FENICS メルマガ Vol.66 2020/1/25
 
1.今月のFENICS
 
 2020年になりました。今年も、なにとぞFENICSをよろしくお願いいたします。昨年も新しい出会いがたくさんありました。出会いから、共感するテーマをもとに共に活動を展開できれば!と心高鳴らせています。FENICSの活動をつうじ、さらにみなさまのネットワークがひろがっていくこともうれしい限りです。  
 9巻『フィールドワーカーの安全対策』を発刊、イベントも盛会でした。つづけて、第4巻『現場で育つ調査力』、第8巻『災難・失敗を越えて』と出版していく予定です。5月、6月には12巻『女も男もフィールドへ』に関連するFENICSサロンも学会ラリー(アフリカ学会→文化人類学会→熱帯生態学会)の計画がたってきています。学会との共催となり、FENICS関係者、有志で続けてきている活動が少しずつ存在感を得てきているか?と思っております。もし、フィールドワーカーとライフイベント、といったテーマで学会等でサロン的な場を開催したい、と構想をもっておられる方がいらしたら、どうぞご連絡ください。共催なり協力なりで開催したいと思います。  
また、FENICS正会員の方からの発案で産休代替教員(非常勤講師等)の採用についてのアンケートも近々とる予定です。ご協力をお願いします。  

 9巻の発刊祝い、新年のプレゼント、ということで古今書院さんから若手の方に9巻を2名にプレゼントします。
amazonに感想を書くことが条件です。残念なことに、受け取ってから音沙汰なしになる方がいます。そうしたことが続くとプレゼントがなくなる可能性がありますので、どうかお守りください。  
 
FENICS会員のみなさま(正会員、著者会員)の特典
定価本体:3400円(税込3740円)のところ、FENICS割引15%で送料無料、3200円にてお求めになれます。ご希望の方は、FENICS会員のログインをしてオーダーフォームでお申込みください。
 
9巻内には掲載できなかった資料が、古今書院のウェブサイトに載っています。ぜひご参考に!!
P41の資料1 「フィールドワークのための安心安全トレーニングブック」(全22ページ)
P42の資料2 「フィールドワークサポートシステム説明書」(全4ページ)
 
それでは本号の目次です。
 
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1 今月のFENICS
2 子連れフィールドワーク3(松本美予)
3 ボクは「車いすフィールドワーカー」③(近正美)
4 FENICSイベント 
5 会員の活躍(青井隼人/吉國元)       
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2.子連れフィールドワーク(連載)
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ちょっと大きい子連れフィールドワーク3(調査村滞在10日間)
 
松本美予(地域研究・日本学術振興会RPD・広島大学)
 
調査する農村は、コロンボから車で7時間ほどの山岳地域にあり、すでにとってあったゲストハウスから調査村までは車で10分ほどで、毎日通いで調査に出かける予定であった。今回、子連れで田舎に調査に行くと聞いて、Sさんの奥さんは同行することを申し出てくれた。食事の管理をしたり、子供がちょっと体調悪い時に一緒に留守番したりする人がいれば仕事もはかどるだろうという計らいである。これは本当に有り難かった。

スパイスたっぷりカレー料理


事実、息子はコロンボ滞在中から食事でつまずいて栄養が偏っていた上、山岳地域への山道でまたしても乗り物酔いを繰り返し、標高が高くて意外にも寒かったという条件が重なり、村について早々に体調を崩してしまった。熱は出なかったが、嘔吐と下痢が数日続いた。もともと細い体がますます痩せ細り、目の下にはクマができた。それに加え、息子は犬が苦手である。そしてゲストハウスにはよく吠える犬がいた。体調が悪い時に、犬に襲われる悪夢にうなされ、「助けて!おがぁぁ!!」と叫びながら夜中にしがみついてきた。心身ともに疲弊し切っていた息子だが、数日間奥さんとともにゲストハウスでゆっくり過ごすうちに回復してきた。ここで役に立ったのが、日本から持ってきたフリーズドライの味噌汁である。息子は「あぁ、おいしい。。」と言いながら、毎食この味噌汁だけを飲んでいた。他にもレトルトのおかゆなども持ってくればよかったとひどく後悔した。それがあれば、もう少し回復も早かったのでは、もしくはあそこまでひどくはならなかったのではないかと思う。   
 
