FENICS メルマガ Vol.29 2016/12/25

1.今月のFENICS

Merry Christmas!! みなさん、この週末はいかがお過ごしでしたか?
先月は吉祥寺での写真展+トークイベント「フィールド・フォトグラフィーの祭典」にお越しくださったみなさま、ありがとうございました。
登壇者のみなさまのトーク、分野をこえた「写真」の意味、研究のありかた、使い方、撮り方、大変興味深い話題満載でした。写真もさまざまな分野からのご応募、ありがとうございました。一枚ずつのフィールドへや対象への思いが込められた写真、壮観でした。イベントでは時間がなくなり、フィールドワーカーの撮る「フィールド写真」の議論ができず残念でした。
FENICSとしましても、写真展は小さいものはサロンで行いましたが、大きめのものは初めて、募集から不慣れなところもありました。
ただ欲を申させていただけば、もうすこし力を込めた多くの「私のフィールド写真」の応募もほしかったところ。やはりフィールドワーカーなるもの、学会や研究会、論文や著書への写真を思い浮かべるだけでなく、それなりの大きさに伸ばして見てもらう、という写真を撮ることをもっと意識してもいいかと思いました。
そのためには少しずつ、技術を磨く必要もあります。小さな試みで写真もグッとよくなるはず。
ぜひとも、新刊『フィールド写真術』をお手元に。会員は15%引きとなります。会員の推薦も割引になりますから、FENICSサイトにログインのうえ、ぜひ。わかりにくい場合はお問い合わせください。(fenicsevent[at]gmail.com)
この年末年始、お時間をつくってフィールドワーカーにこれまで撮った写真をみなおし、「自分セレクト」を蓄積してください。またFENICSでも募集したいと思います。
また、フィールドワーカーによる「フィールド写真」を考える、特化する議論を別の機会をもうけていたしましょう、楽しみにしてください!

12月上旬に行われた「女性フィールドワーカーの健康管理」のサロンも盛会でした。今後、関西でも、そのほかの地域でもご要望があれば開催したいと思います。大きなニーズを感じています。とりわけ、修士に入ったくらいの女性は早めに知っておくといい知識が沢山あります。女子学生をもつ男性教員も、ぜひこうしたサロンへの参加を促してください。研究者人生が、大きく変わります。『女も男もフィールドへ』12巻、まだお手元にない方は、ぜひとも。
http://www.fenics.jpn.org/modules/blog/2016/12/520
12巻、すこしずつ書評もではじめました。(『人文地理』68-3、『日本熱帯生態学会のニューズレター』2016/11/25,『We Learn』vol. 757)
http://www.fenics.jpn.org/modules/blog/2016/12/526

それでは本号の目次です。

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1.今月のFENICS
2.私のフィールドワーク(小西公大)
3.フィールドワーカーのおすすめ(新ヶ江章友)
4.フィールドごはん(遠藤仁)
5.今後のFENICSイベント
6.チラ見せ!FENICS
7.FENICS会員の活動

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2.私のフィールドワーク
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小西公大(14巻『フィールド写真術』編集者、社会人類学)

狭く息苦しい閉鎖的な地下空間。ここに、男女合わせて50人近くの人々がひしめき合い、ステージ上で歌って踊る少女たちに熱い眼差しを向けつつ、全身で応えようとしている。
ここは秋葉原のとあるライブステージ。いわゆる「地下アイドル」と呼ばれるパフォーマーたちが、日頃の芸の研鑽を定期的に披露する空間である。しかし、芸を展開するのはステージ上のアイドルたちだけではない。手に手にサイリウムやペンライトを持ったオーディエンスたちも、ステージ上のパフォーマンスに負けじと劣らず全身を使ってパフォーマンスを繰り広げている。いわゆる「ヲタ芸」というやつだ。「コール」と呼ばれる特定の掛け声を叫びながら、スピーカーから放出される大音量に合わせる形で次から次へと「技」を繰り広げていく。それぞれの技にはPPPH、イエローパンチョス、サンダースネークなど、独特な名前が付けられている。
一方ステージの側も、次々と生み出されるヲタ芸の技を取り入れた振り付けを考案したり、コールを歌詞に取り入れたりと、創意工夫をこらす。演者と聴衆の境界は融解し始め、すべての音は反響を重ねてウネリを作り出す。汗まみれの身体の気だるさや、麻痺していく知覚・感覚は、空間を共有する他者との強い共在性を生み出す。空間を満たす人々の身体から発せられる蒸気が天井にぶつかって凝固し、ポタポタと垂れてくる。「ヲタ汁」と呼ばれる現象だ。
このような状況は、私自身が九〇年代に通ったハードコアやパンクのための(渋谷や高円寺などの)ライブ小屋で行われていたものに近いと感じる。しかし、演者や聴衆、プロデューサーなどの多様なアクターがこれほどまでに密接な相互依存関係を生み出している近代的な芸能空間は、類を見ないものと言えるかもしれない。

