FENICS メルマガ Vol.119 2024/6/25 
 
 
1.今月のFENICS
 
 前期のしめくくりに入るとともに、いよいよ、夏休みが近づいてきました。夏の計画はいかがでしょうか。
円安のために、調査や留学生活も、なかなか難しい状況になってきました。調査範囲や期間を狭める、といったこともでてきているかと想像します。
日本の政治状況も、致命的と思われる不祥事があっても、また何喰わぬ顔で元に戻っていくくりかえしが続きます。たとえばアフリカの中高年の人が、「生まれたときから大統領が変わらない」というのと、ほとんど同じ感覚なのでは、と思うこの頃です。
みなさんのフィールドはいかがでしょうか。フィールドと政治、といったテーマでの議論をもっとしたい!と思います。
 
 夏の子連れフィールドワークをお考えの方は、本号メルマガのライフイベントをご覧ください。過去の連載もまとめたページがあります(https://fenics.jpn.org/lifevent/)。
 また、5月に開催したFENICSサロンの記録として、関野さんと大谷さんがライフイベントの連載を始めます。お楽しみに。
 
さて、本号の目次です。
 
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1 今月のFENICS
2 私のライフイベント (関野文子)
3 子連れフィールドワーク (椎野若菜)
4 FENICSからのお知らせ
5 会員の活躍
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2. 私のライフイベント(連載)①
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「お互い院生、結婚・出産どう決めたお金は?日々の子育てのリアル」①
 
                               関野文子(生態人類学・文化人類学、アフリカ地域研究 京都大学ASAFAS)
 
2024年アフリカ学会第61回大会のお昼休みに、当学会実行委員会とFENICS の共催サロンとして、夫婦揃ってお話をする機会をいただいた。今回は妻である私の視点から、備忘録も兼ねて当日お話した内容中心にご紹介したいと思う。
 
博士過程に入った頃、将来の結婚や妊娠出産に対しておぼろげな不安があった。しかし、優先すべきは研究だし、先輩たちはいつ結婚して、いつ、また何人の子どもを持とうとしたのか、その意思決定をどうしたのかは聞きたくても中々聞けないでいた。
まず私の経歴をざっとご紹介したい。大学を卒業して大学院に入学し、修士号を取得した後に、研究への行き詰まりと生活への不安を感じ、一旦民間企業で働いた。仕事は面白かったが、博論を書きたい!フィールドワークがしたい!と思い直し、再び同じ大学院に入学した。そこで、今のパートナーとたまたま同じ研究室になり、交流が始まった。
 
私たちが交際を始めた時は2020年の春、まさにコロナ真っ只中の時だった。今振り返ると私たちにとってはコロナのおかげで結婚もできたのかもしれないと思う。なぜなら、コロナがなかったら、お互い半年〜1年の渡航をする予定だったし、一緒にいられる時間はもっと限られていただろうと思うからだ。緊急事態宣言に、外出自粛、研究室にもなるべく来ないようにと言われた。お互い家で料理を作っては持ち寄ってご飯を食べた。話し合う時間はたくさんあった。コロナという経済的にも精神的にもとても辛い時期に助け合ったということもあり、この人となら困難を乗り越えられると思い、結婚を考えるようになった。そこで、結婚を前提に共に暮らすことを提案した。

写真1 2020年4月コロナ真っ只中のお花見デート。鴨川に食材を持ち寄った。当時していたバイトが全て無くなり絶望していた私を、彼は精神的に支えてくれた。

元々同棲には否定的だった私だが、お付き合いをするうちに考えが変わった。しかし、相手は経済的なことを理由にあまり乗り気ではなかったので、お互いの現状の支出と同棲した場合の支出を試算して、むしろ二人で済んだ方が、家賃も食費も安くなると説得した。「とりあえず、物件の見学をしてみようよ〜」と誘い、物件の見学をすると大谷さんもイメージが付いたのか、そこからトントン拍子で入居日が決まった。実際に、家賃は一人暮らしの家賃の合計と同等か少し安いくらいだった。私はそれまでコインシャワーのアパートに住んでいたので、お風呂がついている家に住めるのが何より嬉しかった。
 
しかし入居の1ヶ月ほど前、大谷さんのアパートで大規模な火事があったため、彼はしばらく家に帰れなくなってしまった。そんなことがあったので、新しいアパートの入居日を早めることになった。思い立ったらすぐ行動派の私は、入居直前のバレンタインの日に手紙でプロポーズした。きっと一緒に暮らしたら、色んな大変なことも出てくるだろうし、思い直すこともあるかもしれないから、自分の中で覚悟とけじめのようなものを付けたかったのかもしれない。それに、大谷さんは「プロポーズは男が一方的にするものじゃない」と言っていたこともあって(言い訳にも聞こえたが)、自分からしようと思った。答えはYesだった。
  