さて、体調が回復してからの息子はちょっと頼もしかった。調査は、各世帯へのインタビューだけが残っていた。私がSさんと共にインタビュー調査をしている間、息子は家の子供となんとかして一緒に遊ぼうと画策していた。コロンボの子供たちと違い、日本人を見るのが初めての子達である。中には、息子を見るだけで泣き出してしまう子もいた。そこで取り出すのが息子の三種の神器、日本から持って行ったデジカメ・キャラメル・サッカーボールである。この中で一番効果があったのは、デジカメだったようだ。相手が男の子でも女の子でも、小さい子でも大きい子でも、とりあえず興味を持ってくれる。サルやウシを撮っては液晶で見せてあげる。時には、彼らも撮ってあげる。一緒に覗き込み、笑い合う。ちょっと打ち解けたら、キャラメルをあげる。うまくいけば、相手が庭の探検に誘ってくれる。もっとうまく行けば、ご自慢の自転車を見せてくれる。という具合に交流を楽しんでいた。そして意外にも、村ではボールがウケなかったようである。日本であれば、サッカーボールを片手に公園に行けば、誰かしら一緒に遊んでくれるものである。しかし滞在した村では、ボールを相手に転がしても、手で拾ってこっちに持ってきてくれるという始末であった。「蹴り返して欲しいんだけど」と息子が思っても、それを伝えるのはハードルが高かったようで、すぐにボールの出番はなくなってしまった。    

デジカメを使って友達作りをする

そして息子はただ楽しんでいたかというと、そうでもなかったらしい。後日、昼食に招かれた家に手土産にアイスクリームを買って行こうという話が出たのだが、息子が「あの家には冷蔵庫がないよ」と教えてくれた。またある時は、夜、私がインタビューの整理をしてると「あそこは胡椒も育ててたよ。きっと現金収入になってるよ」と、私が見落とした点を指摘してくれた。人の家の中や外で、図々しくただ遊んでいるだけかと思っていたが、意外とちゃんと観察していて、私は得した気分になった。仕込んで助手にするか?シンハラ語を習わせようか?とよこしまな考えが浮かぶ。  

しかし、普通であれば、異なる価値観の社会に入ると戸惑ったり驚いたりがあると思うが、息子はあまりに自然で、のびのびとしていた。普段は引っ込み思案の息子が何の躊躇もなく、人の中に入って行った。それは、私が違和感さえ感じるほどであった。その理由を考えたが、日本にいれば「やってはいけないこと」「やらなきゃいけないこと」が小学生には多すぎるので、そういった制約から息子は一時的に解き放たれたのだと思う。  
  
次回のフィールド調査には誰を連れて行こうか。また長男を連れて行き、今度はもう少し役に立つことをさせてみようか。それとも、次男を野に解き放ってみようか。そういうことを考えると、子連れフィールドワークは、案外楽しいものである。(おわり)  
 
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3.ボクは「車いすフィールドワーカー」③
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近正美(地理学・元高校教員)  
 
 昨年(2018年)、古い知り合いの森すぐるくんに誘われて「交通権学会」という学会に参加した。森くんは、千葉大学で法学を学び、フリーの編集者を経て、現在は社会構想研究所代表取締役として活躍している。彼の最初の著書は「まちで障害者に出会ったら」で、彼の弟さんの介護体験や、当時普及し始めたリフトカーやお風呂カーなどのボランティアドライバーとしての経験をまとめたものだった。  
30年前、千葉大学で学生と市民が一緒に勉強し、交流する「アクション九兵衛」という“市民運動”があり、ボクも顔を出していた。その頃からの長い付き合いではあるが、「交通権学会」を知ったのは一昨年(2018年)のことだった。  
「交通権学会」は、交通を権利として研究する、学際的・実践的な学会とHPにある。森くんは障害者差別解消法制定の時に交通権学会役員として、国会で意見陳述している。  
30年ほど前に千葉県の船橋市議が「安歩権」と言い始めて新鮮だった。具体的にはJR西船橋駅への階段が屋根がなく、雨天時に滑りやすく危険だという主張で、「誰でも安全に歩く権利」を「安歩権」といって権利を見える化したことに意味があると考えている。  
車いす利用者としては、段差、階段は乗り越え難いバリアーとして存在する。スロープ、段差解消機、エレベータ、エスカーなどなど、さまざまにバリアを解消する手立てはある。障がいは個別で多様なので、目や耳が不自由な方、長距離が歩けない方、身体の一部が不自由な方…、それぞれに不自由さと何がバリアかは違ってくる。例えば、ボクは左半身不自由で車いす利用なのだが、ホームの点字ブロックはバリアのひとつになる。他の障害へのサポート設備も場合によっては、その設備がバリアになることがある。  
ラーメン店、牛丼屋、立ち食い蕎麦屋の多くは安い物件に店を構えることが多い。古いビルなどは入り口に段差や数段の階段があることが多く、アクセスできないことが多い。条例等で簡易なスロープを義務付けてもらえると助かる。30年ほど前に、行政にエレベータの設置を求めると「1日に何人が利用するのか」と言われたという。エレベータは車いす専用ではなく、あれば高齢者、ベビーカー利用の子連れ、体の弱い方と多くの利用が見込めるという発想がなかった時代だ。それから、障碍者団体がリードし、多くの施設にエレベータができると、バリアフリーというのではなく、ユニバーサルデザインという理解も進んできた。何がバリアになるかは、傷害を持つ個性によって違ってくる。ボクは高校教員だったが、広い学校の広さもバリアの一つで、手動車いすのときには、移動に困難を感じた。また、学校は廊下やトイレが冬寒く、それもバリアの一つだと思った。学校は公共施設では最もバリアフリー対策が遅れている。千葉県立高校で「ハートビル法」の認証を受けている学校はないと思うが、10年以上前、札幌の資生堂小学校に「ハートビル法認定」の看板がかかっていてまぶしかった。教員の働き方だけでなく、日本の学校は教育環境としても劣悪だ。  
 
