FENICS メルマガ Vol.64 2019/11/25
 
1.今月のFENICS
 
いよいよ、今年もあとひとつき、FENICSのイベントも12月7日と、あと二週間を切りました。
12月7日(土)、13:30~武蔵野公会堂に、ぜひともご参集ください!フィールドワークを推進するFENICSとしては、フィールドワーカーシリーズのなかでも命にかかわる巻として緊張して編集しました。たとえ「自分で貯めた資金で行くから」という場合でも自己責任、という時代ではなくなりました。行く側も、行かせる側も、さまざまな覚悟をもって行動をする。そしてフィールドにでなければ得られない経験、データをとってくる。

12月7日のイベントでは、現在のガイドラインについての説明、いまシーズンまっさかりの雪山での雪崩、レバノン、南スーダンでの紛争脱出事例、を直に聞くことができます。
ほかにも著者、フロアを交えて質問、議論をしていきたいと思います。
学生は無料です、ぜひともお誘いあわせのうえいらしてください!会場にて、初の9巻お披露目、お手元にお届けできる予定です!!!!
 
今月から、連載がふたつ始まります。子連れフィールドワーク連載は、子連れで行った松本美予さんと、日本で二人の子どもと待っていたパートナーの英男さんお二人が分担して寄稿いただける予定です。乞うご期待!
それでは本号の目次です。
 
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1 今月のFENICS
2 子連れフィールドワーク(連載初回!)(松本美予)
3 ボクは「車いすフィールドワーカー」①(近正美)
4 FENICSイベント 
5 会員の活躍(小西公大:変人類学研究所・松本篤:AHA)            
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2.子連れフィールドワーク(連載)
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ちょっと大きい子連れフィールドワーク1(出発まで)
 
松本美予(地域研究・日本学術振興会RPD・広島大学)
 
私は山岳地域の農村で、どのような生業変化が起きているのかを研究している。14年前からアフリカのレソトの山村で、そして3年前からはスリランカの山村でも調査を行っている。現在はRPDに採用中であり、この夏実施したスリランカ農村でのフィールドワークでは、村内の土地利用図を作成したり、生業の内容を把握するためのインタビュー調査を行なった。
私には小学4年生、1年生、そして2歳の息子がいる。夏休みに合わせ、スリランカに19日間渡航するにあたり最も悩んだのが、誰を連れて行くかであった。というのも、2年前に渡航した際、三男が授乳中ということもあり夫を含めて男4人を連れて行ったのであるが、想像以上に大変だったのだ。何が大変かというと、家族で移動することで日本での日常をそのままスリランカに持って行ってしまったことである。夫は私の研究活動や家事、子育てなどに関してかなり協力的だと思うが、初めての途上国滞在に、子供に対する注意力が散漫になっていた。価値観の違う世界に驚いたり、身構えたりしているので、はじめはなかなか子供を預けて私一人で調査に出かける気になれなかった。はっきり言って、子供たちが心配だったのである。それでもなんとか目標の調査項目をこなして帰国したが、調査以外の負担や気苦労が大きすぎる渡航であった。渡航前は、夫に3人を預けて私は悠々と調査をし、万が一の時はすぐに目の届くところにいるから大丈夫と楽観的に考えていたのであるが、次回の渡航時は編成を考えなくてはいけないと思ったのである。 

