FENICS メルマガ Vol.100 2022/11/25 
 
 
1.今月のFENICS
  
FENICSメルマガ、おかげさまで100号をむかえました!!!
いつも、お読みくださりありがとうございます。メルマガにご寄稿いただく内容をふりかえると、FENICSの活動の広がりがみえてきます。今後もいっそう、研究における、社会における、アートにおける、人生における、あらゆる次元における・・広義の「フィールドワーク」をかかげて、小さな出会いをネットワーキングにつなげ、活動をつづけたいと思います。今年の大きな出会いであった「志縁の苑」の方々と、9月、10月と続けて共催イベントを行いましたが、10月のイベント報告をご寄稿いただきました。  
活動をぜひ紹介したい、という方々はぜひともお寄せください。お待ちしております(fenicsevent[at]gmail.com)。これを機に、FENICSの正会員としても加わっていただけると嬉しいです。
  
記念すべき本号、諸事情で発行が大幅に遅れましたこと、お詫びいたします。またコロナの波がじわじわとやってきました。みなさま、くれぐれもお気をつけくださいませ。
 
さて、本号の目次です。  
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1 今月のFENICS
2 子連れフィールドワーク(連載④)(椎野若菜)
3 イベントリポート(梅原孝司)
4 FENICSイベント
5 FENICS会員の活躍
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2. 子連れフィールドワーク(連載④)(椎野若菜)
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コロナ禍での子連れアフリカフィールドワーク:ウガンダ④
 
椎野若菜(FENICS・東京外国語大学・社会人類学)
 
結婚披露宴の「調査」
夜中に西部のムバララより首都カンパラに戻ったのに、その翌日には都市での結婚式をみたい、という私の調査目的で、家族総出で遠い親戚の結婚披露宴に出た。ビデオカメラ、カメラを数台もっていき、私が調査モードで撮影を始めると、子どもたちもそれぞれにカメラをもって撮影し始めた。よそ者の外国人はひっそりと撮影を、と心がけると、いいところが撮れない・・・と思っていたら、JとLも他の子どもたちに交じって、どうどうと花道にでて撮影していた。今回、唯一、調査の助けになると感じたのは、JやLといると家族としてセットで見られるので、人びとからあまり怪しまれないことであった。とはいえ、延々と続く披露宴に二人はあっさりとあきてしまって、公園のように広い披露宴会場を走り回ったり、とにかく私が終わるのを待っていた。夜9時を回って、翌日からの調査旅の予定もあるため、会場を引き上げることにした。

盛大な結婚式会場

いざ、北部へ
 今回の旅はLの入院が予定外に入ったので、その後は強行スケジュールにせざるを得なかった。夜遅くに結婚式会場より戻り、また翌朝には北部に向かって出発した。食料事情が分からないので、子どもたちが気にいってくれたロングライフミルク(500ML)10パック入りを段ボールに1箱、大きなパン2斤、フルーツジュースを数リットル、水、スパゲッティ、缶詰ソース、テント、シュラフ…などを車に詰め込んでいった。
 
 北部へは7時間ドライブは必須である。夫はウガンダ西部出身なので、北部では彼はストレンジャー。直前に心配になって、クルマの空気圧もチェックしに行く。滞在拠点から、渋滞するカンパラ市内をうろうろしているうちに、出発がお昼前になってしまった。一度、私たちの結婚の「イントロダクション」の儀礼をしたカンパラ郊外のホテルでトイレ休憩のために車を降りたが、その後は延々と7時間、ブッシュでのトイレ休憩以外、車中となった。

ウガンダで気に入ったミルクのひとつ。子どもたちは、ミルクばかり飲んでいた。

 
私にとって、北部ウガンダの村に行くのは、まさに10年ぶりだ。長男Lが生まれてから行くことができなかったのだ。思わず、興奮して車窓を見続ける。夫に、「西に行くときは眠そうなのに、北に来ると、なんだか楽しそうだね」と言われる。苦笑しつつ、心の中で思う。「すみません、やっぱり私のフィールドなので・・・。久しぶりでわくわくが抑えらない!」
 
ある地点まで行くと、アスファルトの道路はなくなり、轍(わだち)が重なりえぐれた部分、大きな穴をよけながら、車を走らせていく。急ブレーキもあり、車体が左右に揺れ続け、しかも雨が降ってきた。日が落ちるまえに現地に着かねばならない。運転手も、そして子どもたちもそれぞれが、悪路でずっと揺れる、休憩なしのドライブをふんばってついていく。(無茶苦茶である!)

