FENICS メルマガ Vol.120 2024/7/25 
 
 
1.今月のFENICS
 猛暑が、やってきました。
昨年夏、一か月ほど調査に行って帰ってきたら、車のオーディオが壊れていました。おそらく車内の熱によるものと思われます。コンピュータ化した車の機器類は、今後、この暑さにどのくらい耐えられるのでしょうか・・これからお出かけの方も多いかと思います、ご注意ください。
 「私のライフイベント」では、今回は大谷琢磨さんが寄稿くださいました。「若手」の方からの意見で、フィールドワーカー(もしくは調査研究者」)のライフイベントについてとりあげるのはいいことだと思うが、自分を含めそこにまで達しない人が多くいる。それは指導教員から同世代までの、(ここで大谷さんのいう)「慣習的」価値観のために苦しんでいるためであると。本メルマガも含め、声をかさねていく場としたいと思います。

さて、大変遅れましたが2024年7月号の目次です。
 
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1 今月のFENICS
2 私のライフイベント(大谷琢磨)②
3 子連れフィールドワーク(椎野若菜)②
4 FENICSからのお知らせ
5 会員の活躍
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2. 私のライフイベント
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「お互い院生、結婚・出産どう決めたお金は?日々の子育てのリアル」②

「慣習的な男性観と研究と子育て」

  大谷琢磨(アフリカ地域研究・文化人類学/日本学術振興会RPD・立命館大学)

2024年アフリカ学会において、夫婦で学生結婚するまでのことをお話しした。今回は、夫の視点から当日お話しした内容をご紹介する。

 
私は1年9か月勤めていた前職をやめて、2015年に一貫制博士課程の大学院に入学した。2人の関係の時系列的な進展についてはすでにパートナーのエッセイで紹介されているのでここでは割愛する。いわゆる学生結婚をするまでに、どのようなことを考えてきたのかについて焦点を当てる。
  
私はこれまで結婚や子育てへの決断をするタイミングで、毎度、「定職につかずお金もない学生なのに」という理由で躊躇してきたのだが、実際に経験してみるとこのような不安が漠然としたものだったということを感じる。しかし、この考えは硬く自分を縛っていて、その根本は自分のなかの人生観や男性観だった。「仕事をして給料を得て一人前」「男が家庭を養う」という考えを古いと感じるのだが、いざ自分事となると、これらの観念が重くのしかかってきた。パートナーが何度「学生でもなんとかなる」「一緒に支え合って生活しよう」と言っても、その縛りはなかなかほどけなかった。結局、パートナーからその不安がいかに実態にそぐわないものか、エクセルで作られた表を見せられながら論理的に説明されてようやく気持ちに踏ん切りがついたほどだ。
 
すでに述べた男性観、家庭観は昭和的な観念で時代錯誤だと批判するのは簡単だが、周囲の男性たちのあいだには根強く残っている。このお話をした後、同種の観念に過去縛られていたというコメントを先輩研究者から受けた。また、本イベントの参加者の8~9割は女性だったことは、男性のあいだの慣習的な観念に対する疑いや批判の視点が薄いことを示しているかのようだ。
  
結婚や子育てを経験した後では、先生方や先輩から「子どもが生まれて責任感が生まれてしっかりした」「子どもを養わないといけない」などと声をかけられた。自分もPDやRPDの申請書作成や、博論の執筆をしている際には、頭に子どもの姿が何度も思い浮かび、「家族を養う」ということへのプレッシャーや焦りを感じて奮起した。確かに、博論の執筆などについては、独身の頃は自分のタイミングでとズルズル引き延ばしていたのだが、子どもが生まれることが分かると・・・
つづきは「イベントリポート」へ:https://fenics.jpn.org/event_repo/otani-2024-5-19/
  
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3. 子連れフィールドワーク
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5歳児と10歳児とともに、ウガンダ調査へ 2023夏
  
      椎野若菜(社会人類学 東京外国語大学)

 今回の地方での調査では、私の研究関心であ一夫多妻にまつわる話を、義理の父母それぞれに改めて聞こうと決めていた。私の夫の父は現在80歳手前で、複数の妻をもつ複婚者だった。
  
  義理のキョウダイたちが首都カンパラで集まっているときに、キョウダイは何人?と聞くと、みなで母Aからはだれそれ、母Bからは・・・と数え、30を超えていた。複婚家庭で育ったキョウダイたちと、その母親たち、複婚家族となっていった経緯・・・。その実態をなかに入って聞けるのは、私の研究上なかなか興味深いことだ。  
  
