FENICS メルマガ Vol.94 2022/5/25 
 
 
1.今月のFENICS   
 
 一年のなかでも、すがすがしい季節である5月。フィールドワークを再開、開始なさっている方も多くなってきたでしょうか。
それにしても、戦争の影響は、私たちの生活にもじわじわと影響があることを感じさせられた月でした。日常品の物価高騰がきびしくなっています。また世界各地でCovid-19が及ぼす、そして戦争が地域社会に及ぼす影響は計り知れず、これまで知っていた「フィールド」が、どう変化しているのか、気になるところです。
 
FENICSでは今月、アフリカ学会の開催にあわせて、ライフイベントについてのサロンを開催しました。
2015年からサロンを開催し始めましたが、少しずつ社会も、みなさんの意識も変わってきている、希望が感じられるイベントでした。フィールドワークがしたい、続けていきたい、そして家族も持ちたい、幸せになりたい。
サロン開催を継続してきた中でもFENICSの正会員らが、ともにつくりあげたイベントとしても嬉しく思った次第です。大学院生によるレポートも下記にありますのでお楽しみください。また来月の25日にはFENICS総会があります。FENICSの活動について、ご提案やご意見を、いつでもうかがいたく思います。
 
 それでは本号の目次です。
 
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1 今月のFENICS
2 私のフィールドワーク:多良竜太郎
3 イベントリポート(築地夏海)
4 FENICSからのお知らせ
(1) FENICS総会
(2) FENICS後援イベント『フィールドワークと月経をめぐる対話:熱帯に暮らす人・動物・フィールドワーカー』
(3) フィールドにおける調査者のジェンダー・セクシュアリティ
(4) 南極教室の参加者募集!
5 FENICS会員の活躍 吉國元
           分藤大翼
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2. 私のフィールドワーク
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日本とアフリカで木炭生産の現場を探る(その3)
タンザニアの炭焼き「伏せ焼き法」
 
多良竜太郎(京都大学、生態人類学)
 
木炭が調理燃料として日常的に使用されていて、生業として炭焼きがおこなわれている国でフィールドワークをしたいという思いを胸に、私は2015年4月に大学院へ進学した。東アフリカのタンザニアで調査することが決まり、同年9月にはじめて現地へ渡航した。  

飛行機から降り立った首座都市・ダルエスサラームは私の想像をはるかに超える都会で、高層ビルが立ち並び、たくさんの人たちが行き交い、活気に満ちあふれていた。住宅地にはトタン葺きの「近代的家屋」が密集して建ち並び、そこに暮らす人びとは白煙が生じる薪や高価なプロパンガスではなく、使い勝手が良く、安くてどこでも入手可能な木炭を調理燃料として使っていた。今日、再生可能エネルギーの利用は世界的な課題とされるなか、その1つである木炭が人びとの暮らしに浸透しているタンザニア社会がとても先進的に思えた。  

木炭は農村部で盛んに生産されていて、そこに暮らす人びとの貴重な現金獲得源になっている。そこで私は、ダルエスサラームから西へおよそ300㎞の距離に位置するモロゴロ州・キロサ県の「炭焼き村」に滞在させていただき、そこでフィールドワークをはじめた。炭焼き村でもっとも優れた製炭技術をもつと評されるAさんのもとで、彼の一連の作業工程を詳しく参与観察して、現地の炭焼き方法や製炭技術を明らかにしようと試みた。  

炭焼きには大きく2つの方法がある。1つは、日本を含む多くの国や地域で一般的な、石や粘土製の固定された炭窯を使う「築窯製炭法」である。もう1つは、地面に積み上げた木材をイネ科の草で覆い、さらにその上から土を被せて造った「一度きり」の窯(伏せ焼き窯)を使う「伏せ焼き法」である。伏せ焼き法は樹木の伐採地にそのまま窯を設けるため、木材を遠くまで運搬する労力を抑えられるメリットがある。かつて伏せ焼き法は世界各地で使われていたが、今日その利用はアフリカ地域に限られている。調査地のタンザニアでも伏せ焼き法は一般的な炭焼き方法として使われる。  

