FENICS メルマガ Vol.4 2014/11/25
 
1.今月のFENICS
今月1日の「100万人のフィールドワーカーシリーズ」出版記念会にお集まりいただいた皆様どうもありがとうございました。当日いらっしゃった方全員とお話することは出来ませんでしたが、FENICSの多士済々ぶりに、改めてこの団体の可能性を感じることが出来ました。
 
さて、FENICSメルマガが始まったのは夏真っ盛りでしたが
気がつけば冬にさしかかる季節となりました。
FENICSメルマガ第4号をお届けします。
 
それでは本号の目次です。
 
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1.今月のFENICS
2.私のフィールドワーク(川瀬慈)
3.フィールドワーカーのおすすめ(倉田薫子)
4.フィールドごはん(小林直明)
5.今後のFENICSイベント
6.チラ見せ!FENICS
7.FENICS会員の活動
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2.私のフィールドワーク
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ロバ・ロデオ(川瀬慈 15巻編者)
 
 エチオピア北部の農村でのフィールドワークの合間に、子供たちとよく遊んだ。高原の朝は早く、子供たちは働き者である。男子は5歳ぐらいから家畜の放牧をまかされる。女子は水汲みと、燃料用の乾いた牛糞集めに忙しい。子供たちは仕事の合間に、通学の途中に、いろんな遊びをやる。現地のアムハラ語でメハレム・ヤヤチュ(直訳:私のハンカチ 見た?)と呼ばれる、いわゆるハンカチ落としは夕刻によく見かけた。ハンカチの代わりに、スカーフや石を使ったりもするが、日本のそれと同じルールである。サイ・サイという男子の遊びは、2名が至近距離で面と向かい合い、木の棒で相手の尻を打つ。走りまわって切りあうチャンバラではなく、両者とも両足の位置をずらしたり移動してはいけない。相手の尻に‟ディッフェン!”(「バシリ!」にあたる擬音語)と棒を綺麗にヒットさせて点を積み重ねていく。いわば一種のスポーツともいえるのだが、お互いに興奮して流血騒ぎになったり、木の棒を放り投げてつかみ合いの喧嘩になることは珍しくない。
 ロバを使った遊びもある。ロバはエチオピアの農村には欠かせない動物で、市場への荷物運搬に大活躍するが、仕事以外の時はじっと高原に佇んでいる。ロバは働き者、従順、無垢とポジティブなイメージを持つ反面、愚か者、阿呆のイメージを想起させうる。人を罵るとき、さらには近隣の民族を馬鹿にする際にこの語が用いられることもある。人々の生活になじみ深いロバが登場するアムハラ語の成句やことわざの類を挙げだしたらきりがないであろう。
 私が勝手にロバ・ロデオと名付けた遊びは、ロバに乗っかり、落とされるまでのスリルを味わうたわいもないものである。しかし、なにせロバはおとなしい動物で、子供が乗っても微動だにせず佇んでいることが多い。そこで、少しかわいそうなのだが、誰かが木の棒でロバの尻を‟ディッフェン!”と叩いたり蹴飛ばしたり、なんらかの刺激を与えねばならない。これに驚き、ロバは突然駆け出すのだが、ロバに振り落されまいと必死にしがみつく悪ガキたちの姿の、なんとも可笑しいこと。お世話になった家の次男は、ロバとともに小屋につっこみ土や牛糞でできた壁に穴をあけてしまったし、私は牛糞の上に背中から落下したこともある。みな腹を抱えて笑い転げていたのが懐かしい。
 
 
<フィールドへの行き方>
関空からドバイ、ドバイからアジスアベバ、アジスアベバからゴンダール。
 
 
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3.フィールドワーカーのおすすめ
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「ガラパゴスのお昼事情」(倉田薫子 13巻著者)
 
 ガラパゴスは物価が高い。治安がいいのと引き換えに、すべてが欧米水準の観光客値段なのである。そんな中、非常に助かるのはランチの安さだ。2~3$で栄養バランスのいい定食が食べられるというのは本当にありがたい。
 私が住んでいたアパートメントの近くに、2$ランチのお店があった。メインは肉か魚。おばさんは、最初はメインの内容について細かく説明してくれたが、私がほとんどスペイン語を理解しないとわかると「肉?それとも魚?」とだけ聞き、適当に出してくれるようになった。
ガラパゴスでの昼食の定番は、まず前菜として本土のアンデスで食べられているマメやイモ類のスープ。次に肉なら主に鶏、魚ならカジキを炙り焼きにしたものと野菜の付け合せが少々、そして主食の米がワンプレートに乗って出てくる。フレッシュジュースはお代わり自由。コップ半分だけほしいと言ってみても、毎度なみなみと注がれてくる。もったいないので飲み干す。
 言葉の壁は最後まで消えなかったものの、毎日顔を合わせて身振り手振りの冗談を交わす。一人で異国の地に長期滞在している身には、毎日のシエスタを過ごす、暖かい人情とご飯が一度に得られる場になっていた。
 
