FENICS メルマガ Vol.81 2021/4/25
1.今月のFENICS
新学期、新年度も、がたがたとコロナ対策でゆれています。さすがに疲れもでておられる方も多いでしょう。
フィールドにいけない時期が、さらにのびそうです。分野ごとにその対策は異なると思いますが、ぜひとも各分野の試みもお教えいただければ幸いです。社会学、地理学、考古学、生態学などなど、どうなさっているでしょうか?分野をこえて、試みをシェアできればと考えています。
フィールドにいけない時期が、さらにのびそうです。分野ごとにその対策は異なると思いますが、ぜひとも各分野の試みもお教えいただければ幸いです。社会学、地理学、考古学、生態学などなど、どうなさっているでしょうか?分野をこえて、試みをシェアできればと考えています。
来月は、フィールドワーカーとライフイベントについて、アフリカ学会と文化人類学会と共催でイベントが開催されます。双方とも申し込み、受付中です!
ますます勢いを増して若者にもせまってくるCOVID-19には、くれぐれもお気をつけください。
それでは本号の目次です。本田ゆかりさんによる、新しい連載が始まります!
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1 今月のFENICS
2 フィールドワーカーのライフイベント<連載>(本田ゆかり)
3 お世話になった「フィールド」へどう還元するか<不定期連載>(椎野若菜)
4 FENICSイベント
5 会員の活躍(久世濃子)
5 会員の活躍(久世濃子)
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2.フィールドワーカーのライフイベント
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海外日本人社会というフィールド ―駐在員の妻として、女性研究者として―
本田ゆかり(東京外国語大学大学院総合国際学研究院 特別研究員)
専門はコーパス言語学・日本語教育で、現在はポスドク研究員として主に研究業務と日本語学習教材の開発などを行っている。25年ほど前、学部生の頃に特に深い考えもなく日本語教育を専攻したのをきっかけに、自治体の運営する日本語教室でボランティアとして日系ペルー人に日本語を教えた。この時、日系人を取り巻くさまざまな問題について知った。人々は、経済的豊かさを求めて遠い日本まで出稼ぎに来ていた。しかし、実際は賃金の安い単純労働者であり、思い描いていた豊かさは得られず、日本滞在が長期化しても日本語はほとんど話せなかった。私は週に1度、夜間、人々の仕事の合間の時間に工場の一室を訪れ、日本語の授業を行っていた。私はまだ勉強中の大学生だったが、大変喜んでくれた。そのような経験があって大学卒業後は日本語教育の道へ進み、海外や日本の大学に勤め、関連学位を取得し、紆余曲折を経て現在に至る。
私はこれまで日本語教師としての仕事でハンガリーと中国、また、結婚後は外交官の夫とともにガーナ、パキスタン、アゼルバイジャンで海外生活を送った。現在は海外駐在員の妻、いわゆる駐妻として研究業に従事している。配偶者の海外駐在に随伴する際には、仕事を持っていても退職したり休職したりすることが一般的で、私のようなハイブリッドな例はあまり聞いたことがなく、生活面でも仕事面でも迷い悩むことが多い。この際、「駐妻研究者」という新ジャンルを開拓したいぐらいである。
FENICSメルマガはフィールドワーカーの方々に向けたものなので、本稿では海外の日本人社会をひとつのフィールドとして見立て、駐妻という当事者でありながら調査者的な視点で海外の日本人社会についてお伝えしていきたい。この連載の前半では海外の日本人社会について(シリーズ「駐妻は見た」)、後半では外交官夫の帯同で海外に暮らし、子育てしながら働く女性研究者としての悩み(シリーズ「駐妻研究者はつらいよ」)について綴っていく。似た境遇の方々のご参考になれば、また、問題提起となれば幸いである。
連載1回目はシリーズ「駐妻は見た」として、海外の日本人社会について紹介する。私などがここで説明するまでもなく、大抵の国の首都や大都市には日本人会というものがあり、多くの国でそのような組織を中心に日本人社会が形成されている。日本人会は、その国に在住する日本人を対象に現地の情報を発信したり、さまざまなイベントを企画したりするなど、連絡・交流の場を提供している。
