FENICS メルマガ Vol.36 2017/7/25

1.今月のFENICS

 夏休みがやってきました!夏の予定はいかがでしょうか。
 メルマガ編集者は子連れで南インドにきています。アフリカで少々慣れていたとはいえ、インドはなかなか子連れには手ごわいです。やっと母子ともに調子がついてきたか?というところ。4歳の息子はこれから、現地のプレスクールに入る予定です。サロンにご参加だった方々も、初子連れフィールドワークを試される方、いらっしゃるでしょうか。
 みなさま、それぞれの夏の計画がうまくいきますように。

 いくつかFENICSよりお知らせがあります。
(1)ウェブサイトがリニューアルされました!パスワードを忘れた方などは、サイトからお問い合わせください。(一番変わったところは,シリーズ本の著者情報を無くしたことです.ただ旧サイトはそれぞれのアカウントでログインすれば閲覧できますので,見直したりはできます.)
(2)子連れフィールドワークのサロンの収録(信州大学、神戸大学)が正会員、著者会員のみ限定視聴できます。ウェブ登録、正会員登録がおすみでない方は新規登録をお願いします。(正会員とは https://fenics.jpn.org/about_us/membership-join/
(3)7巻『社会問題と出会う』(白石壮一郎・椎野若菜編)が販売開始!会員特典は通常は15%引きのところ、新刊8月まで2割引があります。内容についての紹介、本号で白石さんよりご寄稿があります。
 ウェブでのご登録済みの会員のご注文はFENICSホームページhttps://fenics.jpn.org/よりログインして、サイト内のオーダーフォームからご注文いただくと、FENICS紹介割引価格でご購入いただけます。ぜひご利用下さい!
(4)6巻『マスメディアとフィールドワーカー』ができあがりました!こちらも会員特典をご利用ください!!

それでは本号の目次です。インド時間での配信です。

—————–
1.今月のFENICS
2.私のフィールドワーク(吉川翠)
3.フィールドワーカーのおすすめ(清水貴夫)
4.FENICS企画:フィールドの「音」募集!
5.イベントリポート(丹羽朋子)
6.今後のFENICSイベント

—————–

2.私のフィールドワーク
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
タンザニアの疎開林地帯に生息するチンパンジーの調査

吉川翠(霊長類学・国立科学博物館・2015年より正会員)

写真1.乾季の調査地の様子

私が野生チンパンジーの生態調査をおこなってきた場所はタンザニア西部のウガラという地域です。チンパンジーの生息地の中で最も乾燥している場所の1つで、疎開林が広がっています。この地域はヒトが進化していった環境に似ており、この地域のチンパンジーの研究は人類進化を探る上で重要だと言われています。

ウガラは国際空港のあるダルエスサラームから、車で3〜4日程の場所にあります。伐採や狩猟での一時的な滞在者はいますが定住者はいません。調査の際は村に立ち寄り、調査の手伝いをしてくれるトラッカー達と合流、食料を買い込み、調査地へ向かいます。到着後はまずキャンプ生活の為の整地、調理場作り、トイレの穴掘り、水浴び場作り、テーブルや椅子作りなどをして生活空間を整えていきます。

写真2.チンパンジーのベッド

疎開林地帯は、熱帯林に比べ樹木やチンパンジーの主要な食物である果実は少なく、分散しています。ウガラのチンパンジーは広い行動域をもち、生息密度の低さや警戒心の強さなどから直接観察は容易ではありません。そのため調査は主に樹上に作られたチンパンジーのベッドを探す、糞を集めて採食物を探るという方法で行っています。また植生調査、採食果実量の季節変化や自動撮影カメラを用いた調査も行ってきました。

日々の調査は大体、朝8時過ぎ頃から踏査を開始して、持参したお弁当で昼食をとり、17時〜18時頃にキャンプに戻るといったスケジュールです。ウガラに住むチンパンジーの行動域は広いため、道のない場所も含め調査者側も広い範囲を歩き調査することとなり、時には1日20㎞程を踏査します。 ウガラの特徴としては、チンパンジーの捕食者であるライオンが生息していることが挙げられます。ある時、トラッカーが、岩陰で休んでいたライオンに気付かずに近づき、吠えられたことがありました。ライオンがキャンプ地近くで目撃されたことは1度あり、その他にも足跡の目撃や遠方で鳴いている声を聴くことはありましたが、私たちと関わりを実際に持ったこと自体は珍しい事でした。