大雨をもたらした雲


車中エンターテイメント
彼らの車中でのハイテンションを支えたのは、ドライブ用に夫が作成した音楽プレイリスト、Daddy’s selectionだった。リンガラ音楽のビートのアンコーレ語で「カトゴ(料理バナナのごった煮料理)を食べた?」と熱唱するものから、ナイジェリアのポップス、ウガンダの女性シンガーのラップ、など多様な飽きないプレイリスト。1時間半のリストを何度、再生したことか。日本に帰国してからも、まだずっと”warire entogo” (カトゴ食べた?)と子どもたちは口ずさんでいる。また別の機会に、紹介したい。
  
リラ到着!
目的地の北部の街、リラに着くまえに大雨となり、日が暮れて真っ暗になった。誰もが不安に違いないのに、子どもすら不安を口にはせず、どこに行くのかと黙っている。10年前には使えなかったGoogleマップを頼りに、お世話になったオジサンが始めたというロッジをめざす。10年たってもなんとなく覚えているものである。暗がりの雨のなか、かつて私のホストファミリーを紹介してくださった懐かしいオジサン(いや、オジイサンになっていた)の顔が現れ、車を止めるところをガイドしてくれた。子どもたちは「ここ、どこどこ!!」と言いながら車を勢いよく降りる。10年前はなかった電気が、家屋についている。愛嬌のあるオジサンは、疲れた子どもたちにもとてもやさしく、ジェスチャーを交えて楽しくなる対応をしてくださって、二男のLはさっそく虜になった。
(続く)
 
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3. イベントリポート
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今年、9月、10月と二回続けて、地縁、血縁でもなく志縁によるつながりを提唱した、もろさわようこの築いた長野の「歴史を拓く家」でFENICSと共催でイベントが開催された。9月のイベントにつづき、10月のイベントについて梅原さんがご寄稿くださった。
 
★イベントリポート★2022.10.9(土) 13~16時 FENICS×志縁の苑×ジェンダー・セクシュアリティ人類学研究会 共催サロン「父系社会における女性の境遇―インド、アフリカ、そして日本」(ハイブリッド)
 
報告者: 梅原孝司(一般財団法人志縁の苑 世話人)
 
私ともろさわようこさんとの出会いは、高知で中学教師を、55歳で早期退職し、もろさわさんが住んだ、高知の住まい(1998年、人権の輝きを求め、人間であることを互いに喜び合う「歴史を拓くよみがえりの家」*)の世話係として、勤めた時からです。その後、連れ合いの故郷、長野県川上村に移住し、同じ県内の佐久市、望月の「志縁の苑」の草刈りをやり、集まりにも参加するようになりました。小山の上の志縁の苑で、草刈機を動かしながら、もろさわさんと、世の中の事、著作のことなど、様々な対話を通じ、多くのことを学ばせてもらいました。作業や集まりを通じ、おのれの考え方、見方を再点検、構築しなおす、再生の機会を与えられたことに感謝しています。今や70歳前の高齢者、学ぶ先から抜け、それでも新しい出会いは楽しい。

参加者それぞれが、志縁の苑の世話人のひとり、山之上さんが自家栽培した米でつくったごはんでお握りをつくる(photo by 椎野若菜)

