寒いところに、まさにFENICSにかかわる方々、世界じゅうのフィールドにちらばってこのメルマガを読んでくださっている8月かと想像します。
フィールドワークの月にちなんで、FENICSが企画したイベントが満載です。フィールドでの音、写真、と絶賛募集中ですので、心して収集をお願いいたします!(詳細は下記に。)
みなさまからのフィールドからの便りを、たのしみにしております。
 
それでは本号の目次です。
 
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1.今月のFENICS
2.私のフィールドワーク(佐川徹)
3.フィールドワーカーのおすすめ(梅村絢美)
4.フィールドごはん(舘山一孝)
5.今後のFENICSイベント
6.チラ見せ!FENICS
7.FENICS会員の活動
 
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2.私のフィールドワーク
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牛糞の豊かな香り
 
佐川徹(社会人類学、FENICS11巻執筆者)
 
フィールドワークでは五感をフル活用することが大事だとよくいわれるが、どうしても視覚と聴覚で捉えられる領域にばかり関心が向かいがちだ。そこで私は、五感のなかでも「もっとも本能的な感覚」だとされる嗅覚については、調査時にとくに注意を払うようにしている。ある匂いを嗅いだときになにを感じ、どのようなことを想像するのかを、人びとに尋ねてみるのである。
 
東アフリカの牧畜民ダサネッチによれば、彼らをとくに幸せな気持ちにさせる匂いは三つある。一つは北東からの風がもたらす豊潤な雨の匂い。この匂いが届くと、雨の季節が近づきつつあることを実感し、青々とした牧草の広がる景色を想い起し、炎天下での足取りも軽やかになると人びとは語る。もう一つはバターから漂う甘い匂い。青々とした牧草を食べた家畜はたっぷりミルクを出し、十分な量のバターができあがる。ダサネッチは祝事の際にこの手作りバターを上半身に塗る。身体が冷えて心身が涼やかになるとともに、バターの甘い香りがその人の魅力を増幅させるからだという。
三つ目は牛糞の煙が醸し出すかぐわしい匂いだ。牛糞の煙はダサネッチ語で「ラーゴ」という。陽が西に傾き、日帰り放牧に出ていた家畜の姿が集落から遠方に見えてくると、村の女たちは家畜囲いに落ちた牛糞を拾い集め、その中央に牛糞の山をつくる。家畜の鳴き声が集落まで届くようになるころ、この山に火をつける。牛糞は最初大きな炎を出すが、しばらくすると炎は消え、煙だけが風に揺られて集落を覆う。
 
ラーゴには三つの意味がある。まず、ラーゴはウシたちが放牧先から集落に連れ帰ってくる蚊やハエを追い払ってくれる。人間と家畜が快適な生活を送るために欠かせないのがこの煙である。つぎに、牛糞を集める際に女たちは家畜囲いをほうきで掃除するので、そのなかは掃き清められる。ダサネッチにとって、家畜は単なる財産ではなくともにくらす仲間だ。ウシたちの帰還をまえに美しく整備された家畜囲いは、人びとが家畜に向ける配慮をよく示している。最後に、牛糞を高く積み上げて夕陽を霞ませるほどの煙を炊くことは、その家畜囲いの持ち主が多くのウシの所有者であることを表す。ダサネッチにとってラーゴは豊かさの象徴なのだ。
 
集落に帰着したウシたちは、しばしば煙のほうに顔を向けて鼻をひくひくさせる。ラーゴをとおして人間から自分たちに注がれた愛情を感じ喜んでいる、というのがダサネッチによる解釈だ。牧畜民と家畜の親密な関係を体現した牛糞の煙が「いい匂い」だと感じられるようになれば、それはダサネッチでの生活に慣れてきた証である。
 
アクセス:ドバイ経由でエチオピアの首都アジスアベバへ。首都からダサネッチの行政中心地オモラテまでレンタカーなら2日。公共バスならアジスアベバ→アルバミンチ→ジンカ→オモラテの経路で3日程度。オモラテからボートでオモ川の西岸へ渡り1時間ほど歩くと調査村の一つに到着。
 
 
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3.フィールドワーカーのおすすめ
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梅村絢美(社会人類学)
 
