FENICS メルマガ Vol.41 2017/12/25
 
1.今月のFENICS 
 
 Merry Christmas!
  みなさま、いかがお過ごしでしたか。サンタはやってきたでしょうか。
 
 今月は、まさに初めからFENICSイベントが連続してございました。お運びくださったみなさま、まことにありがとうございました。
FENICSの活動に賛同し、新しくご入会いただいた方もいらっしゃり、少しずつ手ごたえは感じております。
 映画館でECフィルム(20世紀の映像百科事典「エンサイクロペディア・シネマトグラフィカ」)とフィールドワーカーが自らの映像を流すというチャレンジングな試みも、おかげ様で盛会におわりました。これまで映像を撮ってこなかった方も、今後ぜひ、映像の世界にもふみいれていただき、こうした試みに加わっていただきたい!と思っております。
 12月9日 FENICS大イベント「フィールドで/教室で 社会問題を考える」も高校の現場も共有することがでて、実りある会でした。今後もこうしたつながりを広げたいです。

12月21日のFENICS協力イベント「フィールド研究者のライフイベントのあり方」も今年のFENICSの活動をしめくくる、実にいい会となりました。
毎回、反省と充実感があります。みなさまも忌憚なきご意見、リクエストをいつでもいただきたく思っております。
 
それでは本号の目次です。
 
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1.今月のFENICS
2.私のフィールドワーク(澤柿教淳)
3.イベントリポート(板久梓織)
4.イベントリポート(岩倉知葉)
5.今後のFENICSイベント
 
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2.私のフィールドワーク
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「最後の1%まであきらめない」
 
澤柿 教淳(第4巻 『現場で育つ調査力』(予定)執筆者)
 
 「じゃ、行ってきますわ。」南極ラングホブデ雪鳥沢での2日目の朝。いつも賑やかなJ隊員と私はテントを出発した。「帰りは何時頃ですか」とリーダーのN隊員。「今日はデータの取り出しと太陽光パネルの取り替えだから4時間程ですかね。」「了解。気をつけて行ってらっしゃい。」
 この日は天候がよかった。風は少々強かったものの、それはいつものこと。カタバ風とよばれる大陸特有の風で午後にはおさまる。作業場は見晴らしのよい小高い山の上にあった。約15分後、目的の山の上に到着するとさっそく工具を広げてデータの回収を進めた。「データ回収、完了。あざ〜っす。」J隊員の表情が緩んだ。続いて、太陽光パネルの取り替え作業に移った。互いの手順を確認した後、まずは古いパネルを基台から取り外し、次に新しいパネルを元の基台へと運んだ。
 「おや?」順調だった作業がぴたりと止まった。ネジが入らない。よく見ると穴の径が違うのだ。仕方がないのでヤスリで穴を大きくした。ステンレスは硬く約30箇所の穴を全て大きくするには時間がかかった。今度こそ、と再びパネルを基台へとはめ込んだ。ところが、今度は基台とパネルのサイズが合わないことが判明した。取り付けるためには新しい穴を開けるしかない。すぐにトランシーバーでN隊員に連絡をとった。「ガガ…ドリルの刃、持ってきてます?」「ガガ…ステンレス用か…それはない。けど何か使えそうなものがあるかもしれない」。私は一旦山を下り、ありったけの工具を持ってまた山を登った。しかし、ステンレスの基台に穴が開くことはなかった。こうなったらネジの数を減らして番線で補強するか、もしくは今回は交換をあきらめるか…..
 そんな時、我々のトランシーバーの交信を聞いていたB隊員が別の作業場からこちらにやって来た。B隊員は越冬経験豊富なベテラン隊員。状況を見た彼は「こりゃ困ったねえ。」とつぶやいた。万策尽きたか、と思ったその時、B隊員が一つのアイデアを出した。「じゃ、横から切り込みを入れてみるか…..たしかサンダー、あったよね。」J隊員も私も「そうか、その手があったか!」と頷いた。「でもまあ、一旦山を降りようや。みんなまだ晩飯食ってないだろう。もう20時だ。」とB隊員。太陽が沈まない季節のせいか、作業が進まない焦りのせいか、すっかり時間のことを忘れていた。「それに、こういう時は慌てずひと呼吸おくというのが鉄則。」我々は、ひとまず山を降りて小屋で夕食を済ませることにした。
 夜9時過ぎ、今度はメンバー7名全員で再び山の上を目指した。発電機を稼働させる者、スケールで印を付ける者、サンダーで切り込みを入れる者、パネルを基台にはめ込む者、7名の総力戦で作業は驚くほどはかどった。そして約2時間後、ついに新しい太陽光パネルが元の基台にしっかりとおさまった。夜11:00を過ぎ、夕焼けに染まる山の上では賑やかな歓声がこだました。仲間の中には誰一人として最後の1%まであきらめる者はいなかった。