今年、NPO法人FENICS、ならびに「ジェンダー・セクシュアリティ人類学研究会」、の方々がこの長野の志縁の苑に足を運びだしました。私が初めて、「ジェンダー」について考えたのは、もう、40数年前のアメリカ西海岸への旅でした。ロスの街に出て、まるで男女が手をつなぎ、身体を寄せ合っているかのような姿が、男同士であったことがショックでしたし、「アメリカはすごい。恐ろしい所だ」というのが、正直な気持ちでした。今、LGBTQなど、多様な性について共感的に考えようとする姿勢が、世の中に出てきていますが、30年間の中学教師生活を振り返る時、ジェンダーについては、恥ずかしくらい無知でしたし、狭い見方で、子どもたちと接してきたなと思います。性の不一致だけでも、きっと、あの子は悩みながら、誰にも相談することがなかっただろうなと、振り返って、そう想像できる子どもたちもいます。学校では、多様なジェンダーについて考えることもなかったし、真剣に教師同士が、学び、話し合うこともなかったです。「学校では触れまい。放っておこう」というのが、当時の教師同士の共通認識でした。そうした苦い記憶と反省をもとに、子どもたちの人権を守り、多様な性のありようが、当たり前にあること、差別、偏見無く個々の存在が保証される社会に変えていくためにも、入口の「学校」の役割は問われています。「学校」が多様な性を生き方として、認めていく社会を作っていく責任は重いです。学びや研究者との交流を通じ、こうした問題を取り上げ、考えることもなかった教師であったことに、忸怩たる思いです。

9月につづき、10月のイベントに足を運んでくださった方々も多かった(photo by 松前もゆる)

 10月9日に長野・望月の「家」で開かれた集まりは、世界各地をフィールドとする社会-文化人類学の女性研究者との交流でした。知らない世界に多様な生き方、文化があること、現在の人権という視点から見ると、超えていかなければならない大きな壁や課題があることを学ぶことは、同時に私たちが今生きる、この日本という国はどうか?という問いを逆反射してきます。モノグラフとして、菅野美佐子さんによるお話からインドのカースト、椎野若菜さんからアフリカの父系社会での女性の境遇について学ぶことができたことは、私の思考を広げました。研究会の皆さんとは、今後も「縁」が続くことを願いますし、次の機会には、皆さんが、もろさわさんの著作や考えのどこに触発され、自分の生き方に影響を与えたのか?「学問」「研究」の枠を取っ払った、生身の言葉が聞きたいですね。男性論理の強い学問、大学の世界で、女性でやっていくこと自体、相当な重圧であろうと、推察します。変えていかなければならない課題は共通にあります。そうした交流の場であって欲しいし、相互に高めあえる関係を築きたいです。「ある日、偉い先生が来て、立派なお話を、ありがたく聞いた」で終わることのない、もろさわさんの目指した生き方に、自分自身を変えていく「志縁」を目指していきましょう。「家」の在り方を考え、個々が実践的に変わっていく場にしたいなという、希望を持っています。
*『志縁のおんなーもろさわようことわたしたち』(河原千春編著、一葉社)P8。
  
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4. FENICSイベント
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FENICS×ジェンダー・セクシュアリティ人類学研究会 共催サロン
性について話そう:大学生とともに(仮)

2022年12月19日(月)19:30~21:00 場所:ZOOM
 
(1)「私たちはなぜ生理を隠すのか?―生理の経験についての文化人類学的研究」
(明治大学 碇陽子ゼミ)
参加予定:早稲田大学、青山学院大学、東京外国語大学
(2)門間美佳先生(産婦人科医)を囲んで
詳細は、近くご連絡します!スケジュール確保、お願いいたします!
 
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5. FENICS会員の活躍
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北九州市立大学の竹川大介さん(人類学)が率いる、九州フィールドワーク研究会(野研)の学生たちが中心となって北九州市の旦過市場にスペースをもち「大學堂」と名付けられ運営されてきました。そこでは市場を歩くと求められる、食をそそられる食材をのせて楽しめるように、それぞれの丼をつくって食べる「大學丼」が名物になっていました。そこは「あるときは小物屋さん、あるときは大学の講義室、また音楽や舞踏、落語やお芝居の舞台にもなる不思議なところ。大學堂は、昭和の薫りただよう旦過市場に育てられた「街の縁台」なのです。」

 

2008年のオープン以来、あらゆる業種でフィールドを極める方々、ふらっと立ち寄る方々によって、活発な活動が繰り広げられてきました。ところが、ニュースでご存じの方もいらっしゃると思いますが、旦過市場で起こった火災が原因で、あらたな場所で再生することになりました。それに際し、クラウドファンディングが行なわれています。ご関心のある方は、ぜひともご支援ください。FENICSとも、近い将来、なにかともにやりたいと思っています。

 
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以上です。お楽しみいただけましたか?
みなさまからの情報、企画、お待ちしています。
 
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メルマガ担当 椎野(編集長)・澤柿
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