日本人会は日本人であれば誰でも入会できるが参加の義務もない。そのため、一口に海外在住と言っても、立場によっては日本人会及び日本人社会との関係が希薄なまま過ごすことになる。実際に、私が海外生活を経験したのは青年海外協力隊としてハンガリーに派遣されたのが最初だったが、この時は同じ協力隊の日本人以外とはほとんど交流がなく、仕事でも生活面でもどちらかと言えばハンガリー人と密に関わり過ごしていた。その分、現地語の習得も進んだし異文化理解も深まったと思う。大変貴重な体験であった。
一方、ガーナ、パキスタン、アゼルバイジャンでは大使館員の家族として日本人会に参加し、日本人社会と大変密接に過ごすこととなった。立場が変われば、同じ海外生活でもこんなに違うものかと驚いたものである。海外生活では誰もが大なり小なり異文化適応に苦しむことになるので、日本人同士の集まりは、憩いの場や助け合いの機会として大いに役立つ。一方、あくまで私見だが、日本人社会と密であればあるほど、現地の言葉の習得や文化に対する理解が進まないように思う。日本人同士の付き合いが増える分、現地人と接する機会が少なくなり、日本人同士で集まれば異文化適応のストレスから現地に対する愚痴を言い合うので、それも必然と言える。愚痴を言うのも大切なことなのではあるが。
次回は、そんな日本人社会での具体的なエピソードについてお伝えする。 (つづく)
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3.お世話になった「フィールド」へどう還元するか
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ケニア・小学校での水タンク設置の場合(2)
椎野若菜(社会人類学・東京外国語大学AA研)
FENICSをつうじご協力いただいたみなさまのおかげで、ケニア・小学校での水タンク設置をすることになった、そのきっかけは、FENICSシリーズ12巻『女も男もフィールドへ』、そしてもうすぐ出版される4巻『現場でそだつ調査力』の著者である杉田映理さん代表の月経にかんする調査課題「グローバルなアジェンダとなった月経のローカルな状況の比較研究」(2017~2020)に参加させていただいたことだ。この研究は、月経をめぐる伝統的な観念、その変化、月経教育の状況、政府や開発機関、学校による月経衛生(Menstrual Hygiene Management: MHM)に関する介入・実践状況、経血へ対処するためのモノ(生理用品)の状況等について、メンバー各々がウガンダ、ケニア、インド、カンボジア、ニカラグア、インドネシア、といったフィールドで調査を行うというものであった。私のフィールドはケニアとウガンダであるが、ケニアにおいては、私は長らくお世話になってきた女性、リネットのつとめるケニアの小学校で調査することにした。ここでまず明らかになったのは、児童数809人(男子384人、女子425人)もいるにもかかわらず学校に水が「ない」ことだった。月経衛生、コロナ対策以前の状況であった。
用を足した際、また教員がチョークを教室で使ったあと、さらには喉がかわいた際、学校に水なし状態でどうしているのか??日本の感覚でいえば信じがたいが、リネットによると教員たちはペットボトル等で毎日、もっていきているという。生徒はといえば、トイレ掃除当番にあたると自宅から5リットル程度の水を持参することになっている。だが、生徒は喉の渇きから掃除するまえに飲んでしまうこともあるという。トイレの設備、生理用品を捨てる場所がない等で生理中の女子生徒が学校を休みがちであることが問題視されてきたが、手を洗う水がないことは、コロナ以前から男女ともに衛生面でかなり問題であることに間違いない。このような状況を、なぜ教員が放置してきたのかを聞いてみた。
すると、リネットのこたえは、何年にもわたり、校長として座っている男性が、政府からのわずかな補助金も自分が横領してしまい、教育委員会関連の客がくると大変もてなし、ほかの教員は何も言えない権威体制が続いていたという。その校長はコロナ禍の昨年の6月で定年となり、新しい校長になったときいた。それを機に、私は友人リネットとともに、責任をもって水タンク設置プロジェクトを遂行できると思うにいたったのだった。
