FENICS メルマガ Vol.123 2024/10/25 
 
 
1.今月のFENICS
 
 やっと、秋めいてきました。9月より、立憲代表選、自民総裁選、そしてどたばた劇のように衆議院選挙がなされましたが、みなさん、そしてみなさんの身近にいる方々、若者は、投票していたでしょうか。
 裏金問題がとりわけ問題になっていたものの、投票率は戦後3番目に低い、53.85%(小選挙区)という結果だったとか。高校等、学校での投票を促す環境にある18歳の投票率は49.21%、その環境にない人が多いと思われる19歳は36.67%と報道がありました。日常に大学や高校の場にいらっしゃる方々は、選挙について、国政について、有権者の若者と考える、選挙をテーマとしてとりあげる時間をつくられたでしょうか。
 テレビ報道も特番も少なくなり、テレビを見ない世代は、各人の思考・嗜好にあったニュースしかSNS等では見ないように環境づくりがなされてきたからか??いやしかし、たとえばこの夏、ケニアではZ世代による大きな抗議活動がありました。インターネット、ソーシャルメディアは同じくあっても、使われ方がどう違うのでしょう。彼らははっきりと、政治の場にいる、政治家たちへの抗議をするために使用していましたーーその「行為」は加速しすぎてしまいましたが。
 今年の2月に亡くなった女性史家・もろさわようこさんが、前回の2021年の10月31日に行われた衆議院選の際、何度か発言していました。女性が選挙権を得たのは1946年4月10日。もろさわさんは21歳で初めて投票し、今年2月に99歳で亡くなるまで、一度も棄権したことがありませんでした。「貧富の差、社会的地位、学歴などのさまざまな差別がありますが、選挙のときは総理大臣も、私たちも一票です。」投票権を持つ年齢になる前から、権力者に国政を委ねず、平等にある一票を使う意味、使わない意味を考えること。政治の流れを見る力を少しずつ、養う機会は今の日本社会にあるでしょうか。2024年8月号のメルマガに紹介したように、ウガンダでは小学校の頃から選挙活動があります。日常と、国政と、自分の人生が大きくかかわっていることを、幼いうちから感じ話し合う環境に、まずしていきたいものです。みなさんのフィールドにおける人びとの選挙に関する意識や教育はどうでしょうか。
 
さて、本号の目次です。会員の活躍のところには、FENICSのメルマガやイベントでご登壇いただいた方々の、さらなる活躍がみえる、嬉しいニュースがあります。
 
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1 今月のFENICS
2 私のフィールドワーク
3 私のライフイベント(大谷琢磨・関野文子)⑤
4 子連れフィールドワーク(椎野若菜)④
5 会員の活躍(分藤大翼/春日聡・大平和希子・古謝麻耶子・小森真樹)
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2. 私のライフイベント
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「お互い院生、結婚・出産どう決めたお金は?日々の子育てのリアル」⑤
  
  大谷琢磨(文化人類学・アフリカ研究 JSPS RPD/立命館大)・関野文子(人類学・アフリカ研究 京都大学ASAFAS)

※たくちゃん=大谷
※あやちゃん=関野
 
話題3: 将来の展望など
 
大谷:ほどほどの業務量で楽しく生きて行きたい。Aちゃんの送り迎えをして、幸せに暮らしたい。
 
関野:それは、今実現してるって事かな?
 
大谷:大学に就職したら崩れるかもしれない。
 
関野:まあそれもやっぱり自分の働きかけ次第ではあるんじゃない。ある程度その現行の慣習とか制度に対してどれぐらい疑問を感じて、変えようと働きかけるかどうかだと思う。その働きかけが、うまくいくかどうかは分からないけど、まずは小さくてもアクションを起さないと何も変わらない。
 
