イベントリポート FENICS共催ZOOMサロン「大学院生でママ・パパになれる?:研究室仲間と歩んだ子育て院生生活」
ブレークアウトルーム:「研究と子育ての両立実現の工夫」(大平和希子)
  
報告者:築地夏海(東京外国語大学・大学院生)

2022年5月21日、FENICSサロンとアフリカ学会九州支部の共催で、「大学院生でママ・パパになれる?:研究室仲間と歩んだ子育て院生生活」がオンラインにて行われました。今回は、本サロン、およびそのなかで行われたフリートーク「研究と子育ての両立実現の工夫」に参加し、考えたことを報告させていただきます。  
サロンではまず、長崎大学大学院に在籍しながら妊娠、出産をして計3人のお子さんの子育てをし、さらには博士課程の研究の一環でフィールドワークを行った日達真美さん(世界食糧計画セネガル事務所)のご経験についてお聞きしました。また、日達さんが当時院生の頃に同じ研究室にいらっしゃった星友矩さん(熱帯医学研究所)、山田直之さん(アイシーネット株式会社)から、研究室での子育ての様子をどのようにお感じになり、協力していったのかについてお話いただきました。「母であり、院生でもある自分として、『子連れ院生生活』をしたかった」と語る日達さんは、お子さんが寝ているときには研究作業に集中し、起きているときには他の学生の方に遊んでもらったりしながら、お子さんを連れての研究生活を送っていたそうです。また、おんぶひもを付けて子連れでのフィールドワークを行い、その際の経験から、「子連れフィールドワークグッズ」の開発も検討しているとのことでした。  

お話では、日達さんと研究室だった山田さんの「日頃からコミュニケーションのやり取りをし合う環境づくりが大切」という言葉が特に印象に残りました。博士課程と子育てとを両立するなかでは、パートナーや家族だけでなく、自身の研究に関わる指導教員や研究仲間からの理解を得ることが重要になります。そのため、子育ての状況を周囲の人にも伝え、互いに配慮しあうことで、研究と子育てとを両立させる環境づくりが成り立つのではないかと感じました。日達さんがいらした研究室には、子育てに協力的な体制ができていたようで、論文執筆中にお子さんが泣いてしまっても外に行く必要のない「防音室」の設置を考えたこともあるそうです。登壇者の椎野先生もおっしゃっていましたが、このような事例を一研究室の特別なケースとして見るのではなく、むしろ分野や大学を超えて様々な形で発信していくことが、研究・子育てを両立させる環境づくりとして大切なのではないかと考えさせられました。  

日達さんのトークの後は、5つのテーマ(「研究室に妊婦・子持ちがいたら、どうする?」、「学生で妊婦になったらどうする?」、「男性研究者の子育て」、「研究と子育ての両立実現の工夫」、「子連れフィールドワークをしたい」)に分かれてブレイクアウトルームに移動し、それぞれのテーマでフリートークが行われました。  

「研究と子育ての両立実現の工夫」のトークルームは、5つあるテーマのなかでも15名と特に参加者の多いお部屋でした。まず、東京大学博士課程の大平和希子さんにご自身のお話を提供していただき、その後コメントや質問のやり取りが行われました。大平さんは、博士課程1年目に大学を休学してご出産され、今は博士号の取得を目指しながら論文執筆と子育てを両立されていらっしゃいます。さらに、現在は2人目のお子さんを妊娠されており、今夏に出産予定である一方で、ご出産後は、調査のために単身での海外渡航のご予定もあるそうです。

参加者の方からはまず、「子育て中にフィールドへの渡航をどれくらいしたか、フィールドに子どもを連れていくかどうかはどう判断したか」といったご質問がありました。アフリカ政治研究がご専門の大平さんは、お子さんが10か月の時に3週間の「子連れフィールドワーク」を行い、その後はご実家にお子さんを置いて単身でのフィールドワークを2回行ったそうです。単身での渡航中は、パートナーの方やご家族、さらには同じ保育園を利用する保護者の方が協力してくださり、お子さんを見てくださったとのことでした。「もしも家族に頼れないなら、他を頼って体制づくりをしていくのもよい」と仰っていた大平さんの言葉は、ご自身が研究活動と子育てとの両立のなかで導き出された生き方のヒントのように感じられました。

また、「博論執筆はどのように行っているか」との質問に対しては、大平さんから具体的なアドバイスをお聞きすることができました。大平さんは、机の前に博論提出の日程と、それに合わせた月間目標とスケジュールを3年間分ポスターにして貼っているのだそうです。日ごとの作業内容と育児の予定とを記入しておき、博論作業ができないときは×印を付ける、といったようにご自身のやるべきことを可視化していくことで、育児との両立の工夫ができているとのことでした。計画的に研究を行う難しさを乗り越えるコツをお聞きすることができ、大変参考になりました。

さらに、ご実家で出産された大平さんは、オンラインでの研究参加がしやすくなったコロナ禍の状況も生かし、そのままご実家で研究を続けていらっしゃるそうです。参加者からは、リモート研究での文献収集の工夫や、東京での子育てをすることをどのように考えているかについての質問も出ていました。

登壇者の皆さんのお話を聞くと、周りの人たちに配慮しながら研究と子育てが同時にできる環境を積極的に作ったり、時には周囲の人を巻き込んで協力を得ることでそれぞれを両立させるための工夫が多くあることが分かりました。特に、大学院に在籍しながら出産、育児を行うという選択肢は忙しくハードルが高いことのように感じていましたが、大学ではお互いにコミュニケーションを十分に取ることで、柔軟な体制を作っていくことが可能になるのかもしれないと気づきました。私自身、自分のライフコースのなかで妊娠や育児はまだ先だろう…。などのんびりと考える一方で、同じゼミ授業の院生・研究員の先輩には授業期間中に出産を経験された方が2人もいたりと、研究活動と妊婦・母としての活動との両立を身近に感じる機会が多くありました。本サロンを通して、ゼミや研究室のなかにお子さんを持つ院生の方がいたとしても、研究・子育ての両方の面でトラブルにならないための方法をお互いに考えながら実行することが重要であるように感じました。

また、私は人類学を専攻しており、国内での調査を今年の春から開始したところです。本格的なフィールドワークは今回が初めてということもあり、調査期間中に見聞きした内容を整理したり、データを分析しながらその都度計画を見直していくことは案外大変であると感じています。そのなかで、研究活動としてフィールドに入りながら育児も続ける「子連れフィールドワーカー」の皆さんのお話は尊敬する部分が多く、大変刺激になりました。また、今後の人生設計を考えていくにあたり、「子連れ〇〇」という選択肢を柔軟に考えるきっかけにもなりました。研究分野を問わず、今後もこのような交流、発信の機会が続いていくことを願っております。