FENICS メルマガ Vol.10 2015/6/25
 
1.今月のFENICS
梅雨の季節となってまいりました。
あじさいや朝顔が咲き始めましたが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。
来月は、ふたつ、FENICSのイベントがあります。どうか、ご都合をあわせて是非いらしてください!
新刊2巻、ごらんいただけましたでしょうか
まだの方、会員価格で、すぐお求めください!ログインのうえ、割引フォームで!
 
*お願い*
「フィールドワークとキャリアアップ、子育て、介護などとの両立を考えるアンケート」を12巻にちなんで開始しました。ぜひとも、ご協力をお願いいたします。会員に限りませんので、ご存知のMLやFBなどでお知らせくださるとありがたいです。
 
それでは本号の目次です。
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1.今月のFENICS
2.私のフィールドワーク(野口淳)
3.フィールドワーカーのおすすめ(四方篝)
4.フィールドごはん(秋山裕之)
5.今後のFENICSイベント
6.チラ見せ!FENICS
7.FENICS会員の活動
 
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2.私のフィールドワーク
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砂漠へ!
野口 淳(10巻『フィールド技術のDIY』分担執筆者)
 
民主化を求めるデモの波、ベナズィール・ブットー元首相が凶弾に倒れるという混乱を経て、5年ぶりにパキスタンの地に立ったのは2012年2月のこと。まずは既往調査資料の確認と遺跡の踏査、その上で今後の共同研究の打ち合わせ…という予定だった。
 
ところが到着して2日目には、共同研究者のマッラー、ヴィーサル両教授が「明日は砂漠の遺跡へ行く」と言って発掘用具を準備し出した。砂漠の遺跡、すなわちインド・パキスタン国境にまたがるタール砂漠の西縁にあるヴィーサル・ヴァレー遺跡群である。これまでの分布調査で、4万年前より古い時代に遡る可能性がある石器が採集されている。10数万年前にアフリカに登場した私たち現代人の直接の祖先が、西アジアやアラビア半島を経由して、南アジアやオセアニアへ広がっていったルートを探索する上で、間違いなく重要な場所だ。しかしまずは…という日本的な感覚でいる間にも、予定は次々に決まっていく。
 
3日目、人が集まらないとか、車両が準備できていないとかで、結局、午前10時過ぎに出発。大学のあるハイルプールの郊外から遺跡まで片道2時間強。5年前より道路事情が格段に良くなっているのは、この地域がザルダーリー政権(当時)のお膝元だからである。遺跡は、最後の人家から東へ14km、砂漠の中の天然ガス田へ通じる道路の脇からはじまり、砂丘間の基盤が露出した凹地から、幅約1km 、比高40mの巨大な三日月型砂丘の斜面~頂部にかけて延々と広がっていた。とくに砂丘間凹地では、露出した基盤岩中に豊富に産するチャートを使った石器づくりが累々と行なわれた結果、足の踏み場もないほどの石器で覆い尽くされている。すでに「じっくり」という気持ちなど、抜けるような青空の彼方に消え去ってしまっている。3時間近く砂丘の斜面を登り降りし歩き回った後には、採集資料でパンパンになったバッグ、大量の画像データとGPSのログ、そして冷めやらぬ興奮があった。疲労感など、どこにもない。帰りの車中は、たぶんずっと話し通しだったと思う。
 その後、もう1日踏査をした上で、6日目には最初のトレンチを開けた。その日は、昼食も取らずに日没近くまで砂漠にいた。以来、年1回だけの砂漠のフィールドワークが続く。冬季の限られた時期以外は、午前11時過ぎには気温が45°を越えるので、午前5時過ぎに出発し、お昼には帰るというスケジュールだ。トレンチを掘り下げるとサソリに出くわすこともある。砂漠の深部に遠征した際には、搭乗車輛のラジエーターホースが破断、最寄りの集落から30km以上の地点で立ち往生したこともある。
 
しかしまだ所期の目的は達していない、と言うよりも次々に課題と可能性だけが増えていく。一日の作業を終えた後、甘く濃厚なチャイとともに成果を噛みしめ、また砂漠へ向かう。
 
