FENICS メルマガ Vol.117 2024/4/25 
 
 
1.今月のFENICS
 
 本号は遅れて発信となりました。。
 新年度、新学期が始まり、4月はさまざまな思いで迎えられたことでしょう。GWに投入し、本年度に調査(フィールド)に出るかどうか、予定もたてておられる方もいらっしゃるでしょうか。
 FENICSも、いま今年度の予定を計画中です。異分野の人と出会ってみたい、あるテーマについて情報交換・議論したい、と思っている方は、ぜひご一報ください。FENICSと何かしたい!と、お声かけいただければ幸いです。本メルマガに執筆なさった方をゲストにもっと話が聞きたい!というものでもけっこうです。
(fenicsevent[at]gmail.com)
 
 先だってお知らせしましたように、2024年5月19日に、ひさしぶりにフィールドワーカーとライフイベントのFENICSサロンを開催します。zoomでもご参加いただけます。フィールドワーカーをめざす若い方には、大変参考になるかと思いますので拡散もお願いいたします。それぞれのご所属の学会等とのコラボも歓迎ですので、ご相談ください。このたびは、アフリカ学会の開催実行委員会との共催、「人文社会科学系学協会男女共同参画推進連絡会」Gender Equality Association for Humanities and Social Sciences(GEAHSS略称ギース)より後援をえています。
 
さて、本号の目次です。
 
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1 今月のFENICS
2 子連れフィールドワーク(4:最終回)(中川千草)
3 お世話になった「フィールド」へどう還元するか(井本佐保里)
4 FENICSからのお知らせ
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2. 子連れフィールドワーク(連載:最終回)④(中川千草)
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気忙しく、発見つづきの子連れフィールドワーク(年長さん・ギニア編)4
 
  中川千草(社会学・龍谷大学・FENICS12巻『女も男もフィールドへ』執筆者)
 
「暇だった」。これは、ギニア滞在について聞かれた息子がよく口にする感想だ。近所の子どもたちと遊んではいたものの、「この子はみんなとは体力が違う。同じようには遊べないから気をつけてね」というわたしからの注意事項を誰もが忠実に守ってくれ、1時間ほどすると、暑くなってきた、疲れたみたいと部屋まで送り届けてくれる。しかも、到着前夜に起こった燃料貯蔵施設の爆発事故により、全国的にガソリン不足が生じ、予定通り出かけることができなくなった。息子は暇だ、暇だと言いつづけていた。その様子にわたしが耐えきれず、最後の手段としてとっておくはずだったiPadでのゲームを早々に解禁した。しかし、電力供給やインターネット環境がとても不安定なので、オンラインゲームはほとんどできなかった。もっともゲームアプリのダウンロードすらままならなかった。ますます「暇暇攻撃」が止まらない。

暇を持て余す息子

散歩をたくさんすることにした。通りを歩くと、あちこちから声がかかり、わたしは立ち話に興じる。「なかなか進まれへんやん!」「暑いから帰りたい!」と今度は文句が止まらない。不満が無くなることはなかったが、ことばを覚えて使ってみたり、大きな声で怒鳴るように話す人たちが「実は怒っているわけちゃうんねん」、「ギニアは、女の人は大人も子どももめっちゃ働くけど、男の人は何もしてないな」、「子どもが喜んでるから、電気が来たんちゃう?iPad充電しに帰ろ」と、散歩は、彼が現地の雰囲気を理解する機会となったようだ。

滞在半ばを過ぎたころ、ようやくガソリンが出回り出した。そこで、日本からギニアに帰省中の友人一家を訪ねることにした。一家のSくんは息子にとって兄貴のような存在。文字通り、小躍りして喜んだ。しかし到着後、息子の顔はみるみる曇っていった。無理もない。まず、Sくんは、幼なじみとどこかに出かけてしまっていた。残るは、ギニアンガールズのみ。常に小競り合いし誰かが泣き、誰かがママに叱られ、流行曲を爆音で流しては延々とダンスを繰り出す彼女たちのなかには入れない。息子は完全に孤立していた。「日本に帰りたい」。息子のこういう姿はめずらしく、今日はもう寝ようと言うことしかできなかった。

ゲームは世界共通のコミュニケーションツール

一晩明けると、息子は「昨日は、帰りたいとか言ってごめんな」とすっかり切り替えていた。寂しい気持ち、うまくいかないもどかしさを感じたら、大人でも泣き言を言いたくなる。それを自ら吹っ切った息子を見て、彼の葛藤に十分に寄り添えなかったことを反省した。今となっては、「いきなり仲良くなるのは、さすがに無理やろ〜」と他人事のように笑って話す。以降、息子は、喉が渇いた、お腹が空いたという以外、わたしのところには戻ってこなくなった。当然、日本でのルールや約束が全て崩れた。子どもを信じて見守る(目を離す)ということが苦手なわたしには、まさに試練だった。

女子とは遊ばない、歳上に従う、寝るまで家に帰らないと次第にギニア男子化した

息子は、6歳半で挑んだ3週間のギニア渡航を「僕もお母さんも大変やったなぁ」と振り返る。「暇やったけど、また行きたい。お友だちに会いたいねん」と話す息子との次回がいつになるかわからないが、いまから楽しみだ。ひとりでは知り得なかったことに気づき、ひとりだからできることを思い知る。「アフリカの水を飲んだ者は、アフリカに帰る」と言われるが、子連れフィールドワークの苦楽を味わった者は、また子連れフィールドワークに出かけるのではないだろうか。
(終)
 