伏せ焼き窯

私は伏せ焼きの実物を見たことがなかったため、はじめてAさんに炭焼き現場に案内してもらうとき、胸がわくわくした。しかし現場に到着すると、それまでの明るい気持ちはどこかに消え去ってしまった。目の前にあったのは蒲鉾の形をした土のマウンドで、何度見返してもそれが「窯」に見えることはなかったのである。思わず「えっ?」とつぶやいてしまった。この「窯」からどうやって木炭が作れるのか不思議でたまらないと同時に、そのメカニズムを明らかにするアイディアがはっきりと思い浮かばず、ただただ困惑してしまった。

  

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3. FENICSイベントリポート
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「大学院生でママ・パパになれる?:研究室仲間と歩んだ子育て院生生活」FENICS共催(2022/5/21開催)
ブレークアウトルーム:「研究と子育ての両立実現の工夫」(担当:大平和希子/FENICS正会員)
報告者:築地夏海(東京外国語大学・大学院生)    
  
2022年5月21日、FENICSサロンとアフリカ学会九州支部の共催で、「大学院生でママ・パパになれる?:研究室仲間と歩んだ子育て院生生活」がオンラインにて行われました。今回は、本サロン、およびそのなかで行われたフリートーク「研究と子育ての両立実現の工夫」に参加し、考えたことを報告させていただきます。    
 
サロンではまず、長崎大学大学院に在籍しながら妊娠、出産をして計3人のお子さんの子育てをし、さらには博士課程の研究の一環でフィールドワークを行った日達真美さん(世界食糧計画セネガル事務所)のご経験についてお聞きしました。また、日達さんが当時院生の頃に同じ研究室にいらっしゃった星友矩さん(熱帯医学研究所)、山田直之さん(アイシーネット株式会社)から、研究室での子育ての様子をどのようにお感じになり、協力していったのかについてお話いただきました。「母であり、院生でもある自分として、『子連れ院生生活』をしたかった」と語る日達さんは、お子さんが寝ているときには研究作業に集中し、起きているときには他の学生の方に遊んでもらったりしながら、お子さんを連れての研究生活を送っていたそうです。また、おんぶひもを付けて子連れでのフィールドワークを行い、その際の経験から、「子連れフィールドワークグッズ」の開発も検討しているとのことでした。   

お話では、日達さんと研究室だった山田さんの「日頃からコミュニケーションのやり取りをし合う環境づくりが大切」という言葉が特に印象に残りました。博士課程と子育てとを両立するなかでは、パートナーや家族だけでなく、自身の研究に関わる指導教員や研究仲間からの理解を得ることが重要になります。そのため、子育ての状況を周囲の人にも伝え、互いに配慮しあうことで、研究と子育てとを両立させる環境づくりが成り立つのではないかと感じました。日達さんがいらした研究室には、子育てに協力的な体制ができていたようで、論文執筆中にお子さんが泣いてしまっても外に行く必要のない「防音室」の設置を考えたこともあるそうです。登壇者の椎野先生もおっしゃっていましたが、このような事例を一研究室の特別なケースとして見るのではなく、むしろ分野や大学を超えて様々な形で発信していくことが、研究・子育てを両立させる環境づくりとして大切なのではないかと考えさせられました。  
 
ブレークアウトルームについての報告のつづきはこちら https://fenics.jpn.org/event_repo/tsukiji-2022-5-21
 
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4. FENICSからのお知らせ
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(1) FENICS総会
6月25日21:00~ Zoomにて開催します。
NPO法人FENICSの会計事情、活動報告、予定、会員同士の交流の時間をもちます。
どうか、ご予定をおさえておいていただきますようお願いいたします。
 
(2) FENICS後援イベント
FENICS12巻『女も男もフィールドへ』にご執筆で、FENICSにてフィールドワーカーとライフイベントにかんするFENICSサロンの企画にも携わってこられた四方篝さん、杉田映理さんのご企画です。
 
JASTE32ダイバーシティ推進サテライト企画『フィールドワークと月経をめぐる対話:熱帯に暮らす人・動物・フィールドワーカー』の開催についてご案内がありましたので、お知らせします。
 
*本企画に参加をご希望される方は,以下で参加資格・参加方法をご確認のうえ、参加登録フォームよりご登録ください。(主催、共催の学会員である必要があるそうです)
 
日時:2022年6月19日(日)10:30-12:00
会場:名古屋大学環境総合館 レクチャーホール
開催形式:大会会場とオンライン(Zoom)のハイブリッド形式
参加費:無料
参加登録フォーム:https://forms.gle/2tUUeoYb734RmHAt7
大会ウェブサイト:https://sites.google.com/view/jaste32
 