大谷:子育てしている先輩研究者の話を聞くと深夜1時まで研究をするとか、深夜4時に起きて研究を始めるとかよく聞く。しかも土日に研究会や学会があるし、平日でも17時を超えたり、17時以降に始まる研究会があったりして、その辺りどうにかしてよと思う。睡眠時間を削って、土日も仕事にいそしむという働き方はしたくない。ハードワークが普通の大学教員業界はおかしい。みんな国から競争させられて、いつのまにかあくせく働くことが普通になってる。説明会やインターンに参加して話を聞いた企業の方が、ずっと仕事と家庭のバランスをとりやすく感じたよ。

FENICSサロン@アフリカ学会2024にてトーク

関野:海外の研究所とかに行ってさ、日本だけじゃない海外の研究機関に行ったらいいんじゃない?オックスフォードか、どこかの大学院で、院生のワークライフバランスマニュアルみたいなのがあると、先輩に紹介してもらったことがあるよね。そういった資料が出回る時点で、日本とは全然違うよね。日本と欧米では、学生の時から意識が違うと思う。日本の研究者を見習っていてはだめだよ。
 
   卑近な例だと、面談の時間とかセミナーの時間1つとっても、どの程度、教員の言いなりになるかとかでも変わるよね。実際、私たちも仕事の時間、バイトの時間なんかも、保育園のお迎えの時間に合わせて、通常の時間を変更してもらったりしてきたね。たくちゃんはいつも協力してきてくれたけれど、男性だと本人が仕方ないと思って、上司とか教員の時間に合わせて、言われたままにすることって結構あると思う。私だったら、夫にそれされたらキレるけど。笑 「そんなん時間変えてももらえないの〜?」って、たくちゃんによく言ってきた気がする。そもそも、子育てするしないにかかわらずその研究と労働環境みたいなのはよくしないといけないよね。
 
大谷:子育てしてる研究者もしてない研究者も、9-17時くらいのあいだに教育も事務も研究も終わらせて家に帰りたいはずだよ。
 
(終わり)

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3. 子連れフィールドワーク④
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5歳児と10歳児とともに、ウガンダ調査へ 2023夏④

   椎野若菜(社会人類学・アフリカ研究/FENICS・東京外国語大学)

 前回(8月号)では、調査と会議の合間のちょっとした期間、子どもたちを現地のウガンダの小学校にいれたエピソードをご紹介した。 
 さて、いよいよマケレレ大学での二国間交流事業の研究会の日、2023年8月17日。子どもたちを連れて会場へ。一日中の会議が二日間行われる予定なので、あらかじめ日本から新しい(サプライズの!)ジグゾーパズルをもってきた。今回は子どもたちが5歳と11歳になったことから、マケレレ大の学生さんに子守を頼まなかった。長男Jは、パズルにすっかりはまってやりだす。二男のLといえば、司会進行の白石壮一郎氏のとなりに座り、パズルの箱を自分のコンピュータに見立てて打ってみたり、絵を描いてみたり。そのうち、飽きてしまって、一人でふらふら歩きまわり始めた。長男のJに、一緒に外に行くよう促しても、「迷うといやだ」とずっと同じ部屋にいる。Lは会場の建物の外にでて、回って私たちの居る会議室の外側のベンチに座ったり、建物内外を勝手に探索しているようだった。

ちょっと狭いですが、むしろ、互いが近くなり仲良くなれるマケレレ大の会議室。国際的に相互利用が可能なローミングサービスEduroamもちゃんと入り快適でした。

Lもノートパソコンもってます。

 昼食は、マケレレ大学内の学食に皆で向かった。前年に、おそらくこの学食でのジュースがお腹にあたったかと(私が勝手に)疑ったので、今回の旅では注意深く、飲み物はパックか、瓶のものにしていた。そして、お弁当をつくってもっていくことにした。
 さて、研究会二日目。私自身が発表することになっていた。ところが早朝から、Lが嘔吐と下痢に苦しみだした。なんとか、大丈夫かと準備をして、マケレレ大学へ向かう。ところが、Lが車内で嘔吐。やはり病院に連れて行き、Lは休ませるべきと判断した。検査の結果、マラリアではなく、強いバクテリアにやられており、また白血球の数が増していた。どこでもらったのだろう・・・現地の小学校、マケレレ大、構内外を自由に一人で歩き回り、もちろんすべてを触りまくる5歳児。注意したつもりでも、これだ。一番かわいそうなのは、ご本人。昨日まで、あんなに元気だったのに。。

