FENICS メルマガ Vol.54 2019/1/25

 2019年が始まりました。みなさん、年末年始はいかがお過ごしだったでしょうか。

 今年も、われわれFENICS、新しい出会いを求めて、新しい発想、発見を得るべく、活動していきたいと思います。ほかの分野の方に聞いてほしい!見てほしい!話したい!という方、どんな小さなことでもけっこうです、FENICSのほうに呟いてみてください。何か今年、始まるかもしれません。

 出版もあわせて頑張っていきます、今週に編集会議も開かれています。なにとぞよろしくお願いいたします。

 またFENICS関連のイベントも来週月曜、1月28日には大阪・梅田で「国産バナナの可能性を考える」イベント、3月には「エンサイクロペディア・シネマトグラフィカ」(ECフィルム)の上映とさまざまなイベントが開催され、4月からはFENICS理事によるオープンアカデミーが東京外大で始まります。

 どうぞお楽しみに!

それでは今月号の目次です。
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1.今月のFENICS
2 フィールドワーカーのライフイベント(連載)(蔦谷匠)
3 イベントリポート(秋保さやか)
4.FENICSイベント バナナイベント(1/28)、ECフィルム(3月)、東京外大オープンアカデミー(4月)
5.会員の活躍(清水貴夫)   
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2.フィールドワーカーのライフイベント(連載)
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おっぱい研究者の子育て〜授乳編〜
蔦谷 匠(人類学・海洋研究開発機構)

 ふだん、ヒトやサルの授乳・離乳や子育てのことを研究している。今回、妻の妊娠出産と母乳育児確立を間近に見て、いろいろなことを学んだ。まさに、百聞は一見にしかず。

 妻の乳房は乳汁分泌をなかなか本格的に開始せず、出産後の2日間は焦りの時間だった。できれば母乳哺育が好ましいとか、ミルクの補足をすると母乳育児の確立が難しくなりかねないとか、これまでに学んだ経験の伴わない知識が頭のなかを駆けめぐり、心の中は穏やかでなかった。けれど、それを顔に出してしまうと妻も緊張してしまうだろうなと思い、のんきな気分でいることを自分自身に言い聞かせていた。一方の妻はいたって平静で、出ないものは仕方ないけど、まあいろいろがんばってみる、と、助産師さんのアドバイスや書籍を参考にしながら、「はいはいどうぞ〜」と子供を乳房に抱き寄せていた。帝王切開の痛む傷痕をかかえながらも、妻がそうした動じない態度でいることに、私は大いに助けられ、あらためて「この人はたいした人物だ」という感嘆を新たにした。

 WHOの提示している「母乳育児成功ための10ヶ条」の第2条は「全ての医療従事者に母乳育児をするために必要な知識と技術を教えること」というものである。今回、この条項の意味を身にしみて理解した。乳汁分泌がなかなか開始されないなか、助産師さんたちは親身になって真夜中まで対応してくださり、乳房のくわえ方、抱き方、後述するカップフィーディングのやり方などを教えてくださり、マッサージなども紹介してくれた。(私はというとしばしばそれを横で見て、ほうほう、こうするのね、と実地に観察していました)。助産師さんたちは、母乳育児を目指す私たちに対しネガティブな言動をされることも一切なく、常に協力的だった。特にはじめての子供の場合、両親はともに授乳や子育て初心者であり、ポジティブな雰囲気を持った経験者がまわりにいることが非常 に重要ではないかと思う。医療従事者は、新米の両親に対してはある種の権威者であり、そうした人たちが母乳育児にどのような態度を取っているかで、母乳育児の方向性がかなり左右されそうだな、という強い印象をもったのだった。

