FENICS メルマガ Vol.103 2023/2/25 
 
 
1.今月のFENICS
 
あっという間に、春めいてきました。
月初めには、トルコで大地震がありました。日に日に、被害者数が増す報道に心が痛むとともに、3月の東日本大震災の日をむかえるにあたり、日本の地震と原発の今後、についても切迫して考えさせられます。
 
2年、3年ぶりの海外調査にでかける方、しかも子連れで出かけている方もいらっしゃるようです。
編集者も、来月初めからアフリカに出かけます。2年、3年のブランクの間に身体的感覚も鈍り、また実際にさまざまなシステムが変更していることが多く、戸惑います。ケニアの場合、もはやe-visaを取得していなければ入国を拒否されることになりました。
  
FENICSでは、来年度の企画を少しずつ練っています。もし、みなさんのほうでFENICSとコラボをご希望の企画をお持ちの場合、気楽にお知らせください。fenicseventあっとgmail.comまで!
フィールドからの便りも、お待ちしています!
 
さて、本号の目次です。
 
ーーーーーーーーーーー
1 今月のFENICS
2 私のフィールドワーク(佐藤靖明)
3 子連れフィールドワーク(連載⑤終)(椎野若菜)
4 FENICSからのお知らせ
5 FENICS会員の活躍
ーーーーーーーーーーー
 
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
2. 私のフィールドワーク
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ホースセラピーの面白さと学生実習 (続)

      佐藤靖明(民族植物学/『衣食住からの発見』編者/長崎大学)
  
ホースセラピーは、乗馬の場面だけに注目されがちである。しかし、ナチンさんの導きによって牧場を見ることで、馬のまわりの環境、馬、障がい者が相互にかかわり、立体的な関係で結ばれた場がつくられているという認識をもつことができた。すると、学生に調べさせたいことが次から次へと湧き出てきた。個人的には、馬という動物と障がい者のあいだでどのようなコミュニケーションを交わされているのか、という点にとくに関心を抱いた。
  
 実習では、調査地と調査方法についてのガイダンスをしたうえで、5月に受講生全員で牧場を訪れてあいさつした。そして見学をとおして、どんなテーマを調べることができそうかを考えてもらった。いわゆる問題発見の段階である。その後、学生からのアイディアをもとに5つの班をつくり、各自で調査計画を作成して調査をおこなわせた。その過程で、乗馬体験のボランティア活動をした学生もいた。また、ナチンさんにも来校いただき、学生からのインタビューに応じてもらった。

「ホースセラピーの牧場と馬」

 2022年7月には報告会を開催して、各班は「人間の態度に対する馬の反応」「ホースセラピーの効果」「長崎市における乗馬施設の意義」「モンゴル牧畜社会からみた日本の家畜飼育環境の課題」「馬の物語をつくる」というオリジナルな研究発表をおこない、さまざまな角度からホースセラピーの知見を深めた。  
  
 報告会には南高愛隣会の牧場関係者も来られ、インタビューの対象者から公開の場で直接コメントを頂くことができた。牧場管理や障がい者支援の業務を日々おこなっている方々は、多様な視点からホースセラピーをとらえる学生の視点に新鮮さを感じたようだ。
  
 じつは、この馬の牧場は、あぐりの丘の運営方針が変わったこともあり、実習期間後に長崎市内から撤退することになった。図らずも学生の調査が貴重な記録となるため、ぜひ冊子として残したいと考えている。
 なお、この実習成果を生かしてホースセラピーの研究を発展させるため、長崎大学の「地域共同研究支援事業」として、2023年3月12日(日)に開催するシンポジウムの準備を進めているところである。
https://www.airinkai.or.jp/one-welfare「乗馬療法シンポジウム「One Welfare 動物介在療育法の可能性」、
ご関心があれば、ぜひともご参加ください。オンライン参加も可能です。
 
(終)
 
