1.今月のFENICS

梅雨も過ぎ去り、すっかり暑くなってまいりました。
京都では祇園祭も終わり、いよいよ真夏という頃合い。
慌ただしい前期を終えてフィールドワークに出かけようかという方、
忙しすぎてフィールドに行けない方などさまざまでしょうか。
皆様よい夏を迎えられますよう。

*お願い*
「フィールドワークとキャリアアップ、子育て、介護などとの両立を考えるアンケート」を12巻にちなんで実施中です。まだのかた、ぜひとも、ご協力をお願いいたします。会員に限りませんので、ご存知のMLやFBなどでお知らせくださるとありがたいです。https://goo.gl/e1nRGg

それでは本号の目次です。

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1.今月のFENICS
2.私のフィールドワーク(深山直子)
3.フィールドワーカーのおすすめ(梅澤有)
4.フィールドごはん(山口未花子)
5.今後のFENICSイベント
6.チラ見せ!FENICS
7.FENICS会員の活動

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2.私のフィールドワーク
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深山直子(3巻『共同調査のすすめ』分担執筆者)

私のフィールドワークの拠点は、ニュージーランドの最大都市オークランドの南部郊外に位置する、パパクラという町である。総人口における先住民マオリの人口の割合は15%であるが、パパクラだと27%であるから、マオリの存在感が高いことは確かだが、一見すると何の変哲もない郊外の住宅地である。

私は必ずしも、このパパクラにすんなりと拠点を定められたわけではない。初の長期調査では、当初都心ど真ん中にある大学の学生寮に住んでおり、大学以外ではあまりマオリと触れ合えず、焦燥感ばかりが募っていった。ところが、クリスマス休暇の直前になって、大学でのマオリの友人に、クリスマスをひとりで迎えるなどあり得ない、と目を丸くされ、急遽パパクラにある彼女の自宅におじゃますることになった。友人は、母、姉、めい、おいと共に、古い平屋に暮らしていた。家族は、日本からの珍客を、実に自然体で歓待してくださり、大変楽しいクリスマスになった。このことがきっかけで、私は決して豊かではないが明るく賑やかなこの家に、居候として転がり込むことになったのである。

お母さんは人望の厚い長老ともいうべき女性であったから、毎日のように、自分の子や孫はもとより近縁・遠縁の親族が訪ねてきた。基本的なメンバーだけでもかなりの大所帯で、食べ盛りの子どももいた上に、マオリの間ではその時集っているみんなが一緒におなかいっぱい食べる、ということに高い価値がおかれているから、おのずと食事、とりわけ夕食の準備は一仕事であった。

私は居候するようになってから間もなく、家族のメンバーとして家事を分担するようになったが、夕食準備を割り当てられた日はことさら気合が入った。というのも、いい大人であってもマオリ家族内では新米として足を引っ張ることが多い生活の中で、料理だけはアジア人という個性を活かしながら、みんなの期待に応えられる貴重な機会だったからである。とはいえ、手に入る素材、調味料はもとより、使える調理器具も限られている上に、味の好みも違うし、なにしろ短時間に大量に作らねばならない。回を重ねるにつれ、試行錯誤しながら独自の方法や味付けを開発していった。

例えば巻きずしは、中国製の炊飯器でオーストラリア産の短粒米を炊き、砂糖を大めに加えたホワイト・ビネガーを混ぜて寿司飯を作る。アボガドとチキン、スリミとよばれる大味のカニカマとキュウリ、という組み合わせの具材は、人気が高い。雑誌や新聞をまきすに見立てて巻いていく作業は、いつも子どもが喜んで手伝ってくれた。またいざ食べる段になって、育ちざかりの男子が、太い巻きずしを切らずにバナナを食べるがごとくあっさり一本平らげる様を見ることは、壮観であった。あるいは、マオリの間でテイクアウェイの中華料理が浸透しており、さらに「アジア人=中国人」というイメージが強いこともあって、中華風の料理もしばしばせがまれた。チャーハンは砕いた固形コンソメがあれば、具材が卵と玉ねぎだけでもなんとかそれらしいものになる。また、野菜炒めも、固形コンソメと小麦粉を大めの水で溶かしてとろみをつけると、少し本格的に感じられるのか、中高年に喜ばれる。野菜を食べた後に残ったとろみを、パンにつけてまで食べてくれる姿を見た際には、もっときちんとした調味料と調理法でつくれれば、と申し訳ない気持ちになった。また、中華系のスーパーで餃子の皮、豚挽き肉が手に入った場合には、挽き肉にニンニク、ネギを混ぜ込んだだけの餃子もどきを作る。皮で包む作業も、子どもが率先してやってくれた。かつて、あまり質の良くないフライパンで焼いたら、全て焦げ付いて泣きたくなってしまった。以来、みんなのアドバイスもあって、たぷたぷの油で揚げるようになった。カロリー過多という問題はともかく、その方が仕上がりのみならず売れ行きがいいので、以来、揚げ餃子一辺倒である。