写真1. 最後の1%まであきらめない

写真2. 夜11時過ぎ、仲間の隊員とともに完成を喜ぶ

 
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3.イベントリポート
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★イベントリポート★「エンサイクロペディア・シネマトグラフィカ」の七夜連続上映会 2017.12.2
 
板久 梓織(FENICS協力者、首都大学東京・社会人類学)
 
2017年12月2日、ポレポレ東中野にて「エンサイクロペディア・シネマトグラフィカ」の七夜連続上映の第一夜が開催されました。
 
この日テーマは、ノーバナナ、ノーライフ〈食べる・飲む・効く、バナナの世界〉」。
私たちが普段スーパーや八百屋で見かける身近な存在のバナナをテーマに、どんな映像が見ることができるのだろう−−?魅惑のバナナフルなイベントをご紹介します!
 
バナナといってもただ食べるためだけの存在ではありません。バナナには多様な利用方があり、今回の上映ではアフリカとニューギニアにおける人びとのバナナの利用法を、それぞれ約60年前のエンサイクロペディアの映像とごく最近の調査の映像を見比べる形で学ぶことができました。映像の合間合間にはゲストの方々によるトークもあり、バナナの基礎知識を勉強できました。
 
近年の映像は本日お越し下さったゲストの方々によるもので、日本のバナナ研究を牽引する方々です。そんなバナナの専門家の方たちが集まって、話についていけるか、バナナの素人である筆者は上映前少し不安でしたが、実際お話が始まるとそんな心配は無用でした。映像を流しながら解説を交える形での上映は、普通の映像作品の鑑賞とは違うもので新鮮!エンサイクロペディアによる映像は音声が入っていないからこそゲストの方々のお話しが重要なものとなり、無音映像を一味違った形で楽しめました。「貴重な資料映像」と解説が互いの長所を生かしていましたし、それは単なる映像上映だけでは叶わなかったでしょう。そういった意味で質疑応答も理解を深めるための大事な時間でした。
 
バナナビールをつくる、飲む!
さて、最初の映像はアフリカのバナナビールの醸造方法でした。そこで驚いたのが、ECに収録された1950年代の映像も、ゲストの方が撮影した現在の映像も、醸造方法に大きな変化(例えば機械の導入など)がなかったことです。(特に鑑賞者によって異文化や違う地域の)調査映像の鑑賞時に生じやすいのが、その人々が今でも「未開な」生活を送っている、プリミティブな人々であるという誤解や偏見が生まれることです。しかし、今回の映像では確かに「伝統的」な側面もあるものの、バナナと人の歴史の長さを思い知り、偏見が入り込む余裕がなかったと思います。バナナをめぐる人々の生活を60年前の映像と最近の映像と見比べることでで互いの点を線で結ぶような理解が得られました。両者の映像によって、変化したもの、変化していないもの、その両方を見ることができたのです。
 
