FENICS メルマガ Vol.113 2023/12/25 
 
 
1.今月のFENICS
 
年末のお届けとなりました。みなさまの一年はいかがだったでしょうか。
12月9日に沖縄で開催したFENICSサロン×ジェンダー・セクシュアリティ人類学研究会「もろさわようこを語るー沖縄・うちなあの家に集う」は、本土出身である女性史家・もろさわが、「沖縄の人々の受難の相と抵抗のたたかいは、いま全国紙で報じられることはほとんどなく、沖縄をおとずれてはじめて知らされることが多い。・・・沖縄から学ぶ開かれた拠点があったなら」と全国から寄付を集めて建てた「うちなあの家」で開催しました。もろさわの視点と行動は、フィールドワーカーに共通したものがあります。次世代に継承されているかは大きな課題として残りましたが、ある記者のまとめが沖縄タイムスに載りました。https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1280159
 
また、このイベントの直前にも、たいへんなニュースが舞い込んできました。FENICS100万人のフィールドワーカーシリーズ1巻『フィールドに入る』で的場澄人さんの章に登場し、また13巻『フィールドノート古今東西』で寄稿いただいた、北極探検家・山崎哲秀さんが、11月末にグリーンランドで消息を絶ったままです。
山崎さんの探検家としての活動は犬ぞりを使うために犬たちの飼育から、現地の人びととの深い関係の構築に基づいていました。フィールド研究者への尽力と熱意、それをどう継承していくか。下記に、朝日新聞によって紹介された記事のリンクをご覧ください。もし、なにかFENICSとご一緒できる動きがあれば、と思っております。
 
さて、本号の目次です。
 
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1 今月のFENICS
2 子連れフィールドワーク(9)(杉江あい)
3 フィールドワーカーのおすすめ:本(小佐野アコシヤ有紀)
4 FENICSからのお知らせ
5 FENICS会員の活躍(飯塚宜子・山崎哲秀)
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2. 子連れフィールドワーク(連載)⑨(杉江あい)
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子連れフィールドワーク@陸前高田⑨
 
               杉江あい(人文地理学/京都大学文学研究科)
 
 フィールドワークのために岩手県陸前高田(以下,高田)に行ったのは,2018年からこれまで全部で8回。前回は,Covid-19対策がずいぶん緩んだことがわかる7回目フィールドワーク(2023年2月)の様子をお届けした。今度こそ最終回となる今号では,直近に行った8回目のフィールドワークの様子をお届けする。
 
高田では例年8月7日に,七夕飾りで彩られた山車を引く「うごく七夕」(高田町),そして,七夕が飾りつけられた山車をぶつけあう「けんか七夕」(気仙町)が行われる。毎年行きたいと思いつつ,校務などに重なってしまって一度も参加できずにいる(手元に掲載できる写真がないので,代わりにこちらを。https://takanavi.org/event/tanabata2023/)。
  
2023年も日程的に諦めざるを得なかった。そのため,8月はまずバングラデシュに行き(8月9日~20日),帰国して2日後に陸前高田に向かった(8月23~27日)。ハードスケジュールになってしまうので,どうせ七夕の日に行けないのなら,高田には9月に行こうと思っていた。しかし,2023年度から上の子が小学生になり,学校を休ませてまでフィールドワークに同伴させることを家族から反対された。上の子は高田を再訪するのをいつも心待ちにしており,下の子だけを同伴させるのはかわいそうなので,強行スケジュールになったが8月に2つのフィールドワークを詰め込むことにした。23日は早朝に出発したのと,それまでの疲れが出て,行きの電車では3人とも爆睡した(写真1)。

写真1:一ノ関からの気仙沼に向かうJR大船渡線で爆睡する親子(撮影:Yちゃん

今回も6~7回目フィールドワーク同様,夫が仕事を休めなかったので同級生のYちゃんに同行してもらった。今回はこれまでのフィールドワークで子どもを見ていただいていた保育士のDさんやその保育仲間の方々がお忙しかったので,新たに元保育士のSさんをご紹介いただいた。Sさんは高田に住んでいる2児のお母さんで,3か月の赤ちゃん同伴で子どもたちを見てくださった。7回目と同じく,一般社団法人トナリノが管理するコワーキングスペース「ヤドカリ」をお借りしたのだが,ここは授乳やおむつ替えのスペースが完備されているので安心だった。一方,私は子どもたちがSさんの赤ちゃんを無理やり抱っこしたり,汚い手で触ったりしないかが心配で,事前に子どもたちに言い聞かせておいた。しかし,Sさんは赤ちゃんのお世話をしたがる年頃の子どもたちの要望を優しく聞いてくださり,いっしょに抱っこしたり,なでなでしたりさせてくださっていた。お別れのときには心のこもったプレゼントを子どもたちだけでなく,Yちゃんと私の分まで用意してくださっていて,感激した。高田の方がたの暖かさを改めて感じた。