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4.フィールドごはん
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「マンダジ」(小林直明 15巻著者)
 
 今年の夏休みは家族で沖縄を訪れた。旅行初日、那覇空港の近くで賞味した沖縄そばをいたく気に入ったので、滞在中は各地でそばを食べ歩いた。ある店でそば定食を注文したら、ジューシーという豚肉とヒジキの炊き込みご飯、そしてサーターアンダーギーがひとつ付いてきた。サーターアンダーギーは、いわずと知れた沖縄の代表的なお菓子である。ウィキペディアによると、首里方言で「サーター」は砂糖、「アンダ」は油、「アギー」は揚げ物という意味らしい。沖縄からの移民が多かったハワイでも、andagiとして知られているという。
 そばをすすりながらデザートのサーターアンダーギーを見つめていると、20数年前、初めて東アフリカのケニア・タンザニアを旅したときに抱いた「あの疑問」が、脳裏によみがえってきた。チャイ(カルダモンなどで香りを付けた甘いミルクティーのことだが、「朝食」という意味でもある)として食されることの多い東アフリカ風ドーナツ、マンダジ。スワヒリ語でmaandaziと綴るが、maは複数形を表す接頭辞で、andaziが語幹である。andagiとandazi、綴り(音)も似ているが、実物もそっくりである。(マンダジにはいろいろと種類がある。のっぺりとした豆炭のような形のものが最もオーソドックスであるが、表面に割れ目がある、外観・食感ともに、よりサーターアンダーギー的なものもある。後者を区別したい場合は、hafkekiあるいは単にkekiと呼ぶ。)
 もしかしたらマンダジの語源は、(サーター)アンダーギーなのでは? 少々飛躍したアイデアだが、こう考えるとなんだか楽しくなる。しかし現実的な話としては、『標準スワヒリ語・英語辞典』(初版1939年)がいうように「(料理などを)用意する」という意味の動詞、andaaの派生語とみる方が無難であろう。ちなみにサーターアンダーギーの発祥は、形がよく似た中国のお菓子「開口笑(カイコウシャオ)」だといわれているようだ。マンダジはいつ頃からケニアやタンザニアのポピュラーな朝食メニューになったのだろうか。またなぜ、(マ)アンダジという呼び名になったのか。沖縄のドーナツと東アフリカのドーナツ……、名前が似ているのは、やはり単なる偶然なのだろうか。読者各位よりご教示をたまわりたく。
 
<マンダジのレシピ例>
Half-Cake Mandazi Recipe (spiced doughnuts)
 
 
 
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5.今後のFENICSイベント
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東京外大にて、FENICS 100万人のフィールドワーカーシリーズ11巻『衣食住からの発見』著者である砂野唯さんをお招きしてお話いただきます!
 
タイトル:『酒を主食として生きる人びとの生活:エチオピア南部デラシェ地域の事例』
話者:砂野唯さん
日時: 2014年12月18日(木)18:00~20:00
会場:東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所セミナー室(301)
参加費:無料
事前申込:不要
お問合せ:fenicsevent@gmail.com
共催:東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所基幹研究「アフリカ文化研究に基づく多元的世界像の探求」(代表:深澤秀夫)、アフリカ学会関東支部
 
11巻は、もうお手元にお持ちでしょうか。
本巻では、「酒が主食の村で」というタイトルでお書きいただいております。タイトルからして、とても興味深いです。
ぜひともいらしてください。まだお持ちでない方はぜひFENICSのHPにログインの上、の割引フォームからお申し込みください。http://www.fenics.jpn.org/
 
では、会場でお目にかかりましょう!
 
