FENICS メルマガ Vol.130 2025/6/25
1.今月のFENICS
6月といえば雨の季節ですが、関西・九州はもう梅雨明けという驚きのニュース。関東もそのような気配です。この夏の日本の状況が、すでに思いやられます。
6月はじめに、筑波大学で開催された日本文化人類学会の研究大会にて、FENICSのブースにお出でいただいたみなさま、まことにありがとうございました。FENICS 100万人のフィールドワーカーシリーズについて、「これ、授業で読みました!」「授業で使っています!」「12巻『女も男もフィールドへ』をバイブルにしています!、など、嬉しいお声もいただきました。
既刊すべてご購入の方もいらっしゃいました。全巻発刊まで、あと3巻!今年はFENICS10周年です、企画をお楽しみに!会員のみなさんとともに、活動、また成果物もつくりあげたいと思っております。
本日29日21時~会員(旧正会員・会員)の方は総会があります。賛助会員の方もオブザーバーとしてご参加ください。直近のお知らせとなりましたが、ご都合よろしければぜひお越しください。
それでは、本号の目次です。
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1 今月のFENICS
2 子連れフィールドワーク④ (松井生子)
3 私のフィールドワーク③ (吉崎亜由美)
4 FENICSからのお知らせ
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2. 子連れフィールドワーク
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子連れフィールドワーク@カンボジア (4)カンボジアの友達
松井生子(文化人類学・東南アジア地域研究/日本女子大学 学術研究員/FENICS会員)
2024年、6年生の私の子どもが調査村で親しくなったのは、ハープという同い年のベトナム人の男の子だった。ハープはいつもはにかんだような笑顔の、優しい子どもである。村のベトナム人の子どもたちは、すぐに人をたたいて喧嘩になることが多かったが、ハープはそのようなことがなかった。

写真1. ハープの家で計算問題を解く
仲良くなるきっかけは、日本から持って来た、今では使わなくなったリカちゃん人形を、近所に住むハープの妹にあげたことだった。もとはといえば、この人形は親戚のお姉さんから私の子どもが譲り受けたもので、めぐりめぐって今回カンボジアの女の子に譲ることになった。そのうち、この女の子の家に出入りするようになり、特に女の子の兄で4人キョウダイの長男のハープと仲良しになった。私たちが現地で暮らしていた家はハープの家の裏手にあり、すぐに遊びに行くことができた。私の子どもにとってはこの、家の近くに友達がいて、いつでも遊びに行ける環境が良かったようだ。ハープの母親は私のフィールドの父の姪にあたり、さらに彼女の姉は私の親友である。村のベトナム人の集住場所では親族・姻族関係によって人々がつながっていることが多く、みんな知り合いなので安心して子どもを遊びに行かせることができた。

写真2. みんなで凧揚げ
言葉もほとんどできないのに、いったいどうやってコミュニケーションを取っているのだろうと不思議に思って見に行くと、スマートフォンで一緒に動画を見て、ゲームをして楽しんでいた。ほかに、ハープがノートに足し算と引き算を書いて差し出すので、互いに計算問題を出し合って解いていたという。コミュニケーションのツールとして計算問題とはよく考えるものだと感心した。そうやっていると、近所に住む同年代の女の子もハープの家に集まってきて、一緒に計算問題をやるようになった。ハープは足し算と引き算しかできなかったが、小学校に通っている女の子は掛け算と割り算ができた。ハープは学校に行ったことがないか、低学年で就学をやめたか、どちらかだろう。小学校以外に、以前はベトナム人女性が自宅で計算とベトナム語の読み書きを教える私塾を開いていて、ベトナム人の子どもたちがたくさん通っていたが、今は教えていないようである。
子どもはそれまで現地の言葉にまるで無関心だったが、友達ができてから、夜に「モッ、ハイ、バー、ボン・・・」とベトナム語の数の数え方を練習していた。一緒に家に住んでいるハンが折った指を1本ずつ立てながら数え方を教えてくれたのだという。子どもも同じようにして日本語の数え方をハープに教え、ハープは「イチ、ニッ、サン、シ」と言うようになったらしい。