 
【フィールドへの行き方】日本から北京、バンコク、湾岸経由などでカラチ~国内線でサッカル~車でターリ・ミルワーまで約3時間。最後の集落から東へ14km。砂漠の中は4WDでもスタックする可能性あり。もちろん飲料水はありません。
 
 
写真1(野口)
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3.フィールドワーカーのおすすめ
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四方篝(12巻『女も男もフィールドへ』分担執筆者)
 
『二人で紡いだ物語』出窓社
米沢富美子著
 
 日本を代表する女性物理学者の自伝的エッセイである。大阪生まれ、同じ大学出身、3児の母という共通点があることから、(恐れ多くも)シンパシーを感じて、折に触れて読み返している。3人の子供を育てながらの研究者人生を、エネルギッシュにユーモアあふれる筆致でつづった本書には、幾度となく励まされてきた。女性研究者そのものが珍しかった時代に、どんな困難も常に前向きに考えてハツラツと大胆にやってのけた著者の生き方には、「ワークライフバランス」という言葉など、鼻息で飛ばしてしまいそうな勢いがある。
 著者の夫は「家事・育児は私(=著者)がするものと決めていて、当然という顔をしており、ねぎらいの言葉さえかけてくれない。」にもかかわらず、家事と育児に加え、第二子の妊娠・つわりでへとへとになり、勉強のペースが落ちている著者にたいして、「君の勉強している姿を最近見なくなった。怠けているのじゃないか」と容赦なく言ってのける。著者いわく「ガーンと頭を殴られたような衝撃だった。目が回りそうになった。耳がガンガン鳴った」とのことだが、著者は反論するどころか「夫の活」によってつわりも忘れて研究にとりくみ、新たな理論を作り上げたというのである。
「そんなの、スーパーウーマンの話でしょ」と言いたくなったみなさん、どうかそう言わずに、一度手にとってみてほしい。
 
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4.フィールドごはん
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カラハリ定食
       秋山裕之(第14巻『フィールド写真術』編者)
 
ボツワナでブッシュマンの調査をしている日本人グループ(カラハリ隊)の間では通称「カラハリ定食」と呼ばれている現地での食事がある。フィールドに長期滞在するときは、月に一度、片道4時間の悪路を運転して町に出て、ジャガイモ、タマネギ、キャベツ、コンビーフ、スープの素、メイズ粉、米などの食材を買い込む。カラハリ定食とは、昼食はメイズ、夕食は米を主食とし、副食は上記の食材を煮込むだけのシンプルな料理である。バリエーションはほぼスープの種類にのみ依存する。
 カラハリ隊のメンバーは基本的に現地の人々の家に下宿せず、独立してテントを立てて暮らす。食事は訪れた人々や調査助手の友人などと共にカラハリ定食を食べる。都合、常に2〜3家族ぐらいは養っている状態になる。さまざまな人が日々入れ替わりながらカラハリ定食を目当てに集まってくるこの時間は、我々調査者にとっては貴重な情報収集の機会となる。
 
それほどの求心力を持つカラハリ定食であるからして、ブッシュマン達はおいしいおいしいと言って食べてくれる。しかし彼らが自宅でカラハリ定食を作ることはない。私も味に不満はないが、日本で作ろうとは思わない。あそこでしかありえない。
 KalahariTeishoku
 
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5.今後のFENICSイベント
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来月は2件、予定しております。
(1)7月4日(土)第10回エンサイクロペディア・シネマトグラフィカ連続上映会@東中野ポレポレ
(2)7月11日(土)第2回 子連れフィールドワーカーサロン
 
また昨年と同様に11月1日午後、東中野ポレポレにて全体会のシンポジウム(最新刊の2巻がベース)を行います。どうぞ、お楽しみに!
東京行きの計画のなかにぜひともお入れください。
 
:::以下、2件のイベントの詳細です::::
(1)第10回エンサイクロペディア・シネマトグラフィカ連続上映会
FENICS 13巻執筆者の増野亜子さん、梶丸岳さんがゲスト出演されます。
 