フィールドワークでは、現地のひとと同じようなものを食べることが重要、というけれど、その一方で、積極的に現地のひとの胃袋をつかみにいくことも、また重要なのではないだろうか。

【フィールドへの行き方】
成田空港から直行便だと約11時間でオークランド空港に着きます。パパクラは、そこからバスまたはタクシーで30分ほどです。オークランドCBD(中心業務地区)からだと、バスまたは電車で約1時間です。ちなみに、私は運転をしないので、公共交通機関と人様のご厚意だけで、フィールドワークをしています。不便もたくさん、気付きもたくさん。
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3.フィールドワーカーのおすすめ
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梅澤有(4巻『現場で育つ調査力』分担執筆者)

フィールドサイエンスと映画

「キング・コーン-世界を作る魔法の一粒」
http://www.espace-sarou.co.jp/kingcorn/top.html

海に潜っての仕事もするので「グラン・ブルー」の世界観を語って洒落込もうかとも考えたが、ちょっとフィールドからは離れて、「サイエンスと映画」ということで紹介したい。僕は、「安定同位体比」という化学指標を主要なツールにして自然のしくみを紐解いているが、この「安定同位体比」というのは厄介なもので、一般の方には全く知られておらず、授業や市民講演会などで持ち出そうとすると、聴衆が100 mくらい後ずさりをしていくような感覚に囚われる。同じ科学用語でも「DNA」の知名度って、うらやましい。そんな中、発見したのがこのドキュメンタリー映画だ。この映画の冒頭は、2人の米国人大学生が、大学の先生から「髪の毛の安定同位体比の分析結果から判断すると、君たちはトウモロコシからできている」という衝撃の一言をうけるところからスタートする。「そんな、ばかな。。」授業が始まって15分、早くもウトウトし始めた学生を前に、この映画のネタをスライドとして出せば、効果てきめんに、皆が、ざわざわと「安定同位体比って何?」と、笑顔になるそんな有難い映画なのだ。まぁ、安定同位体比が登場するのは冒頭だけで、後は、主題は、トウモロコシに支配された我々の食生活を暴いていく農業ドキュメンタリー・ムービーなのだけど。。。ぜひ、ご覧あれ。
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4.フィールドごはん
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肉だらけの食卓(山口未花子 13巻『フィールドノート古今東西』分担執筆者)

せっかくなので珍しい料理を紹介したいところであるが、カナダ先住民カスカの人々においてもっとも一般的な調理法は、肉をただローストしたり水で茹でたりするというシンプルなもの。伝統的には、ソースや付け合わせもなかった。だからいつもと違う味を味わいたいなら肉の部位や種類を変えるしかない、ということになる。
ある時せっかくだからいつもと違う味を楽しんでもらおうと、ヘラジカ肉でカレーを作ったらこういわれた「美味しいけど、肉の味が消えちゃってもったいない」。心配しなくても野生の肉は毎日食べて飽きることはないらしい。私にも次第にその意味が分かるようになってきた。あっさりしたウサギ、脂がのって力強い味わいのヘラジカ、春先のビーバーは好物のポプラのつぼみが香りを蓄えるので強い風味になる。そうやって肉の味から、季節を感じ、動物が何を食べたのかを推理することができるようになれば、肉だらけの食卓も意外と楽しめるようになる。

山口写真ヘラジカ肉のローストと干し肉

「ヘラジカ肉のローストと干し肉」

 

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5.今後のFENICSイベント
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・11月1日に東中野ポレポレにて、全大会を予定しております。第2巻『フィールドの見方』にちなんだシンポジウム、交流会があります。
ぜひとも、ご予定のなかにお入れください!

