FENICS メルマガ Vol.95 2022/6/25 
 
 
1.今月のFENICS
 
 6月に、猛暑がやってきました。子どもたちが、外で遊べない、猛暑の日本の夏。季節にともない出来事を記憶するありかたが、変わろうとしていると実感します。  
来月はいよいよ参議院選挙。選挙キャンペーンが始まる直前、近い距離で議員と話をしたい、と人類学者有志で社民党の福島みずほさんを囲んで語る会を開催しました。国会に議席を有する政党の党首としては、ただ一人の女性である福島さん。「国会にいると戦争に向かっている、戦争ができる国にしようとしている、戦争ができるにっぽん丸に舵を切ってしまった、と感じる・・・戦争をさせない、とは憲法を変えないこと。憲法とは・・権力者をしばること。攻められないように、政治を変えていく。」という言葉が印象的でした。参加者からは、私たちの日常と政治の現場の断絶、かみ合わないやりとりを報じる国会討論は「コミュニケーションの失敗例」を見せている、それによって政治離れをしてしまう・・など言いたいこともいい、福島さんからは、入管問題、緊急避妊薬の問題など、若者が動きだすことで、これまで国会で話題にならなかったことが話題になってきている、と最近の希望のもてるエピソードを聞くことができました。政治が遠い、と批判している私たち自身のほうも努力が足りないことも改めて突きつけられました。フィールドと日本を行き来するフィールドワーカーならではの、視点や動き方とは?選挙期間だからこそ、考えるいい機会かと思います。
 
25日にはFENICS総会を開催しました。正会員のみなさま、ご参加、そして忌憚なきご意見をまことにありがとうございました。南極からの中継もありました。重要な事項も決まりましたので、また改めてご報告申し上げます。
 
本号は、事情がありいつもよりもかなり遅れた発信となりました。お詫び申し上げます。
フィールドワーク、フィールドとの関係のあり方を模索し問う、新たな連載が始まります、お楽しみください!
  
本号の目次
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1 今月のFENICS
2 お世話になった「フィールド」へどう還元するか(連載①)(井本佐保里)
3 フィールドワーカーのライフイベント(連載①)(日達真美)
4 イベントリポート (高橋佳子)
5 FENICSからのお知らせ
6 FENICS会員の活躍 (野中健一)
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2. お世話になった「フィールド」へどう還元するか
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「ナイロビのノンフォーマルスクールとの関わりーその1」
 
井本佐保里(日本大学/建築学)
 
私が所属する建築学分野において、アフリカをフィールドとした研究や実践は数少ない。「日本より一歩進んだ欧米」の国々を調査対象とし、そこからの学びを日本に還元するというのが建築分野における一般的な海外研究のスタンスだ。一方、私は天邪鬼な性格からか学生時代からそうした一辺倒な見方に違和感を持っており、日本から最も遠い存在と感じられるアフリカからこそ重要な事が学べるのでは、と直感的に思ったのがアフリカに関心をもったきっかけだ。最初は、学生をしながらケニアで活動する日本のNGO団体にインターンとして所属し、支援事業に携わりながら少しずつ現地を知っていった。その後、研究する立場で農村部、都市部インフォーマル居住地での学校建築の調査を続けた。特に首都ナイロビのムクルスラムには2011年から通い始め、10年以上が経つ。現地には、ノンフォーマルスクールと呼ばれる、教育省の認可を受けない学校が林立していて、運営者もスラム住民、子どもも正規の学校に通えないスラムの子どもたちであり(スラム内の半数程度の子どもはノンフォーマルスクールに通っていると推察できる)、少ない資源で学校を立ち上げ、維持するたくさんの知恵、またその困難さを知ることとなる。
  