写真3.チンパンジーの糞に含まれていた果実

このようにライオンが生息し、食物が分散している一見厳しいと思える環境でチンパンジーはどう適応し暮らしているのか、考えを巡らしながら研究しています。調査は大変なこともありますが、チンパンジーを発見した時のトラッカー達と興奮を共有する一体感、共に焚火を囲んで過ごすのどかな時間、思いがけない動物に出会った時の喜びなど、街での暮らしを離れた自然の中での貴重なひと時だなと感じます。

写真4.ベースキャンプの様子

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
3.フィールドワーカーからのおすすめ
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

Supagetti au Soumbara avec Riz au Soumbara 直径50㎝の皿に乗った大量のスンバラ飯とスパゲッティ。これで2人前。

フィールドごはん:Riz au Soumbara

清水貴夫(第7巻執筆者・文化人類学/広島大学)

フランス語で書くとややこしい料理が出てきそうだが、つまりは「スンバラ飯」である。スンバラというのは、西アフリカの内陸部ではよく使われる調味料である。ネレの実を発酵させた調味料で、その匂いも味も納豆や豆味噌に似ている。「ト」のソースを作るときには、スンバラ、乾燥小魚をすり潰してソースのベースとする。このスンバラ、とにかく、ブルキナファソの人びとにとっては、無くてはならない味でいろいろなところで使う。
中でもスンバラ飯は、スンバラ好きにとってはたまらない。ソースだけでは飽き足らず、コメと一緒に炊き合わせてしまうのだから。街中でもこれを見つけるのはさほど難しいことではないのだが、写真のスンバラ飯は、数少ないスンバラ飯専門店、中でも超人気店のものである。
この店のスンバラ飯は、スンバラ飯の上にスンバラ・スパゲッティを乗せ、その上に魚のから揚げやら鳥のから揚げをトッピング、さらにその上から熱々のスンバラのスープをかける。スンバラのオンパレードだ。直径約50㎝の大皿に盛られたスンバラ飯は、一瞬のうちに2,3人の胃袋に収まってしまう(複数名で行くとこのサイズがデフォルト)。朝8時のことである。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
4.FENICS企画:フィールドの「音」募集!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
https://goo.gl/V4vBnt

今年もまた、フィールドに行かれる際に「音」を集めてきてください!
日常の雑踏の音、おしゃべりの声、子どもの遊ぶ声、風や氷の割れる音、山を登る音などなど。
まだまだ、さまざまな音を集める予定です。よろしくお願いいたします!!!

データはfenicsevent@gmail.com へメールの添付などでお送りください。
やりかたが分からない場合は、お気兼ねなくお問い合わせください。
皆さんのフィールドの音をお待ちしております。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
5.イベントリポート*会員より*
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「福島県大玉村〈小さな藍祭り〉での〈ECフィルム〉出張上映」
       丹羽朋子(13巻編者・文化人類学・人間文化研究機構)

2017年7月16・17日、福島県大玉村の〈小さな藍祭り〉というイベントで、かつてのフィールドワーカーが写した古い民族誌映像を上映した。主催した歓藍社は、原発事故等の影響で休耕地となった畑で2016年から藍を育て藍染を始め、地産化に取り組んでいるという。発起人の林剛平さんは、東日本大震災後から被災地を中心に放射線の土壌汚染や生物影響調査にたずさわる生態学の研究者だ。〈藍祭り〉では二百年以上経つという古民家を会場に、藍の収穫から生葉染めのワークショップ等、アーティストの公開制作や展示などが行われた。

その一環で今回上映したのは、「エンサイクロペディア・シネマトグラフィカ」(通称ECフィルム)という、1950年代からドイツ・国立科学映画研究所で制作されてきた学術映像アーカイブだ。40年近い歳月をかけて、多くの研究者やカメラマンが世界各地に赴き、人々の暮らしや儀礼、動植物の生命活動を写した「映像の百科事典」に集められた作品は三千を超える。ECアーカイブは各国機関に渡り、日本でも下中記念財団がアジアで唯一のフルセットの映像を管理・運用してきたが、近年は16mmフィルムという形式が障壁となり、上映が難しくなっていた。そこで2012年より、ECフィルムを囲んでゲストと観客が一緒に「映像のフィールドワーク」をするように観る上映会が始まった。アーカイブ映像の新たな利用方法を試行錯誤するこの活動に、FENICSも企画や広報で協力している。