 共に暮らすことは少々の揉め事はありつつも、順調だった。同棲を初めて3ヶ月後に両親揃って春の京都で顔合わせをして、婚姻届けにサインしてもらった。結婚をしてから、子どものことも考えるようになった。月経困難があったため、ピルを服用していた。でもこのまま飲み続けていて良いのだろうかと悩むようになった。今すぐ子どもが欲しいわけではないが、学位をとるまでの道はあと2年ほどの見積もりだった。学位を取ってからピルをやめるべきなのか、そもそも自分が妊娠できる身体なのかも分からないし、そこまで待つことは不安だった。そこで、研究も子育ても両立してきた先輩に相談をしてみた。すると答えは意外だった。「子どもを生みたいという気持ちがあるなら、いつかじゃない方がいい。状況は変化するし、その時産めるかも分からないよ。」そんなことを言ってもらったと思う。そこでまたパートナーに相談して、何度も話合い、ピルを止めることにした。翌年の2022年5月に娘が生まれた。産後も休学はせずにかなりゆっくりではあるが、学会発表や論文執筆などを続けた。同時に娘との時間も大事にした一年だった。

写真2 お宮参り、友人からプレゼントしてもらったベナン衣装を着て。コロナで結婚式も両親のみだったが、私たちにはこれがちょうど良かった。

 
同棲そして結婚から妊娠出産までを駆け足で振り返ると、なんだかすごく順調に物事が進んだように見える。しかし、これまでのプロセスは衝突と話し合いの連続だった。お互いの意見が食い違うこともあったし、正直、私は、煮え切らない相手の態度に憤慨したことも何度もあった。いまだに仲違いすることも多いし、傷つけてしまうこともある。夫婦の危機みたいなこともあった。今もどうしたら円満な家庭生活を築けるのか日々試行錯誤している。でもこうやってこれからも壁にぶち当たる度に二人で乗り越えたいと思う。

写真3 娘が1歳4ヶ月の時にカメルーンに単身渡航。3年半ぶりに村の人たちに再開。パパワンオペの様子は別号で。

(つづく)

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3. 子連れフィールドワーク
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5歳児と10歳児とともに、ウガンダ調査へ 2023夏  
  
        椎野若菜(社会人類学・東京外国語大学 FENICS 12巻『女も男もフィールドへ』編者)
  
もう夏休みが間近になってきた。私自身は、長男が6年生ということもあり、この夏は渡航しないことに決めている。家族での渡航はもちろんお金がかかり、また、渡航中やそのあとに体調を崩すと、元に戻すにも時間がかかるからである。昨年の教訓から、今年はより、そうすることにした。
きたる夏に子連れで渡航予定の方もいらっしゃると聞き、参考になることを意識して記録しておきたい。
 
私の場合、長男が小さい頃は父親がウガンダにいる時期があり、出張先にはどこにでも連れて行く、という理由であった。子どもたちが成長するにつれ、世界でもめずらしい日本語だけの、同質性を好む日本から出て外を体験させたい、さらに日本とアフリカ出身の両親をもつ子どもとして、双方を知ってもらいたい、という気持ちも大きくある。
ただ、つねに私たちは現地調査をすることを目的としているため、調査、子どもの生活のケア、主に子どもにとっての体験、の三つが親子ともにバランスよくするにはどうしたらいいのか・・・これらが頭の痛い問題なのである。親の都合ばかりに振り回されているのでは、自我がすでに芽生えている子どもにも酷である。子どもだって、考えるはずだ。「なぜ、自分は親についてここにきているのか、自分がしたいことはできないのか」


ウガンダに到着。荷物に埋もれる二人。


 子どもが大きくなるに連れ、そこが問題なのだが、私がこの頃考えているのは、調査の合間の子どもとの時間、そして子どもにお願いする役割を必ず作ること。子どもとの時間として、一昨年、初めて家族で国立公園でキャンプをした。未来の?フィールドワーカーのトレーニングもかねて、野生動物のいるなかでのテント張り、火の焚き方も教える。今回も調査旅程を考え、フィールドと首都の道中の一泊を国立公園のテント泊にすることとした。また、子どもの役割として、大学でのミーティングやシンポジウムのあと、懇親会でバイオリンを弾くことをお願いした。現地との交流にも一役買った「はず」である。
 
今回は7月31日~8月27日の渡航であった。とくに、白石壮一郎さんが「ウガンダの大学生、卒業生はどんな人たちなのか?」と題し昨年の8月より本FENICSメルマガ連載で9月そして10月と続けて書いておられたように、白石さん代表のMakerere大学とのJSPS二国間交流事業(共同研究)に2022年と2023年の2年間、夫婦で携わることになったからだ。ウガンダにおける人文系の学生の進路について、その調査と発表という大きな目的があった。私自身は、もうひとつ、アフリカにおけるシングル女性、一夫多妻のありかたについての調査があった。よって二国間交流事業のミーティングの他、私が調査を行うときは、夫が助っ人にまわり子どもの面倒をみて、私たちが帰国後に彼は調査する予定とした。
 