やっぱり、今年もまたクリニックにくることに・・

  発表の順番をずらしてもらい、私は、長男Jとともに、プライベート・カーではなく乗り合いバスに乗ってマケレレ大に向かう。Lのことを心配し、不安な気持ちを抱えるとき、旅の相棒がいるのは、私自身の気持ちも落ち着いたのは確かだ。途中、渋滞で止まってしまったので、大変な喧噪の中をバイクタクシー(ボダボダ)を見つけ、乗り継いでマケレレ大の会場にむかった。混雑のなかでJがバイオリンを背負うのは危険かと考え、私が代わりに背負った。研究会議二日目の夜は打ち上げの懇親会が予定されており、Jはそこでバイオリンを弾くつもりにしていたのである。最後は家族そろっての参加にならなかったが、Jは懇親会での演奏の役割りを終え、レストラン内の皆さんにも聴いてもらって、少し誇らしげでもあった。さて、帰国まで5日、Lの回復なるか?

(つづく)
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4. FENICS会員の活躍
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(1) 分藤大翼さん(正会員)・春日聡さん(正会員)
 
分藤大翼さんと春日聡さんの作品、「からむしのこえ」(2019)が松本で上映されます。
 
『からむしのこえ』上映会
 
2024年11月9日(土)
会場 : 松本市美術館 2階 多目的ホール
https://matsumoto-artmuse.jp/visitors/
時間 : 14:00~16:00( 開場:13:30/上映90分+トーク)
チケット : 1,000円 定員:80名
主催 : re◁un|リアン 學而舎
リアンのインスタprofileまたは下記から。
申込フォーム
 
(2) 大平和希子さん(正会員
『研究者、生活を語る』(岩波書店)という本が出版されました。(https://www.iwanami.co.jp/book/b652391.html
大平さんは、これまでFENICSのライフイベントに関するサロンへのご登壇、またメルマガの連載もしてこられました。
 
大平さんよりメッセージ:
「今回、本書では「家族のケア(主に育児と介護)をしながら研究・教育に奮闘する27名の体験談を集めた本です。(以前、オンライン・誌面で連載されていたエッセイの書籍化です。)私は、産後1ヶ月で単身渡米したことの裏話を中心に体験談を寄せました。」

  本書の書き手は1980年代生まれの世代が多く、FENICSでフィールドワーカーとライフイベントサロンを開始してから、そこに来てくださっていた方々の第二世代かと思います。サロンを開始して10年がたち、こうした本が岩波書店から出るようになったこと自体が、少しずつ世の中が変わってはきたのかと感じます。しかし、これが始まり、という感触もあります。
  2019年のFENICSサロンでお話いただいた後、大平さんは第二子をもうけられ、ポスドクの機会を得て産後1ヶ月で渡米。どのようにやりくりをしてきたか、またFENICSでも機会をつくり生でお話をうかがいたく思います。

(3)古謝麻耶子さん
古謝さんによる科研費課題「周縁化された知を開いていくための音楽実践」に関するイベントが、11月に多く開催されます。古謝さんご自身の演奏の出演もあります。
くわしくは、こちらをご覧ください。
 
【トークセッション&コンサート】
 11/22(金) 映像とパフォーマンスの織りなすもの
時間: 19:00-21:00  入場無料 要予約
場所: 沖縄県立芸術大学芸術文化研究所 3F 小講堂
演奏: マチュメ・ザンゴ Matchume Zango(モザンビーク出身パーカッショニスト)
 
★【ワークショップ】
11/25(月) 世界の音楽と出会いながらみんなでうたをつくる
時間:  Open 19:00 Start 19:30 
講師: 矢野原佑史×マチュメ・ザンゴ
場所: Punga Ponga (那覇市牧志1丁目1–11)
入場無料 要1オーダー 定員 20 名 要予約
 
【内容】音楽人類学者でDJでもある矢野原佑史(京都大学 特任研究員が)が、モザンビーク出身アーティストのマチュメ・ザンゴ、そして、その場に集まった来場者とともに、対話を通した楽曲制作を行います!
 
