FENICS メルマガ Vol.115 2024/2/25 
 
 
1.今月のFENICS
 
 もう春がやってきたような、また冬に戻ったような、、奇妙な2月でした。遅れましたが、2024年2月号をここにお届けします。2月は南極教室フォローアップ@桐朋学園、またGEAHSS(ギース)シンポジウムも無事に終了しました。ご協力をありがとうございました。  

  フィールドに行かれている方も多いようです。編集人も来週からケニアに行きますが、準備のためパスポートを取り出すと、ともに保存していたボロボロになったワクチン証明書がでてきて、変な気持ちになります。あれは、何だったのだろうかーー。

 フィールドワーカーは、まさに、柔軟に状況にあわせ動くしかない、と異なる意味で考えさせられるこの頃です。今回、私自身は出産後初めて一人で出かけることに、内心ワクワクしつつ、11歳と5歳の兄弟が協力してすごしてくれるであろう、とこの一年の彼らの成長を感じています。
 
フィールドワーカーのライフイベントとフィールドワーク。子どもの、あなたの記録、そしてそれらが他のフィールドワーカーの支えにもなることを念頭に、寄稿をお考えください。今月は、中川千草さんの子連れフィールドワーク二回目です!
 
また、まもなく新年度が始まります。FENICSという場で、また共催等でイベントをお考えの方、ぜひともご相談ください。コアメンバーになって学際的、専門(職業)を横断したコラボによる創作活動をご希望の方も、お声かけください。ご連絡をお待ちしています。
 
さて、本号の目次です。
 
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1 今月のFENICS
2 子連れフィールドワーク(2)(中川千草)
3 おすすめの本(小西公大)
4 FENICS会員の活躍
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2. 子連れフィールドワーク(連載)②(中川千草)
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気忙しく、発見つづきの子連れフィールドワーク(年長さん・ギニア編)1
 
  中川千草(社会学・龍谷大学・FENICS 12巻『女も男もフィールドへ』執筆者)
 
ギニアで過ごしていると、赤ちゃんがとても大事されていることがよく分かる。寒くないように暑くないように泣かせないようにと皆が気遣う。息子のギニアへの初回渡航は1歳6ヶ月の頃で、まさに丁重に扱われる時期だった。たくさんかわいがってもらえた。あれから5年が経った。6歳ともなれば、現地の子どもたちは日々、水汲みや子守りなどの家事を担う一員だ。同時に、かれらが容赦なく「しばかれている」シーンに出くわすことも少なくない。赤ちゃんではなくなった息子は、どう扱われるのだろうか。子連れで来たからには、息子を主人公とした参与観察をしてみようと意気込んでいた。  

写真1:子どもは膝の上が指定席。「ママ」が大変そうなら、左右の方に甘える

ある日、同じタクシーに乗り合わせたおじさんが、決して少なくない、彼への釣り銭を息子にくれた。別の日には、ビスケットを分けてくれたお兄さんもいた。売店の店主は、息子が欲しがるお菓子を無料でくれたり、ディスカウントしてくれたりした。想像と違い、子どもにずいぶんやさしいではないか。
  
相乗りタクシーの乗り場では、いつも激戦が繰り広げられている。スピードを緩めたタクシーには、窓越しに「◯◯(行き先)まで!」「どこ行き!?」と人が殺到する。ほとんどのタクシーはすでに満席だ。運よく空席を見つけても、少しでも遅れを取れば反対側のドアから乗り込まれ、あっという間に席が埋まる。何台見送っただろうか。すると、「ママジャポネ(日本人の母ちゃん)、どこに行きたい?」と周りの人が声をかけてくれ、優先的に乗せてもらうことができた。ありがたい。その後、タクシーに乗る際、困っていると必ず誰かが助けてくれた。「日本でこんなことなんてないよなぁ」と息子も驚くほど、人のやさしさに触れる機会が多かった。
 

写真2:マーガリン入りバゲットを分け合う息子とダンスの師匠

一方、わたしは、うれしさや感謝の気持ちよりも先に、何か見返りを求められているのでは?と疑いの目を向けてしまう。「お金持ちの外国人」であるわたしはこれまで、「お金がない」現地の人びとを助けるべきだと迫られることが少なくなかったからだ。もちろん、助けに対してお礼をしたいという気持ちはある。むしろ、それが強すぎて、何かを返さねばと気負い、それに囚われ疲れてしまう(日本でも同じ)。いっそのこと、頼らないようにしよう。そんな癖がいつの間にかついていた。
  
息子が親切にされたエピソードの数々を知人に話すと、「ママは、みんなに敬われているからね。親切にするのは当たり前のこと」と説明された。これを聞くまでわたしは、今回、子どもに対する意外なやさしさを「発見」できたと思っていた。確かに、子どもにも案外やさしいのだろう。しかし、ママ=わたしが親切の対象だったとは。フィールドワークで自分自身がすっかり不在となっていたことに気づいた。5年ぶりの子連れフィールドワークゆえに、息子の存在を通して現地社会を観察し、その先に広がるまだ知らない何かを見つけたいと期待しすぎていたのかもしれない。
 
つづく
 
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3. おすすめの本
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小西公大(編)2024『そして私も音楽になった――サウンド・アッサンブラージュの人類学』うつつ堂
 