「音楽の生まれるとき」
日時:7月4日 18:30開場、19:00開演
会場:Space&Cafeポレポレ坐
 
叩く。歌う。これは人がもっとも簡単に音を生み出す動作である。叩いてリズムを刻み、歌ってメロディをつむぐ。そうして音楽が生まれる。今回上映する映像はバリやイヌイット、ニューギニアのイアトムルなど世界各地の人びとが生みだす音楽(のような動き)である。竹を叩き、太鼓を叩き、弦を叩いてビートを刻む。またひとりで、あるいは楽器の奏でる音に導かれるように声を出して歌う。こうして空気のなかに彫琢されたリズムと抑揚に、秩序と組織ができあがって音楽となっていく。バリの音楽を研究する増野亜子さん、アジアの歌の掛け合いを研究する梶丸岳さんとともに音楽の宿った映像を見ながら、音楽の生まれるときに想いを馳せてみませんか。
 
(2)第二回 子連れフィールドワーカーサロン~フィールドワーカーでありつづけるには~
 
「フィールドワーカー」であることを保つのが、難しい時期もあります。子どもを連れてのフィールドワークにも困難が沢山!どのように過ごし、乗り切ろうとしているか、二人の話者とともにざっくばらんに、そして具体的に、語りあいましょう!
 
 (1)フィールドワークにいけないフィールドワーカー(四方篝  熱帯農業生態学・アフリカ地域研究)
 3人の子どもとの人生そのものがフィールドワーク、でもやっぱりフィールドにも行きたい!
 
  (2)子連れフィールドワーク: ウガンダ編(杉田映理  文化人類学)
 東アフリカ・ウガンダの調査地へ、二人の子どもとともに行く!子どもは現地校、感染症も経験!
 
★日時:2015年7月11日(土)13:30~15:30
★場所:信愛書店 en=gawa 中央線 西荻窪駅から徒歩3分
★参加費:会員500円,非会員1000円 (お茶・菓子つき))
  お子様づれでどうぞ!(2歳以上のよく動くお子さんをお連れの場合、念のためご連絡ください)
★連絡先:fenicsevent@gmail.com
★チラシ:FENICSチラシ 子持ち 2015年7月表
 
 *12巻『女も男もフィールドへ』に関するサロンの第二回目です。
 *今回は小児科医も参加予定です。
 
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6.チラ見せ!FENICS
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FENICS 100万人のフィールドワーカーシリーズ 第11巻
『衣食住からの発見』(村尾るみこ・佐藤靖明編)
「半乾燥地サヘルでの食事調査」
(石山雄大)
 
食事調査をするからにはと、3度目の長期調査を前に自分に課したルールがあった。それは、彼らとともに食事し、同じものを食べる、ということである。彼らがご馳走を食べるときには一緒に喜び、食材が乏しいときにも困難な状況を共有したかったのだ。
しかし、頭で考えるタテマエを実践することは容易ではない。……
 
(11巻のご注文はFENICSホームページhttp://www.fenics.jpn.org/よりログインして、サイト内のオーダーフォームからご注文いただくと、FENICS紹介割引価格でご購入いただけます。ぜひご利用下さい)
 
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7.FENICS会員の活動
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FENICS会員の星泉さん(チベット語専門)が、新刊をだされました。
ご本人からの紹介をいただきます。
 
新刊紹介
『チベット文学の新世代 雪を待つ』ラシャムジャ著、星泉訳、勉誠出版、2015年1月刊行
 
チベットはもともと文学が盛んな土地柄だが、近年は世界文学の潮流に触れ、新しい文学が誕生しつつある。今回紹介するのはチベットの文学界の中でもキラリと光る気鋭の若手作家による長編小説。読み物として面白いのはもちろん、1980年代以降激動の変化にさらされたチベットの山村の暮らしが手にとるように分かる小説としてもおすすめだ。(星泉)
 
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お問い合わせ・ご感想などはこちらよりお寄せ下さい。
メルマガ担当 梶丸(編集長)・椎野
FENICSウェブサイト:http://www.fenics.jpn.org/

寄稿者紹介

東京工芸大学

農業生態学 at 京都大学 |

文化人類学

第14巻『フィールド写真術』編者

アフリカ・ボツワナ