 産後2日目の朝、共同研究者であり2児の母でもある久世濃子さんにメールを出し、「なかなかおっぱいが出ないのです」と相談をした。ありがたいことに、「私もなかなか乳汁分泌が軌道に乗らず、入院中はいつもミルクを足していました。焦らず、母親がリラックスすることが大事ですよ」と、すぐに詳細かつ丁寧な返事をくださった。このお返事を読んで、ひといきに気が楽になり、夫婦ふたりで話し合った後、2日目の夕方には、助産師さんに教えてもらいながら、プラスチックコップで子供にミルクを与えた。(乳房と哺乳瓶では適切な吸い方が異なるため、子供が混乱しないよう、母乳育児が確立していない段階では、コップやスプーンでミルクを与えると良いとされています)
それまでは、ギャン泣きをして、乳房をくわえながらも怒りだして首を振って口を離してしまっていた子供が、お腹が満たされたとたん、すっと静かになり、その後、はじめてよく眠ってくれた。「お腹が空いてたのか、ごめんね……」という罪悪感を感じつつ、私は、これまで学んできた知識の意味を、頭の中で静かに問い直していた。

破水した夜に家の前の木にとまっていたオオコウモリ

 商業主義の粉ミルクが子育てを席巻し、子供から母親の乳房が「奪われた」20世紀はじめから中頃にかけての反省から、完全母乳に強くこだわる医療従事者の方たちがいる。研究活動を通じてそうした方たちの話を聞き、生後3日間は子供は飲まず食わずでも大丈夫! とか、ミルクの補足は良くない! といった価値観を知らずのうちに内面化していたことに気づいた (自分はそういう価値観には染まらずに中立でいると思っていたにもかかわらず!)。しかし、目の前にいる、お乳があまり飲めずに体重が減ってギャン泣きする我が子と、そうした知識は、どうも食い違っているように見えた。久世さんからメールをもらってはじめて、必要に応じてミルクを足しながら母乳育児確立を目指す、という選択肢が頭の中にインストールされた。すこし極端でも声高に「完全母乳!」と叫ばなければ母乳育児のメリットすら伝わらなかったひと昔前とは違い、現代の親たちはしっかり勉強をして、母乳やミルクのことをそれなりに知っていると思う。そうした状況で取るべき戦略はひと昔前とは違うものであり、個々の親子の現状や知識レベルに合わせて、柔軟にサポートを提供していく必要があるのだなと思ったのだった。(もちろん医療の関係者たちもそのことは認識しており、たとえば世界展開する母乳育児支援団体であるラ・レーチェ・リーグは、ひとりひとりに寄り添う支援を目指し、「完全母乳」という言葉も使うことをやめたりもしています)

(つづく)

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3.関連イベントリポート(秋保さやか)
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 2018年11月24日(土)、筑波大学にて、国際開発学会全国大会が開催され、その一環としてラウンドテーブル「フィールドとホームの往還から考える『より良き生』の探求―開発フィールドワーカーのライフイベントに着目して―」を実施した。当日は、研究者と実務家の幅広い世代の方々、40名にご参加いただいた。

 はじめに、本企画の趣旨について簡単に紹介したい。国際開発を対象とした研究・実務において、フィールドワークが取り入れられるようになって久しい状況にある。長期のかかわりを要する方法論であるため、フィールドワーカーは結婚、出産、育児、介護といったライフイベントと折り合いをつけながら、調査研究や仕事を継続する道を探っており、ときに中断するといった決断をしてきた。こうしたフィールドワークとライフイベントについて、人類学や地域研究の領域ではFENICSの椎野若菜さんを中心に活発な議論が行われている。一方、国際開発分野の実務家や研究者は人類学者、地域研究者同様、海外をフィールドにしているにもかかわらず、フィールドワーカーがライフイベントを抱えながら、いかにフィールドワークを行っているかといった点は議論の俎上に上がることはほぼなかった。

 そこで、ライフイベントを抱えながら国際開発の研究・実務の分野で現地社会とかかわりを続けてきたフィールドワーカーの経験を学会員と共有し、国際開発分野におけるフィールドワークとライフイベントの特徴や教育機関、実務機関、学会が果たしうる役割について一緒に考えるためのラウンドテーブルを企画した。