FENICS理事の一人、小西の編著です。コロナ禍真っ盛りの3年間を通じて、これまでの人類学的な音楽&芸能研究を振り返り、言語化しなおし、「音楽の力」をめぐる思索を深めていきました。クリストファー・スモールの画期的な「ミュージッキング」概念の延長線上に、音楽を生成させる場の力を「媒介・創造・継承」の三つに因数分解しながら、その具体的なプロセスを民族誌的に捉え直そうとする試みです。
 世界中の様々な芸能形態に触れることができる動画QRも掲載されておりますので、音と映像を楽しみながら、「音楽」の世界に飲み込まれてみてください。
 
序章より
「うつりゆくサウンド・アッサンブラージュは、結果的に「力」を持ってしまう。あらゆるものを接続して組み合わせてしまうその媒介の力が、飲み込まれたヒト・モノ・空間を変化させたり、突き動かしたりしたり、私たちの認識のあり方すら変えてしまったりする。この力こそ、「音楽の力」として語られ、利用されてきた力だ。本書では、この語り得ぬものでありながら、特定の力を持ってしまう音楽の、その力の生成過程(=アッサンブラージュ)に着目しつつ、それを「豊かさ」に向けた可能性の源泉として、なんとかその魅力を掴み取ろうと試みている。それは、語り得ぬものをあえて語ろうとする、あまりにも無謀な試みかもしれない。しかし、これまで音楽として語られてきた射程をはるかに拡張し、思いきりズラしながら拡散し、音楽の持つ豊かな力に新たな光を当てようとする、実験的で創造的な試みの一つであることに、間違いはないだろう。」
【目次】
第1部 つながる(媒介)
〈第一章〉音が編み込む力—インド・タール沙漠の芸能世界が教えてくれたこと(小西公大)
〈第二章〉「見せる場」から「音楽とともにいる場」へ—ウガンダの学校と盛り場で(大門碧) 
〈第三章〉音を継ぎ合わせる「視線」—インドの歌舞踊ラーワニーの舞台実践から(飯田玲子)
 
第2部 うみだす(創造)
〈第四章〉醸される島の音の力—三宅の声と太鼓が生み出すアッサンブラージュ(小林史子)
〈第五章〉つながりを手繰り寄せる/選り分ける—社会的存在としてのチベタン・ポップ(山本達也)
〈第六章〉調を外れて響き合うトーンチャイム—サウンド・アッサンブラージュの授業風景(石上則子)
 
第3部 つたえる(継承)
〈第七章〉制度と情動をめぐる相剋—東北タイのモーラム芸能にみる暴力・性・死(平田晶子)
〈第八章〉一切をつむぎ、交感するアッサンブラージュの力—高知におけるガムランプロジェクトの実践を通して(宮内康乃)
〈第九章〉媒介、愛着、継承—ソロモン諸島アレアレにおける在来楽器アウをめぐって(佐本英規)
〈補論〉 仮想空間で音楽になること(小西公大)
 
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FENICS会員の活躍
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野口靖(正会員)・丹羽朋子(理事)さん他
 
「51分と13年」
野口靖・三行英登 | 映像インスタレーション | 2024
 
本プロジェクトは、東日本大震災時に宮城県石巻市の大川小学校で起こった津波による死亡事故を題材としたアートプロジェクトで、美術作家の野口靖と映像作家の三行英登が共同で制作しています。 
   
作者は地震発生から津波襲来までの51分間に、大川小で何が起こったと考えられているのか、また事故後の対応において、なぜ行政は遺族に寄り添うことができなかったのかなどについて、報道記事や書籍など事故後十数年のあいだに蓄積された様々な資料を丹念に調べるとともに、関係者への取材を重ねてきました。
    
これらのリサーチを通して得られた「事実」をベースとしながら、独自の解釈を含む映像作品を中心に複数の映像を並置し、大川小学校事故に内在する問題について多角的な視点を提示します。  
 
 
展示期間:2024年3月2日(土)〜 3月17日(日)
休館日:月曜日
開館時間:12:00〜18:00
作品形態:映像インスタレーション
入場料:無料
会場:東京工芸大学 中野キャンパス
   6号館 地下1階ギャラリー(6B01)
   〒164-0013 東京都中野区弥生町 1-10
   交通アクセス
事務局:野口靖(noguchi3873@gmail.com)
 
注意事項:
* 本作品は津波事故がテーマです。津波自体の映像は出てきませんが、事故の場面を強く想起させる表現があります。ご了承の上ご鑑賞ください。
* 複数の映像を展示するため、全て観るには4時間以上かかります。もちろん選んで鑑賞することもできますが、その場合でも最低1時間はかかります。ご了承ください。
* ご案内を希望される場合はお気軽にご連絡ください(担当・野口:noguchi3873@gmail.com)。会場でご案内いたします。
 
トーク&ディスカッションイベント
「51分と13年」から始まる対話
2024年3月9日(土) 17:30〜19:30
会場:東京工芸大学 中野キャンパス 6号館 6301教室(アクティブラーニングルーム)
登壇者:佐藤敏郎(大川伝承の会共同代表) 幡乃美帆(俳優/本作出演) 野口靖 三行英登
ファシリテーター:丹羽朋子(文化人類学研究者)
協力:-oid
 
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以上です。お楽しみいただけましたか?
みなさまからの情報、企画、お待ちしています。
 
 
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メルマガ担当 椎野(編集長)・澤柿
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