フィールドで日本映画を観るというのもなかなか面白い経験である。スリランカ滞在中に観た『小象物語』(木下亮監督・1986年)について紹介したい。私が調査している伝承医療の治療家のクスマさんは、自宅の居間の一角で患者を診療するため、診療中でも彼女の家族や順番を待つ患者がテレビを観て過ごしている。ある日、診療の合間に皆でテレビを見ていると、この映画が始まった。生まれたばかりのゾウのハナ子の愛くるしい姿に、一同とろけるような表情で見入っていたのだが、太平洋戦争がはじまりハナ子に殺処分命令が下されると、一気に緊張が走る。ハナ子を極秘に疎開させるシーンでは、ハナ子が大きな音を立てないようにと誰もが固唾を飲んで見守った。
スリランカでは、ゾウは神聖視されるだけでなく老若男女問わず愛されている。映画が終わると、「この話は実話なのか?」と質問攻めにあった。上野動物園で餓死させられてしまった『かわいそうなぞう』(土家由岐雄著・1970年)たちのように、餌をもらおうと死ぬ寸前まで芸をしたゾウがいたこと、戦後、名古屋の東山動物園に唯一生き残ったゾウに会うため日本中の子供たちを乗せた「ぞう列車」が走ったことなどを、「ぞう列車よ走れ~♪』(『ぞう列車がやってきた』清水則雄作詞・藤村記一郎作曲)などと歌いながら話したものである。現在日本の動物園で飼育されるアジアゾウの多くは、スリランカ生まれのゾウたちである。この映画を一緒に観た人たちの表情を悲しませることのないよう大切にしていきたいものである。
 
 
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4.フィールドごはん
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舘山一孝(雪氷学、FENICS2巻執筆者)
 
 私の主な調査対象は北極海の海氷で、カナダ沿岸警備隊の砕氷船に乗船して北極海の調査航海に参加している。船での食事は母港であるカナダ東海岸のセント・ジョンズの郷土料理やフランス料理が中心で、とてもおいしい。食事はキッチンスタッフが我々のリクエストを聞いて大皿1枚に盛り付けてくれるスタイルなのだが、欠点はちょっとでいいからと念押ししても毎回料理が皿に満載されてしまい、残すのが勿体無いのでつい食べ過ぎてしまうことである。さらに食後は誘惑に勝てず手作りのケーキやプリン,ソフトクリームなどのデザートを食べてしまうのだが、不思議と航海中は寒さとハードワークのせいか体重は増えずむしろ減っていた。ただし日本に戻ると魔法は解けてしまい、この習慣を続けると贅肉がお腹周りに定着してすぐにズボンが履けなくなってしまう。
 航海の終盤は、同乗した日本人研究者と協力してお寿司を握り、持ち込んだ日本酒とともに振る舞う”Japan night”を催して同乗者に感謝を伝えることが恒例になっている。食材は短粒米と海苔、ワサビ、醤油は船に常備されており、米酢だけは粉状のものを日本から持ち込んでいる。ネタはホタテ、エビ、スモークサーモン、キュウリなど、船で手に入るものを利用している。素人が握った寿司でも喜んで貰えることが嬉しく、もっとうまく握れるようにと日本にいるときに練習するようになった。定年退職した父が趣味で蕎麦打ちを始めたので、父に習い次回の乗船までに蕎麦を振る舞えるようになりたいと考えている。
 
 
大皿満載の料理
 
大皿満載の料理
 
 
船で寿司を盛り付ける研究者とシェフ
 
船で寿司を盛り付ける研究者とシェフ
 
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5.今後のFENICSイベント
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(1)フィールドで「音」を集めて来よう!
(2)10月15日 FENICSサロン 写真表現から読み解く、妊婦への眼差し
(3)10月17日締切 FENICSフォトコンテスト!
(4) 「出産・育児と研究の両立を目指して~男女の研究者の体験談を聞き、今後の取り組みを考える~」 9月24日(土)17-19時@哺乳類学会F-12自由集会
 
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(1)FENICS企画:フィールドで「音」を集めて来よう!
 
フィールドでのあらゆる音をお手持ちのiphoneで、ビデオカメラで、録音機器で、録音してみてください!!
 
FENICS会員の下中菜穂さんがFENICSとともに、
 江戸時代の人達が菊合わせ、手ぬぐい合わせを楽しんだように、
みんなで耳を澄ませて、何かを聞き取ろうとする「音合わせ」を楽しむ企画を考えています。
 
あなたにとって当たり前になったフィールドの雑踏の音でも、あらゆる地域と比べるときっと面白いことがみえてくるはず。
フィールドにいるあいだに、ぜひお願いいたします!!
 「どこで、何の音を録ったのか」という情報もあわせてお送りください。
 
e.g.) 2016.8.16 Nairobi,Kamgemi slum, 子どもたちが歌い、遊ぶ様子 3mins
http://www.fenics.jpn.org/…/304/Children_at_Nairobi_Slum.m4a
 
データはfenicsevent@gmail.com へメールの添付などでお送りください。
やりかたが分からない場合は、お気兼ねなくお問い合わせください。
 皆さんのフィールドの音をお待ちしております。
 
 
(2)FENICSサロン 写真表現から読み解く、妊婦への眼差し
 
日時:2016年10月15日(土)
   13:00~16:00
場所:東京外国語大学本郷サテライト8F
共催:小林美香(写真研究者・東京国立近代美術館客員研究員)+FENICS
 
