FENICS メルマガ Vol.96 2022/7/25 
 
 
1.今月のFENICS
 
夏休みに突入しました。今年こそは!とフィールドワークの計画をたてているフィールドワーカーにとって、またもやこの新型コロナウイルスの感染拡大、さらにサル痘・・・。
2000年からの2年間は、コロナ禍はいつか終わるであろうという気構えではありましたが、もはや現実的に、恒常的なパンデミックとともにあるフィールドワーカー生活に突入したと感じます。
  
2022年7月16日は、感染が拡大し始めた頃でしたが、桐朋女子とむさしの学園の子どもたちが合同で南極とつないだライブレクチャーを受けることができたのは、閉塞感に希望ももたらしました。むさしの学園のこどもたちは大興奮で、帰り道、自分は将来南極に行くのだ、行きたい、と言う子が多くいたと聞きます。
 
先月のFENICS総会にともなう、皆さんの声で、今夏は子連れフィールドワークを計画している、という方が何人かいらっしゃいました。どうかお気をつけて。久しぶりのフィールド、キャッチアップ、が目的になりましょうか。コロナ禍のフィールドは、慣れた場所であっても、治安も悪くなっている可能性が高いです。いつもより計画も控えめに、健康と安全を第一に。私も久しぶりの子連れフィールドワーク、どうなることやら、と出国寸前まで分かりません。おそらく私たちは、つねに現場で計画の変更をせまられるという、フィールドワーカー的感覚で常に過ごさねばならなくなっているのでしょう。
子連れフィールドワークのレポートも、ぜひFENICSにお寄せくださいますよう、お待ちしています。
秋以降、FENICSでのイベントで共催などを希望される方は、9月初めにfenicsevent@gmail.comへご連絡ください。お待ちしています。
 
さて、本号の目次です。今号も、若手フィールドワーカーの連載をお楽しみください。
 
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1 今月のFENICS
2 お世話になった「フィールド」へどう還元するか(連載)(近藤孝俊・神谷憲吾)
3 フィールドワーカーのライフイベント(連載・終)(日達真美・山田直之)
4 イベントリポート (椎野和枝)
5 FENICSからのお知らせ
6 FENICS会員の活躍(澤柿教伸)        
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2. お世話になった「フィールド」へどう還元するか

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「ナイロビのノンフォーマルスクールとの関わりーその2」
 
「子どもたちのための家具」
 近藤孝俊・神谷憲吾(日本大学大学院理工学研究科建築学専攻)

ナイロビのムクルスラムには、現地のフォーマルスクールに通うことのできない貧困層の子どもたちがいる。また、これまでのナイロビでの調査を通じて、教室は子どもたちの学びの場であると同時に、雨天時はダンスなどの体を動かす場所としても利用していることが分かった。そこで、私たちは、教室を子どもたちの学びの場、体を動かす場として両立させることを前提に家具を製作しようと考えた。そのため家具のコンセプトを、机、椅子を並び替えることができること、収納することで教室を広く使えることとした。  

様々な形態に並べ替えることができる椅子(撮影:黒部駿人)  

円卓状に並べた机(撮影:黒部駿人)


机をデザインする際は、子どもたちが輪になって話し合うことができる使い方や、横に並べることで黒板に向かって授業が受けられるようにしたいと考えた。机の形状は、椅子の形を拡大し、三等分することで円卓や長机など、複数の形に並び替えることができるようにした。

木製パネルを製作している様子(撮影:黒部駿人)

ガイドに沿って椅子を収納することで、棚として活用することができるデザインとなっている。また、椅子をパネルに収納すると、ダンスなどの活動の場所として広く使うことができる。

家具を使用した授業風景(撮影:Solomon Chogo)

机を向かい合わせて使用している様子(撮影:Solomon Chogo)


約5ヶ月かけて試行錯誤しながらデザインから発送まで行ったが、現地から送られてきた写真を確認すると、子どもたちが机を並び替えて使用している様子や、木製ポールに荷物をかけている様子が見られ、現地の子どもたちに私たちの想いが伝わった嬉しさと、達成感を感じることができた。

(次号に続く)
  

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3. フィールドワーカーのライフイベント
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フィールドワーカーのライフイベント 
大学院生でママ・パパになれる?:研究室仲間と歩んだ子育て院生生活
フィールドワーク編②
 
日達真美 (世界食糧計画セネガル事務所/母子保健)」
 
今回は博士課程中に経験した「子連れフィールドワーク」について、当時研究室の特任研究員で協力者の一人である山田直之さんと共に報告する。 
 前回の研究室編に綴ったが、子どもが動きたい時や機嫌の悪い時は、校内を散歩したりしながら過ごし、お昼寝時間に研究作業を行っていた。そんな姿を見て、研究室の助教であり病害動物が専門である星友矩先生が、子どもと一緒にフィールドに行こうと声をかけてくれた。もともと私の博士研究のフィールドはケニアであり渡航は断念していたが、近場で出来ることをすることも大切であるという助言をいただき、有難く子どもと一緒に参加させてもらうことにした。