 会の冒頭、筆者からの趣旨説明に続き、開発人類学を専門としインドネシア農村を中心にフィールドワークを行っている日本福祉大学の小國和子さんから、「農村フィールドワーカーの生活設計と開発アクターとしての『よりよい生活』の模索」というタイトルでご報告いただいた。小國さんは、インドネシア農村のスラウェシをはじめとする地域で、フィールドワークを継続されている。ご報告では、出産、子育ての過程で、どのようにフィールドとのかかわりや調査方法を変化させてきたのかという点について、お話いただいた。たとえば、出産直後実務者としてカンボジアで働いていた際には・・・・・・(つづきはWebsiteで

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FENICS協力イベント
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国産バナナ研究会(会場URL訂正)190128のサムネイル(1)「国産バナナの可能性を考える―台湾と⽇本の⽣産者からみた⾷と農―」FENICS協力イベント
2019年1⽉28⽇(⽉) 14:00‐18:00
⼤阪産業⼤学梅⽥サテライトキャンパス
(⼤阪市北区梅⽥1‐1‐3 ⼤阪駅前第3ビル19階)
http://www.umeda‐osu.ne.jp/access.html
※参加予約不要、無料、⽇本語訳あり

 バナナ好きの方、めったにないコアな話がきけます。ぜひお誘いあわせの上おいでください!
王繼維 台湾・台⻘蕉代表 「バナナ王国台湾のバナナの⾷⽂化」 ⾼雄県旗⼭でバナナの⽣産・加⼯・販売 を⾏い、バナナ専⾨店を経営。ロックバ ンド「台⻘蕉樂團」のボーカル・キー ボードでも活動中。 http://youthbanana.blogspot.com/

 東晃 神バナナ株式会社 代表 「九州でのバナナ⽣産の挑戦」 ⿅児島県南九州市において、⽪ごと⾷べ られる有機バナナの⽣産・加⼯・販売を おこなっている。現在、栽培地域を九州 各地に拡⼤中。 http://kamibanana.co.jp/

 佐藤靖明 ⼤阪産業⼤学 「世界におけるバナナの⾷と農」 アフリカ、パプアニューギニア、台湾 などのバナナ栽培⽂化を研究している。 「バナナの⾜」研究会メンバー。 http://kenkyu.osaka‐sandai.ac.jp/Profiles/16/0001531/profile.html

 張瑋琦 台湾・国⽴清華⼤学 「台湾におけるバナナの⼯芸と地域振興 ―先住⺠地域の事例から―」 応⽤⼈類学が専⾨。台湾で少数⺠族の農 業、⾷農教育、地域振興の研究を⾏って いる。2018年より国際⺠族⽣物学会理事。 http://decr.web.nthu.edu.tw/files/15‐19919432,c21‐1.php?Lang=zh‐tw

 ⽯⽥守 稲沢バナナ園 園主 「バナナを通して伝えたい ⾷と農業の可能性」 愛知県稲沢市で有機バナナ園を運営。収 穫体験会や様々なイベントをとおして、 ⼦どもたちの学びを追究している。 http://www.inazawabanana.com/

味の素⾷の⽂化センター研究助成
「国産バナナの⾷⽂化における可能性―「バナナと⽇本⼈」から「⽇本⼈のバナナ」へ」 (代表:佐藤靖明)研究会

(2)「映像のフィールドワーク展 ―20世紀の映像百科事典をひらく」
3月16日(土)~4月7日(日)11:00~19:00 ※月曜休 
生活工房ギャラリー&ワークショップルームAB(三軒茶屋キャロットタワー3・4階)
http://www.setagaya-ldc.net/access/

 1952年、ドイツの国立科学映画研究所で、ある壮大なプロジェクトが始まりました。その名は「エンサイクロペディア・シネマトグラフィカ」(以下、ECフィルム)。世界中の知の記録を集積することを目指した、“映像による百科事典”です。以降40年余りの歳月をかけ、あまたの研究者やカメラマンが世界各地に派遣され、各地に生きる人々の暮らしや儀礼、動植物の生命活動を3000タイトルものフィルムに収めてきました。
本展では、ECフィルムの映像群を「住処」「音楽」「料理」「儀礼」などのキーワードで拾い集め、会場内に投影します。映像のなかの世界を紐解くように探索するだけでなく、来場者の発見が展示に反映されていく参 加型の展覧会です。

[特別協力]公益財団法人下中記念財団
[協力]NPO法人FENICSほか

FENICS正会員の野口靖さんによるECを使った映像インスタレーションが展示されます。(迫力あります!)
シリーズ著者のremo松本さんや増野さんが、各種イベントに登壇します。また詳細をおってお知らせします!お楽しみに!!