主催:日本熱帯生態学会
共催:国際開発学会,日本オセアニア学会,日本文化人類学会男女共同参画・ダイバーシティ推進委員会
 
後援:男女共同参画学協会連絡会,日本霊長類学会,NPO法人FENICS
問合せ:学会事務局(jaste.adm@gmail.com)
 
【趣旨】
JASTE32のダイバーシティ推進企画として,サテライトイベント 『フィールドワークと月経をめぐる対話:熱帯に暮らす人・動物・フィールドワーカー』を開催します.
「なあんだ,女性向けの会合か…」と思われたそこのあなた!ちがいます.女性の活躍が推進されて働きやすい環境づくりが求められる今,月経は女性だけのアリーナではなくなりつつあります.それはフィールドワーカーも例外ではありません.「月経中の不調を伝えにくい」,「月経への配慮をしたいけれど,どうすればよいのかわからない」など,フィールドワーク中の月経にまつわる悩みについて,気軽に話し合える環境が求められています.また,本学会には熱帯地域の自然や社会を対象とした幅広い研究分野の研究者が所属していますが,調査対象(人・動物)の月経事情については知らない,意識したこともないという方が多いのではないでしょうか?月経への対処は,近年,国際開発の分野においても,女子の就学率の向上,ジェンダー平等,水・衛生環境の向上などの観点から重視されています.
本企画では,男女共同参画だけにとどまらない,多様な分野(文化人類学,霊長類学,国際開発学など)からの話題提供とディスカッションを予定しています.老若男女を問わず,多くの方の参加をお待ちしています.
 
【プログラム】
司会
保坂哲朗(広島大学大学院 先進理工系科学研究科(JASTEダイバーシティ担当))
佐々木綾子(日本大学 生物資源科学部(JASTE幹事長))
 
発表
杉田映理(大阪大学大学院 人間科学研究科)  
「”Break the Silence on Menstruation!”:国際開発のスローガンからSDGsへ」
 新本万里子(広島市立大学 国際学部)  
「可視化されていた月経:パプアニューギニア・アベラム人の月経対処」
 徳山奈帆子(京都大学 野生動物研究センター)
  「生理が“しんどい”のはヒトだけ?:大型類人猿とそれを研究するヒトたちの生理事情」
 四方 篝(京都大学 アフリカ地域研究資料センター(JASTEダイバーシティ担当))
  「快適なフィールドワークを求めて:女性フィールドワーカーの月経対応とその課題」
 
コメント・ディスカッション
    コメンテータ:山極壽一(総合地球環境学研究所)
 
【参加登録】
本企画に参加を希望される方は,大会参加登録とは別途,事前の参加登録が必要です(大会に参加されない方も本企画に参加することができます).  
【参加資格】
本企画への参加は,日本熱帯生態学会員・連携学会員・本企画の共催学会員(以下を参照)ならびに大会参加登録者に限定させていただきます.大会参加登録をしていない非学会員で本企画に参加をご希望の方は,いずれかの学会にご入会していただくと参加登録が可能です.
 
連携学会:東南アジア学会,日本アフリカ学会,日本サンゴ礁学会,日本タイ学会,日本泥炭地学会,日本熱帯農業学会,日本マングローブ学会,日本島嶼学会
共催学会:国際開発学会,日本オセアニア学会,日本文化人類学会
 
*日本熱帯生態学会へのご入会はこちら→JASTE入会案内(https://www.jaste.website/gakkai)
(参考:年会費一般(常勤):6,000円,一般(非常勤):1,000円,学生:1,000円)
 
【参加方法】
開催日が近づきましたら,サテライト企画に参加登録(https://forms.gle/2tUUeoYb734RmHAt7)をされた方全員に、ZoomのURLをメールで連絡します.開催前日になってもメールが届かない場合は,学会事務局(jaste.adm@gmail.com)にご連絡ください.また,メールがスパムに分類されることもありますので,スパムフォルダもご確認ください.
なお,サテライト企画に対面で参加できるのは,大会に対面参加登録をされた方のみとなりますのでご注意ください.それ以外の方は,オンラインでご参加ください.オンライン上で質問・コメントを受け付けます.
 
(3) 南極教室@桐朋女子高等学校 7月13日(水)14:15~15:05 FENICS参加者募集!
 