サンプル採取に向かう風景


フィールドワークのメンバーは星助教、山田さんを含む同研究室所属の5名と娘の計6名であった。自身がこれまで行ってきたヒトが対象のフィールドワークではなく、自然を対象としたフィールドワークであったため、同行できるのか不安もあった。しかし、子どもにとっては、私と二人きりのお散歩よりも、沢山の大人に構ってもらいながら、色々な場所を歩きまわる時間は楽しかったらしく、終始ご機嫌で、研究作業にも興味津々で背中から乗り出して見たりしていた。本人にとっては遠足のように感じていたのかもしれない。また私にとっても、新たな分野を知れたことは研究者の卵として大きな喜びであった。さらに、この結果は私の初めての国際学会発表に至った。    

子連れフィールドワークに適した改良おんぶ紐検討風景。 筆者は自身の娘を、協力者は娘の体重と同等の重さの水タンクを背負ってフィールドワークへ


 一方、フィールドワークを始めるとすぐに、子どもも大人も快適にフィールドワークを行えた方が良いという意見がメンバーから挙がった。そして、子連れフィールドワーク用品の開発を見据え、その第一歩として、快適で楽しい子連れフィールドワークを実現するおんぶ紐を検討することとなった。この経験に関してはまた別の機会に紹介させていただけたらと思う。  
 子連れフィールドワークを通じて、子育ては大変ではあるが、「子ども」は新たな洞察を与えてくれる存在でもあるということを学んだ。また、子連れフィールドワークには周囲の協力が必要不可欠である。積極的に子どもと出掛け、周囲にもその需要を知ってもらうということが協力を得る第一歩になるのではないかと感じた。

子連れフィールドワークに必要な荷物一式

<子連れフィールドワークに必要な荷物一式>
①研究記録ノート(野帳)
②フィールドワーク記録用カメラ(GoPro)何か見落としなどがあった場合の確認用のために記録
③サンプル捕獲道具(フェンネル白布)
④⑤⑥子ども着替え一式
⑦紙おむつ
⑧おしり拭き
⑨子ども上着
⑩サンプル保存容器
⑪サンプル捕獲道具(③白布に通して利用)
 
【協力者としての気づき・所感】 山田直之(アイ・シー・ネット株式会社/母子保健)
 
 フィールドワークの目的にも依ると思うが、子連れ学生だからといって特に違和感はなく、むしろ色々考える良いきっかけとなった。子どもが一緒であることにより、長時間に及ぶフィールド作業の回避、暑さや冷え対策など、どのような点に留意し対策を練るべきか、同行者としての配慮も求められると感じた。また、子育てをしながら研究を続ける人の姿を見て、自分の研究を成し遂げるだけでも非常に労力と時間を要し骨が折れる中、子育てと両立することは想像し難く、ある意味では自分自身の励みになった。そして、同じような境遇にある研究者に対し、できれば個室を用意するなどの支援も必要であると思う。  
  
 研究室の受け入れ体制については、各研究者の置かれた立場や環境によっても異なり、締切の提出に追われているなど、ピリピリした空気感が張り詰めている場合の対処法については検討を要する。
  
最後に、子連れフィールドワークや子育て研究者がいる研究室において最も重要な要素の一つは、研究室内の人間関係、ひいてはチームワークである。同じ目的やベクトルに向かっていれば、どのようにしたら上手く行くかアイデアを考える機会にもなるため、基本的要素として、より良い環境づくりの必要性を挙げたい。
 
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4. FENICSイベントリポート
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★2022年7月16日 南極教室(桐朋学園×むさしの学園×FENICS)
 
報告者:椎野和枝(FENICS正会員)
 
桐朋学園で開催された南極教室にFENICSの会員として参加した。
隊長・澤柿さんの、どの子供たちの質問にも現地の映像を示しながら答えられる様子には、ついお隣にいらっしゃる臨場感があった。隊員の方々が観測や電気担当等で働いておられるおのおのの作業地点からつないで、昭和基地内での中継も試みられた。ときどき映像がとぎれることからも、ふだん慣れているネット環境とは異なる、南極の遠さを感じた。  
児童からの質問の1つ、「南極から月はどのように見えるのですか。色や形を教えてください」への答えで、南極の地平線にだいだい色の月がずっと止まって見えている様子や、太陽が地平の横に移動するのを見た。南極を知らない誰もが驚いた光景だった。
  
また、「南極で過ごすにはどんな力が要りますか」の問いに、その人の持っている文化の力、読書をしたり、ピアノや楽器を奏でる音楽の教養の力が、難関の仕事を超えさせられる力になっていることを淡々と語られた。
  
専門の研究の仕事の厳しさも、各研究者の姿を垣間見て南極の生活を知ることができた、高齢の私の「南極教室」はなんと充実した日であったことか。充実において児童や生徒さん達と少しも変わらない。最後に南極にいる方々と会場の全員が手を振って別れを惜しんだことも、感動的だった。
  
