FENICS メルマガ Vol.92 2022/3/25 
 
 
1.今月のFENICS
 
 春になったと思いきや雪、と寒暖のはげしい日々、いかがお過ごしでしょうか。
また東北地方にお住まいの方々、地震の被害を受けられた方、お見舞い申し上げます。
東京も停電となり、電気に頼った都市の生活の弱さを改めて痛感します。
同時に、インフラを断たれ、気温マイナスにもなるウクライナの人々のことを思わずにはいられません。
幼児とともに避難した人が15日間、地下で過ごしていたと言っていましたが、実際に子どもたちをどうしていたのか。
 
本号は、ロシア地域で調査していた福井さんの乗り物シリーズもあります。不定期な連載ですが、前回に掲載したときから時勢が変わりました。極地研究者はしばしば民間輸送機などがいかない場所での調査もあり、軍用機の世話になることもあるようですが、今後どのようにフィールドワークに影響するか・・・

また、昨年12月に日本文化人類学会の男女共同参画・ダイバーシティ推進委員会とFENICSが共催で開いた人類学者とライフイベントに関するサロンの報告を、学生さんに書いていただきました。FENICSをつうじ、さまざまな分野の若い世代へもシェアしていただければ嬉しいです。またこのメルマガを購読している皆さんが、同じ思いで企画、開催されたものをここでシェアしていただければと思います。
 
 それでは本号の目次です。
 
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1 今月のFENICS
2 フィールドの乗り物シリーズ:(第4回) 福井幸太郎
3 フィールドワーカーのおすすめ(本):新ケ江章友
4 FENCS共催イベント報告:岩佐光広、出口杏奈、村上萌子、荻野なつれ、下山花
5 FENICSからのお知らせ
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2. フィールドの乗り物シリーズ 第4回
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フィールドで頼りになるロシア車UAZ-2206
 
福井幸太郎(自然地理学/立山カルデラ砂防博物館/6巻『マスメディアとフィールドワーク』編者)
 
2003~2008年にかけて、毎年夏になると一ヶ月ほどロシア・アルタイ山脈へカウンターパートのアルタイ州立大学(大学はシベリアのど真ん中の都市、バルナウル市にある)の地理学者とともに氷河や永久凍土の調査に出かけていた。そのとき、必ずお世話になったのが今回取り上げるロシア製のワンボックス4WDのUAZ-452である。

UAZ-2206 ぬかるみでスタックしたがこの後なんとか脱出

2003年ごろのバルナウルの町中では日本の中古車がもっとも目についた。町の郊外の空き地には大量の日本の中古車が並んでいて展示即売しているようであった。カウンターパートの教授もスバルフォレスターに乗っていて「スバル最高,日本に行ったらスバルの工場を見てみたいよ。ロシアの乗用車なんか大柄なだけの見かけ倒しでのってられない」といっていた。しかし、実際にフィールドに行くとなると話は別で、基本的にフィールドワークに使う車はUAZ-2206なのであった。
  
UAZ-2206はローマ字読みだと「ワズ」であるが、カウンターパートは「ヴァジーク」とよんでいた。この車は1961年からマイナーチェンジを繰り繰り返しながらほぼ当時の姿のまま2022年現在でも販売されている。全長4363×全幅1940×全高2064mm、重量は約1.85トンである。2700ccの直列4気筒のガソリンエンジンを搭載している。ミッションは5速MTである。中のシートは様々なアレンジが可能で、荷物満載で10名くらいは余裕で乗ることができる。見かけはワーゲンバスのようで愛嬌がある。

カウンターパートのアルタイ州立大学の研究者.UAZからゴムボートを出して氷河へ出発.

舗装路では正直、振動が激しく、エンジン音も豪快に車内に入ってきて、乗り心地はヒドいものである。しかし、ひとたび道を外れると本領を発揮する。4WDに切り替えれば酷いダートや道がない草原でも走破でき、水深30cm程度の川なら床下のコックを閉じれば渡ることができる。ロシアでのフィールドワークでは、まずこのUAZで草原のできるだけ奥地まで進みし、そこから徒歩に切り替えるというパターンが多かった。
 
UAZにはさらに利点がある。2003年当時、ロシアでは日本で販売されていないオクタン価80の低価格ガソリンが普通に出回っていた。ロシアは原油生産量世界3位の産油国であるがガソリン価格は日本の価格の半額ほどで、しかしロシアの物価で見るととても高価であるといえた。UAZはオクタン価80のガソリンに対応しており、とにかく移動距離が長いロシアでのフィールドワークでは燃料代が安くすんで助かった。日本車の中古車大国のロシアであるが、フィールドワーク用の車ではUAZが最強かもしれない。
 
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3.フィールドワーカーのおすすめ(本)
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『クィア・アクティビズム―はじめて学ぶ<クィア・スタディーズ>のために―』新ヶ江章友著、花伝社、2022年。
新ヶ江章友(大阪市立大学・文化人類学、12巻『女も男もフィールドへ』執筆者)
 