筆者は長年、インド北西部、タール沙漠エリアに広く分布している芸能集団を追いかけてきた。彼らの紡ぎ出す神話や儀礼歌、系譜語りの分析を通じて、多層的な属性を持つ人々が接合したり排除されたりする社会的ネットワークのメカニズムを明らかにする研究だ。いつしか研究は、一回性の音の持つ力学と、それを支える文脈や物理的なアーキテクチャーとの関係へと舵を切っていった。フィールドも多方向に広がり、回り回って地下アイドルの芸能空間にまで達した。灼熱の沙漠での調査に負けないくらい、ハードなフィールドに感じている。わからないことだらけの現場で試行錯誤する日々だが、ヲタ汁を浴びる量がまだまだ足りていないことだけは間違いない。

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3.フィールドワーカーのおすすめ
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新ヶ江章友(12巻執筆者、ジェンダー/セクシャリティ研究)

私はこれまでエイズという病気に関する調査と研究を行ってきたが、調査を始めたのが1999年なので、まもなく20年になる。この間、エイズという病気を取り巻く状況は劇的に変わった。1981年に最初の患者がロサンゼルスで報告され、1995年前後あたりまでは有効な治療薬がなかったため、エイズはまさに「死に至る病」であった。エイズに関する映画もこれまでたくさん上映されてきたが、ここではアメリカで2003年に上映されたTV番組を紹介したい(日本でもレンタルDVD を借りることができます)。トニーク・シュナーの『エンジェルズ・イン・アメリカ』。最初は1989年に演劇として上演されたが、2003年にテレビドラマ化され、エミー賞やゴールデングローブ賞などを受賞している。話は1980年代のニューヨークで、エイズに冒された同性愛者たちの人間模様を描いている。同性愛者といってもユダヤ教やキリスト教など宗教的背景も様々で、また政治的にも保守的な共和党員など、これも様々である。単にエイズを描いたドラマではなく、エイズを通してアメリカ社会の多元性をあぶり出そうとしている点が非常に面白い。私がアメリカに留学していた際に「エイズの文化人類学」という授業を聴講したが、その授業で演劇のシナリオを読み、テレビドラマを見た。アメリカ文化論の授業などでも、この番組を資料として使えると思います。

(AmazonのDVD)
http://amzn.asia/8p45wsI

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4.フィールドごはん
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遠藤仁(14巻執筆者、考古学)

私の調査地の一つ、インド北東部のナガランドは菜食が多いヒンドゥー世界とは異なり、何でも食べる。急峻な山岳地帯に住む彼らは、あらゆる家畜や野生の鳥獣のみならず、魚や虫、蛙なども食べる。基礎調味料は、納豆(大豆を枯草菌で発酵させたもの)や乾燥タケノコ、発酵させた乾燥肉、岩塩と日本人の口に合いそうなものばかりであるが、問題はとにかく辛いのである。トウガラシの王様と彼らが呼ぶものを、どんな料理にも用い、彼らが平地民と呼ぶ普通のインド人が悶絶するほど辛い料理を食べる。
そして犬猫も好んで食べる人たちもおり、現地の友人宅にご飯時に招かれるときは、若干勇気がいる。彼らは私が猫好き(彼らとは別の意味で)なことを知っており、一応気を使い、猫肉は出さないようにしてくれている(らしい)。しかし、平気で虫や蛙を食べる私を仲間と認識し、自家製のコメの濁酒と家庭料理でもてなしてくれ、料理の最後には何の肉がわからないものが出てくる。その頃は酔いと激辛料理で味覚不明になり、あれは何の肉だったのであろうかと、翌朝トウガラシの過剰摂取で傷む胃をさすりながら考えてしまうのである。

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5.今後のFENICSイベント
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絶賛企画中!
リクエストや企画があれがば、いつでもご連絡ください!

