FENICS メルマガ Vol.13 2015/8/28
1.今月のFENICS
日本はすこし、暑さもやわらいだでしょうか。編集長の梶丸さんから原稿を入手しておりましたが、発信がおくれてしまいました。申し訳ありません。
この夏は子連れーー2歳児と一緒でケニア・ナイロビとウガンダ・カンパラでのフィールドワークをしています。先週末にケニア・ナイロビからネット環境があまりよろしくないウガンダに移動したばかりです。
日本を出発するときから、12巻の『女も男もフィールドへ』のためのネタづくりをしているかのように、子どもにまつわるトラブルがたくさんありました。
しかし、いまなんとかこうして無事にPCにむかえています。FENICS会員ともナイロビ、カンパラでお会いしていたので、ほかのみなさまもきっと、世界のどこかで読んでくださっているかもしれません。(椎野)
それでは本号の目次です。
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1.今月のFENICS
2.私のフィールドワーク(菅沼悠介)
3.フィールドワーカーのおすすめ(清水貴夫)
4.フィールドごはん(座馬耕一郎)
5.今後のFENICSイベント
6.チラ見せ!FENICS
7.FENICS会員の活動
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2.私のフィールドワーク
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東南極ドローニング・モード・ランド
プリンセスエリザベス(ベルギー)基地
菅沼悠介(11巻分担執筆者)
一般に南極観測隊(正式には南極地域観測隊)というと、砕氷船「しらせ」で海氷をかき分け、南極大陸に向かうイメージがあると思う。しかし、これは昭和基地に向かう南極観測隊「本隊」のルートであり、南極観測隊には他にも「別働隊」とよばれる昭和基地を拠点としない調査・研究を行うグループがある。
私も主に「別働隊」で活動する研究者で、拠点とするのはベルギーが管理しているプリンセス・エリザベス基地(以下、PE基地)である。PE基地は、昭和基地から西に700 kmほど離れたお隣の基地だが、現在陸路でお互いの基地を行き来することはない。PE基地は2009年に本格運用が始まった比較的新しい基地で、夏期間だけの運営とはいえ、基本的にはゼロ・エミッションを掲げる次世代の南極観測基地である。また、そのフォームも次世代の名にふさわしく、とても未来的なものである(写真)。
PE基地に行くためには、まず南アフリカケープタウンまで通常の航空路で移動する。そこからは、DROMLANという国際共同事業が運航している航空網(機体はイリューシン76)を使って、多くの外国人研究者や基地関係者と相乗りで、東南極のロシア基地「ノボラザレフスカヤ基地」まで飛ぶ。そこで暫し天候待ちなど時間調整をしたのち、いよいよチャーターしたバスラ−ターボ機に乗り込み、 約2時間のフライトでPE基地に到達する。条件に恵まれれば、ケープタウンから半日でPE基地に到達することができるが、運が悪ければ、何日かかるか分からない(かつて飛行機の故障でノボラザレフスカヤ基地に2週間停滞した方もいるらしい)。
PE基地は、その面前にそびえるセール・ロンダーネ山地調査の拠点である。かつてはあすか基地という南極観測隊の基地を拠点として、大先輩方が果敢に地質・地形調査をされた山々だ。その後30年を経て、新たな調査の機運の立ち上がりと共に、今度は外国基地であるPE基地を拠点としてセール・ロンダーネ山地での氷河地形・地質調査など様々な調査・観測が展開されている。私もその流れで3度の南極調査を経験させて頂いた。
セール・ロンダーネ山地の調査は、本編にも書いたが、かなり過酷なものである。期間中は基本キャンプ生活で、氷を溶かし湧かしたお湯で乾燥食を食べる生活だ。しかし、燃料やその他物資の補給の為、時折立ち寄るPE基地は別世界だ。そこにはヨーロッパの香り漂うラウンジがあり、PE基地の隊員や同じく立ち寄った外国人研究者は、そこでワインを飲み、チーズを食べながら、大きく開いた窓からセール・ロンダーネ山地の山々を眺めるのだ。この余裕。日本の南極地域観測とのスタンスの違いを大きく感じてしまう。
Alain Hubert氏を基地長とするPE基地は、我々外国人研究者にもとても暖かく、我々はまるでホームグランドの様に過ごす事ができる。セール・ロンダーネ山地の過酷な野外調査も、拠点に帰れば体と心を休め、次の調査に出発する気力を養うことができるのだ。
PE基地は、これまでベルギー国の力に全てを頼ることをせず、Alain Hubert氏とその仲間達の多大なる努力によって作られ、運営されてきた。このようなある意味不安定な体制がこの先いつまで続くかわからない。しかし、この東南極のオアシスは、セール・ロンダーネ山地の山々の同じく、私の南極の思い出に深く刻まれている。