息子の大きなリュックの中には、私の機内持込PCも入っている

今年、次男は学童保育、三男は保育園に所属しているため、夫も仕事の都合が合わせやすいだろうと考え、結局フィールドには長男を連れて行くことにした。夫は、私がフィールドで自由に動けるよう、また、下の子の子守の手伝いをさせるために長男も置いて行くことを提案してくれた。しかし、4年生とは言え、2歳の弟と汽車のおもちゃをガチで取り合う長男である。夫のキャパシティーを考えると、19日間も3人を預けて行くのは気がひけた。また、私自身も、長男を連れてフィールドワークがしたかったのも事実である。子連れだと、現地の人と話しやすいことと、私の調査対象を9歳の日本の男の子が、どのような視点で見るのかに興味があったからである。息子自身は、母親を独占できるからか、海外に行けるからか、私の渡航に同行することを素直に喜んでいた。  
まだまだ甘えたい盛りの次男と三男を長期間置いて行くのは後ろ髪ひかれたが、毎日テレビ電話をするために、1年生でも操作ができるようタブレットを購入したり、実家の両親に何日か泊りがけで来てもらえるよう頼んだりした。留守宅の状況については、後日夫が執筆させていただく予定であるので、ご期待いただきたい。  
息子のために特に用意した荷物は、医師に処方してもらった解熱鎮痛剤などのいざという時の医薬品と、虫刺され対策のグッズくらいで、赤ちゃんを連れて行った2年前に比べて格段に準備が楽であった。しかも自分の手荷物は自分で持ってくれるし、自分も調査をすると言って、お気に入りのメモ帳をリュックに入れたりして、頼もしいとさえ思ってしまった。しかし、乗り物酔いをする息子は辛い思いをしたようである。酔い止め薬は持って行ったのだが、何故か全く効かなかったのだ。  
スリランカの都市コロンボまでは、広島空港から経由地のシンガポール まで約5時間、乗り継ぎ6時間、シンガポール からコロンボまで約4時間のフライトであった。すでに市内から空港へのバスの中で車酔いし、シンガポールに着く頃には唇が乾き、顔が青ざめていた。6時間の乗り継ぎ時間で少し回復したが、飲まず食わずのままなんとかコロンボにたどり着いた。エチケット袋が手放せない旅となり、帰りのフライトが思いやられた。しかし、オムツや授乳、ちょろちょろ走り回ってどこかに勝手に行ってしまう大変さを考えたら、長男には悪いが私にとっては大した問題ではないのであった。(づづく)  
 
写真:子どもの大きなリュックの中には、私の機内持込PCも入っている
 
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3.ボクは「車いすフィールドワーカー」①
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近正美(地理学・元高校教員)
 
昨年、椎野若菜さんに「近さんは『車いすフィールドワーカー』ですね」と言われてから、「車いすフィールドワーカー」を名乗らせていただいている。
 ボクは、駒澤大学の地理学科で、地理を勉強して、千葉県の県立高校教員になり、2016年3月末で、38年間の幸せな教職人生を定年で終えました。勉強が得意でない生徒の多い学校から、進学校の底辺校(5年で2~3人ほど東大に入るような高校)まで、イロイロな生徒と教職を共にしました。素直で純朴な生徒たちに恵まれ、豊かな教職人生を全うすることができました。
 ボクは、2009年12月7日午前10時37分に現代社会の授業の初めで、右脳視床出血で教室で倒れました。その後、左半身不自由で車いす生活となりましたが、元気でアチコチ出歩いています。
 車いす利用者となって、最初は戸惑いもありましたが、積極的に街に出ることは、動物園の行動展示と同じように、車いす利用者の存在をデモンストレーションすることになり、また、自分にとっては、この社会のハードとソフトのユニバーサルデザインの現状を知る“フィールドワーク”にもなっています。一人で外出して困ることがほとんどないのは、事前のシミュレーションを怠らないことと、常にプランBを用意しておき、バリアを無理に乗り越えることはしない諦めも必要だと考えているからです。
 
 さて、ボクにとって「フィールドワーク」というとき、それは「地理学」でのフィールドワークを指していました。FENICSのイベントで椎野さんやほかの人類学研究者のお話を聞いて、人類学のフィールドワークと地理学のそれは、質的に違うことを感じました。ボクの最初のフィ-ルドワーク体験は、1974年に大学に入って参加加した、自主ゼミ(サークル的な研究会)「集落地理学研究会」での「巡検」で埼玉県三芳町の三富新田を丸一日、足にマメをつくりながら30㌔ほど歩き回ったのが最初でした。地理学では、「フィールドワーク」といわずに、「巡検」と50年前には言っていました。20人ほどのゼミメンバーで、当時は、どの教科書にも載っていた三富新田の土地利用や区割りの様子などを、先輩に質問されたり、解説してもらいながら夕方まで歩いたことをよく覚えています。  
 実際は、あまり学問の臭いは感じないものでしたが、学部の2年になると恩師となる農山村地理学の大先生だった上野福男先生に講義後に「きみ、『近』ていうのは変わった苗字だね。今度家に遊びに来なさい」と声を掛けられ、その週の日曜日には八王子の上野先生のご自宅を訪れました。どうして僕に声を掛けたのかは不明ですが、その後は研究室の資料などの片づけや、当時の『大』先生へのお使いなど、今の大学教員の文化とは違う仕込まれ方をしました。
その年の夏休み(7月下旬)には、「東京都水源林の調査についてこい」と言われて、多摩川最上流の小菅村の東京都水源林管理事務所のベテラン職員だった依田さんのご自宅に10日ほど泊めていただき、「信玄」の隠し金山と呼ばれた、黒川金山跡や小菅村最奥の髙橋集落などの「聞き取り」に付き合い、当時最新の高級カメラだったコンタックスを渡されて写真を撮らされました。今思えば贅沢な仕込まれ方を経験できたと思っています。  
 改めて、地理学のフィールドワークと人類学のフィールドワークを比べると、人類学の「参与観察」という研究地域への、感情も含めた深いかかわりと比べて、地理学の「フィールドワーク」は「巡検」と呼ぶことに象徴されているように表面的で感情の移入が少ないように思います。自分が感情的に踏み込まないのですから、研究地域の人たちとの感情的交流や軋轢もほとんどありません。  
 あるとき、「フィールドを持って初めて一人前」と言われたことがあります。今でも「フィールドを持てたら幸せだ」と思います。ちなみに、恩師の上野先生は、岐阜県の山村地域出身で、母親が苦労する様子を見て「山村地域の暮らしを豊かにしたい」と地理学科に進んだと言っていました。
 