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
3. 子連れフィールドワーク(連載⑤)(椎野若菜)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 
コロナ禍での子連れアフリカフィールドワーク:ウガンダ⑤
 
    椎野若菜(FENICS・東京外国語大学・社会人類学)
 
田舎のアフリカン・ロッジ
真っ暗な雨の中、カンパラからのサファリの目的地である北部リラに入り、その田舎町のある一角の知り合いのロッジになんとかたどり着いた。アフリカの「ロッジ」とはふつう、食事を出さないので、火をお願いする。するとおじさんが炉に炭火をおこしてもってきてくれた。お湯をわかして持参した缶詰、パスタを子どもたちは食べる。子どもたちは珍しい環境に大はしゃぎ。Lは私が以前お世話になったおじさん(おじいさん)になつき、おやすみなさい、を言いに行きたいという。

リラのロッジで、なついたおじさんと

田舎のロッジは部屋の隣にあるバス・トイレのにおいもばっちり、夜は真っ暗。さらに寝室には多くの蚊がおり何重奏もの、オンパレードで奏でている。子どもたちはとにかくびっくりしつつ、大はしゃぎで蚊帳の中で眠りについた。私自身もJを出産前に訪ねて以来、つまりは10年も北部のフィールドを訪れていなかったので、いよいよ、ひさしぶりの村へ行ける!と心中、大変どきどきしていた。そして、フィールドを離れてから得た自分の家族——夫、子どもたちを連れていくことに、複雑な興奮と嬉しさを感じていた。
  
西部出身の夫は、北部にはまったく馴染みがない。同じ国の人間でありながら、未知の土地で、彼も外部の人間であり、観察モードだ。そして、彼の関心事である国の政治の議論を、なにかといえば会う人びとにふっかけて意見を聞き出している。

私が寝泊まりしていた小屋のまえで。「ええ!ここで寝てたの?」とJ。

子どもたちと村へ  
記憶を頼りに、村に入っていく。少々迷いながらも、私が暮らしていたコンパウンドにたどり着いた。私がかつて寝起おきしていた小さな小さな小屋は、まだ残っていた。当時はなかったセメントづくりの母屋もあり、ウサギもいて、大きな立派な鶏小屋もあり・・・現金収入を得るための努力がみられた。さらに、村内には中東にハウスメイドとして出稼ぎにいった娘が建てている、という建設中の家もあった。確実に近年の変化が凝縮して村空間に見られる。子どもたちにとって、草ぶきのアフリカン・ハットは初めて、多くの鶏、ヤギ・・・Lはヤギに近づいていく。Jは恐る恐る、鶏を抱いてみる。次回は、泊まれるだろうか?村の子どもたちが、遠くからLとJをじっと見ていた。
  
現地食と子どもたち  
マッシュドマトケ(料理用バナナ)も、ヤギ肉も、案の定食べてくれない。日本の牛肉よりちょっと癖のあるウガンダビーフのシチューだが、トマト味が勝っていると、パラパラのインド米とでも、食べるようになってきた。
それがだめなときは、ひたすら、パンにバター(あるいはマーガリン)にミルク。パンやミルクも初めはメーカーにこだわりをみせ、「黄色いパンは食べない」などと言っていたが、徐々にいつ自分が食べられるものが手に入るか分からず「いま食べておかねば、飲んでおかねば」精神が働き、文句を言わずに飲み食いするようになっていった。