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3.フィールドワーカーのおすすめ
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清水貴夫(第7巻『社会問題と出会う』分担執筆者)
安渓遊地・宮本常一2007『調査されるという迷惑 フィールドに出る前に読んでおく本』みずのわ出版
http://www.mizunowa.com/book/book-shousai/chousa-meiwaku.html
「フィールドに『もっていく』本」か「音楽」か…というリクエストだったが、「フィールドに『出る前』に読んでおく本」を紹介したいと思います。
海外であれ、自分のホームであれ、いかに調査先との関係を築くか、調査中を過ごすか、そして、どうやって調査先に成果を還元するかはそれぞれのフィールドワーカーが悩むところでしょう。本書では、第1章の宮本の「調査地被害‐される側のさまざまな迷惑」を枕に、安渓のフィールドにおける調査地での被調査者やその外側にいる人々との間の苦悩の経験、そこから安渓のフィールドへの成果還元や付き合い方についての考察の記述が続きます。私たちの調査にどれほど学術的な意義があろうと、調査される側にとっては然程のことはない、むしろ迷惑になることすら少なくないこと、研究成果の還元をいかに考えるかについて本書は多くの示唆を与えてくれます。
幾多のフィールドワークの教科書でお題目のように唱えられるフィールドとの「ラポールの構築」。調査・研究が進むほどに、手元において、「調査に出る前」に読み返してみたい思わせる本です。
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4.フィールドごはん
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山の幸、湖の幸
(座馬耕一郎 第15巻『フィールド映像術』分担執筆者)
アフリカで野生のチンパンジーを追っていると、彼らの食べものがおいしそうに見えてくる。赤く熟れたイチジクや、黄色いこぶし大の多肉果など、色とりどり。調査地はタンザニアのマハレ山塊にあり、1965年より調査をされてきた西田利貞さんはチンパンジーの食べものを片っ端から食べ、その味について論文を書いていらっしゃった。私もまねてつまんでいるが、甘くておいしい実もあれば渋い実もあり、チンパンジーのように腹いっぱい食べるのは難しい。
調査地には湖もある。タンガニィカ湖である。生物多様性の宝庫でもあるこの湖で獲れる魚は多種多様で、地域にはさまざまな魚料理がある。しかしこのコラムでは日本の調査隊の「伝統的」な料理をご紹介したい。それは刺身である。数ある魚の中でも刺身に良いのは体長50cm以上にもなる白身魚のクーヘで、梅棹忠夫さんは著書の中で「まるでタイの味」と評していた。とにかくうまい。だが地元の人たちは生では食べない。私たちを見て苦笑いをする。また日本でこの話をすれば「淡水魚の刺身?」と距離を置かれる。しかし、たとえ冷ややかな目で見られようとも、この御馳走のため、調査の荷物にワサビと醤油を詰めるのである。
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5.今後のFENICSイベント
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(1) 会員の野口靖さんの作品をFENICSから推薦し「ふくしま映画祭」に出品することになりました。
ふるって足をお運びください。
ふくしま、また東日本大震災に関連した研究をなさっている方はFENICS内に多くいらっしゃると思います。
今後も個別にご提案もいただき、あるていど数がありましたらシリーズで東中野ポレポレ等で一般にも開かれた発表の場をつくりたいと考えております。どうぞ気楽にご連絡、ご相談ください。
展示:核についての幾つかの問い
期間:9/15(火)~9/18(金)15時頃まで
場所:Space&Cafeポレポレ坐
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アーティストの野口靖が、2012年から3年以上かけて、日本を含むアジアでのインタビュー映像と
食品中の放射性物質検査マップを組み作品とした、現在も継続中のアートプロジェクト。
日本・ベトナム・インドという、原発との関わりが深い国々において、避難者・科学者・市民活動家など、多様な立場の方々に同じ質問をしたインタビュービデオ。そして、厚生労働省と東京電力が公開している
日本における食品中の放射性物質検査結果を地図上で視覚化したインタラクティブマップ。このふたつで構成されるインスタレーション「核についてのいくつかの問い」をポレポレ坐にて展示します!