11/27(水) イチムシのうたあしびー
イチムシをテーマにしたわらべうたでパフォーマンス
時間: 18:30-20:30  
場所: 沖縄県立芸術大学芸術文化研究所3F小講堂
講師: 比嘉陽花(比嘉座)×マチュメ・ザンゴ
対象年齢18歳以上 入場無料 要予約 定員20名
 
【内容】琉球語は、無限の可能性を持っています。
ウチナーグチの創作演劇を上演する比嘉陽花と一緒に、あなたも琉球語でパフォーマンスをしてみませんか?今回のテーマは「いちむし(生き物)」。
 
【関連イベント】
11/28(木)LIVE 「アフリカ×モザンビーク Night」
時間:Open 19:30 Start 20:00 
場所:Sound M’s (那覇市久茂地3-29-68 3F)
出演者:矢野原佑史・平良亜弥・古謝麻耶子 他 / スペシャルゲスト:Matchume Zango 
 
(4)小森真樹さん
 
講談社より、小森さんの初の単著、『楽しい政治 「つくられた歴史」と「つくる現場」から現代を知る』(講談社選書メチエ)2024年10月10日発売!
帯には「トイ・ストーリー」と「創造博物館」に政治を見る。とあります。小森さんが院生だった時、北大でFENICSの集まりをした際、この創造博物館についての話をしてくださり、アメリカ人のマインドに触れ、非常に驚きました。
いま、まさにアメリカの大統領選の真っただ中ですが、アメリカってどんなところ?と知るためにも、本書は助けになるでしょう。フィールドワーカーの知の積み重ねからは、人びとの、それぞれの日常からの、異なる顔をみることができます。

小森さんよりメッセージ:
「FENICSのメールマガジンで記事を書かせていただいたことが本書の元になりました。あの翌年すぐに書籍化して出そうと思っていた計画が、改稿に改稿を重ねてようやくここまできました(厚すぎ高すぎになってしまいました)。
ぜひご笑覧ください。」
 
[本書の内容]
第I部 つくられた歴史から〈構造〉を知る
第1章 集会と虐殺――パブリック・ヒストリーが開いた負の歴史
第2章 コンクリートジャングルのカウボーイ――「歴史修正」の功罪
第3章 妖怪と差別――トラウマと人種主義を「楽しむ」倫理
第4章 ビデオと映画――共感の普遍化と〈構造による人種差別〉
第5章 「トイ・ストーリー」はフェミニズム映画か?――#MeTooと進化するアメリカン・アイデンティティ
第6章 ともに夢見るユートピア――反省と未完のプロジェクト「アメリカ」
第7章 「アウトサイド」の国――周縁から裏返す『ノマドランド』のアメリカ
 
第II部 つくる現場から〈コミュニケーション〉を知る
第8章 アメリカのカーデモ――コロナ禍のフィールドで声をあげる
第9章 代々木のデモのエスノグラフィー――「フィールド」をつなぎ、「見えない」ものに目を凝らす
第10章 モニュメント・ウォーズ――記念碑をめぐる闘争と記憶する社会運動
第11章 言葉のモニュメント――形のない「記念碑」で記憶する
第12章 かえりみるミュージアム――博物館で/を植民地主義の歴史から脱する
第13章 KポップファンのコンヴァージェンスなBLM――ハッシュタグ・ハッキングと正義の荒らし
第14章 オルタナ右翼のカエル神――「ぺぺ右翼化事件」に見るミームの兵器化とSNSの戦場化
 
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以上です。お楽しみいただけましたか?
みなさまからの情報、企画、お待ちしています。
 
 
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メルマガ担当 椎野(編集長)・澤柿
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