2017年建設WSの様子

調査では、地域内の沢山のノンフォーマルスクールにお世話になり、学校の成り立ちや建物の実測、子どもたちの観察調査を繰り返した。これはどの地域での調査でも共通することだが、様々な情報をいただいて、それを分析して研究成果としてまとめることと、現地で奮闘するノンフォーマルスクールへの貢献は、特に短期で考えると直接結びつきにくい。また、ちょうど大学院を修了し、出産と教職に就いたタイミングが重なった事で、学生時代のように長期で現地に滞在することが難しくなった。これを機に、純粋な研究から、実践を通して現地を観察するスタイルに転向するのがライフステージにもフィットしているように感じられた。まずはすぐに教室建設を予定していたノンフォーマルスクールがあったので、建設のお手伝いをすることにした。その際に、日本の研究室の学生と一緒に設計を行い、現地ではケニア人建築学生と共に自力建設WSを開催する形をとった。こうした学生の参加なしに、一人で活動を継続することはとても難しい。また、こうすることで、単なる支援に留まらず、日本-ケニア学生双方の交流や教育的プログラムとしても貴重な機会になった。そして研究しているだけでは分からない大変な苦労もあった。学校の成長に合わせ、2015年に教室、2017年に用務員用住居の建設し、2020年に教室の増築をしようか、というところでCOVID-19感染拡大があり渡航を断念。
 
ケニアでも長期休校となり、経済的にもさらに厳しい状況に追い込まれていると知り、教室の増築の代わりに、子どもたちの教育の場を創出するために‘Saturday School Program’を教室建設を共に行った元建築学生と立ち上げ、現在に至るまでほぼ毎週外部講師を呼んで、ダンスや演劇、歌などの指導を続けている。同時にこの日だけ朝食・昼食を提供している。ちなみに、その間にスラムの強制撤去により教室が解体されるという事件も起こった。しかし数か月後には小さな教室を再建し、学校も現在は再開している。
  
さて、コロナ禍でも支援は継続できたものの、現地に行けないことで日本人学生のケニアへの関与は持ちづらくなってしまった。どのようにしたら、現地とつなげることができるだろう?という事を考えた結果、研究室で新しいプロジェクトを立ち上げることにした。(次号に続く)
 
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3. フィールドワーカーのライフイベント
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フィールドワーカーのライフイベント 
大学院生でママ・パパになれる?:研究室仲間と歩んだ子育て院生生活
研究室編①
 
日達真美 (世界食糧計画セネガル事務所/母子保健)
 
私は第1子出産から半年後に博士課程へ進学し、2年次・4年次に妊娠・出産を経験し、乳児を連れての研究室通いが始まった。ケニアにおけるフィールドワークに基づく博士論文を執筆し学位をとった後、家族でセネガルに渡り、現在は世界食糧計画セネガル事務所で国連ボランティアとして活動しながら、5歳、3歳、1歳の子育てに奮闘中である。
第2・3子の妊娠・出産を博士課程中に経験し、子どもと一緒に登校し、研究室で過ごした「研究室編」と「フィールドワーク編」の2回に分けて報告したいと思う。
今回は、乳児同伴の学生生活に至った経緯や、実現に至った周囲の協力について焦点をあてたい。

研究室の一員として第2子も参加した様子。

<出産前>
学生という身分でありながら妊娠をするということについて、正直なところ罪悪感のようなものもあった。しかし、30代半ばにある私にとっては家族計画も急務の課題であった。第2子の妊娠が判明した時は嬉しくもあり、しかし複雑な気持ちでもあった。しばらく周囲に報告できずにいたが、意を決して指導教員へ報告すると、驚きもせず「おめでとう。」と、祝福をしてくださった。また、研究室メンバーも同様に祝福をしてくださった。報告するというだけで私にとっては大仕事であり、報告後ほっと胸を撫で下ろしたことを覚えている。しかし、生まれた後はどうしたらいいのかという悩みが続いた。色々と回り道をしてたどり着いた博士課程だったため、すでに30代半ばであり、できるだけ早く修了したいと考えていた。しかし、子どもとの時間も後戻りはできないものであり、親として一緒にいる時間も確保したい。また、幼稚園教諭である義両親からの「母親は子どもと一緒にいるものという」考えに応えなければというプレッシャーも勝手に感じていた。そんな中、研究室では出産後の話になり、指導教員の「子ども連れて来るんでしょ」の一言で思いがけず乳児同伴の学生生活が決定した。有難いことに、それからは話が進み、研究室の方々で出産祝いとしてベビーベッドを購入してくださり、さらに設置に向けて席替えも行った。こうした周囲の協力的な環境のおかげで、私は出産数日前まで大学に通い、無事に第2子の出産に至った。
    

おんぶして寝かしつける→しっかり寝たら後ろのベビーベッドへ → 研究活動に集中!