何をするのもバナナ、バナナ!
とにかく映像全体を見ながら感じたのは、何をするにも「バナナ」を使うこと。バナナビールを作る際にバナナの葉を使用するし、バナナで料理を作る際にも肉やスープを蒸すために使用するのもバナナの葉であるし、簡単に言えばバナナで何か食べる・飲むものを作る時にはバナナの葉で蒸しバナナの葉でさらに蒸しなおしバナナの葉に盛り付ける…そう、どんな場面にもバナナが出てくるのです。バナナの花は初見だったのですが、バナナの花の炒め物はまさにご飯と合いそうなお料理でした。料理だけではありません。当日はロビーにもバナナのカゴやざる、お人形などが展示され、バナナがあらゆる方法で活用されていることを見て、触って感じることができました。ゲストの方々は専門分野がそれぞれ異なるため、人々の生活に深く関わっているものとしての「バナナ」だけでなく、バナナの持つ栄養についても教えてくださいました。バナナの持つ栄養も、まだまだ発見の余地があるそうです。
 
効く、バナナ!
数ある映像の中でもひときわ会場を沸かせたのがECに収録された西ニューギニアの「バナナの葉での頭痛と首の痛みの呪術的治療」(1970年撮影)でした。温灸のようにバナナの葉を患部に乗せて悪いものを葉に移動させていくように、現地ではバナナは悪いものを取り除く効用があるものとしても見られているそうです。この地域は紛争で長らく外国人研究者が調査に入ることができないため、この治療儀礼が今も続いているかはわからないとのこと。映像自体の貴重さもさることながら、映像からはバナナと人の関わりが浅いものではないことが伝わりました。
 
アフリカとニューギニアでは、バナナの調理方法も、利用方法も異なることがわかりました。バナナ1つとってもそこから彩られている世界は違うものです。道具も違えば作り方も違う。モノは文化でもあることを痛感する映像でした。解説の際ゲストの方々がアフリカやニューギニア以外の地域の名前も出されており、他の地域ではどのように利用されているのだろう、と上映が終わる頃にはますますバナナのことが知りたくなっていました。
 
2つのバナナの世界
映像をすべて見終えた後のトークで、ゲストの方々はバナナには2つの世界があるとおっしゃっていました。1つは地域で利用されているバナナ。これはいろいろな地域や文化で葉も実も利用されているバナナをめぐる世界です。もう1つが世界中の市場を渡るバナナ。これは地域で使用されているバナナとは違った世界、つまり私たちが普段目にするような葉を取り除いた、1つの品種の実のみのバナナの世界です。バナナ1つを対象にしても、そこには実に多様な探求の世界が広がっているのです。その世界を拡げている専門家の方たちから漏れ出る「バナナ愛」は、鑑賞者をたじろがせることなく、ストレートに伝わってきました。たくさんの仮説を聞くたびに、バナナの持つ可能性にワクワクしました。そして最後に現在のバナナの危機的状況もご指摘いただきました。
 
上映後もバナナについて多くの方がロビーで談笑されていました。バナナに関心を持ってもらう、ということが今日の上映の1つの目的であったのなら、それは大成功だったと言えるでしょう。
 
旅をしたかのような上映会
全体を通して今夜の上映は、司会の方がおっしゃっていたように、「見る」だけでなくまさにバナナをめぐる旅をしたような気分になれるイベントでした。株式会社リマさんより提供いただき来場の皆さまへお配りしたバナナカステラも、ご好評いただきました。やはり映像を見ていると、食べたくなってきます!ゲストの方々、本日はありがとうございました!
 
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4.イベントリポート*会員より*
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★イベントリポート★「エンサイクロペディア・シネマトグラフィカ」の七夜連続上映会 2017.12.3
 
岩倉知葉 (FENICS協力者、首都大学東京・社会人類学)
 
第2夜は「サルをみる、ヒトをみる」。
霊長類学の座馬耕一郎さんと社会人類学の椎野若菜さんを迎えての回でした!
 