 「巡検」というのは、英語では“Excursion”(遠足)と言います、ボクの本籍地の「地理教育研究会」では、敗戦前からの「巡検」を使わず、「現地見学」を使っています。「フィールドワーク」の作風は学会などによっても違いがあり、少しづつニュアンスが違うようです。さらに、人類学や地理学だけでなく、社会学、生物学、歴史学などでも「フィールドワーク」が行われますが、その色合いはさまざまだと思います。さらに研究者からアマチュア、アマチュアのなかにもプロフェッショナルなフィールドワーカー、フィールドワークそのものを目的とするフィールドワーカーと多様なフィールドワーカーが存在しています。
歴史の「歴史散歩」や、最近流行りの「街歩き」など親しみやすいものから、人生をかけたフィールドワークまで、フィールドワークは多様です。
 
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4.FENICSイベント
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12月7日(土)に吉祥寺・武蔵野公会堂にて、
FENICSイベント:フィールドワークのための経験からまなぶ安全対策
を開催します!!!
 
FENICS100万人のフィールドワーカーシリーズ
9巻『フィールドワーカーの安全対策』(澤柿・野中・椎野編)発刊を記念!
 
フィールドワークに際しての「安心・安全」、教育の現場での取り組みを、実際に危険に遭遇した具体的体験談から参加者をまじえて考えます。何かあったときの責任問題やリスク管理を恐れ忌避するのではなく、人間の五感を用いフィールドでしか得られない知見を獲得する「フィールドワーク」をひろく実施していくため、専門や組織等を超えて情報共有をおこないます。そのためのキックオフイベントです。
 
各界のフィールドワーカーによる写真展も同時開催!
 
日時 2019年12月7日(土) 13:30~16:30
場所 武蔵野公会堂 第一・第二会議室 (JR吉祥寺駅南口、井の頭公園にいく途中)
 
講演:
茅根 創(地球システム学・東京大学)「大学におけるフィールドワークの安全管理」
榊原健一(音声科学・北海道医療大学)「雪崩と日常のリスクマネジメント」
池田昭光(人類学・東京外国語大学)「紛争と日常:レバノンの人類学調査から」
松波康男(社会人類学・東京外国語大学)「政変とフィールドワーク:大使館員として・フィールドワーカーとして」
 
質疑応答
 
入場料 500円 学生無料(学生証提示)
お子様連れも歓迎します。専用の部屋があります。
 
主催:NPO法人FENICS
申込・問合せ:https://fenics.jpn.org/contact/
 
 
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5.会員の活躍
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1)FENICSと協力関係にある、小西公大さん(FENICS理事)が所長をつとめる変人類研究所が、アンケートを実施しています。
「変であること」や「変人であること」が人々にどのように受け取られているのかを調査することを目的として行われるもの。
どうぞご協力ください!
 
2)松本篤さん
戦時中の子どもたちが書いた”平和への願い”を再びなぞる。
『慰問文集』再々発行プロジェクト。
80年前、戦地の兵士を励ますために書かれた「慰問文」。子どもたちは、戦場の父や兄にどんな言葉を送ったのか? 手づくりのメディアづくりを、岐阜の小さな村から始める、クラウドファンディング、あと4日です!
ご協力いただければ幸いです。
 
 
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お問い合わせ・ご感想などはこちらよりお寄せ下さい。
メルマガ担当 椎野(編集長)・澤柿
FENICSウェブサイト:http://www.fenics.jpn.org/

寄稿者紹介

特別研究員(RPD) at 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科


南部アフリカ / 地域生態論 / 土地利用 / 南アフリカ共和国 / 山岳地 / 出稼ぎ労働 / レソト王国


元高校教員

地理学