〈藍祭り〉の2日間、朝一(なんと朝8:30開始!)から上映されたのは、「北ヨーロッパ、ユトランドの藍染め」(1948年)と「ダブアデラの水車での布の縮充」(1970年)と題した映像だ。縁側のカーテンを閉め切って熱気がこもる畳敷きの大部屋に、ご近所さんや近隣県からやってきたワークショップ参加者、滞在中のアーティストらが思い思いの姿勢で座り、壁に映写したモノクロ・無声のフィールド映像を見つめる。林さんセレクトの2本にはともに、機能的な道具を使って、藍染やフェルト作りを手工業として行う職人たちの丁寧なものづくりが写されている。藍の生葉や染めたての鮮やかな藍色の糸や布がとり囲む空間で、藍で染まった手をもち藍に向き合おうとする人びとが見ると、過去の記録映像も異国の他人事ではなくなる。今回の祭りでは大玉村の象徴として作られた、直径35cmの木製の大玉を巨大なコンクリート皿に転がす〈ゴロゴロ染め〉の道具が登場したが、それと似た道具をEC映像に見つけたり、新たな道具が映し出されるたびに、会場からは感嘆や「これ、作れそうだね」といった声が湧き上がる。上映後、「道具ができると、そこに人が集って喜びが生まれるし、作業の質や量ががらりと変わる。ECをみることで、自分たちの共同活動を見つめ直すきっかけになりました。」といった林さんの言葉は、現代の私たちのフィールド映像の新たな活用の可能性にもつながるように思われる。
EC活用プロジェクトでは今、FENICSが企画協力して、12月初旬に東京の映画館「ポレポレ東中野」で開催する「EC七夜上映会」の準備を進めている。日替わりで多様な分野の若手フィールドワーカーをゲストに、ECフィルムとご自身のフィールド映像とを観客とともに楽しむ機会に、ぜひいらしていただきたい。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
6.今後のFENICSイベント
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
FENICS協力イベント、上記のECにかかわるものです。

エンサイクロペディア・シネマトグラフィカを見る連続上映会12
「荒俣宏プレゼンツ 夏休み懐かしの理科映画+ECフィルム」

荒俣宏さんの秘蔵フィルムと最近ご自身で撮影された記録映像、そして学術映像アーカイブ「エンサイクロペディア・シネマトグラフィカ」の生物学・民族学フィルムを、荒俣さんの語りとともに楽しみます。

■日時 :2017年8月2日(水)18:30開場/19:00開演
■会場:space&cafeポレポレ坐(東京都中野区東中野4-4-1-1階)
■ゲスト:荒俣宏(博物学者)
聞き手:下中弘
■予約:03-3227-1405 event@polepoletimes.jp(ポレポレタイムス社)
■料金:予約:1,500円/当日:2,000円(ワンドリンク付)
公益財団法人下中記念財団、ポレポレタイムス社 共催

イベントの詳細、予約や問い合わせなどは以下のサイトをご覧ください。
http://ecfilm.net/show/ec13

———————————————————-
エンサイクロペディア・シネマトグラフィカを見る連続上映会13
「口をめぐるものがたり」

■日時 :2017年9月15日(金)18:30開場/19:00開演
■会場:space&cafeポレポレ坐(東京都中野区東中野4-4-1-1階)
■ゲスト:赤坂憲雄(民俗学者)
     三上敏視(音楽家、神楽・伝承音楽研究家)
■予約:03-3227-1405 event@polepoletimes.jp(ポレポレタイムス社)
■料金:予約:1,500円/当日:2,000円(ワンドリンク付)
公益財団法人下中記念財団、ポレポレタイムス社 共催

イベントの詳細、予約や問い合わせなどは以下のサイトをご覧ください。
http://ecfilm.net/show/ec12

::::::::::::

以上です。お知らせ、いつでもご連絡ください。発信、掲載いたします。
FENICSと共催・協力イベントをご企画いただける場合、いつでもご連絡ください。

寄稿者の紹介

霊長類学 at 国立科学博物館

2015年より正会員


文化人類学 at 広島大学 |