便利になったものである。World Remitという送金システムで、比較的安価な手数料で、リネットの携帯電話の口座へ送金し、彼女は次の日には受け取ると同時にタンクを買いに行けたという。田舎なので、はじめは大金を一度に受け取れるだろうか?と私も彼女も心配していた。田舎のm-pesa業務をつかさどる小さな店で、彼女の携帯電話のアカウントに送金された日本円でも10万円以上のキャッシュを受け取れるとは考えにくいのだ。銀行送金の場合、女性が高額な送金を窓口で受け取ること自体、その手続きの過程ですんなりとはいかないという。だがなんと、このm-pesaでは、いったん彼女の口座に送金されれば、そのうちの「少しずつ」でも引き出すことができるのである。しかも、タンクを扱う金物店で購入をきめ、彼女のm-pesa口座からその店の口座にお金を送れば、彼女が自分のアカウントから現金を引き出す必要もない。こうしたキャッシュレスのやりとりが、ケニアの片田舎でもできるようになったのである。
便利になったものである。World Remitという送金システムで、比較的安価な手数料で、リネットの携帯電話の口座へ送金し、彼女は次の日には受け取ると同時にタンクを買いに行けたという。田舎なので、はじめは大金を一度に受け取れるだろうか?と私も彼女も心配していた。田舎のm-pesa業務をつかさどる小さな店で、彼女の携帯電話のアカウントに送金された日本円でも10万円以上のキャッシュを受け取れるとは考えにくいのだ。銀行送金の場合、女性が高額な送金を窓口で受け取ること自体、その手続きの過程ですんなりとはいかないという。だがなんと、このm-pesaでは、いったん彼女の口座に送金されれば、そのうちの「少しずつ」でも引き出すことができるのである。しかも、タンクを扱う金物店で購入をきめ、彼女のm-pesa口座からその店の口座にお金を送れば、彼女が自分のアカウントから現金を引き出す必要もない。こうしたキャッシュレスのやりとりが、ケニアの片田舎でもできるようになったのである。
まず小学校の位置する小さなトレードセンターにある、工事を担えそうな大工に見積をしてもらい、その後、彼女は校長とともにタンクが手に入る町までマタツ(乗合バス)ででかけタンクの手配をし、いよいよ小学校にタンクがやってくることになった。
(つづく)
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4. FENICSイベント
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5月は、ふたつの学会とFENICSサロンの共催があります。
(1)2021.5.23 FENICS×アフリカ学会 zoom共催サロン :フィールドワーカーのライフイベント
申し込み受付中!!
申し込み受付中!!
アフリカ学会の研究大会がオンラインで開催されるのにあわせ、FENICSと共催でイベントを開催します。
フィールドワーカーのライフイベントと、アフリカ研究にとって重要なフィールドワークをどのように両立していけばよいか、実践例、経験から情報や問題を共有する場です。
主に両立に関し考え、悩みを抱える方に向けてのお話ですが、また周り、指導教員等はどのように考えていくべきか、立場の異なる男女の参加も期待しています。今回は子連れフィールドワークに焦点をあてます。
パートナーと、お子さんと一緒にご参加ください。
趣旨:椎野若菜(東京外国語大学アジア・アフリカ言語研究所)
話題提供:網中昭世さん(FENICS正会員・ジェトロ・アジア経済研究所)
「子どもを連れてフィールドに行くこと―モザンビーク版」
情報共有
(5月22日の夜10時が締め切り)
#妊活 #妊娠 #出産 #子育て #PDと保活 #パパ友 #子連れフィールドワーク
#パートナーの理解 #パートナーとの分業 #介護 #フィールドワーカーの健康
(2)日本文化人類学会 第55回研究大会(オンライン)
男女共同参画・ダイバーシティ推進委員会キックオフシンポジウム
「人類学者の心地よいライフ・ワーク・バランスを考える:日本文化人類学会の現状を知ることから」
申し込み、受付中!