5歳と11歳との旅。とくに長男は、道中のあらゆる場面で荷物をみていること、弟とトイレに行く、など率先してできるようになった。意識してパスポートの保持は自分で、空港でどう動くか、という流れも分かっているが、ひとつずつ互いに確認していった。

卵料理をする二人。ガスは使いにくいが、慣れていく。

ただ、子どもと一緒であるということは、彼らが食べられる物の確保が主軸である!海外ではいつも、キッチンつきのところに滞在する。日本からレトルト食品なども持っていくが、毎日は使わない。こちらも疲れているときに使う、くらいである。とくに長男はよく食べるので、基本食材の卵、牛乳があっという間になくなる。そのうち、キオスクへ使いにだすようになった。アフリカのの部屋には多くついている鍵も、すぐにどれがどこの鍵か覚えて鍵係となった。
 
我が家は子どもにゲームをさせておらず、タブレットももたせていない。今回はとくに、マケレレ大学での会議はまる二日間、長時間にわたり、とくに子守も頼まなかったので、何をさせようかと考えた。

みっちりとした議論が長時間、二日間つづく!

ジグゾーパズルの箱をPCにみたててミーティングに参加中の二男

今回、「子どもむけ」に準備したのは下記のとおりだ。
 
▲アフリカは、首都であっても停電はよくあるので、子どもそれぞれに懐中電灯も準備。LEDランタン付ライトが大変役に立つので気に入っている(東芝 TOSHIBA KFL-403L(G) 
ポータブルDVDプレーヤーの中古品を購入。もちろん変換器も忘れずに。
ジグゾーパズル。(11歳には300ピース、5歳には80ピース)
▲敏感肌の日焼け止めは多めに。子ども向けにやさしいものも、アフリカは恐ろしく高い。帽子もなくしてしまう可能性があり、予備があるとよい。
蚊がいなくなるワンプッシュスプレー(ガスタイプも100ml以下なら機内持ち込み可。現地のスプレーは強すぎて子どもが咳こむ。)電気のあるところに滞在するなら、プラグに差し込むタイプの現地の蚊対策がよい。おそらく薬は強いだろうが、短期間なので使用した。
▲キャンプの日の準備(子どもが使用する双眼鏡、ウインドブレーカーは必須)
▲お腹をこわしたときのためのポカリスエット、うどん乾麺。(現地のものは飲み慣れず、飲めなかった)
 
(つづく)
  
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4. FENICSからのお知らせ
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6月6日(金)19:00より、FENICS正会員の方々を中心とするNPO法人FENICSの総会を開催しました。
お忙しい中、ご参加くださったみなさま、まことにありがとうございました。
 
事業報告、事業計画、ご承認いただきました。会費を納入いただけていない方々も多くいらっしゃいます。なにとぞ、ご協力のほどお願い申し上げます。
  
来年、FENICSはNPO化して10年を迎えます。正会員として積極的に参加してくださる方がたと、企画提案、活動、とともに行っていきたく思います。分野をこえ、世代をこえ、活動ができればと考えております。
それぞれの業界ではやりづらいことも、分野を超えてともにできることもきっとあります。
メルマガ購読のみの方も、ご寄付いただければ幸いです。若い方を中心にした活動をより活発化していきたいと思います。
<正会員へ切り替えのお願い・ご寄付のお願い>
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5. FENICS会員の活躍
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藤元敬二さん(写真家)

FENICSイベントでも何度かご一緒したことのある写真家で、ケニア、ウガンダで滞在しながらゲイのひとびとの写真を撮った経験のある藤元さん。その後も日本での活動も含めた、作品発表です。
 
ドキュメンタリー写真を撮影している写真家のフォトフェスティバル、Tokyo Documentary Photo 2024。
6月28日から始まった14名の写真家たち(http://tokyodocumentaryphoto.com/?page_id=31)によるグループ展・トウキョウドキュメンタリーフォトに参加、藤元さんはは新旧二冊の写真集を組み合わせた展示をします。
 
 
【期間】2024年6月28日 – 7月7日,  June 28th to July 7th 2024
【時間】12:00 – 19:00 (会期中無休・最終日は17:00まで)
【場所】都内4会場 (藤元敬二はキチジョウジギャラリーにて)
 
キチジョウジギャラリー
東京都三鷹市井の頭3-32-16セブンスターマンション105
展示作家:  坂東 正沙子 / 藤元 敬二 / 冨永 晋
 
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以上です。お楽しみいただけましたか?
みなさまからの情報、企画、お待ちしています。
 
 
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メルマガ担当 椎野(編集長)・澤柿
FENICSウェブサイト:http://www.fenics.jpn.org/