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●公式サイト: http://r-dimension.xsrv.jp/
●協力:NPO法人FENICS,椎野和枝,椎野若菜,増渕忍
●インタビュー協力:(敬称略。アルファベット順)
Amudha & Bhuvaneshwari, 福島みずほ, Nguyen Thi Hoa, 猪狩千恵子, 猪狩丈衛, 鎌仲ひとみ, 小出裕章
Nguyen Li Nihh, 小黒秀夫, Lydia Powell, Nguyen Khac Phong, V. Pugazhendhi, 齋藤修, 齋藤夕香
Kumar Sundaram, 椎野和枝, Sumilhra, S. P. Udayakumar, Vedagiri, K. Valarmathi
●撮影: 田中雄一郎
(2) 11月1日の午後にFENICS全体会を東中野ポレポレにて予定しています。第二巻『フィールドの見方』に関わるシンポと会員同士のきさくな交流をおもな目的にしています。
詳細は9月号にてお知らせしますので、スケジュールの確保をおねがいいたします!
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6.チラ見せ!FENICS
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100万人のフィールドワーカーシリーズ第15巻
『フィールド映像術』(分藤大翼・川瀬慈・村尾静二編)
「結びつける力―参加型映像制作の実践」
(分藤大翼)
罵られている、ということはわかった。正直なところ、それしかわからなかった。すましていれば美人だと思わせるその人は、綺麗な二重の目を見開いて、大声でまくし立てていた。黙って聞いている他ない私の隣で、友人の映画作家は呆れながら、ときに激しく言い返していた。今夜、自分の町に帰るという人に、明日の宿代や食費を払うわけにはいかなかった。結局、彼女はあきらめて、形だけの握手を交わして立ち去った。その場では周囲の人たちと同様に肩をすくめ、事態をやり過ごす他なかった私は、後々この出来事を反芻し、深く反省することになった。
私は2011年の3月21日から25日の5日間にわたって、バカ(Baka)という人びとが運営している先住民組織のスタッフを対象に映像制作のワークショップ(体験型講座)を行なった。……
(15巻のご注文はFENICSホームページhttp://www.fenics.jpn.org/よりログインして、サイト内のオーダーフォームからご注文いただくと、FENICS紹介割引価格でご購入いただけます。ぜひご利用下さい)
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7.FENICS会員の活動
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15巻の『フィールド映像術』にご執筆いただいた田邊優貴子さんが夏前に本の執筆で忙しいとうかがい、そしてググるとすぐにでてきました。
あつい日本の夏には最適の本かと。
『北極と南極—生まれたての地球に息づく生命たち』
田邊 優貴子 (著)
A4変形 / 120ページ
ISBN 978-4-8299-7209-0 2015年8月10日発売
定価2,592円(本体2,400円+8%税)
研究者が見た北極・南極の世界とは?
北極に広がるお花畑、南極の氷の上を闊歩するペンギン、氷に閉ざされた湖底に広がる森など、極地ならではの美しい世界をたっぷりと収録した一冊。
http://www.bun-ichi.co.jp//tabid/57/pdid/978-4-8299-7209-0/Default.aspx
*みなさまもイベントは出版など、さまざまな形で情報をいただきたく存じます。分野を超えての互いの活動を知るきっかけにしたいです。
よろしくお願いします。
寄稿者紹介