 子どもたちにも、祖父母にインタビューがあるんだよ、と言い聞かせて、首都カンパラから270kmほど西方の地方へ一週間弱、滞在することにした。まず義父を中心に(私の質問の答えが分からないと義母にいちいち聞く)二日ほど、その次に義母とござを敷いてふたりでだけの時間を二日間もった。あらかじめ頼んでおいたので、昔の写真を多く準備しておいてくれた。白黒写真を指差しながら、夫自身もまったく知らなかった、義父の若い頃、そして義父自身がよく聞けば人類学でいう「レヴィレート」(亡夫の兄弟と残された妻が結婚に類似した関係をもつ)によって生まれた子であったこと、さらに義父自身も寡婦を引き継いだことがあること、その昔話のなかに、時代のうねりと慣習の実践がみえた。ウガンダという国がさらされてきたイギリスから独立以降の政治的紛争の歴史が、個人史の中にもはっきりとみえた。まだ、「昔」のことではないのだ。さらに義母と二人きりで話したときには、ぽろりぽろり、と結婚を決めたときのこと、新婚生活を始めてすぐに、第二夫人を連れてこられた話など、同じ女として、心がきりりと痛む場面が何度もあった。義母の結婚した頃の写真からは、義母は当時では珍しく高等教育を受けた、知的で凛とした美しい人であったことが分かった。追って、この個人史に関することは、発表の機会をもちたい。
 

昔の写真をだしてもらい、話をすすめる。子どもたちも寄ってくる。

 子どもたちは、そんな私たちのまわりをうろうろしに来たり、祖父母の家にいる子どもたちと遊んだりしていた。アフリカでは、同居家族の構成がひっきりなしに変わる。1年前にはみなかった子、いなくなっている子がいるものだ。前の年(2022年)も空手ごっこでもりあがっていた長男Jと同い年の男の子はJのイトコであったが、その子の母が生後まもなく置き去りにしに来たのだと今回、初めて義母から聞いた。母の顔を知らないのだという。またもう一人の同じ年ごろのミラクルという名の男の子は、生後すぐに溝に置き去りにされているところを村人に拾われ、この複婚家族なら育ててくれるのでは、祖母のところに連れてこられたのだという。よくぞ生きていた、という意味で「ミラクル」と呼ぶようになったという。
 朝も、彼らは祖母に指導をうけながら手で自分たちの衣服を洗濯していた。遊んでいても、すぐに用事で呼ばれるのは前の年と同じだ。
 

祖母とイトコとランチを料理する

 長いインタビューの一区切りで、子どもたちをみると、みな楽しそうに遊んでいる。Lはすっかり、田舎の子の真似をして裸足で走り回っていた。お昼は庭を歩いている鶏の新鮮な卵とトマトで料理した。
 Jに、彼と同年代の、共に遊んだ子どもたちの背景があまりにもJやLと異なることを、西部をあとにしてから話をした。驚いたJは、この話題を子どもの人権にかかわる夏休みの宿題の作文に書いた。
(つづく)
 
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4. FENICS会員の活躍
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椎野和枝(正会員)+椎野若菜
 
スタンディング「子どもたちのために核なき世界をめざそう」
 
日時:2024年8月6日と9日 18:30~19:30
場所:小田急線新百合ケ丘駅OPA前
 
ヒロシマ・ナガサキ関連の書物展示
ポスター展示 参加作家:吉國元と椎野ジェイソン・椎野ルーカスによる合作、小田マサノリほか
演奏:椎野ジェイソン(Violin)
朗読:話芸写、市民のみなさん
 
毎年恒例の、ヒロシマ・ナガサキのためのスタンディングを行います。
8月6日、8月9日にヒロシマ・ナガサキで何が起こったか、夕方のほんのひとときですが、一市民として考えてみませんか。市民ひとりひとりの考えと小さな行動の積み重ねが、世の中を動かすはずです。
 
核兵器禁止条約は2017年7月に国連で賛成多数で採決されました(2021年1月22日発効)が、日本は条約に安全保障の観点が踏まえられていないといって署名も批准もしていません。2025年3月に開催される、核兵器禁止条約3回締結国会議へ、日本政府のオブザーバー参加を求める地方議会や広島、長崎の高校生の署名活動が行なわれています。
 
今年のスタンディングでは『世界原爆詩集』大原三八雄編(S49 角川文庫)より、参加者が思い思いの詩をセレクトして、朗読することもやってみたいと思います。
本書には名の知れた詩人によるものから、小学生の子どもの詩まで、さまざまなものが収録されています。
 
新百合ヶ丘付近にお住まいの方、小田急線沿線の方、本企画に関心のある方は、ぜひふらりといらしてください。
アピールの絵やポスター、書籍など、思い思いのものをもっていらしゃるのも歓迎します。
子どもたち、学生さんにもお声かけください。
 
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以上です。お楽しみいただけましたか?
みなさまからの情報、企画、お待ちしています。
 
 
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