FENICS メルマガ Vol.118 2024/5/25 
 
 
1.今月のFENICS
 日本の季節のうち、過ごしやすい5月がもう終わろうとしています。さまざまな学会の時期でもあります。
FENICSとの共催でのフィールドワーカーのライフイベント・サロンも無事にアフリカ学会にて開催しました。16回目のライフイベント・サロンでした。初期からその開催に関わるみなさまにもご来場いただき、ライフイベントとともに生きるフィールドワーカーのロールモデルができつつあると感じます。しかし、直面する「問題」は30年前と変わらない、という指摘もありました。サロンの活動を通じて先輩・後輩もできつつあり、学界と社会の環境も少しずつ変えてこられていると信じ、また継続に意味があると強く思っております。
  
 また、未来のフィールドワーカーのため、5月15日に桐朋女子高等学校へ、高一を対象にフィールドワークのお話をしに伺いました。お題は「興味のあるテーマから問いをつくる」。お題をいただくと、どう伝えようかと改めて考え、勉強になります。日々変わる、高校1年の世界観とも触れられ、とてもいい時間でした。こうした活動、FENICSのネットワークを通じ、出講など依頼されたい方、また出講したい!という方はご連絡ください。
 
さて、本号の目次です。
 
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1 今月のFENICS
2 私のフィールドワーク(3)(松岡由美子)
3 FENICSからのお知らせ
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おさるの国からこんにちは No.3 「友人D」

    松岡由美子(東京外国語大学総合国際学研究科博士前期課程2年)
 
 皆さん、こんにちは。今回は友人Dについてです。彼女との出会いは、ルワンダ到着後間もない頃、家探しをしている時でした。
 私が住むことになった家は、塀で囲まれた敷地内に7つの小さな独立した家があり、1人の大家が所有しています。Dはその大家に雇用されているハウスガールです。ハウスガールとはルワンダでは住み込みのお手伝いさんのことです。私が理解している「ハウスガール」は、ルワンダの地方からやって来る10代の少女たちで、実家は貧困家庭、何らかの理由で学校をドロップアウトし、社会の下層にいることがほとんどです。

何らかの理由とは、実家の貧困や望まない妊娠であることが多いそうです。多くが英語を話すことは出来ません。彼女たちは、住み込んでいる家で性的な暴力を受ける危険が非常に高く、長期的な暴力にさらされる人もいます。仕事は家事、育児が一般的ですが、Dは敷地全体の修繕の手配や掃除、内覧希望者の応対です。加えて、住民が個人的に依頼する家の中の清掃、調理、洗濯も彼女の仕事です。私は、入居の際、隣人になったザンビア人ご家族のアドバイスにより、Dに洗濯とガスボンベや水タンクの買い出しをお願いし、月々謝礼を払うことにしました。

 Dについて私が初対面の時に驚いたのは、彼女が英語を話せることでした。さらに、生活を始めて2週間と経たないうちに、彼女の頭の良さ、外国人慣れしていること、生活能力の高さを認識しました。私とのやりとりから彼女は、私の言わんとしていることを直ぐに察知します。なかなかルワンダでは無いことです。彼女は4年以上ここで働いており、かつこの家の住民は家賃がルワンダ人にとっては高いため、ほぼ外国人が住んでいます。そして、後から聞いたことですが、彼女は小学校卒業後は進学せず、母親を手伝い家事、畑仕事をしてきたそうです。

 私はすぐに彼女と友達になりたいと思うようになりました。しかし、これもルワンダでは簡単ではありません。男女問わず、知り合うと数日後にはお金を要求される経験を沢山してきました。彼女からお金を貸して欲しいと言われないように、日頃モノをあげないよう工夫しました。日々の挨拶から、しばらくすると立ち話、そして夕方私の家の前のポーチで椅子に座ってのたわいの無いおしゃべりに発展しました。夕方、相手が見えなくなるまで様々な話をし、暗くなったら「また明日」とそれぞれに引き上げる。こんなささやかなことが私にとっては日々の喜びになりました。

彼女の朝は早く、毎朝6時ごろ敷地を掃き掃除している音がします。まだ寝ぼけながらベットの中で掃き掃除の音を遠くに聞くことで、いつの間にか私は彼女の存在を確認し、安心していることに入居から2ヶ月ほどして気が付きました。月に1度は起こる家のトラブルにその都度迅速に対応してくれる彼女はとても頼もしく、台所の水道蛇口が水圧でもげて、水道が噴水状態の時などは、真っ先に彼女に助けを求めました。隣人の騒音で私が怒り狂っているときも、彼女の存在に随分救われました。