そのほか、目下打ち合わせ中です。みなさまのほうからも企画を募集しております。

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6.チラ見せ!FENICS
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100万人のフィールドワーカーシリーズ第2巻
『フィールドの見方』(増田研・梶丸岳・椎野若菜編)
「ことばから人と文化と社会へ」
(大塚行誠)

A4のノートとボールペン、そしてポータブルレコーダー。重いものやかさばるものを持ち運ぶのが苦手な私にとって、フィールドワークに必携の「三種の神器」といえばこれぐらいだ。逆に言えば、この3点さえあれば、どのような所でもすぐに調査が始められる。
ティディム・チン語のように、単語も文法もあまり知られていない言語の調査は、日常生活で誰もが使うような単語をひとつひとつ聞き出していくことから始める。……

(2巻のご注文はFENICSホームページhttps://fenics.jpn.org/よりログインして、サイト内のオーダーフォームからご注文いただくと、FENICS紹介割引価格でご購入いただけます。ぜひご利用下さい)
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7.FENICS会員の活動
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小西公大会員(5巻・14巻編者)より報告

7月18日に開催された文化人類学会関連行事である若手セミナー「人類学をヒラく〜知をたずさえて世界に出よう〜」の報告です。
本セミナーは学会の若手支援検討WGと関東地区研究懇談会の共催によって行われた討論会で、人類学的の今日的な状況を把握しつつ、現状を打破するための方途を模索することを目的とし企画したものです。
その中で、FENICS代表として椎野若菜さん、またFENICS運営のコアメンバーである丹羽朋子さん、シリーズ著者のひとり門田岳久さんらがご登壇、熱く語っていただきました。
椎野さんのお話は、FENICS誕生秘話に始まり、フィールドワーカーの持つ強みを生かした社会実践の方途、はたまたNPO法人として行うことのできる社会への働きかけ(出版や各種イベント)の可能性など、FENICSの具体的な活動紹介をメインとして多岐にわたるものでした。
丹羽さんは、自身のアカデミズムとの接点を時代を追って語るという「自分史」をはじめとし、アートやクラフトの世界を基盤とした実践的な活動の経緯をご紹介いただきました。
どの発表もとても興味深く、アカデミアに収まりきらない活動の数々は、これからの学問のあり方そのものを示唆しているようで、刺激的でした。会場にはFENICSメンバーの姿も。今後もこのような機会を増やしていき、しっかりとアウトリーチ活動を進めていきたいと、改めて思いました。
https://www.facebook.com/pages/Fenics/169498703179801

日時:7月18日(土) 14:00〜17:30
場所:東京外国語大学 本郷サテライト 3Fセミナールーム
企画:小西公大(東京学芸大・FENICS)ほか

・椎野若菜(東京外国語大学アジアアフリカ言語文化研究所、NPO法人FENICS代表)
「『守られた』大学を飛び出し、実社会でフィールドワーカーの強みを生かす?!〜NPO法人FENICSの試み〜」
・門田岳久(立教大学 FENICS会員)
「佐渡の廃校で模索する『新しい野の学問』 〜廃校プロジェクトの試み〜」
・牛山美穂(早稲田大学高等研究所 FENICSに新入会)
「医療の世界で人類学者は何ができるか? 〜アトピー性皮膚炎の現場から〜」
・越智郁乃(兵庫県立大学)
「”Fieldwork” と “Artwork” 〜作品制作過程における『フィールドワーク』の応用と適応〜」
・丹羽朋子(人間文化研究機構 FENICS会員)
「伝染する人類学 〜異業種交流・共闘的プロジェクトの経験から〜」

*学会やそのほかいかなる集会でも、FENICSメンバーの話者が適当な役割ができそうでしたら、
どうぞご連絡ください!
以上、会員のみなさまからのご活躍、ご報告などお待ちしております。
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お問い合わせ・ご感想などはこちらよりお寄せ下さい。
https://fenics.jpn.org/contact/
メルマガ担当 梶丸(編集長)・椎野
FENICSウェブサイト:http://www.fenics.jpn.org/

寄稿者紹介

社会人類学 at 首都大学東京 |

3巻『共同調査のすすめ』分担執筆者


海域生態

4巻『現場で育つ調査力』分担執筆者


文化人類学 at 岐阜大学 |