BR:「子連れフィールドワークをしたい」
  
報告者:高橋佳子(長崎大学大学院熱帯医学・グローバルヘルス研究科)
  
FENICS/アフリカ学会九州支部共催「大学院生でママ・パパになれる?」のブレイクアウトルーム「子連れフィールドワークをしたいという」というテーマでは、子連れフィールドワークを行う意義や、子育てや介護中のフィールドワークの経験などについて5名の参加者で議論しました。
  
まず、椎野さんからの問題提起として、一般の人にとっては、「なぜ子どもをフィールドにつれていくのか?」と思っているとのお話がありました。子どもをフィールドにつれていく理由は様々ですが、フィールドが好きだから子どもにも参加させたいという思いや、周囲にお願いできる人がいないなど様々な理由で子どもをフィールドへ連れていくとのことでした。しかし、子どもの心の問題もあるため、子どもの「個」を尊重しながらフィールドワークを行う必要があるとお話されました。また、フィールドワークは、一旦やめると、開始するのが大変なので、違う形でも続けていく方法を探したり、子どもを安全につれていけるようなフィールドを選んだり、テーマを変えるなどの工夫が必要であるとお話されました。子どもをフィールドに連れていくには、自身の研究と子どもの安全や成長発達への配慮のバランスを検討する必要性を感じました。
  
海外で専門家としてご活躍されていた國枝さんからは、海外赴任時の工夫についてお話がありました。ご夫婦共に海外に居住して仕事をしていたため、子どもたちを一緒に連れて行ったり、祖父母に預けたりして対応していたそうです。フィールドでの工夫としては、必要な眼科と皮膚科の薬は常に冷蔵庫にストックしたり、子どもたちのアイデンティティーのために日本食を持って行ったりしたそうです。また、子どもの成長とともに自我もでてくるので、それに合わせたフィールドを選択して、「中道」をさぐりながらすすめることが重要であると話されました。特に、親の都合で海外にいく子どもたちは、親の事情で日本と海外を行き来するため、教育の問題や、アイデンティティー形成の問題に直面します。國枝さんのお子さんは現在大学生ですが、アフリカを行き来した幼少期の記憶は今でもあるようです。幼少期にアフリカに何度かつれていき、一緒に過ごし、一緒に経験することで、大きくなったらいつか行きたいという時がくるかもしれないので、幼少期に行く習慣をつけておくことが大切であると話されました。子どものアイデンティティーや教育を考慮して、フィールドワークを計画することが大切であることが分かりました。
  
また、椎野さんは、家族の視点について触れ、アフリカ人の夫は、幼少期にとても苦労しているため、「日本の子どもはすべて持っている」というように感じ、子どもを海外につれていくことを不思議に思っていると話されました。子どもを海外に連れて行くと、多額のお金がかかりますが、長期で滞在することでその元は取れることもあります。ただし、日本の学校の時期に合わせるために、子どもたちだけで早めに帰国したり、夫に先に帰ってもらったりすることもあります。国枝さんによると、子ども自身のアイデンティティに関わることだと、渡航費への投資も致し方がない、と話しておられました。海外での生活が長かった国枝さんは、夏休みに有料の航空会社のサービスを利用して、子どもだけで渡航をさせたこともあるが、海外のサービスは日本ほど親切ではないため、子どもとの空港での待ち合わせでトラブルになったこともあるそうです。  
 子どもをフィールドにつれていくには、家族の協力を得たり、サービスをうまく活用したりすることで、子どもの教育とのバランスをとりながら実現することが可能であることが分かりました。
  
村田さんによると、現状として、日本の介護保険はサービスが不足しています。例えば、1人暮らしをしている認知症の方をずっと誰かに見守ってもらえるサービスはなく、両親が二人で同居していると、同居者としてみなされるため、使用できる介護サービスが限られることもあるといいます。
 
また椎野さんは母の入院中に日本学術振興会の二国間交流事業という先方との関係性上、どうしてもフィールドワークに行かないといけない状況になり、母には自分のスマートフォンを預けて、ネット通話でナイロビから連絡をしていたそうです。子育ては大変でも楽しみがあり、子どもすぐに育っていくが、介護は、出来ていたことがだんだん出来なくなる、というような虚しい状況に陥るため、介護者もどのように精神状態を保っていくのかが大切と担当医からお話があったそうです。
フィールドワーカーとしては、どういうふうにしたら、1人にならず、フィールドワークを続けていけるのか?ということが課題となります。子育て、介護ともに1人で孤立せず、周囲の人の助けを得ながらすすめていくことが重要であることがわかりました。
  
結論として、子どもや親、パートナーなどとの関係、周囲の関係などにより状況が異なるため、「いま」は何に対して重きを置くのか、その都度考えていくことが重要であると椎野さんはグループワークを締めくくりました。日達さんの事例は、日達さん独特のコミュニケーションや、人間関係の中でうまくいった事例であると考えられます。家族状況にもよりますが、家族の中だけで抱えず、周囲の人に、やってみたことなどを話したりしていくことで解決の方法が見つかることがあるので、1人で抱え込まないことが大切とお話されました。
  
まとめとして、「子連れフィールドワーク」を行うということは、子どものアイデンティティー獲得などの面において、お金には代えられない価値があります。しかし、周囲の協力が不可欠であるとともに、随伴する家族や子どもの状況を考慮して工夫する必要があることがわかりました。また、介護中のフィールドワークについても、1人で悩まず、様々なサポートやツールを利用することで、実現可能であることもわかりました。本ワークショップは、今後、子育てや介護などのライフステージにおいても、フィールドワークを続けることのできる方法を模索するよい機会となりました。今後より多くの研究者や実務者が、ライフワークバランスを保ちながらフィールド活躍できる社会の実現を心から願っています。