はじめに
岩佐光広(高知大学)
2021年12月3日(金)、日本文化人類学会主催/FENICS共催のトークサロン「ジェンダー、ライフ、ワークを語り合うパラレルサロン」がオンラインで開催されました。このイベントは、日本文化人類学会に2020年度から新設された「男女共同参画・ダイバーシティ推進委員会*」(以下、推進委員会と省略)が企画したものです。イベント内容の報告に先立って、このイベントが企画された経緯などについて簡単に説明したいと思います。
このトークサロンの企画がもちあがったきっかけのひとつは、2021年の5月末に開催された日本文化人類学会第55回研究大会において、推進委員会がシンポジウム「人類学者の心地よいライフ・ワーク・バランスを考える:日本文化人類学会の現状を知ることから」(2021年5月29日、オンライン)を主催したことでした(詳細はこちら)。このシンポジウムは、新設された推進委員会のキックオフイベントという位置づけのもので、推進委員会の立ち上げの経緯、日本文化人類学会における男女共同参画などをめぐる現状、他学会における取り組みの紹介などの報告が行われました。学会の委員会が主催するという少々特殊な位置づけのシンポジウムでしたが、多くの方が関心をもち参加してくれました。また、シンポジウムに関するアンケートについても、参加者のみなさんが積極的に協力してくれました。
推進委員会としては、今回のシンポジウムは、参加者も多く、推進委員会の存在の周知や男女共同参画などに関連する学会の現状を共有するといった当初の目的を果たすことができたと考えています。しかし同時に、いくつかの課題も見えてきました。そのひとつが、参加者個々人が置かれている多様な状況がアンケートから見えてきたのですが、それらをいかにすくい上げていくのかということです。そのためには、シンポジウムのような形式ではなく、参加者たちがもっと気軽にジェンダーやライフ、ワークなどについて語り合うことができるような場をつくることが必要なのではないか。できれば、子育てなどの関係で学会に来にくいような方も参加できるような機会を作ることが大切になるのではないか。シンポジウム後の議論を通じて、そうした意識を委員のあいだで共有していきました。
そうした思いを具体化する最初の試みとして企画されたのが、このパラレルサロンです(概要はこちら)。このサロンは、参加者がジェンダーやライフ、ワークなどについて気軽に語り合うことができるように、いくつかの工夫をしています。たとえば、幼い子どもの子育て中の方でも比較的参加しやすい「金曜日の夜」に開催時間を設定してみました。また、推進委員がそれぞれ「店主」としてテーマごとのサロンを開き、かつ出入りも自由にして、いろいろなところに顔を出したり、ひとつのところにじっくりと参加したり、時間の都合のつくところだけ参加したりと、参加者が柔軟に参加できる形式にもしてみました。
結果として、各部屋に平均して15人ほどの方が参加してくれました。参加者のみなさんの背景も、子育てまっさい中の方から子育てが一段落ついた方、出産をひかえている方、親の介護をしている方、大学で常勤の職についている方から、非常勤やポスドク、大学生や大学院生までさまざまでした。それゆえ、それぞれがそれぞれの置かれた状況で直面している問題や悩み、それらに対する対処法、あるいはシンプルな愚痴やボヤキまで、いろいろなことが話題にのぼりました。参加いただいたみなさんが、それぞれの参加の仕方で、楽しんでくれていた(ときにしんみりしたり憤ったりもしていた)ように感じられました。
以下では、それぞれのサロンでどんなことが語り合われたのかについて報告してきますが、ここにもう一つの工夫があります。今回のパラレルサロンでは、サロンごとに一名の学部生・大学院生に参加してもらい、語り合いにくわわりながらもその内容を記録してもらう「参与観察」をしてもらい、それをもとに報告をまとめてもらいました。「議事録」のようなかたちでまとめるよりも、語り合いに参加した当事者として感じ考えたことも含めて報告をしてもらうほうが、今回の企画の趣旨に合うと考えたからです。それぞれのサロンの語り合いの内容とともに、そこに参加した彼女たちがなにを感じ考えたのかも、合わせて読んでいただければと思います。
*日本文化人類学会 男女共同参画・ダイバーシティ推進委員会(2020~2021年度)
椎野若菜(委員長)、岩佐光広、中谷文美、真島一郎、嶺崎寛子
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