マタニティフォト(出産を間近に控えた女性が撮影する記念写真)は、2000年代末から急速に広まり、雑誌やインターネット、SNSのようなメディアでさまざまな反響を引き起こしています。マタニティフォトの表現の変遷を辿りながら、女性の身体の表象に関わるさまざまな要素(アート、ファッション、人種、セクシュアリティ、生殖医療など)について考えていきます。
 
クロストーク 馬場磨貴×小林美香
 
写真家の馬場磨貴さんは、風景の中に巨大な妊婦の姿を合成した写真作品を制作し、写真集『We are here』(赤々舎 2016)を発表しました。作品制作の経緯や作品に込めた想いなどをお話し頂きます。
 
 
(3)FENICS フィールド・フォトコンテスト!
 
本FENICS企画では、フィールドワーカーによる写真を、フィールドワーカー同士で、また一般の方、そして写真研究者に見てもらう機会を設けます。あなたがフィールドで撮った写真は、どのように読まれるのだろうか?研究との関連、被写体にアプローチしたきっかけや思いも付して、ぜひともご応募ください!
 小林美香さん(東京国立近代美術館客員研究員)、14巻編者、FENICSコアメンバー数人にて選考、入選者の写真は、11月26日のFENICSイベントにてパネル展示します。また別途、都内のサロンにて展示予定です。
 
締切:10月17日(月)
 
 提出内容: 各写真について、下記の情報をご記載ください。
A. 作品画像 (25MBまで) ひとり5枚まで
B. 撮影時の基本情報(カメラ、レンズの情報、撮影場所、撮影年)
C. 各写真についてのタイトルと解説(300字以内)。何を目的で撮ったのか、被写体と撮影者の関係など撮影時の情報
D. プロフィール(氏名、専門、初めてそのフィールドに行った年など)
E.  「人」、「風景」、「モノ(遺跡を含む)」分野、いずれかを選択。
 
送付先: 上記提出物A,B,C,D,Eを記載のうえ、データをメールで
 
 
宛にお送りください。
 
11月26日 FENICSイベント 「フィールド・フォトグラフィーの祭典」にて展示予定
 
(4) 「出産・育児と研究の両立を目指して~男女の研究者の体験談を聞き、今後の取り組みを考える~」 9月24日(土)17-19時@哺乳類学会(筑波大学)F-12自由集会
 
学会員以外はクローズドで会費を払わねば入場できないですが、12巻『女も男もフィールドへ』にちなんだ自由集会を、哺乳類学会@筑波大学にて開催します。お出かけをお考えの方は、ぜひいらしてください。
 
出産・育児と研究の両立を目指して~男女の研究者の体験談を聞き、今後の取り組みを考える~
〇久世 濃子1,2, 小坂井 千夏3, 久保(尾崎) 麦野4, 久保 泰5, 下岡 ゆき子6, 高槻 成紀7, 椎野 若菜8, 酒井 麻衣9
(1国立科学博物館, 2日本学術振興会, 3農研機構・中央農研, 4東京大学新領域創成科学研究科, 5東京大学総合研究博物館, 6帝京科学大学, 7麻布大学, 8東京外国語大学, 9近畿大学)
 
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6.チラ見せ!FENICS
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100万人のフィールドワーカーシリーズ第12巻
『女も男もフィールドへ』(椎野若菜・的場澄人編)
「フィールドで「ヨメサン・ムスメ」となるためのスイッチ」
(中川千草)
 
このままでは、よからぬ噂の的になってしまう。そう悟ったわたしは、いま逃げ出せば、さらに噂されるのだろうかと不安になりながらも、急いで荷物をまとめ、「用事ができたので帰ります」とだけ告げ、高速バスへと乗り込んだ。その後、再びX集落を訪問するのは、この日から5年以上が経過してからになる。……
 
(12巻のご注文はFENICSホームページhttps://fenics.jpn.org/よりログインして、サイト内のオーダーフォームからご注文いただくと、FENICS紹介割引価格でご購入いただけます。ぜひご利用下さい)
 
 
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7.FENICS会員の活動
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『災害フィールドワーク論』の編者・木村さんと、執筆者の饗庭さんらが、次のような企画展示、報告会を開催します。
貴重な機会です、大船渡へぜひ、お運びください。
 
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津波と綾里博物館展 歴史・復興・住まい
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◎会期:平成28年9月12日(月~18日(日)9時30分~17時(展示)
 
 
 
 
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お問い合わせ・ご感想などはこちらよりお寄せ下さい。
メルマガ担当 梶丸(編集長)・椎野
FENICSウェブサイト:https://fenics.jpn.org/
 

寄稿者紹介

社会人類学 |

社会人類学

(社会人類学)


雪氷学 at 北見工業大学 |