昨年度より日本文化人類学会に男女共同参画・ダイバーシティ推進委員会が発足されたことにともない、このたび当学会の第55回研究大会にて、「人文社会科学系学協会における男女共同参画推進連絡会」Gender Equality Association for Humanities and Social Sciences(GEAHSS略称ギース))とNPO法人FENICS (Fieldworker’s Experimental Network for Interdisciplinary CommunicationS)との共催にて、フィールド研究者のライフ・ワーク・バランスを考えるイベントを開催することになりました。日本文化人類学会のイベントですが、学会員のパートナー(非会員)やほかの分野の方からのご参加により、より問題意識が高まることを期待しています。
日時:2021年5月29日(土)13:00-14:30
共催:GEAHSS、NPO法人 FENICS
参加方法:シンポジウムはZoomを利用して開催します。参加申し込みの方法は以下の通りです。
(1) 日本文化人類学会第55回研究大会への参加登録者は、あらためて参加申し込みをする必要はありません。開催日前にメールでZoomのURLとパスワードを送付します。
(2) FENICSから本イベントをお知りになった方、文化人類学会会員でも研究大会参加登録をしていない方々は、以下のリンクから参加申し込みを行ってください。締め切りは5月27日(木)17:00(JST)とします。ご登録いただいたメールアドレスに、開催の前日にZoomのURLとパスワードを送付します。
<プログラム> 司会・中谷文美
趣旨説明
中谷文美(岡山大学)
会長挨拶
窪田幸子(芦屋大学)
「男女共同参画・ダイバーシティ推進委員会」立ち上げの経緯
Part I 日本文化人類学会の現状
「文化人類学会の男女共同参画の歴史・現状――ジェンダー比をみることから」
椎野若菜(東京外国語大学)
「女性研究者が生き残るために必要な資源とは」
嶺崎寛子(成蹊大学)
「地方国立大で育休を取る――高知大学人文社会科学部の事例」
岩佐光広(高知大学)
「子育てとフィールドワークの両立という観点から、子育てフィールドワーカーが直面する困難」
椎野若菜
Part II 人文系学会における日本文化人類学会の位置―ギースの紹介と他学会のとりくみ
「歴史学の場合」
井野瀬久美惠(甲南大学)
参加者で意見交換
学会としてサポートできるポイントは何か
5.会員の活躍:久世濃子さん
FENICS100万人のフィールドワーカーシリーズでは、12巻『女も男もフィールドへ』13巻『フィールドノート古今東西』にご執筆の久世濃子さん(霊長類学)の書かれた本『オランウータンに会いたい』(あかね書房、2020年3月)が、このところ大変注目されています。
5.会員の活躍:久世濃子さん
FENICS100万人のフィールドワーカーシリーズでは、12巻『女も男もフィールドへ』13巻『フィールドノート古今東西』にご執筆の久世濃子さん(霊長類学)の書かれた本『オランウータンに会いたい』(あかね書房、2020年3月)が、このところ大変注目されています。
厚生労働省の「令和2年度 児童福祉文化財」に選ばれました。
また、「児童福祉文化賞推薦作品」(主催:一般財団法人 児童健全育成推進財団、公益財団法人 児童育成協会)に選ばれました。第67回青少年読書感想文全国コンクールの課題図書にもなりました。
フィールドワークのたのしさも伝えられ、霊長類の知識も子ども向けにわかりやすく書かれています。
お子さんのいらっしゃるかた、ぜひとも!
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以上です。お楽しみいただけましたか?
みなさまからの情報、企画、お待ちしています。
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https://fenics.jpn.org/contact/
メルマガ担当 椎野(編集長)・澤柿
FENICSウェブサイト:http://www.fenics.jpn.org/