サルとヒトを子育てという今まで自分になかった視点からみることができました。
チンパンジーの子どもを世話するのは母だけではありません。
「いま子どもと遊んでいるのは、血縁ではない、どこぞのおっさん(チンパンジー)です」、と映像をみながら解説してくれる座馬さん。
 
顔なじみではあるけれでも血は繋がっていない、どこぞのおっさん・おばさんチンパンジー(笑)が、
子どもを抱きかかえたり、足にのせて空中にあげてみたり...まるで幼い時の自分が遊んでもらう様子を観ているようで驚きました!
 
そして話は日本での子育てに。
確かに、日本では子育ては母親の専売特許、というか母親中心の傾向が強いように思います。
母系であるトロブリアンド社会の子どもを抱いて世話している父やオジの映像をみて、また椎野さんが赤ちゃんを連れてアフリカへ調査に行った時のお話を聞いて、
子育てっていろいろな形があるのだと、母と子で完結するものじゃないなと改めて感じました。
 
チンパンジーもヒトも夜は休みます。
そしてなんと「チンパンジーは毎日ベッドを作るんです!」と座馬さん。チンパンジーは3、4分ほどで、木の上に葉と枝でマイベッドを作ってしまうんだとか。そのチンパンジーの作ったベッドに寝てみたところ、
「今まで寝たどんなベッドよりも心地良い!!」
ということで、座馬さんはなんとその寝心地を再現したベッドを作ってしまいました。
すごい!実際に寝てみましたが、ゆりかごってこんな感じだろうな~という気持ちよさでした。
 
子育てとは何かを考えさせられ、そして自分の布団はチンパンジーのベッドよりも寝心地が悪いことに気付かされた第2夜でした。
 
 

写真:なんと映画館の観衆の前で寝かたを実践する話者・座馬さん!気持ちよさそう!

そのほかの回についてもこちらをご覧ください
 
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5.今後のFENICSイベント
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2018年1月20日 FENICS 100万人のフィールドワーカーシリーズ ・サロン@京都大学稲盛
「子育てフィールドワーカーのロールモデルをさぐる」
 
2018年1月20日(土)11:00~12:30(10:40 開場)
京都大学 稲盛財団記念館 3階 318号室 参加費無料
子連れOKのランチョンミーティングです。昼食持参でどなたでもご参加ください!
 
フィールドワーカーはどのように将来を思い描けばいいのだろう?いつ結婚し、どのタイミングで子供をもてばいいのだろう?本サロンでは、育児に奮闘しながら東南アジア・アフリカ・ラテンアメリカでフィールドワークをつづける5人のフィールドワーカーの多様な生き方に迫ります!
 
11:00-11:05 趣旨説明
11:05-11:15 これまでのFENICSサロン紹介
11:15-12:15 パネルディスカッション
 
パネリスト:椎野若菜(東京外大・准教授/FENICS代表),佐藤靖明(大産大・
准教授/FENICS理事),四方 篝(京大・学振RPD),佐々木綾子(日大・助教),
藤澤奈都穂(京大・学振RPD)
12:15-12:30 フリーディスカッション
 
申込不要ですが、子連れで参加される方は下記までご連絡ください。
お問い合わせ:FENICS事務局 fenicsevent@gmail.com
 四方 篝(京大)shikata [at] kais.kyoto-u.ac.jp
 
*同時開催:民族自然誌研究会第89回例会 「木かげの民族自然誌:茶・コーヒー・カカオのアグロフォレストリー」2018年1月20日(土)13:00-17:00 於:京大稲盛財団記念館3階318号室/参加費無料
 
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以上です。お知らせ、いつでもご連絡ください。発信、掲載いたします。
FENICSと共催・協力イベントをご企画いただける場合、いつでもご連絡ください。

寄稿者紹介

社会人類学 at 首都大学東京

FENICS協力者


社会人類学 at 首都大学東京

FENICS協力者


松本大学・教育学部

第4巻 『現場で育つ調査力』(予定)執筆者