近正美(こん・まさみ/元・高校地理教員・63)

2019年6月9日、小金井の東京学芸大こども未来研究所を会場に、「川」をテーマに、川にまつわるお話を「変人類学研究所」とのコラボで伺うことができました。

報告者は、「水流ランナー」の二神浩晃さん、メコン川、長良川をフィ-ルドにする野中健一さん(立教大学)、コンゴ川をフィールドにする生態人理学研究者の大石高典さん(東京外国語大)、フォトグラファーの藤元敬二さんの4人でした。「川」への関わり方もそれぞれ、そのかかわりを支える内面もそれぞれで、レポート一つひとつが刺激的でした。

二神浩晃さんは、「水流ランナー」を名乗り、「ゼロtoサミット」というプロジェクトを進めています。河口から、その源流となる山の頂をめざして「走る」というプロジェクトです。川のそばを走ることで、川の全体を受け止めるプロジェクトと理解しました。この日は、岩手山を源とする北上川の河口から走ったプロジェクトを映像を使って紹介してくれました。

まず、河口探しの話から始まりました。山頂は分かりやすくても、河口にたどりつくことは、意外と大変ということがあります。実は、海洋と川の境目の定義は難しく、厳密には定められないようです。国土の領域を定める海岸線は、満潮と干潮の平均水面で決めることが法律で定義されていますが、河口の場合には明確なものがありません。二神さんは、河口部で、一番海に伸びた地点からスタートしていました。そこから、自然堤防やそのそばを走り続けて、山頂を目指していました。その途中で目にしたもの、遭遇した人たち、発見した地域の様子や歴史など、流域の様子を知り、考えながら走り続けていきます。

2人目の報告者は、地理学研究者の野中健一(人文地理学)さんでメコン川と長良川にまつわる報告でした。ボクは30年ほど前にベトナムに行ったことがありますが、メコン川の本流には行きませんでした。中国・雲南省を源とするメコン川の流域国は、タイ、ラオス、カンボジア、と下ってベトナムでメコンデルタを形成し、南シナ海に注ぐ東南アジアの大河です。

野中さんは、トンレサップ湖や流域の魚食文化の調査から、流域の人びとの暮らしについて報告してくれました。海魚の魚食文化と、東南アジアの淡水魚食の文化では、漁法や食文化に大きく違いがあることを知ることができました。

大石高典さんは、アフリカのコンゴ川の北西部の支流の人類学調査で雨季と乾季の明瞭な大河川での漁業と魚食文化について研究されています。河川流域では魚食だけでなく、容易に手に入る昆虫食も暮らしに欠かせないものになっていることを報告してくれました。河川流域の豊かな自然は素朴に暮らす人々に豊かな恵みももたらし、人びとの「食」を支えています。コンゴというと「内戦」や「伝染病」などのネガティブなイメージがあるのですが、そこに暮らす人びとの豊かな営みを知ることができました。

4人目の報告者は、フォトグラーファーの藤元敬二さんでした。まず、中国と朝鮮国境の鴨緑口(アムノッカン)の中国側の河原にテントを張って、朝鮮側の人びとの写真を撮影した話から始まりました。知らない世界を覗いてみたいという思いから1年以上、撮影を続けたということです。最後は朝鮮側の国境警備隊に拘束され取り調べを受けるも、解放されたという結末を迎えました。朝鮮側の官吏との交流もあり、最後はほのぼのとした「別れ」になったようです。現在は、江戸川河口の「発展場」(ゲイの交流場)の撮影にチャレンジしていると言います。「川筋」は昔から、世界を分かつ境界でもあり、また、異界とつなぐ場でもありました。江戸、大坂でも花街や遊郭は川沿いにあり、「岡場所」はもちろん中州でした。興味深くリアルな写真は、藤元さんの内面を確認するために撮影されているようにも見えました。

「川」を経糸に、フィールドワークを横糸に編まれた今回のフォーラムは、とても深いものになったように思います。ボクの頭も刺激を受けて、「流域」について改めて考えてみたくなりました。「点と線でなく面で考える」ことを確認しつつ、そこにさらに人びとの暮らしや「時間」というパラメータを織り込むことで、流域のホリスティックな理解ができるように思った次第です。

寄稿者紹介

元高校教員

地理学