写真2 「俺っち」でいただいた牡蠣とかつお(撮影:上の子)。両方とも大きさ,厚さが半端ない。かつおの手前にある瓶入りの「マスカットサイダー」は,高田の神田葡萄園の看板商品であるが,2024年3月で製造終了することが決まっており,根強いファン(私と子どもたち含む)から惜しまれている。

今回の宿泊先は,6回目のフィールドワークと同じ旧米崎中学校の仮設住宅体験館(https://311kasetsu.com/,以下体験館)である。ここでも感激することがあった。この体験館での宿泊研修を運営している防災士のBさん(2023年9月号,10月号参照)は,6回目のフィールドワークで連泊したとき,私たちに体験館の感想や要望などを聞いてくださった。その際,宿泊研修の一環として,また体験館の周りに飲食店や食品店があまりないこともあって,Bさんは体験館で防災食を販売することを検討していた。私はダメ元でBさんに「ハラールの防災食があると嬉しいです!」とお伝えしていた。今回,なんとBさんは本当にハラール対応の防災食を用意してくださっていたのである(アレルギー対応食もあり)。さっそくハラール防災食のピラフといちごクッキーをいただいた。ピラフは袋を開け,お湯を入れて15分くらい待つだけ。防災食とは思えないおいしさだった。量もたっぷりだったので,子どもたちとシェアしていただいた。また,今回泊った部屋にはおもちゃ(本当は仮設住宅での暮らしをイメージするための展示品)がなかったので,快く他の部屋から貸し出してくださった。さらに,今回は帰りの日,朝一で名古屋に帰る計画を立ててしまっていたために,Bさんにはいろいろとご迷惑をおかけしてしまった。これからは時間帯やいろいろな条件を考えて予定を組まなければ,と反省した。

もう1つ反省したのは,今回のフィールドワークでBさん,Gさん(2023年10月号参照)と夕食をごいっしょさせていただいたのだが,私の段取りが悪く,行く予定だったお店がお休みだったことである。急遽,体験館から離れた中心地のお店「俺っち」に車で連れていっていただいた(写真2)。はしゃぎまわり,Bさんのおひざに居座る下の子にも優しく接してくださり,申し訳ないばかりだった。

こうして,いろいろな方々のご厚意に甘えて今回のフィールドワークも無事に終えることができた。上の子はこの原稿を覗き込みながら,「今度はいつ行けるの?」と,やはり高田への再訪を待ち遠しくしている。

高田で暖かく迎えてくださる方がたに改めて感謝いたします。連載をはじめて早8か月,読者の皆様もここまでお付き合いくださり,ありがとうございました。
(終)

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3. フィールドワーカーのおすすめ:本
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『ガーナ流 家族のつくり方 世話する・される者たちの生活誌』(東京外国語大学出版会)
小佐野アコシヤ有紀
 
四六判・並製・総ページ256頁 
ISBN 978-4-910635-08-8 C0095
2023年12月12日発売 2200円(税抜)
 
小佐野アコシヤ有紀(東京外国語大学国際社会学部アフリカ地域専攻卒業(2020年度)。交換留学生としてガーナ大学に在籍時、フィールドワークを行う)

『ガーナ流家族のつくり方ー世話する・される者たちの生活誌-』より

この本は、現代ガーナ、そして日本のガーナ人コミュティの血縁を超えた「家族」関係をテーマにしたノンフィクションだ。それはまた、2018年から4年半以上続くフィールドワークを通じて、私自身がそれまで抱いてきた家族観を問い直し、周囲との関係性を再構築していく再生の物語でもある。
日本の山間部で、親族と日常的に顔を突き合わせながら育ったの私にとって、家族とは「血でつながった温かくて親しい人たち」のことだった。というよりも、そういうものだと自分に言い聞かせ、例外には目を瞑りながら生きてきたと言った方が正しいかもしれない。
  
しかし、そんな私の思い込みは、2018-2019年のガーナ留学時の経験によって鮮やかに打ち破られる。現地の人々にとっての「家族」関係は、日々世話すること・されることを通じて血縁を超えて作り上げられていく、流動的なものだったからだ。愛を与えることも奪われることも恐れない彼らは、ある日ポッと現れた私すらも、躊躇なく「家族」のつながりに巻き込んでいった。
  
