FENICS メルマガ Vol.68 2020/3/25  
 
1.今月のFENICS
 新型コロナウイルスの影響は、2月の段階より、はるかに想像をこえた状況になってきました。先日、臨時で発信したメルマガ、内藤直樹さんによる寄稿はどなたかの脱出に役立ちましたでしょうか。こうしている間も世界のあちこちで、各国政府の方針が打ち出され、航空会社の運航方針も突然に変更され、また「外国人」として現地に滞在している場合も動きが制限されています。  

人の動きがグローバル化した状況が、いかにウイルス蔓延をこれほどまで加速化させたか。帰国するにも経由地で起こっていることまで即座に吟味しなければならないという事態は、これまでもそうそうなかったことでしょう。今回の経験は、おそらく今後も起こりうるであろうケースのための、重要なデータとなります。ぜひ、「私はこうやって帰国した/できないでいる」、学生さんをどう導いたか、といったご経験をFENICSのほうにお教えいただきたいと思っております。よろしくお願いいたします。  

 東京をはじめ、日本もまさにいまが正念場となってきました。子どものいる家庭は、すでにクローズドな生活に飽き、親子ともども疲れてきています。私も、まったく自分の時間がとれずに閉口しています。まずは、みなさまもウイルスをもらわないよう、籠ってオンライン・コミュニケーションで、たがいに有益な情報を交換できればと思います。共有するといい情報がありましたら、ぜひお寄せください。
 
最新号、『フィールドワーカーの安全対策』に関する分科会をオンラインになった文化人類学会で行なうことになりました。また詳細はお知らせしますが、在宅勤務で読書のお時間ができた方、ぜひお手元に。
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定価本体:3400円(税込3740円)のところ、FENICS割引15%で送料無料、3200円にてお求めになれます。ご希望の方は、FENICS会員のログインをしてオーダーフォームでお申込みください。
 
それでは本号の目次です。
 
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1 今月のFENICS
2 子連れフィールドワーク(椎野若菜)
3 フィールドワーカーのおすすめ(内藤直樹)
4 FENICSイベント 
5 会員の活躍(櫛引素夫、木村周平)       
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2.子連れフィールドワーク1(連載)
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1歳児と二人でフィールドワークへ      
 
 椎野若菜
 
1歳8か月の二男とともにケニア・ナイロビでのフィールドワークに行くことになった。毎年の調査計画をするにあたり、もう年度末あたりは卒乳できているであろうか?と想像し、夫も「ぼくが二人(6歳の長男と1歳の二男の面倒)をみるよ、2~3月だったら二週間、行ってきたらいい」と昨秋の段階でも言ってくれていた。乳幼児が行くにはハードルの高い、マラリア感染率の高い昔馴染みの調査村へ、共同研究者との調査の前にひとりで行けるか、と密かに私の心は踊っていた。だが秋に風邪、インフルエンザの疾患を繰り返すうちに二男は食べることにあまり関心をもたなくなり、何を食べてくれるのか?という状態に戻ってしまった。つまり、母乳にさよならできずに夜は必ず大泣きするのだ。夜にたびたびおっぱいを探して大泣きし出すとさすがに夫もお手上げで、私が調査に行く際に二男を「おいていくのは無理だ、一緒に行ってくれ」と言われた。卒乳は、それぞれの子どもの性格、病歴の時期などの条件、そして母体の状況、が整わないとうまくいかない。無理やりやろうとすると、子ども、母親、双方に精神的、肉体的なストレスがかかる。大げさな!とどこかで思っていたのだが、今回はその「双方の状態」ということ、母体についても考えさせられる調査滞在となった。  

機内を歩き回るL

 そもそも、小さな子持ちにとって年末年始は大変、体力を使う時期である。その後、1月は職場の大学も授業の総括、採点、センター試験、年度末の業務が一気に追い込みになる。今年はいまの私の状況のキャパにはあわない仕事量がきて、2月の初めに風邪でもなく身体が動かなくなり、頭痛と熱、乳腺炎でダウンした。二男が生まれてからは、時折こういう形でぷつっと切れるようになった。いつも一日寝ると動きだすのだが、今回は二週間たったあとも右乳房が痛く、渡航5日前に病院に駆け込み助産師に絞ってもらい、「渡航はキャンセルできないんですよね」と確かめられつつ抗生物質と葛根湯を処方された。妊娠、出産で延長している科研、もうこのへんでケリをつけないとだめであろうと思っていたのである。まだ処方された薬を飲み終わらないうちに2月半ば、17日間の予定でナイロビへ飛んだ。  
 1歳8か月の二男は、起きているあいだはペンギン歩き・走りではあるが大変アクティブに動きまわる。パスポートを鞄から出しているあいだにふっとどこかに行ってしまいそうなので、抱くしかない。すでにコロナウイルスも流行しだしていたので空港をうろうろしなくていいよう、羽田空港でも初めてラウンジを利用した。  