FENICSと桐朋女子高等学校、桐朋小学校、むさしの学園小学校が合同し、南極の昭和基地にいる澤柿教伸隊長とつないだ南極教室が開催されます。会場は桐朋女子高等学校にて行われます。
 
FENICSの枠、参加希望者、まだ募集中です!もちろん親子もOKですが、
fenicsevent[at]gmail.com まで、参加ご希望の方のお名前を記してお申込みください。
参加はFENICS正会員(年会費1000円)に限らせていただきます。
 
(4) フィールドにおける調査者のジェンダー・セクシュアリティ
2021.10.20 (水)17:40~ FENICS共催イベント「これだけは知っておこう 留学/フィールドワークのリスクマネージメント」を開催しましたが、その記録がウェブ上にでましたのでお知らせいたします。

『Quadrante』No.24(2022)

 
また、その後、東京外国語大学では、学部生が必修である基礎リテラシーに「セクシャリティ教育」をいれることができました。大学院博士前期の必修「総合国際学研究基礎(言文コース・国社コース)」にも「フィールドワークとライフイベントについて」(担当:椎野)、「ハラスメント被害にあった時の対処について」(吉野先生)といれることができました。
 
ほかの大学等でも、ぜひとも必修で学生さんと情報を共有、話し合う時間をつくっていただきたく思います。
東京外国語大学の事例をお求めの場合は、FENICSまでご連絡ください。
 
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5. FENICS会員の活躍
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(1)吉國元(画家)さん
著者:吉國元 
タイトル:MOTOマガジンVol.002 Life under the Pandemic について
 2019年3月、日本に暮らすアフリカの友人たちを取材するMOTOマガジンを自費出版で発表しました。僕は美術家として、生まれ育ったアフリカのジンバブウェの経験に基づいた絵を描いていますが、一方で雑誌の出版は、日本社会の中にあるアフリカと出会いたいという期待から始まりました。
 創刊号は近所に住んでいたセネガル出身のバ・アブさんにムスリムとして生活することについてお聞きし、続く2号は約2年の準備期間を経て、このたび2022年4月30日に発表しました。この2年間は様々な出来事がありましたが、中心となるのは新型コロナウイルスの感染拡大による生活の変化です。バ・アブさんとは2020年9月に生まれた長男と家族について、また東京で行われた初めてのブラック・ライブス・マターのマーチについてお聞きしました。
 新たにインタビューをしたウガンダ出身のレベッカ・バビリエさんには、キリスト教徒としての信仰と故郷ウガンダについて、さらに日本で「外国人」として暮らすことについてお聞きしました。
 「移民」や「マイノリティ」として、一方的にアフリカ人たちを社会の少数として対象化しがちですが、彼ら・彼女たちも私たちを観察していることを忘れてはなりません。いわゆる日本人、日本社会はいざとなった時に、どのように反応し、行動するかをアフリカ人たちはしっかりと観ています。
 とはいえ、アフリカと日本は対極にある場所ではありません。異国の地で試行錯誤をしながら新しい人間関係を築こうと試みたり、あるいは故郷や家族を想うこと、死者を悼み、命を祝福すること、そういった一見自明な故に見過ごしがちな人間的な感情によって、私たちは繋がることが出来るのです。
 ぜひ多くの人に読んでいただきたい内容です。ご興味のある方は吉國元のホームページhttps://www.motoyoshikuni.com/magazineにアクセスし、お申込みフォームにてお求めください。
 
(2) 分藤大翼さん(FENICS正会員、フィールド映像術(FENICS 100万人のフィールドワーカーシリーズ15)の編者)
 
分藤大翼さんの制作された記録映画「からむしのこえ(英題は Voices of Karamushi)が下記の二つの国際映画祭にて上映されました。
国際的活躍、まぶしい限りです。
 
★カナダのケベックで開催された国際民族誌映画祭
日時:2022年5月19日(木)
会場:LIBRAIRIE SAINT-JEAN-BAPTISTE
公式サイト:www.fifeq.ca/quebec/
www.fifeq.ca/quebec/films/polyphonie-des-savoirs
 
★ドイツのゲッティンゲンで開催された国際民族誌映画祭
日時:2022年5月26日(木)
会場:聖パウリーナー教会(ゲッティンゲン )
 
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以上です。お楽しみいただけましたか?
みなさまからの情報、企画、お待ちしています。
 
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メルマガ担当 椎野(編集長)・澤柿
FENICSウェブサイト:http://www.fenics.jpn.org/