写真3. ポーズを取る3人組の向かって左がホープ、中央がハン
村を出る数日前、子どもは17時頃に夕食を食べた後、またハープの家に行くと言って出て行った。風の強い夕方で、後で見に行くと、ハープの家の前の空き地でビニール袋を棒に紐でくくりつけたものを凧のように飛ばし、他の子どもと一緒にキャーキャーと歓声を上げて遊んでいた(子どもは寄稿した体験記に誕生日のこととしてこの日のことを書いていたが、私のフィールドノートによると、実際は誕生日の2日後のことだった)。それを眺めながら、友達ができて村で楽しく過ごせるようになって本当によかったと思った。
村からプノンペンに戻ると、子どもは「遊ぶ人がいない」とぼやき、「長男がイチ、ニッ、サン、シって言ってた」、「次男はネックレスつけてた」とハープたちキョウダイのことを話していた。日本に帰国して母に電話すると、私たちが村を離れた後、子どもたちが何人も「今度いつ来るの」と聞きに来たという。子どもは「次、何おみやげに持って行こうかな」と言っていて、友達に会いにまたカンボジアに行くつもりのようである。
つづく
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3. 私のフィールドワーク
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サウジアラビアへのウムラ(小巡礼) 後半 (3)
吉崎亜由美(人文地理学/桐朋学園教諭/FENICS会員)
吉崎亜由美(人文地理学/桐朋学園教諭/FENICS会員)
12月30日、今日から私たちのウムラは始まります。ハッジ(大巡礼)はヒジュラ歴の巡礼月12月に行いますが、ウムラ(小巡礼・訪問)は1年中いつでも行うことができます。『サヒーフ・アル=ブハーリー1773』によると、「アッラーの使徒ﷺは言いました。ウムラは犯した罪の償いです。そしてハッジ・マブルールの報酬は楽園以外の何物でもありません。」とあります。ウムラを始めるには、まず、巡礼の聖域の入り口であるミーカート(集結地)でイフラーム(禁忌遵守)の状態になります。メディナのミーカートであるドゥールフライファモスクには、身を清めるシャワーや着替えの場所があり、男性は白い布2枚の巡礼衣に着替えることができます。女性は、体や髪を覆うことができる衣装で大丈夫です。ホテルで白い巡礼衣に着替えた夫と息子と一緒に、ドゥールフライファモスクに行き、2ラカートの礼拝をし、ウムラをするという意図を持ちます。それから、タクシーでメディナ駅へ向かいました。メディナ駅は、ヤシの木を模した駅とは思えないスタイリッシュなデザインです。電車の時間まで時間があったので、ハンバーガーを食べました。サウジアラビアでは、すべてがハラールフードなので、何でも食べられて安心です。

写真1: メディナのミーカート、ドゥールフライファモスク

写真2: メディナ駅にあるサウジアラビアのファストフードAl BAIK
駅では時間になると、QRコードをタッチして改札に入ることができます。私たちはエコノミークラスでしたが、ファーストクラスだと駅で軽食を楽しむことができます。電車が来たのでプラットフォームに降りると、電車が日本の新幹線にそっくり。「日本がつくった新幹線なのかな?」と思い調べてみると、高速鉄道で有名なスペインが受注したようです。12:30にメディナを出発し、メッカに向かいました。車窓からは、時々町や村が見える他は、岩石砂漠が続きます。車内は、巡礼衣を身につけた人たちで一杯です。誰かが、「ラッバイカ・ッラーフンマ・ラッバイカ。ラッバイカ・ラー・シャリーカ・ラカ・ラッバイカ。インナ・ル=ハムダ・ワ・ン=ニイマタ・ラカ・ワ・ル=ムルカ。 ラー・シャリーカ・ラカ。」と言うと、周りの人たちも続きます。これは、「アッラーよ、あなたの御許に馳せ参じました。あなたの御許に馳せ参じました。あなたの御許に馳せ参じました。あなたに並ぶものはありません。あなたの御許に馳せ参じました。称賛と恩恵と主権は、並ぶものなきあなたにこそ属します。」(サヒーフ・アル=ブハーリー1549、サヒーフ・ムスリム1184)を意味し、巡礼衣を着てから唱えるタルビーヤ(帰依の言葉)です。

写真3:メディナとメッカを結ぶ高速鉄道の車内

写真4: メディナからジェッダ間の車窓から見える岩石砂漠
つづく
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4. FENICSよりお知らせ
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2025年7月15日、15:30より東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所コモンズ・ラボ(405)にて、同大学学部生からの企画持ち込みにより、FENICSが行なってきたライフイベントとフィールドワーカー/研究者シリーズの一環で、下記のようにサロンを対面で開催します。関心をお持ちの方がいらっしゃいましたら、お声かけください。
FENICS 共催イベント
なぜあのとき『就職』しなかったのか
~進路、研究、キャリア、男女参画の視点から~
家庭と研究キャリアは両立するものなのかな?
大学院に進学するって「どう」なんだなろう?
研究界の男女参画ってどんなふうに進められているんだろう??
東京外国語大学の学部生が、サロンを開きたい!と相談しにやってきました。
彼女たちが話を聞きたいという3人の教員をむかえ、学部のあとの進路を考えた際に生まれた、素朴で根源的な問いに研究者3名がそれぞれの経験で答えつつ、みなで議論します。
~日時・場所~
●2025年7月15日(火) 15:30~17:30
●東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所(AA研)
コモンズ・ラボ (405)
二井彬緒 (東京大学大学院総合文化研究科「人間の安全保障」プログラム教員」)
對馬果莉 (埼玉大学ダイバーシティ推進センター教員)
椎野若菜 (東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所 教員)
参加者:どなたでも。お申込みください。https://forms.gle/CSmL8qkspDN9w5Gv8
参加費:無料
連絡先:fenicsevent@gmail.com
企画発案:東京外国語大学学部3年生
共催:NPO法人 FENICS、 基盤研究(B) 富の体現、再配分政治に対する実践とアセンブリ形成(23K25087)
後援:東京外国語大学グローバル・キャリア・センター
東京外国語大学男女共同参画部会(申請中)
東京外国語大学男女共同参画部会(申請中)
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以上です。お楽しみいただけましたか?
みなさまからの情報、企画、お待ちしています。
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メルマガ担当 椎野(編集長)・澤柿
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