FENICS会員のみなさま
 
1.今月のFENICS
ゴールデンウィークも終わり、足早に春から夏へと変わりつつありますがみなさまいかがお過ごしでしょうか?
FENICS100万人のフィールドワーカーシリーズはおかげさまで6月に第2巻発売となりました。昨日の24日から28日まで幕張メッセで開催される地球惑星科学連合大会で、また週末に大阪で開催される文化人類学会でも販売します。
・「フィールドワークとキャリアアップ、子育て、介護などとの両立を考えるアンケート」を12巻にちなんで開始しました。ぜひとも、ご協力をお願いいたします。会員に限りませんので、ご存知のMLやFBなどでお知らせくださるとありがたいです。https://goo.gl/e1nRGg
 
また、FENICSもNPO法人となったということで、シリーズ執筆者の皆様や昨年度に入会してくださった方々には改めて当団体についてのご説明とお伺い・お願い、のメールを別途送信を開始しております。
お受け取りになりましたら、こちらへのお返事どうぞよろしくお願いいたします。
 
それでは本号の目次です。
 
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1.今月のFENICS
2.私のフィールドワーク(増田研)
3.フィールドワーカーのおすすめ(野上建紀)
4.フィールドごはん(駒澤大佐)
5.今後のFENICSイベント
6.チラ見せ!FENICS
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2.私のフィールドワーク
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「なんでも見る、アリも見る」
増田研 (2巻編集者)
 
 私が社会人類学のフィールドワークを始めたころには、いまのような体系だった「フィールドワーク教育」はなかった。恩師がくれたアドバイスは「なんでも興味を持て」「なんでもメモしろ」くらいのものである。教科書的に言えば、それはホリスティックにアプローチしろということだったのだが、当時の私がそんなカッコいい言葉を知るはずもなく、ただただ教えにしたがって、なんでも見た。なかでも私の興味をかき立てたのは小さな生き物、アリんこである。
 住み込んでいたのは、エチオピア南部のバンナという農牧民族の村である。そこにはいろんな種類のアリがいた。日本でも見るような普通のクロアリは「アンカ」、小粒で噛みつくのは「チロ」、甘いものが好きな赤いやつは「クリンチャ」(直訳すれば「ハチミツ飲み」)、そして、いつも隊列を作っている大きなアリが「マナガザ」。バンナの人々はたいていのアリに名前をつけていた。
 まず思い出すのは、テントがクリンチャに襲われた時のことである。20年前の私は毎朝紅茶をいれ、コンデンスミルクを投入して飲むことを楽しみにしていたけれど、その日は飲み残しをテントに置いたまま調査に出てしまった。夕方戻ってみると、甘い紅茶で満たされたカップに無数のクリンチャが集っていた。甘い紅茶をたらふく飲んだクリンチャはきっと甘い味がするに違いないと思って、一匹つまんで食べてみたけれど・・・・・・酸っぱいだけだった。
 大きなマナガザは、あれはたぶん他の蟻の巣を襲撃していたのだろう。いつも隊列を組んで、白い卵のようなものを運んでいた。あたかも「オレたちマナガザ、お前ら道譲れ」と言わんばかりの迫力である。マナガザの隊列には、はっきりした先頭と末尾があって(ふつう蟻の行列がどこから来てどこへ行くのかなんて分からないでしょう)、そこに息を吹きかけると「ミシミシミシ」と音をたてて慌てふためく(あるいは、怒っている)様子を見るのが楽しみであった。
 そんなマナガザの列に、ある日、指を突き立てて遊んでいる少年たちがいた。マナガザを怒らせるとあとが怖い。これに噛みつかれたら、皮膚にはっきり分かる3つの噛み跡が残るし、なにしろ痛い。そこに指を突き立てるとは、勇気あるな、こいつら。聞けば、マナガザに噛まれるかどうかという賭けのような遊びなんだという。「噛まれたら違う半族。同じ半族なら噛まない。」
 バンナ社会にはビンナスとガラブという半族構造があって、マナガザにも同じ半族があるというのだ。そのマナガザは噛まなかった。少年たちは「うん、こいつらは同じ一族だ」と言って、満足していた。私にとっては小さな発見である。
 そういえば、早朝にテントの外でアリの隊列を観察したことがある。それは小さなアリと中くらいのアリの混成部隊で、なんとまあ、小さな蟻がお互いの身体を支え合ってトンネルを作っている。そのトンネルの中を「中くらいのアリ」が行進しているのだ。いたずら心を起こして、火をつけたティッシュペーパーをトンネルにかぶせてみたら、一瞬にして火は消えた。消火機能もある蟻酸のトンネル、なのかどうか。
 あれから10年、20年と時間が経った。その村にも小学校ができたし、ケータイを持つ人もちらほらいるようになった。マナガザの隊列に指を突き立てていた少年たちももうだいぶ成長して、そろそろ結婚するかという年齢になった。でも、マナガザはいつもあの痛いマナガザだし、クリンチャは相変わらず甘いものを飲んでいる。アリに関する本はいくつも見たけれど、あのトンネルアリについてはいまも正体不明のままである。
 「なんでも興味を持て」という教えへの忠義はいまもあるから、私はそのうち「トンネルアリ」の研究を始めるかもしれない。それが「民族昆虫学の見地からのバンナ社会の半族構造」なんていう論文になったら、いかにも社会人類学者でカッコいいじゃないの。
 