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6.チラ見せ!FENICS
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100万人のフィールドワーカーシリーズ第14巻
『フィールド写真術』(秋山裕之・小西公大編)
「遺跡/遺物を撮る―写真で歴史を記録・保存」
(栗山雅夫)

さて、発掘調査撮影におけるメイン光源は太陽である。バッテリータイプのストロボやレフ板を用いることもあるが、それらは補助光線として用いるものである。したがって、太陽の位置と雲のかかり具合を見極めることが重要となる。屋内撮影で光源をどこに配置するか、光質をどうするかということを、屋外では太陽相手に行うことになる。それに加えて、写真によって被写体をどう表現するのかという、根源的なことにも注意を払わなければならない。……

(14巻のご注文はFENICSホームページhttps://fenics.jpn.org/よりログインして、サイト内のオーダーフォームからご注文いただくと、FENICS紹介割引価格でご購入いただけます。ぜひご利用下さい)
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7.FENICS会員の活動
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1)松本篤さん、「はな子のいる風景」プロジェクト:12月28日までご協力のおねがい
2)久世濃子さん「野生オランウータンの夜間観察に挑戦します!」:12月31日までのお願い
3)植竹淳さん、東京スカイツリーで実施中の大気微生物の分析へのクラウドファンディングのお願い:1月30日まで
4)丹羽朋子さん、下中菜穂さん:有楽町MUJIでの展示 1月22日まで

以下、詳細です。

1) 松本篤さん
現在、今年5月になくなった井の頭自然動物園の「はな子」に関するプロジェクトを進めています。
戦後いちばんさいしょに来日したゾウ、そして日本でいちばん長くいきたゾウ。そんな「はな子」といっしょに撮影した記念写真をひろく募集し、記録集をつくろうというものです。

■企画名
はな子のいる風景(仮)

■記録集制作の目的
はな子とともに写った記念写真の収集や聴き取りをつうじ、はな子や被写体、さらには戦後日本の歩みをたどる

■記録集制作の手法
広義の“ファウンド・フォト”

■記録集制作の主体
主催:武蔵野市立吉祥寺美術館
企画:AHA!(remo)

■写真の応募
平成28年12月28日(水)消印・送信まで有効

■サイト情報
http://www.musashino-culture.or.jp/a_museum/info/2016/08/post-53.html
https://www.facebook.com/KichijojiMuseum/photos/a.1426055050944752.1073741828.1411463395737251/1789695587914028/?type=3&theater

2)久世濃子さん(国立科学博物館人類研究部)
クラウド・ファンディングに挑戦中!(~2016年12月31日まで)
「野生オランウータンの夜間観察に挑戦します!」
http://japangiving.jp/p/5095

3) 植竹淳さん(極地研)

東京スカイツリーで行っている大気微生物の分析に関し、
クラウドファンディングを始めました。
https://academist-cf.com/projects/?id=36

ツイッターで最新情報をながしています。
https://twitter.com/JunUetake

詳細は上記のページに書かせていただいております。
これまでやってきた雪氷の微生物の研究から大気の微生物に興味を持ち、
以外と研究が進んでいない実情に気がつきました。

大気微生物は生態、健康、気象といったことに関連してくるのですが、
継続的なモニタリング研究がほとんどないので評価のしようもない状況です。
4)丹羽朋子さん(文化人類学)と、FENICS会員の下中菜穂さん

『フィールドに入る』1巻に登場している、FENICS理事の丹羽朋子さん(文化人類学)と、FENICS会員の下中菜穂さん(切り絵作家)の共同のお仕事です。
いま、有楽町の無印良品のスペースで展示が始まっています。

1巻のエピソードとともに、展示をお楽しみください。
11巻もMUJI BOOKSには並んでいるようです。

無印良品 有楽町 ATELIER MUJI
「暮らしを寿(ことほ)ぐ切り紙 窓花(まどはな)」展
http://www.muji.com/jp/events/4497/

開催日:2016年12月2日(金)~2017年1月22日(日)※2017年1月1日は、休館日のためお休み
開催時間:店舗営業時間内
開催場所:無印良品 有楽町 2F ATELIER MUJI主催:無印良品企画・運営:株式会社良品計画 生活雑貨部 企画デザイン室、無印良品 有楽町 ATELIER MUJI企画協力:丹羽朋子、下中菜穂

以上です。
それではまた、来年もよろしくお願いいたします!!
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お問い合わせ・ご感想などはこちらよりお寄せ下さい。
https://fenics.jpn.org/contact/
メルマガ担当 梶丸(編集長)・椎野
FENICSウェブサイト:https://fenics.jpn.org/

寄稿者紹介

社会人類学 at 東京学芸大学 |

ジェンダー/セクシャリティ研究 at 大阪市立大学 |

考古学