Dを初めて我が家のお茶会に呼んだ日。彼女の着ているワンピースは彼女のお手製。一緒に写っているのは日本から遊びに来た友人たちと、男性はフイエに住む青年海外協力隊員。

ある日彼女がとても素敵なアフリカ布のワンピースを着ていました。私が褒めると自分で作ったとこのこと。びっくりしました。そして私に「布さえ渡してくれれば、採寸して作ってあげるよ」と言います。私は布を渡し、採寸して貰いました。そして翌朝、いつものように私がポーチで朝食を摂っていると、彼女がにこにこして後ろ手に何かを隠してやってきます。「サプラーーーイズ」と言いながら目の前に出したのは見事なワンピース。嬉しいやら、もう作ったの?という驚きやら、彼女を抱きしめました。友人にミシンを借り、ボタンは街で買ってきてくれたそうです。促されるまま、着てみるとポケットまでついています。彼女にいくら払えば良い?と聞くと「ノー、ノー。これはギフト。約束したでしょ。作ってあげるって」と言うのです。
 
入居した際、彼女とそんな事を話したことを私はその時に思い出しましたが、彼女は6ヶ月も前のことを覚えていてくれたのです。ハウスガールの給与は少額ですので、ボタンを買うのもその分食費を削るなどあるかもしれません。この素敵な彼女の気持ちとワンピース以来、私は彼女との関係性を少し進めることが出来ました。夕方のおしゃべりの時に、紅茶をサーブしたり、バナナを渡して2人で食べたり。しばらくすると、彼女は裏庭の空き地を耕し、そこで野菜栽培を始めました。私も日本のレタス、三つ葉、パセリを蒔きました。彼女と畑仕事をすることも日常となりました。彼女は収穫した人参を洗って持ってきてくれるようになりました。2人で野生猿の襲来から人参を守ろうとしたことも。さらに彼女は敷地の隅に小屋を作り鶏を飼い始めました。私がせっせと、卵の殻を砕いて鶏のえさに持って行っていると、数週間後には鶏の産んだ卵を嬉しそうに持ってきてくれました。「他の卵とは違うから食べてみて!」と。
  
 このように彼女とまさに日々を暮らしています。彼女がシングルマザーであること、父親は家出をして別の女性と暮らしていること、彼女の元「夫(正式な結婚はしていない)」のこと、キガリに住む兄弟達のこと、母親のこと、ジェノサイドのこと・・・。沢山話しをしました。彼女からルワンダヤング女性のことも沢山教えて貰いました。
 このような出会いがあることも、フィールドに住み続けることの喜びです。ルワンダ人はなかなか人を信用しません。信用できるのは家族、親族のみという彼らのメンタリディが、家族経営のNGO,企業の多さに表れています。ですから、彼女が私を信頼しきっているとは思っていません。それには時間が必要です。私が、ルワンダに戻ってくる理由がひとつ増えました。そして、彼女と彼女が必死に守り育てているお子さんが、二度と戦争に、紛争に巻き込まれないよう、私に出来ることをし続けていくつもりです。
 
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4. FENICSからのお知らせ
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(1) FENICS 共催サロン フィールドワーカーのライフイベントへの感想フォーム記入のお願い
 2024.5.19(日)に、ハイブリッドでアフリカ学会第61回大会実行委員会×FENICS 共催サロン フィールドワーカーのライフイベントを開催しました。会場の大阪大学、オンラインでもご参加をありがとうございました。イベントの様子はまだおってお知らせします。
今後のために、ご感想をお願いします。
 
(2) 6月7日(金)19:00~ZOOM FENICS総会

 FENICSはNPO法人です。運営は、みなさまの支援から成り立っており、年に一度、正会員が集まる総会を開催します。事業計画、正会員の情報交換を行います。
これを機に、正会員になり、総会にご出席ください!サポーター(賛助会員)もご参加いただきます。

 本メルマガも、寄稿者の好意によって成り立っています。また、異分野のフィールドワーカーの話が聞きたい、フィールドワーカーとして、フィールドワークの成果、フィールドワーク教育についての情報共有、フィールドワークをさせていただいたフィールドへの還元、などをお考えの際に、分野をこえたネットワークをもつFENICSをぜひご活用いただきたいです。男女共同参画、安全対策、アーティストとフィールドワーカーのコラボなどにも力をいれています。みなさまのご参加で、さらに拡張、深化していきたいと思います。

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