【フィールドへの行き方】
ドバイ経由、ナイロビ経由、あるいは成田からのエチオピア航空直行便(就航したばかりです)で首都アディスアベバへ。そこからは自動車(レンタカー)で、飛ばせば一日、普通の速度で2日。公共交通機関(長距離バス)ならば安いですが、さて、何日かかるか、見当もつきません。アディスアベバ〜バンナ間はおよそ800キロの道のりです。2008-09-0-216
 
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3.フィールドワーカーのおすすめ
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野上建紀(2巻分担執筆者)
 
三上次男『陶磁の道』岩波新書E71
1969年初版
 
 海外のフィールド調査に出かける時、その土地に因んだ文庫本や新書を携えることにしています。例えば中央アジアに出かけた時は、スウェン・ヘディンの『シルクロード』でしたし、昨年のハバナの調査の時は、ヘミングウェイの『老人と海』でした。ページをめくりながら、現地で物思いにふけるのを楽しみにしています。そして、これまで携えた書の中で最もお薦めしたいのが『陶磁の道』です。初版から40数年になりますが、本書に影響を受けてフィールドワーカーを志した考古学者や陶磁器研究者は少なくなく、私もその一人です。エジプトに始まり、東アフリカ、アラビア半島、中近東、中央アジア、インド洋、東南アジアと旅する土地は広く、海と陸に散らばる陶磁器の欠片がつむぎあげる人類の壮大な交流の道の歴史を平易な文章で語りかけてくれます。考古学や陶磁器に関わる人だけでなく、海と陸の人の交流に関心のある、特に若い人に読んで頂きたい書です。残念ながら新書版は絶版となっていますが、中古本であれば入手可能ですから、できるだけ荷物を切り詰めたいタイプのフィールドワーカーにとっても携えるのに都合がよい旅の友です。
 
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4.フィールドごはん
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「食パンとミルクティー」
駒澤大佐(2巻分担執筆者)
 
 フィールド研究者の多くは現地調査中、現地の料理に馴染むことも調査の一環と考えて、極力現地の料理を食べるのではないだろうか。小生もご多分に漏れず、下宿先のママに普段通りの料理をお願いしていた。調査地の島はナイルパーチ漁が主要産業であり、さすがケニアの重要な外貨獲得源だけあって、美味しい魚を毎日いただいていた。炙り焼きやトマト味の煮つけをウガリと共に食べる。今思えば、ぜいたくな調査地である。野菜はキャベツが多い。夕方になればママが手早くキャベツを千切りにして炒め物にする。残った芯は子どもたちのオヤツだ。
 さて、朝食は何か。現地ルオ族の伝統的な朝食はシコクビエのお粥(ニュカ・カル)である。ところが、小生には食パンとミルクティーが毎朝出てきた。ママに再三にわたり、朝はニュカ・カルをとお願いしても、変わらない。周りを見ると、下宿先の子分の漁師たちにはニュカ・カルを与えている。「お前は息子だ」と言いつつ、小生はやはり客人である。ニュカ・カルを客人には出せない。ママの譲れない一線だったのかもしれない。残念ながらママは急逝し、その理由を聞く術はなくなってしまった。
 
 
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5.今後のFENICSイベント
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(1)第10回エンサイクロペディア・シネマトグラフィカ連続上映会+FENICS
  「音楽の生まれるとき」
 