(3)東京外国語大学オープンアカデミー 「世界を歩く:フィールドワークへのいざない」
【E1904136】 世界を歩く:フィールドワークへのいざない
https://tufsoa.jp/course/detail/428/
開催日(回数)
2019年04月08日~06月26日 (全10回) 月、水 曜日
開講日:
4月8日(月) 4月15日(月) 4月22日(月) 5月13日(月) 5月20日(月) 5月27日(月)
6月5日(水) 6月12日(水) 6月19日(水) 6月26日(水)
時間 19:15~20:45
会場 東京外国語大学 府中キャンパス
定員 50 名 受講料 10,000 円

FENICSの理事、澤柿 教伸(氷河地質学・自然地理学・第四紀学)、小西公大(社会人類学)、椎野若菜(社会人類学、東アフリカ民族誌)があわせて10回にわたり講座を担当します。高校生、大学生、一般を念頭においています。

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4.会員の活躍(清水貴夫)
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清水貴夫さん(7巻『社会問題と出会う』執筆者)から、自著の紹介とイベントのお知らせです。

(1)『ブルキナファソを喰う アフリカ人類学者の西アフリカ「食」のガイド・ブック』
(叢書・地球のナラティブ(シリーズ・エディター:寺田匡宏))あいり出版、2019年2月、1,800円
本書は、「「食」のガイド・ブック」として、私が、ブルキナファソを中心とする西アフリカでのフィールドワーク中に出合った「食」、「食」を通して見える西アフリカの人びとや生活、そして私が行ってきたフィールドワークについて描いた書籍です。
 はじめてブルキナファソに滞在したころ、私はここの食事が本当に苦手でした。強烈な日差しの下、油と発酵食品の臭いが街中に立ち込める昼時は、特に外に出たくない時間でした。しかし、友人たちやインフォーマントと食卓を囲むに従い、次第に「食」への関心が高まり、いつの間にか、日本にいてもフィールドの食事が恋しく思うほどになりました。フィールドワーカーにとっては当たり前のことですが、「食」は腹を満たすだけでなく、人との間を満たすものでもありました。そのようなわけで、一緒に「食」を囲んだ友人やインフォーマントのほか、滞在の度に訪れる屋台の「母」たちのことも書き込みました。西アフリカのバラエティ豊かな食文化、そして、私のフィールドワークのことも楽しんでいただけると嬉しく思います。

(2)『ブルキナファソを喰う アフリカ人類学者の西アフリカ「食」のガイド・ブック』刊行を記念して、2月16日15:15(15:00開場)よりトーク・イベントを開催します。ゲストに昨年『辺境メシ』を刊行されたノンフィクション作家の高野秀行さんをお迎えします。
定員:60名(申込制)
後援:(特定非営利活動法人)緑のサヘル
参加費:1000円(小学生以下500円)
(当日は著書を特別価格でお譲りいたします)
お申込みは2月10日までに「①氏名、②ディナーの出欠」を明記して、DMかhttp://shimizujbfa.wixsite.com/shimizupage/contactよりお願いします。

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以上です。
今月のメルマガはいかがでしたか。お知らせ、いつでもご連絡ください。発信、掲載いたします。
FENICSと共催・協力イベントをご企画いただける場合、いつでもご連絡ください。

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http://www.fenics.jpn.org/contact/
メルマガ担当 椎野(編集長)・澤柿
FENICSウェブサイト:http://www.fenics.jpn.org/

寄稿者紹介

霊長類学、自然人類学 |

(霊長類学、自然人類学)


文化人類学 at 広島大学 |

文化人類学・民俗学 at 筑波大学 |

筑波大学ダイバーシティ・アクセシビリティ・キャリアセンター