当日、機会があればうかがいたかったのは、隊員の中に女性は何人いるのか、ということだった。後日、澤柿さんに伺ったところによれば、越冬隊員31名中、女性は2人おり、いずれも医者とのことだった。もっと女性の活躍も願うばかりである。
  
その日は、南極大陸で太陽が昇らない「極夜(きょくや)」が明けてから初めて太陽が出た日だったという。南極教室が行なわれた時間帯は昭和基地では朝8時頃。その後、現地時間で正午に約1カ月半ぶりの「日の出」をみなで拝んだそうだ。
  
*正会員のみなさんには、追って当日の様子をYoutubeにてご案内いたします。
 
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5.FENICSからのお知らせ
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(1) 2022.9.10 共催イベント FENICS×志縁の苑×ジェンダー人類学研究会
 
共催イベント「女性史家もろさわようこの築いた『歴史を拓くはじめの家』のこれから」
日時:2022年9月10日(土) 13時~16時
場所: 志縁の苑(歴史を拓くはじめの家)と ZOOM(申込制)
    (長野県佐久市望月804番地7)
 
・趣旨説明: 椎野若菜(東京外国語大学AA研)
・『志縁のおんな―もろさわようことわたしたち』
   河原千春・もろさわようこ著、一葉社、2021)の紹介
 河原千春さん(信濃毎日新聞)
 
【私と「家」】
・私の育った「家」
 米倉日呂登さん(マサカネ一座)
・長野「志縁の苑(歴史を拓くはじめの家)」について
 依田弘子さん(志縁の苑理事、事務担当、CAPながの元代表)
 山之上俊枝さん(志縁の苑評議員、長野の「家」管理担当。元福祉施設職員)
・高知「歴史を拓くよみがえりの家」について
 梅原孝司さん(元中学教員、元高齢者福祉施設職員)
・沖縄「志縁の苑 うちなぁ」について
 源啓美さん(志縁の苑評議員。元ラジオ沖縄プロデューサー)
 
質疑応答・ディスカッション「これからの『家』のために」
ご参加の皆さん+碇陽子(明治大)、菅野美佐子(青山学院大)、國弘暁子、
松前もゆる(ともに早稲田大)、椎野若菜(東京外国語大

お問い合わせ:fenicsevent@gmail.com

申込フォーム:https://forms.gle/bnZcp4ngKEJ2fjee6

 
(2) 2022.7.3 FENICS×桐朋女子高等学校

T-Project: Toho Girls’Junior and Senior High School Project-Based Learning(桐朋女子中・高等学校 問題解決型学習プロジェクト)の一環として、FENICS100万人のフィールドワーカーシリーズを使っていただいています。
高校生が1巻『フィールドに入る』、7巻『社会問題と出会う』、13巻『フィールドノート古今東西』を読んでいます。教材の一部で、1章「植物学者のフィールドノート:足跡を丸ごと記録する(倉田薫子/植物学)、2章 民族音楽学者のフィールドノート:言葉をあつめて演奏と研究をつなぐ(増野亜子/民族音楽学)が事例になっていました。出張授業と、南極教室もこのプロジェクトに位置付けられています。
 
出張授業「どのようにフィールドワークをデザインすればよいのか?」
 
企画:吉崎亜由美(FENICS正会員/桐朋女子高等学校)
スピーカー:椎野若菜(FENICS理事/東京外国語大学AA研)
開催場所: 桐朋学園ポロニアホール
 
(2)2022.7.16 南極教室(FENICS×極地研×桐朋女子高等学校×むさしの学園)
 
日本国内の児童・生徒が南極・昭和基地で活動を行っている南極地域観測隊員とリアルタイムで交信することにより、地球環境や地球の歴史、さらには宇宙の謎にまで迫る南極観測の現在を知ってもらい、南極を通じて地球や宇宙のことを考えてもらうことを目的とした。

○参加者: 桐朋女子中学校・高等学校 1年生、むさしの学園小学校 4~6年生 
○昭和基地側出演者: 第63次南極地域観測隊 越冬隊長 澤柿教伸

○開催日時: 令和4年7月13日(金) 14:00~15:05 
○開催場所: 桐朋学園ポロニアホール
 
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3. FENICS会員の活躍
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南極にいる澤柿教伸さんより、お知らせ!
 
2022年7月25日(月) ~ 2022年7月30日(土) は 南極・北極サイエンスウィーク!
 
先日、7月初旬のKDDIの大規模障害と衛星回線大型アンテナがある山口の大雨の影響で、先週は昭和基地のネットがつながりにくくなったそうです。
その中で7月25日から始まった極地研の「南極・北極サイエンスウィーク!」というイベント対応のため、どうこの状況を切り抜けるかの対応に追われていたとか。
 
極地研のイベントは7/25〜30に開催され、最終日には昭和基地と北極スピッツベルゲンの観測拠点をつないだYoutuebeライブもあります。こちらもみなさんに見ていただけたらと思います。
 
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以上です。お楽しみいただけましたか?
みなさまからの情報、企画、お待ちしています。
 
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メルマガ担当 椎野(編集長)・澤柿
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