2021年7月24日 フィールドに行けない人類学 ポスターのサムネイルこの長く続くコロナ禍のなか、フィールドワークの実施を前提にしている文化人類学徒は、みな個々にその対応を迫られている状態にあるように思われます。教育の現場では、学部生、修士課程の院生というレベルに応じた実習のありかたを模索してきたことを、この一年であちこちで聞かれるようになりました。ただ、まさに博士論文執筆のための長期調査のためにフィールドに行こうとしていたが行けなくなってしまった、という学生はどうしているでしょうか。自律性を求められる博士課程の院生でありますが、本人の努力ではどうしようもない困難に直面するなか、学生たち、そして指導教員の側も、どのように研究計画をたてていくべきか、暗中模索が続いているように見受けられます。
 
このたび、文化人類学会・次世代支援WGでは、コロナ禍でフィールドワークを中断せざるをえない状況にいる院生を念頭におきながら、先輩人類学者のお話をうかがうオンライン・シンポジウムを企画することといたしました。ワクチン接種もようやくスタートし、いつかは感染拡大も収束に向かい、フィールドにも自由に行けるようになる日がくるでしょう。しかし、その日がくるまではどうするのか? いま、フィールドに行かない期間をどう過ごすのが効果的か? フィールドを変えるべきか? テーマを変えるべきか? 何のデータを主に書けるか? どのような発想に転換して博士論文を計画するか――。どう考えるべきかは学生と指導教員双方にとっての大きな課題でもあり、また、コロナ禍を契機に、研究の意欲がなかなかでなくなってしまった、研究をやめようかと考えたという方もいるようです。
 
今回のシンポジウムでは、「フィールドに行けない人類学(者)」と題して、さまざまな理由から「フィールドに行けない」状況下において展開されてきた研究について、三名の先生方にご報告いただくことになりました。
コロナ禍以前においても、政治的状況、災害等、あるいは妊娠や体調のためフィールドへ行けない事態を経験された方々はつねにいらっしゃいました。自らが思い描いた計画どおりに調査ができなくなった場合、実際にどう臨機応変に対応し研究を展開してきたのか。そうした事例を共有することで、次なるステップを構想する際のきっかけを掴んでいただければと願っております。
 
       記
 
「フィールドにいけない人類学(者)」シンポジウム

ポスタークリック

 
日時:2021年7月24日(土)13:00~15:30
会場:オンライン(ZOOM)
主催:日本文化人類学 次世代支援WG
協力:NPO法人 FENICS
 
司会:椎野若菜(東京外国語大学)
 
報告1) 大川謙作(日本大学)
「フィールドに行けない/行かない人類学――現代チベット研究と代替民族誌の問題」
 
報告2) 川口幸大(東北大学)
「「竹のカーテン」の向こうにモデルを描け!――1950-70年代の中国研究に見る新型コロナ下の人類学の可能性」
 
報告3) 伊藤亜人(東京大学)
「手記を手掛かりに生活実態に迫る――脱北者と人類学者の立場」
 
ディスカッション

15:15~15:30 ブレークアウトルーム (最長15:45まで)

雑談(学会の立ち話)コーナーとして、下記の部屋を設けます。なるべく、若手が話し出しやすいように担当者も気を使う予定です。

①大川先生を囲んで(担当:碇陽子)

②川口先生を囲んで(担当:川瀬由高)

③伊藤先生を囲んで(担当:松前もゆる)

④コロナ禍、教員の悩み(担当:大石高典・山内由理子)

⑤コロナ禍、学生の悩み(担当:椎野若菜・吉田ゆか子) 

以下、発表要旨です。
 
「フィールドに行けない/行かない人類学――現代チベット研究と代替民族誌の問題」
要旨: チベット、とりわけ中国チベット自治区は国外の研究者による学術的アクセスが厳しく制限されている地域である。報告者は大学院博士課程の学生であったゼロ年代初頭に何度かチベット自治区での現地調査を試みたが、様々な理由からそれはうまくいかなかった。本報告ではこうした経験と報告者のその後の研究者としてのキャリアについて事後的に振り返り、人類学をはじめとする人文系研究と現地調査の関係について考察をしてみたい。
 
「「竹のカーテン」の向こうにモデルを描け!――1950-70年代の中国研究に見る新型コロナ下の人類学の可能性」
要旨: 中国についての人類学的研究で、今も必ず参照される古典であり指標とされるモデル、すなわちフリードマンのリニージモデル、スキナーの市場モデル、ウルフの宗教モデルは、いずれも中国本土において現地調査が不可能だった1950-70年代に構想されたものである。彼らは、文献を駆使し、かつ代替地としての香港、台湾、あるいは海外華人社会での調査をもとに、実見かなわぬ中国をそれぞれの観点から大胆にもモデル化した。
もちろん限界や批判は限りなくある。しかし、人類学は貪欲にもそれらを糧としてきたのではなかったか。
もしもこの新型コロナ状況下の人類学に新たな可能性を見出すとすれば、この時期の中国研究に光を当てることは消して無駄な作業ではないはずだ。
 
「手記を手掛かりに生活実態に迫る――脱北者と人類学者の立場」
要旨: 社会主義体制を堅持し国際的に孤立政策を採る北朝鮮社会を研究すること、人類学の観点と展望、脱北者の存在とその参与式研究(participatory research)、手記という手法、について私の経験を紹介する。社会のすべてが革命遂行のため再定義され、制度化・組織化・統制されている状況では、現地においても実態に迫ることは難しい。現状において手記こそが唯一のしかも最大限の手法であり、できることからやるよりほかない。(参考文献:伊藤亜人『北朝鮮人民の生活―脱北者の手記から読み解く生活の実相―』2017年、弘文堂)
 
 
★ご参加希望の方は2021年7月23日(金曜日)17:00までに、下記のリンクより参加登録して頂くようお願い致します。
ご登録いただいた方には、シンポジウム前日の夜に、ミーティング参加に関する情報のメールをお送りいたします。
本件に関するお問い合わせは、次のメールアドレスまでお願いいたします。
 
ychuanlai[at]gmail.com  (川瀬由高)  wakanatokyo[at]gmail.com (椎野若菜)