<出産後>   
妊娠発覚時には想像もしていなかった子連れ登校が始まった。できるだけ研究室メンバーに迷惑が掛からないようするために、子どもが泣いたり、遊びたい時間は、校内の散歩に出かけたり、子どもを見せに来てと言ってくださる方々を巡って、研究室を離れて時間を過ごした。一方、研究作業は、おんぶしながら寝かしつける時間と机の横のベビーベッドで寝ている時間に行った。単身で登校している時のように研究作業に全ての時間を当てられたわけではなかったが、逆に時間の少なさへの焦りを、集中に変えることが出来た。また、子どもとの時間についても、常時子どもと2人きりで過ごす大変さが軽減され、気持ち穏やかに過ごすことが出来た。とはいえ、私は要領が良いわけでもないため、ここでは書ききれない焦りや不安を抱えつつ、周囲の協力を得て何とか過ごすことが出来たという表現が正しいかもしれない。まだまだ子連れ学生は少ないが、学びたいという気持ちに年齢制限はない。その気持ちが重要なライフイベントと重なってしまうことは十分にあり得ると考える。私のケースは理解ある方々に恵まれたのであるが、今後は、これが「恵まれた」ものではなく、一つの在り方として広がっていくことを願っている。

(つづく)
 
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4. FENICSイベントリポート
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「大学院生でママ・パパになれる?:研究室仲間と歩んだ子育て院生生活」FENICS共催(2022/5/21開催)
BR:「子連れフィールドワークをしたい」
 
報告者:高橋佳子(長崎大学大学院熱帯医学・グローバルヘルス研究科)
 
FENICS/アフリカ学会九州支部共催「大学院生でママ・パパになれる?」のブレイクアウトルーム「子連れフィールドワークをしたいという」というテーマでは、子連れフィールドワークを行う意義や、子育てや介護中のフィールドワークの経験などについて5名の参加者で議論しました。
 
まず、椎野さんからの問題提起として、一般の人にとっては、「なぜ子どもをフィールドにつれていくのか?」と思っているとのお話がありました。子どもをフィールドにつれていく理由は様々ですが、フィールドが好きだから子どもにも参加させたいという思いや、周囲にお願いできる人がいないなど様々な理由で子どもをフィールドへ連れていくとのことでした。しかし、子どもの心の問題もあるため、子どもの「個」を尊重しながらフィールドワークを行う必要があるとお話されました。また、フィールドワークは、一旦やめると、開始するのが大変なので、違う形でも続けていく方法を探したり、子どもを安全につれていけるようなフィールドを選んだり、テーマを変えるなどの工夫が必要であるとお話されました。子どもをフィールドに連れていくには、自身の研究と子どもの安全や成長発達への配慮のバランスを検討する必要性を感じました。
 
海外で専門家としてご活躍されていた國枝さんからは、海外赴任時の工夫についてお話がありました。ご夫婦共に海外に居住して仕事をしていたため、子どもたちを一緒に連れて行ったり、祖父母に預けたりして対応していたそうです。フィールドでの工夫としては、必要な眼科と皮膚科の薬は常に冷蔵庫にストックしたり、子どもたちのアイデンティティーのために日本食を持って行ったりしたそうです。また、子どもの成長とともに自我もでてくるので、それに合わせたフィールドを選択して、「中道」をさぐりながらすすめることが重要であると話されました。特に、親の都合で海外にいく子どもたちは、親の事情で日本と海外を行き来するため、教育の問題や、アイデンティティー形成の問題に直面します。國枝さんのお子さんは現在大学生ですが、アフリカを行き来した幼少期の記憶は今でもあるようです。幼少期にアフリカに何度かつれていき、一緒に過ごし、一緒に経験することで、大きくなったらいつか行きたいという時がくるかもしれないので、幼少期に行く習慣をつけておくことが大切であると話されました。子どものアイデンティティーや教育を考慮して、フィールドワークを計画することが大切であることが分かりました。
 
 
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5.FENICSからのお知らせ
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(1)2022.7.13(水) 南極教室(FENICS×極地研×桐朋女子高等学校×むさしの学園)
 