シチューのスープとインディカ米のランチ。大人はバナナマッシュ(黄色いもの)、ピーナッツソース、シチュー



コロナ禍のブランクを超えて  
ウガンダにいる間、Jも慣れてきて、少しずつは車窓から気づいたことを、少しはフィールドノートに書くようになった。  
コロナ禍のブランクを超えて、また私自身は出産というライフイベントのブランクを超えての、久しぶりの村落訪問であった。4歳のLは、帰国後、「ぼくはもうすぐウガンダ人になるんだよ」と祖母に言うようになった。自らの肌の色の変化、日本人、ウガンダ人、そして自分、と彼なりに考えだしている。日本の小学校入学以来、アフリカを訪れず3年、日本にどっぷりつかってきた10歳のJ。自分と同じくらいの子どもたちの異なる境遇を目にしながらも、まだどう捉えてよいかは分からない模様。来月からは、ケニアのフィールドワークにも同行することになっている。10歳が何をみるのか、さらに混乱するのか。10歳フィールドワーカーの経験がどうなるか、親は勝手に楽しみにしている。
 
(終)
 
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
4. FENICSからお知らせ
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 
1) 2023年2月6日(月)FENICSサロンを’Being an Artist reflecting Africa and Japan’(アフリカと日本、2つの社会を生きること、描くことについて)実施
吉國元さん(画家)×ポール・カニ(コンゴ共和国出身 画家)をむかえ、FENICSサロンを開催しました。
吉國さんはご自分の作品を会場に一点もってきてくださいました。ジンバブウェで生まれ、少年期まで過ごした記憶から、どのような絵を描いているのか、吉國さん自身の紹介があり、その後、吉國さんが帰国間近のポールに、彼のアート活動を聞き出す形でトークが進みました。  

吉國元さん(左)とポールさん(右)



ポールは日本に来て、東京外国語大学の映像づくりを行っているグループと協力し作った作品を公開しました。ポール自身が日本に来てから発案し書き下ろしたLGBTI+にも関する学生生活にフォーカスがされており、アフリカにおいてはチャレンジングが内容でした。参加者は東京外国語大学の留学生をはじめ、客員のアフリカ人教員、近隣の大学のアフリカ人留学生、アーティストなども参加がありました。アフリカ人参加者からは、ポールの描く兵士と子どもの絵について、単純な図式すぎる、子どもがいる男性が子どものために兵士となっている場合が多い、LGBTI+の描き方、についても鋭い指摘があり、議論が盛り上がりました。  
今回は帰国前の若きアーティストポールが中心のトークイベントとなりましたが、吉國さんとの彼の作品を知る機会も設けたく思います。ポールから発せられる英語でのはなしをすぐに日本語でまとめながら、日本語話者もともに、と見事な進行をしてくださいました。機会があれば、また報告したく思います。
  
2)2023年2月17日(金)に、ECフィルム連続上映会20 「透明生物、クラゲとその仲間たち」開催

ECフィルム上映会ががFENICS協力のもと、開催されました。

2023年3月3日(金)18:30〜20:30、すごい民族誌映画がみたい! 第四夜「ワラワラ藁!」
~世界中の知の記録の集積 EC映像より出づる 異形なモノたち~」と題し、EC上映があります。ご関心のある方は、こちらへhttp://ecfilm.net/show/2023-3-3
 
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
5. FENICS会員の活躍
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
正会員の飯塚宜子さん主催のマナラボ(http://manalabo.org/)が、東京にて「体験型ワークショップ 着る!踊る!創る! みんなで世界を旅しよう! 2023 地球たんけんたい「バリ島の仮面で変身しよう!」というイベントを開催しました。
いつもは京都を会場に開催されていますが、初めての東京でした。
現地の衣装、仮面を実際に装着し、現地の名前を参加者が名乗り、今回はバリ島の世界を老いも若きも体験しました。
企画アイディアがある方、ご関心がおありの方、飯塚さんの活動に注目です!またFENICSでも紹介していきます。
 
~~~~~~
:::
 
以上です。お楽しみいただけましたか?
みなさまからの情報、企画、お待ちしています。
 
====--------------======
お問い合わせ・ご感想などはこちらよりお寄せ下さい。
https://fenics.jpn.org/contact/
メルマガ担当 椎野(編集長)・澤柿
FENICSウェブサイト:http://www.fenics.jpn.org/