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3. お世話になった「フィールド」へどう還元するか
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フィールドへの遠くからの関わり―家具でつなげる
 
   井本佐保里(日本女子大学建築デザイン学部・准教授)
 
日本女子大学建築デザイン学部の井本と申します。大学院生だった2010年からケニアに通い始め、「建築」という物理的なものを扱う分野の視点から、ケニアの社会のこと、居住環境のこと、子どもの教育環境について調査を行っています。特にナイロビのムクルと呼ばれるインフォーマル居住地を主たるフィールドとしています。
  
最初は大学院生、後に大学教員・研究者という立場で現地に滞在し、調査を行うわけですが、現地の人から「その調査によって私たちの社会や暮らしにはどういった改善が起こるのか?」といった類の質問をぶつけられることがあります。同様のことを経験したことのある研究者の方は少なくないのではないかと思います。特に、先進国から途上国のそれも貧困層が多く居住するインフォーマル居住地という非対称な関係の中で調査をしていれば、この問いを避けては通れません。
  
私が専門とする建築計画の研究成果は長期的に社会の制度を変えていくことを目指すのが一般的な分野で、「今、目の前のあなた」に対して何ら良い影響をもたらすことができないかもしれない、という無力さを感じる事も多くあります。自身の研究の意義や重要性が揺らぐことは決してありませんが、同時にどこか罪の意識や申し訳なさ、後ろめたさを感じることもありました。
  
そうした中、研究と並行するような形で、得に2015年以降は現地に介入し支援することを意識的に継続しています。調査でお世話になったノンフォーマルスクールの教室や用務員室の自力建設をワークショップ形式で行うことで、日本とケニアの建築系大学生が協働しながら環境改善を実践することがその始まりでした。さらに2020年のCOVID-19感染症拡大の中では現地での建設ができなくなったため、日本の学生が家具を制作して現地に輸送しました(メルマガVol.95,メルマガ vol.96,メルマガ vol.97に記事掲載)。

2021年に制作した家具(撮影Hayato Kurobe)

同時に、Mukuru Design Uni(http://www.mukuru-design-unit.com/)という任意団体をケニア人たちと共に立ち上げ、毎週土曜日に「Saturday Activity」(https://scrapbox.io/SaturdayActivityReport/)を運営し、ダンスなどの指導と給食の提供を続けています。2024年4月に開催回数は110回を超えました。毎回30-40人の近隣の子どもたちが参加し、地域で人気の活動になっているようです。また学校に通っていない子どもたちも利用してくれていて、彼らの居場所を提供する役割も担っているようです。遠い場所にいながらここまで続けられたのは、ひとえに現地で丁寧に運営をしてくれている仲間や活動を受け入れてくれている学校のお陰で、感謝の気持ちは絶えません。

Saturday Activityの様子(上が上級生、下が未就学児)


このように、研究とは異なった、直接的なフィードバック(支援)の手ごたえを感じると同時に、これはもう立ち止まれない、走り続けるしかないぞ、という状況にもなっているわけです。現在は、こうした活動に賛同いただいた方から活動資金の寄付をいただきながら活動を続けています。また、いただいた寄付額によって、現地の学校に寄贈した家具と同じモデルの子ども用家具をリターンとしてお返しする試みも開始しました。この家具は現地で3年間使用してくれていますが、大変好評で、かつ机や椅子の天板に手を加えるとかなり洗練されたインテリアにもなります。私自身も自宅や研究室で使いながら、色々とアレンジを楽しんでいるところです。

自宅に置いたオリジナル家具。天板にシートを貼ってグレーに

研究室の学生と共にデザインし制作した家具が、ケニアだけでなく日本の様々な場所にも展開していったら。またその家具を通して、日本の子どもがケニアとの繋がりを持つきっかけになったら。という思いです。もしよろしければ、以下のサイトより内容を覗いていってください。そして寄付を通じて家具を手に取っていただけると嬉しいです。
 
 
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4. FENICSからのお知らせ
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アフリカ学会が大阪大学で開催されるため、実行委員会と共催で、コロナ以降、ひさしぶりに対面でフィールドワーカーのライフイベントに関するサロンを開きます。
 
アフリカ学会第61回大会実行委員会×FENICS 共催サロン  
 
フィールドワーカーのライフイベント
「お互い院生、結婚・出産どう決めたお金は?日々の子育てのリアル」
 
日時:2024年5月19日(日) 11:50~13:00
 
場所:大阪大学 箕面キャンパス アフリカ学会第61回大会 E会場 (6階 632教室)+zoom
 
話者:大谷琢磨(フィールド:ウガンダ,人類学/JSPS RPD/ 立命館大学)
   関野文子(フィールド:カメルーン,人類学/京都大学ASAFAS)
    +瑳奈ちゃん(2歳)

聞き手:稲井啓之(日本学術振興会 RPD特別研究員/ FENICS)

お申込みはこちらから(5月17日17:00まで)→ https://forms.gle/eePyD2UEF8Nd4jDq6
 
後援:
Gender Equality Association for Humanities and Social Sciences(GEAHSS略称ギース)
 
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以上です。お楽しみいただけましたか?
みなさまからの情報、企画、お待ちしています。
 
 
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メルマガ担当 椎野(編集長)・澤柿
FENICSウェブサイト:http://www.fenics.jpn.org/