FENICS 13巻執筆者の増野亜子さん、梶丸岳さんがゲスト出演。
 
日時:7月4日 18:30開場、19:00開演
会場:Space&Cafeポレポレ坐
 
叩く。歌う。これは人がもっとも簡単に音を生み出す動作である。叩いてリズムを刻み、歌ってメロディをつむぐ。そうして音楽が生まれる。今回上映する映像はバリやイヌイット、ニューギニアのイアトムルなど世界各地の人びとが生みだす音楽(のような動き)である。竹を叩き、太鼓を叩き、弦を叩いてビートを刻む。またひとりで、あるいは楽器の奏でる音に導かれるように声を出して歌う。こうして空気のなかに彫琢されたリズムと抑揚に、秩序と組織ができあがって音楽となっていく。バリの音楽を研究する増野亜子さん、アジアの歌の掛け合いを研究する梶丸岳さんとともに音楽の宿った映像を見ながら、音楽の生まれるときに想いを馳せてみませんか。
 
(2)第二回 子連れフィールドワーカーサロン~フィールドワーカーでありつづけるには~
 
「フィールドワーカー」であることを保つのが、難しい時期もあります。子どもを連れてのフィールドワークにも困難が沢山!どのように過ごし、乗り切ろうとしているか、二人の話者とともにざっくばらんに、そして具体的に、語りあいましょう!
 
 (1)フィールドワークにいけないフィールドワーカー(四方篝  熱帯農業生態学・アフリカ地域研究)
 3人の子どもとの人生そのものがフィールドワーク、でもやっぱりフィールドにも行きたい!
 
  (2)子連れフィールドワーク: ウガンダ編(杉田映理  文化人類学)
 東アフリカ・ウガンダの調査地へ、二人の子どもとともに行く!子どもは現地校、感染症も経験!
 
★日時:2015年7月11日(土)13:30~15:30
★場所:信愛書店 en=gawa 中央線 西荻窪駅から徒歩3分
★参加費:会員500円,非会員1000円 (お茶・菓子つき)) お子様づれでどうぞ!
★連絡先:fenicsevent@gmail.com
 
 12巻『女も男もフィールドへ』に関するサロンの第二回目です。
 
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6.チラ見せ!FENICS
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100万人のフィールドワーカーシリーズ第2巻
『フィールドの見方』(増田研・梶丸岳・椎野若菜編)
「海洋観測船の生活と調査研究の日々」
(舘山一孝)
 
2012年8月、カナダ沿岸警備隊の砕氷船ルイ・S・サンローランに乗船して北緯80度・西経137度の北極海を孝行していた私は、これまで経験したことのない異変に直面していた。北極海の海氷調査のために2009年から毎年夏に同じ船、同じ海域で観測を継続してきたが、2012年はどこまで行っても海氷がなく観測ができないのだ。かつて白い海氷に覆われていた静かな海は、鉛色のうねる海に変わり果てていた。……
 
(2巻のご注文はFENICSホームページhttp://www.fenics.jpn.org/よりログインして、サイト内のオーダーフォームからご注文いただくと、FENICS紹介割引価格でご購入いただけます。ぜひご利用下さい)
 
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7.FENICS会員の活動
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(1) ネパール大地震に関して、FENICSとしては活動できておりませんが、澤柿会員をはじめ、何人かの方が関わっているランタンプロジェクト(NGO)。
 できましたら、ぜひご協力ください。https://www.facebook.com/langtangplan?pnref=story
 
(2) 会員、星泉さんの翻訳本がでました。
チベットに関心のある方は、ぜひとも手におとりください!
 
『チベット文学の新世代 雪を待つ』
ラシャムジャ 著/星泉 訳
定価 3,456円  勉誠出版
 
「ある雪の日、ぼくは文字と出会った」
チベットの村で生まれ育った4人の子供たちの過去の思い出と現在の苦悩を描く、新しい世代による現代小説!
書評が産経新聞に載っています。http://www.sankei.com/life/news/150426/lif1504260016-n1.html
 
(3) 会員、椎野若菜が代表をつとめたAA研共同利用・共同課題プロジェクト「『シングル』と社会」、「『シングル』と家族」にちなみ大阪・読売新聞(第二、第三木曜夕刊)で「世界のシングル」と題し連載が始りました。一年間つづきます。ぜひご覧下さい!
 
以上、今月号はいかがでしたか?
みなさまのご活動の様子、いつでもお知らせください!
 
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お問い合わせ・ご感想などはこちらよりお寄せ下さい。
メルマガ担当 梶丸(編集長)・椎野

寄稿者紹介

社会人類学 at 長崎大学 |

考古学、水中考古学 at 長崎大学

医師,熱帯医療