開催日時: 令和4年7月13日(水) 14:15~15:05 (予定)
開催場所: 桐朋学園ポロニアホール
(〒182-8510東京都調布市若葉町1-41-1)
参加者: 桐朋女子中学校・高等学校 1年生、むさしの学園小学校 4~5年生 
昭和基地側出演者: 第63次南極地域観測隊 越冬隊長 澤柿教伸 (EFNIC副代表)
企画 吉崎亜由美(桐朋学園/FENICS正会員)
連絡先:fenicsevent@gmail.com
 
(2) 2022.7.3(日) FENICS×志縁の苑×ジェンダー人類学研究会
「女性史家 もろさわようこの築いた『歴史を拓くはじめの家』を知る」
 
於:「歴史を拓くはじめの家」(長野県佐久市望月804番地7)
日時:2022年7月3日(日) 10時~13時
 
スピーカー:
・依田弘子さん 
 一般社団法人 志縁の苑理事、事務担当。学習塾主宰、心理カウンセラー。

・山之上俊枝さん 
 一般社団法人 志縁の苑評議員、「歴史を拓(ひら)くはじめの家」管理担当。元福祉施設職員、子どもの人権教育プログラムCAPながの元代表。現在は自然農に取り組む。  
・梅原康司さん
 元中学教員、老人福祉施設職員。一般社団法人 志縁の苑とは高知県の「歴史を拓くよみがえりの家」にかかわり始め、6年前に高知より長野に来て、「歴史を拓(ひら)くはじめの家」にかかわり始める。
・源啓美さん
 一般社団法人 志縁の苑評議員。元ラジオ沖縄プロデューサー。沖縄9条連共同代表、基地・軍隊を許さない行動する女たちの会事務局長。志縁の苑の評議員、
沖縄県「歴史を拓くはじめの家うちなぁ」の運営にかかわる。

企画者:國弘暁子(早稲田大学/FENICS)、松前もゆる(早稲田大学)、碇陽子(明治大学/FENICS)、椎野若菜(東京外国語大学/FENICS)、菅野美佐子(青山学院大学)
 
長野県出身、女性史研究家のもろさわようこさんは、1982(昭和57)年に「無組織・無規則・無会費」の方針で長野県佐久市望月に「歴史を拓(ひら)くはじめの家」を開設。人権、平和、男女平等など、さまざまな問題を抱え取り組む県内外の人たちが、勉強会などを開き交流する場となってきた。94年に沖縄県の「歴史を拓くはじめの家うちなぁ」を、98年に高知県の「歴史を拓くよみがえりの家」を開設した。血縁、地縁でもなく、「はじめの家では、志を通じての縁『志縁』でつながる」というもろさわさんの言をもとに活動が繰り広げられ、現在は一般財団法人「志縁(しえん)の苑(その)」となっている。ジェンダーに関心のある人類学者らが、この「歴史を拓くはじめの家」という場を拠点とする、「志縁」による人々のつながりにせまるための第一弾。

主催:ジェンダー研究会 supported by 早稲田大学「性愛二分法へのジェンダー人類学的研究からの挑戦」(代表:國弘暁子)
共催:NPO法人FENICS
連絡先:fenicsevent@gmail.com

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3. FENICS会員の活躍
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野中健一さん(『フィールドワークの安全対策』編者/地理学/立教大学)
「ママテツクラブ作品展 ~新しいジオラマのカタチ~」@巣鴨
 
野中健一さんが顧問を務める、ジオラマの「ママテツクラブ」。立教大学の学生、フィールドワーカーとその子どもなど、さまざまな人がともに活動しています。
それぞれのフィールドでの思い出や妄想の世界を、A4のスペースに表現した、「ママテツクラブ作品展~新しいジオラマのカタチ~」の開催が始まりました。フィールドの様子、フィールドへの思いを表現する一つの方法、ジオラマ。作品をみたら、あなたもやってみたくなるかもしれません。
ぜひお立ち寄りください。
 
会期:2022年6月25日(土)~7月10日(日)10:30~19:00 木曜定休日
場所:さかつうギャラリー(〒170-0002 東京都豊島区巣鴨 3-25-13 クラブリーシュ1階)
 
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以上です。お楽しみいただけましたか?
みなさまからの情報、企画、お待ちしています。
 
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