クィア・スタディーズは、1990年代にアメリカ合衆国で誕生した新しい学問です。この学問は、社会運動からの影響を強く受けていました。1960年代は公民権運動や性解放運動とともに女性解放運動やゲイ解放運動も活発化しましたが、これらの運動は様々な性的マイノリティの生のあり方を問い直すきっかけとなります。特に、1980年代に流行したエイズは、性的マイノリティによる生死をかけた運動(エイズ・アクティビズム)の引き金となりました。
   
『クィア・アクティビズム―はじめて学ぶ<クィア・スタディーズ>のために―』(花伝社)は、アメリカ合衆国の建国から現代に至るまでの性的マイノリティによる社会運動と思想の関係を、初学者に向けて書かれた入門書です。アメリカ独立宣言の中で女性はどのように位置付けられていたのか、男女平等を謳うリベラル・フェミニズムと女性の抑圧の根源を強制的異性愛に求めたレズビアン・フェミニズムの違いは何か、1870年代以降同性愛がどのように病理化されたか、第二次世界大戦後の「赤狩り」の時代にゲイやレズビアンがどのような運動を展開し、それらの運動が1960年代の性革命を経てどのように変容したのか、そしてエイズが性的マイノリティの生き方をどのように変えていったのか。これらの運動が時代とともにどのように展開し、それがクィア・スタディーズという学問をどのように生み出したのかを、初学者にも分かるように説明しています。
  
そもそもクィアとは何かが分からない人でも、この入門書を読むとその運動と思想がなぜ、いつ、どのようにアメリカ合衆国で誕生したのかが分かるでしょう。ジェンダーやセクシュアリティ関連の授業でも教科書や参考書として利用できると思いますので、ぜひ一度手に取ってみてください。
 
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4.FENCS共催イベント報告
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★イベントリポート JASCA主催/FENICS共催「ジェンダー、ライフ、ワークを語り合うパラレルサロン」(2021/12/03開催)
  
「はじめに」
岩佐光広(高知大学)
 
 2021年12月3日(金)、日本文化人類学会主催/FENICS共催のトークサロン「ジェンダー、ライフ、ワークを語り合うパラレルサロン」がオンラインで開催されました。このイベントは、日本文化人類学会に2020年度から新設された「男女共同参画・ダイバーシティ推進委員会」(以下、推進委員会と省略)が企画したものです。イベント内容の報告に先立って、このイベントが企画された経緯などについて簡単に説明したいと思います。
  
 このトークサロンの企画がもちあがったきっかけのひとつは、2021年の5月末に開催された日本文化人類学会第55回研究大会において、推進委員会がシンポジウム「人類学者の心地よいライフ・ワーク・バランスを考える:日本文化人類学会の現状を知ることから」(2021年5月29日、オンライン)を主催したことでした(詳細はこちら)。このシンポジウムは、新設された推進委員会のキックオフイベントという位置づけのもので、推進委員会の立ち上げの経緯、日本文化人類学会における男女共同参画などをめぐる現状、他学会における取り組みの紹介などの報告が行われました。学会の委員会が主催するという少々特殊な位置づけのシンポジウムでしたが、多くの方が関心をもち参加してくれました。また、シンポジウムに関するアンケートについても、参加者のみなさんが積極的に協力してくれました。  

 推進委員会としては、今回のシンポジウムは、参加者も多く、推進委員会の存在の周知や男女共同参画などに関連する学会の現状を共有するといった当初の目的を果たすことができたと考えています。しかし同時に、いくつかの課題も見えてきました。そのひとつが、参加者個々人が置かれている多様な状況がアンケートから見えてきたのですが、それらをいかにすくい上げていくのかということです。そのためには、シンポジウムのような形式ではなく、参加者たちがもっと気軽にジェンダーやライフ、ワークなどについて語り合うことができるような場をつくることが必要なのではないか。できれば、子育てなどの関係で学会に来にくいような方も参加できるような機会を作ることが大切になるのではないか。シンポジウム後の議論を通じて、そうした意識を委員のあいだで共有していきました。  

 そうした思いを具体化する最初の試みとして企画されたのが、このパラレルサロンです(概要はこちら)。このサロンは、参加者がジェンダーやライフ、ワークなどについて気軽に語り合うことができるように、いくつかの工夫をしています。たとえば、幼い子どもの子育て中の方でも比較的参加しやすい「金曜日の夜」に開催時間を設定してみました。また、推進委員がそれぞれ「店主」としてテーマごとのサロンを開き、かつ出入りも自由にして、いろいろなところに顔を出したり、ひとつのところにじっくりと参加したり、時間の都合のつくところだけ参加したりと、参加者が柔軟に参加でき
る形式にもしてみました。  

 結果として、各部屋に平均して15人ほどの方が参加してくれました。参加者のみなさんの背景も、子育てまっさい中の方から子育てが一段落ついた方、出産をひかえている方、親の介護をしている方、大学で常勤の職についている方から、非常勤やポスドク、大学生や大学院生までさまざまでした。それゆえ、それぞれがそれぞれの置かれた状況で直面している問題や悩み、それらに対する対処法、あるいはシンプルな愚痴やボヤキまで、いろいろなことが話題にのぼりました。参加いただいたみなさんが、それぞれの参加の仕方で、楽しんでくれていた(ときにしんみりしたり憤ったりもしていた)ように感じられました。  