彼らとともに生活するうちに、私はそのような「家族」関係がどのようなプロセスで形成され、継続されていくのかに強い興味を持つようになった。そしてこの点を、フィールドの人々の人生についての語りを通じて明らかにしたいと考えたのである。そのことを伝えると、フィールドの人々は鷹揚な態度で応えてくれた。
「いいことも悪いことも、すべては過ぎたこと。そして私の人生について知っているのは私だけじゃないんだから、(あなたに共有するのも)ただ普通のことよ」
 

「フライドライスをつくるパパ・プリンスとクワメ」 『ガーナ流家族のつくり方 -世話する・される者たちの生活誌-』より引用

そんな彼らを前にして、しかし、私は透明な調査者にはなれなかった。それは彼らの語りの豊かさに、私自身が強く心を揺さぶられてしまったからだ。故郷の家族との関係性や、どうやら自分を強烈に縛っているらしい「家族はこうあるべき」という思い込み、そしてこれらふたつのギャップに足を取られてもがいている自分自身と、私は向き合わずにはいられなかった。そしてそうすることでしか、彼らに対する誠実さを示せないと思った。
留学を終え、世界がコロナ禍という時代のうねりに吞まれてもなお、私はオンラインで「家族」関係に関する聞き取り調査を継続していた。今度は日本にいながら、ガーナの「家族」のことを考えていたのだ。そしてなぜか、彼らも私のことを忘れなかった。
  
露悪的な言い方をすれば、ガーナの家族を通じて自分自身の家族観を見つめ直すという私の当初の試みは、「自分を癒すためにガーナを使っている」とも受け取られかねないものであったと思う。実際そうではないのかと、私自身何度も自分に問うた。しかし、コロナ禍によってフィールドと引き裂かれる経験を通じて、私が現地の人々と関わることへの意味付けは大きく変化していった。私はいつの間にか、「何が人々を家族たらしめるのか」ではなく、「何が私たちを家族たらしめるのか」について知りたくなっていたのだ。
  
この本で描いたのは、血縁を超えた「家族」関係をめぐる、私や調査協力者たちの個人的な物語である。でもそれは決して、特別なものではない。それは読者であるあなた自身も、多かれ少なかれ、「血がつながった温かくて親しい人たち」からは外れた関係性を含む家族関係のなかで育ってきたのはないかと思うからだ。
この本を読んでいる最中、もしあなた自身が自分の「家族」のことを思い出し語りたいと思ってくれたのなら、そして実はあなたの周りのあちこちにも、ガーナの「家族」に似た関係が存在している・してきたことを見つめなおしてもらえるのであれば、とても嬉しい。

(小佐野Akosua有紀 「どこにでもある家族関係について」『ガーナ流 家族のつくり方 -世話する・される者たちの生活誌-』を筆者により一部抜粋、加筆変更。)

 
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4. FENICSからお知らせ
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新年、明けてから二件のイベントを計画しています。ぜひ、お越しください!
 
(1) 2024.2.7(水)13:20~15:00@東京・桐朋女子中学・高等学校 ボロニアホール
 
現場の話を聞いて、考えよう!フィールドワーカーを育てるFENICSサロン
雪と氷の世界からせまる地球環境~立山と南極~
  
お話
澤柿教伸さん(前第63次南極地域観測隊 越冬隊長/FENICS副代表)
福井幸太郎さん(立山カルデラ砂防博物館)
  
昨年、FENICS副代表の澤柿教伸さんが隊長として南極に居られる時期に、南極と桐朋学園をつないで、「南極教室」を開催しました。桐朋女子の高校1年生とむさしの学園の4,5年生が参加しました。
今回は、無事に日本に帰国した澤柿教伸さん(前第63次南極地域観測隊 越冬隊長/FENICS副代表)が、実際に桐朋学園を訪れ、南極での経験をお話します。また、同じく南極地域観測隊で越冬の経験があり、また日本における氷河の発見者となった福井幸太郎さん(立山カルデラ砂防博物館)にもその発見にいたったエピソードもふくめ、富山県立山からの事例をもとにお話しいただき、参加者で地球環境について考えたいと思います。
 
(2) 2024.2.18(日) 13:00~シンポジウム「なぜ日本のジェンダー指数は低いのか」/15:40~「若手」・女性のためのテーマ別ディスカッション
 
NPO法人FENICSのひとつの活動として、フィールド研究者のライフイベントと研究の継続の支援、フィールド研究者の養成や「若手」研究者支援もあります。これまでも、ギース: GEAHSS(人文社会科学系学協会男女共同参画推進連絡会)シンポジウムにて、FENICSについても紹介してきましたが、このたびギースシンポジウムで協力することになりました。ふるってご参加ください。
 