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4.FENICSイベント
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来年度になりますが、12巻に関するFENICSサロンのラリーが計画されています。コラボをご希望の方は、ぜひご連絡ください。
詳細が決まりましたら、お知らせいたします。
 
日本アフリカ学会第57回学術大会 
日時:2020年5月24日(日)
場所:東京外国語大学
文化人類学会 第54回研究大会
日時:2020年5月31日(日)
場所:早稲田大学戸山キャンパス
熱帯生態学会
日程 6月13日
場所:広島大学
 
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5.会員の活躍
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1)青井隼人さん(琉球語学,音声学)
モバイル・ミュージアム「日本の危機言語・危機方言」
 
日時:2020年1月14日(火)~2020年2月13日(木)10:00–17:00(休場日:土日祝日)
場所:東京外国語大学AA研(アジア・アフリカ言語文化研究所)
 
青井さんより;
「モバイル・ミュージアムは、展示物に付けられた解説をただ読むだけでなく、五感を使って楽しめるのが魅力です。
この機会にぜひ足を運んでいただいて、日本の言語・方言の世界をぜひ体感していただきたいです。
 
1/28(火)の講演会では、日本の危機言語・危機方言やモバイル・ミュージアムの開発についての講演の他に、
国語研スタッフによる解説付き企画展ツアーも予定しています。」
 
2)吉國元さん(画家)
吉國元展「来者たち」のお知らせ
 
展覧会タイトル:『来者たち』
作家:吉國元 (ヨシクニ・モト)
会期:2020年2月2日[日]~5月2日[土]
 
会場:CAFE & GALLERY NANAWATA
〒 350-0056 埼玉県川越市松江町 2-4-4
電話:049-237-7707 FAX:049-237-7708
 
概要:本展ではアフリカのジンバブウェで生まれ、幼少時代をその地で送った吉國元が自身の経験と記憶を基づき、制作した絵画、ドローイングを多数展示いたします。『アフリカ都市経験:1981年植民地期以降のジンバブウェ・ハラレの物語』展(2018)以来、およそ1年半ぶりに開催させて頂く新作を中心とする企画展です。  

また3月1日には世田谷美術館学芸員の塚田美紀氏をお招きし、トークイベント、「なぜアフリカを描き続けるのか」を開催します。

 
作家ステートメントより
「来者」という言葉は、来客、訪ねてくる人、そして後に生まれる人という意味があります。近年では詩人の大江満雄氏がハンセン病者について「癩者は来者である」と書き、未来からやってきた啓示という意味を「癩者/来者」という言葉に込めました。僕は、僕なりにですが、絵を描く事を通じた他者との邂逅、そのような願いを込めて来者という言葉を使用したいと思いました。過去だけではなく未来をも志向する事。来者たちとはこれから新しく出会う人たちの事でもあります。それは僕にとって、ジンバブウェに始まり、そして今も生まれようとしている、ずっと先の未来へと連続する生の顕れなのです。
 
メール:info@nanawata.com ウェブサイト:nanawata.com
開店時間:午前 9 時半̃午後 5 時
木曜定休、土日祝は不定休
2 月 11 日、4 月 19 日は催事開催のため通常営業なし
 
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以上です。お楽しみいただけましたか?
みなさまからの情報もお待ちしています。
 
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メルマガ担当 椎野(編集長)・澤柿
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