 以下では、それぞれのサロンでどんなことが語り合われたのかについて報告してきますが、ここにもう一つの工夫があります。今回のパラレルサロンでは、サロンごとに一名の学部生・大学院生に参加してもらい、語り合いにくわわりながらもその内容を記録してもらう「参与観察」をしてもらい、それをもとに報告をまとめてもらいました。「議事録」のようなかたちでまとめるよりも、語り合いに参加した当事者として感じ考えたことも含めて報告をしてもらうほうが、今回の企画の趣旨に合うと考えたからです。それぞれのサロンの語り合いの内容とともに、そこに参加した彼女たちがなにを感じ考えたのかも、合わせて読んでいただければと思います。
★イベントリポート「ジェンダーと文化人類学」サロン 店主:中谷文美(岡山大学)
出口杏奈(岡山大学・学部生)
  
12月3日(金)夜、「ジェンダー、ライフ、ワークを語り合うパラレルサロン」がオンラインにて行われました。金曜の夜、19時から23時まで、テーマが異なる4つのサロン(トークルーム)が2時間ごとに2店ずつ店開き。参加者は自由にお店を行き来することができ、それぞれのサロンで店主とお客さんがまったり語り合いました。ここでは、19時からの第1部に開かれた中谷文美先生のサロン「ジェンダーと文化人類学」の様子をリポートします・・・続きはこちらから:https://fenics.jpn.org/event_repo/deguchi-2021-12-3
 
★イベントリポート「フィールドに行くのは夢のまた夢?」サロン 店主:嶺崎寛子(成蹊大学)
村上萌子(成蹊大学・学部生)
 
 2021年12月3日、FENICS共催/JASCA主催「ジェンダー、ライフ、ワークを語り合うパラレルサロン」がオンラインにて開催された。19時からの第1部に開かれた嶺崎寛子さん(成蹊大学)のサロン店では、「フィールドに行くのは夢のまた夢?」をテーマに、結婚・妊娠・出産と研究の両立について、参加者のみなさんが経験談を話したりノウハウを共有したりした。のべ15名ほどの方が参加し、終始なごやかな雰囲気でのサロンとなった・・・続きは、こちらから: https://fenics.jpn.org/event_repo/murakami-2021-12-3/
 
★イベントリポート「同業者がパートナーってどんな感じ?」サロン 店主:岩佐光広(高知大学)
荻野なつれ(高知大学・学部生)
 
 私が参加したのは、高知大学の岩佐光広先生が店主を務めるサロン「同業者がパートナーってどんな感じ?」である。このサロンでは、ゲストに門田岳久先生(立教大学)を迎え、参加者のワークライフバランスや、これまで取り上げられることが少なかった「パートナーの存在」という視点からトークがひろげられた。参加者は12人。同業者同士のパートナー関係、夫が研究職で妻が一般企業勤め、逆に夫が一般企業勤めで妻が研究職という関係から、未婚の研究員、院生、学部生が集った。過半数が既婚者であったことが、様々なパートナー関係の事例を知ることができる場を作り、よりサロンを盛り上げたように感じる・・・・・続きは、こちらから:https://fenics.jpn.org/event_repo/ogino-2021-12-3/
 
★イベントリポート「子連れフィールドワークしてみる?」サロン 店主:椎野若菜(東京外国語大学)
下山花(京都大学・大学院生)
 
サロンの第2部で開催された椎野若菜さん率いる「子連れフィールドワークしてみる?」には、終始10名から最大14名が参加した。椎野さんが司会をつとめ、まずは参加者の自己紹介、子連れフィールドワークを経験してきた椎野さんご自身の経験の共有がおこなわれたのち、参加者からの質問とそれに対する体験が共有された。
当サロンには、子ども持ちの人が多く参加した。1歳未満の乳児をもち、フィールドワークに行くことを考えている方や、既に子連れでフィールドワークの経験をしたことのある方がいた。会の後半におこなわれた座談会では、子どもと一緒に行ったフィールドワークの苦労話や、行くまでの準備、フィールドでの出来事、2人目をもつタイミングに参加者の関心が集まっていた・・・・続きは、こちらから: https://fenics.jpn.org/event_repo/shimoyama-2021-12-3/
 
 
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5.FENICSからのお知らせ
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アフリカ学会(第59回学術大会:2022年5月21日・22日)にあわせて、FENICSサロン「大学院生でママ・パパになれる?:研究室仲間と歩んだ子育て院生生活」
が開催されます。
詳細は、来月にお知らせします。お楽しみに!
 
来年度の企画を募集中です。発表の場、トークイベント等ご希望の方、「こんな話が聞きたい」、お気軽にご相談ください。
fenicsevent[at]gmail.com
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以上です。お楽しみいただけましたか?
みなさまからの情報、企画、お待ちしています。
 
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