日時:2024年2月18日(日) 13:00~16:30    場所:ZOOMによるオンライン開催
 
2023年度 第7回GEAHSS公開シンポジウム+「若手」・女性のためのテーマ別ディスカッション
 
人文社会科学系学協会男女共同参画推進連絡会  (Gender Equality Association for Humanities and Social Sciences: GEAHSS:ギース)は,加盟学協会との情報共有や議論を通じ, 人文社会科学分野での若手・女性研究者支援、研究分野を超えた連携のもと人文社会科学系の学術の発展を目指しています。
 
 今年度のイベントは二部構成で開催します。第一部のシンポジウムは、ひとつの指標とされるジェンダー・ギャップ指数 (GGI: 世界経済フォーラム) が、 2023年に日本は 125位(146ヵ国中)であったことを念頭に、「なぜ日本のジェンダー指数は低いのか」を考えます。まず経済、法律、教育、政治の各分野からその見解をお話しいただき、学際的視点を共有します。 そのうえで文化人類学から世界の諸社会との比較の視点でコメントを発したのち、日本社会において学協会や大学レベルで取り組むべき事項のヒントを絞りこむ議論の展開をめざします。
 
 第二部のテーマ別ディスカッションでは、アカデミズムにおける「若手」や女性などが直面している日常にある諸問題を共有し、それらの解決にむけた方策に関するディスカッションを行う時間を設けます。学協会をこえた横のつながりをつくることで、研究上の悩み、研究とプライベートの両立など、あらゆる問題を上にあげていくボトムアップの流れをつくりギースという連絡会を活用することをめざします。
 
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4. FENICS会員の活躍
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(1)飯塚宜子さん(京都大学 ソーシャルイノベーション)
 
1月21日『動物になってみよう!』ワークショップ みんなで世界を旅しよう!地球たんけんたい トリップ2
 
教わるのではなく、参加者と俳優と人類学者がある文化のなかのヒトやモノとの関係を模倣するように共創することで、「ああ、こういう時に私はこう感じるのか」「こう考えるのか」と参加者本人の感覚を通して、異文化を発見し理解していくワークショップです!
 
俳優と人類学者と一緒に「カナダ先住民の人々になってみる」遊びのような学びのなかで、その世界観を体験する異文化理解ワークショップです。
 
場所:京都大学東南アジア地域研究研究所稲盛財団記念館2Fセミナー室
時間:10:00 受付開始
    10:15 までに入室ください。
       動物の毛皮などに触れたり、クリンギット名札をつくります。
   10:30 ワークショップ開始
   12:45 ワークショップ終了
 
●  森の動物は、人間に肉をプレゼントしようとして人間の前に現れる?
  自分たちは人間でありオオカミやビーバーなどの「動物でもある」ってどういうことだろう?
● 小学2年生以上どなたでもご参加ください。
  大人だけでも、親子連れでも、大歓迎です。小学生のみでもご参加いただけます。
  対象年齢外の小さなお子様については、備考欄にご年齢等を記載ください。ご連絡させて頂きます。
● 動きやすい服装でお越しください。セミナー室には靴を脱いで入室いただきます。
● 参加費500円(おひとりにつき)。「会場にて現金で」お支払いください。
● 持ち物: 飲み物
 
会場:京都大学 東南アジア地域研究研究所 稲盛財団記念館(左京区吉田下阿達町46 市バス「荒神口」東へ徒歩3分、京阪本線「神宮丸太町:北へ徒歩3分)トリップ1&2➡ 2F セミナー室  トリップ3&4➡ 3F 中会議室
 
時間:10:15 – 12:45 10時受付開始 10:15までにお越しください(民族衣装を着たりフィールドでの名札をつくります)。 10:30 開演  12:45 終了予定
 
お申し込みは下記をクリック! Peatix ページからお申込みお願いします。
 
 
 
(2)山崎哲秀さんの件
山崎哲秀さん主催のアバンナットプロジェクト事務局から、ご案内いただきました。

朝日新聞デジタル記事
2023年12月25日 中山由美記者
北極に消えた犬ぞり探検家・山崎哲秀さん 極地観測に尽力、志半ばで
記事の中に動画があります。
現地での観測の様子がよくわかる動画です。是非ご覧ください。
 
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以上です。お楽しみいただけましたか?
みなさまからの情報、企画、お待ちしています。
 
 
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メルマガ担当 椎野(編集長)・澤柿
FENICSウェブサイト:http://www.fenics.jpn.org/