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6.チラ見せ!FENICS
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100万人のフィールドワーカーシリーズ1巻
『フィールドに入る』(椎野若菜・白石壮一郎編)
 
「ふたりの調査助手との饗宴(コンヴィヴィアリティ)-ウガンダ・アドラ民族の世界観を探る」(梅屋潔)
 
 殴り合いが始まるのではないか、と助手席にいた日本人同行者は身を縮めていた。私の調査地を「見てみたい」といって今回同行を申し出た彼は、ウガンダは初めてだ。雨上がりの夜道でスタック下ランドクルーザーを大勢で押してくれた酔っぱらいの一人が、われわれが謝礼を払わず逃げるのではと、開いていた窓から手を突っ込んでランドクルーザーのエンジンを切った。このことが、ランドクルーザーを運転していた運転手のデビッドを怒らせているのだった。ウガンダのレンタカー会社では、自分で運転する「セルフ・ドライブ」は一般的ではない。いつものレンタカー会社から派遣されたデビッドとは、たぶん十年来のつきあいだ。彼の仕事はわれわれをウガンダ東部、トロロ県にある私の調査基地まで連れて行くことだった。頭に血がのぼっているデビッドに、このもめごとの調停は期待できそうにもなかった。……
 
(1巻のご注文はFENICSホームページhttp://www.fenics.jpn.org/よりログインして、サイト内のオーダーフォームからご注文いただくと、FENICS紹介割引価格でご購入いただけます。ぜひご利用下さい)
 
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7.FENICS会員の活動
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1)EC上映会
FENICSコアメンバーで『100万人のフィールドワーカーシリーズ』1巻の執筆者でもある丹羽朋子さんがかかわる「エンサイクロペディア・シネマトグラフィカ上映会」が催されます。
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20世紀の映像百科事典エンサイクロペディア・シネマトグラフィカをみる連続上映会【8】「木のつくる暮らし 」
2014年12月5日(金)18:30 open/19:00 start
会場 Space&Cafeポレポレ坐(東京・東中野)
ゲスト:関根秀樹(古代技術史・民族文化史研究家)
料金 : 予約1,500円/当日2,000円(ワンドリンク付)
予約 : 03-3227-1405 (ポレポレタイムス社)Email : event@polepoletimes.jp
 
1950~80年代にドイツの国立科学映画研究所で制作された映像の百科事典「エンサイクロペディア・シネマトグラフィカ」(EC)は、民族学・動物行動学・科学技術等に関する2000ほどの短編フィルムを擁します。本連続上映会は、ECアーカイブを現代的な視点から読み直し、虫干しして、多彩な分野の人々との対話を通して新しい息吹を吹き込む試みです
 
【今回の上映プログラム】
・西ノルウェー 水車鋸での板づくり/1953年
・ブラジル トゥクナ族 樹皮布づくり/1970年
・バリ島 カランガッサム県イセー村のリズミカルな米搗き/1973年、他3タイトル
*関根さんによる木の道具の実演も予定。
 
 
2)会員の目黒紀夫さん(7巻著者)が著書を出版されました!
『さまよえる「共存」とマサイ―ケニアの野生動物保全の現場から』
(目黒紀夫(めぐろ としお))
 
この本の舞台は、アフリカのなかでも「野生の王国」として有名なケニア南部のアンボセリ地域です。現在のアンボセリでは政府機関やグローバルNGOによって、人間と野生動物の共存をめざす「コミュニティ主体の保全」が進められています。筆者は10年間のフィールドワークをもとに、アンボセリ地域に暮らすマサイと野生動物の関係が歴史的にどのように変化してきたのか、現在の共存がいかにマサイの人たちに意に反したものであるか、そして、そうした状況が「コミュニティ主体の保全」の名のもとにつくりだされている実態を明らかにしていきます。伝統的といわれるマサイ社会に関心がある人だけでなく、アフリカの野生動物やその保全に興味がある人にもおすすめです。
 
目次
序章 見失われた共存を求めて
第1章 「コミュニティ主体」の野生動物保全とは何なのか?
第2章 共存の大地を生きるマサイ
第3章 保全を裏切る便益――コミュニティ・サンクチュアリからの地域発展
第4章 権利者としての選択――コンサーバンシーと生計のすれ違い
第5章 現場で何が話し合われているのか?――民間企業との交渉、保全主義者との衝突
第6章 共存が語られるとき――「アンボセリ危機」におけるコミュニティの代表=表象
終章 さまよえる共存とマサイ社会のこれから
 

寄稿者紹介

映像人類 at 国立民族学博物館 |

進化生物学 at 横浜国立大学

文化人類学 at 静岡大学