ナイロビのスーパーマーケットでまず買い出し

 羽田の夜中発の飛行機は、すでに乗客はいつもより少なく、隣3席は空席。体重12キロの子どもをずっと抱える必要はなく、横に寝させることができた。二男はドバイ―ナイロビ間も機嫌よくずっと、通路を歩いていた(感染が気になっても歩くのを止めるのは無理であった)。
 さて、ナイロビの滞在先につくと、アクティブであったはずの二男Lはきょろきょろし、コアラ状態になった。不安なのである。一瞬でも姿が見えないと大泣き、何をするにも抱っこ。つねに12キロを抱きながら過ごすことになった・・・幸い二男はケニアの脂肪分の多いプレーンヨーグルトとミルクが気に入ってくれた。ときおり、日本からもってきたごはんのパックとカツオのふりかけ、のり。だが気づいた。私が食べる暇がない。日本食の材料も持ってきたが、つくる時間と気力が残っていないのだ。そして・・次に、自分では予想もしなかった事象がおきてきた。(つづく)
 
 
 
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3.フィールドワーカーのおすすめ
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緊急性があるために3月24日に、臨時メルマガとして配信したものです。下記URLに掲載されていますので、ぜひ有益URLなどお確かめください。
 
「脱出」の時
 
内藤直樹(生態人類学・アフリカ地域研究 徳島大学)
 
今回のコロナウィルス感染地域の爆発的拡大により、これまで我々が「まさか」と思っていた国境を超える人の移動等の私権の制限に踏み切る国が相次いでいる。その結果、航空便も続々と減便・キャンセルされるに至っている。春休み中に調査・スタディツアー・学会発表などで海外渡航しているフィールドワーカーも多いに違いない。だが、いまは「脱出」の時だ。すでに遅い場合もあるが、早急に帰国することをお勧めする。なぜなら、再び国境を越える移動が可能になるのがいつになるのか、現時点では正確な予測がつかないためだ。
 コロナウィルスをめぐる事態の展開は驚くほど早い。私自身は…..(続きはこちらから→  https://fenics.jpn.org/mailmagazine/supecialvol-2020-3-24/
 
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4.FENICSイベント
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来年度はじめ、12巻に関するFENICSサロン 三学会連続リレー企画「フィールドワーカーのジェンダー・ライフステージ」
として計画されておりましたが、コロナ対策のため、文化人類学会については今年は中止となりました。来年に企画しなおす予定です。
他のリレーイベントについても変更があり次第、お知らせいたします。
 
日本アフリカ学会第57回学術大会 
日時:2020年5月24日(日)
場所:東京外国語大学 話題提供:網中昭世さん
 
 現在、学会開催について検討中
文化人類学会 第54回研究大会 GEHASS(人文科学系学協会男女共同参画推進連絡会)シンポと共催
日時:2020年5月31日(日)
場所:早稲田大学戸山キャンパス
 
残念ながら来年へ延期
熱帯生態学会
日程 6月13日
場所:広島大学  話題提供:松本美予さん
 
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5.会員の活躍
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(1)櫛引素夫さん(地理学)
ご自身のご著書、『新幹線は地域をどう変えるのか: フォーラム新幹線学2020』
 
整備新幹線構想は、数兆円の規模と半世紀以上の歴史を持つ、一大政治・地域政策課題です。しかし、複雑かつ多様な構造が仇になり、今なお、アカデミックな研究課題として確立しているとは言い難い状況にあります。このような状況を座視するべくもなく、一つの解として、ジャーナリスティックな、換言すればフィールドワークに基づく視点から、問題提起を試みたのが本書です。机上の議論やデータに頼り切るのでなく、実際に現地を訪れ、その地に暮らしている人々の肉声や世界観、価値観を大きな拠り所にまとめました。加えて、持論を主張・展開するのではなく、仮説の形で分析・検討の結果を提起し、その先の議論や対話を促す構成としました。幾重もの意味で実験的な試みですが、ご笑覧ご批判をいただければ幸いです。
 
櫛引 素夫 (著)
単行本: 144ページ
出版社: 古今書院 (2020/2/5)
言語: 日本語
ISBN-10: 4772242155
ISBN-13: 978-4772242158
 
(2)木村周平さん(文化人類学)
 
「COVID-19と文化人類学」と題してオンライン上でラウンドテーブルを開催します。ご関心のある方は、下の説明をお読みのうえ、ぜひご参加ください。    

2019年12月に発生が確認された新型コロナウィルスは、当初の予想を超えて大きな影響を引き起こしています。このウィルスによる疾患を発症する人々の数が世界中で増加しいるだけでなく、感染拡大を防ぐための様々な対策が、グローバルな政治や経済から日常的なコミュニケーションに至るまで、様々なレベルに介入し、そのありかたに変容を引き起こしています。この、「先の見えない、持続的な緊急事態」が長期化するにつれ、世界中の人々、とりわけ社会の中で弱い立場に置かれている人々は、生活上大きな負担を強いられています。  

こうした事態に対し、文化人類学の立場からは、どのように考え、取り組むことができるでしょうか。いま目の前に広がっているのは、高齢者や幼児のケアという身近で喫緊の問題から、情報や予測の氾濫という社会レベルの問題、医学と政治の関係というより大きな規模の問題、そしてウィルスという他者との共存という超長期的な問題まで、多様で複雑な問題です。こうした複雑さや緊急性は、東日本大震災のあとに起きたように、時に人を思考停止させ、時に人を過度に奮い立たせます。
 
英語圏ではさっそくSomatosphereというウェブサイト(http://somatosphere.net/)をはじめ、オンラインのフォーラムや討論会が組織されるなどの動きが始まっています。それらを追うのももちろん重要ですが、いま必要なのは、冷静な話し合いにもとづき、自分にできることをきちんと進めていく、ということだろうと考えます。今回、私たちはそのきっかけの一つとなるべく、オンラインでのラウンドテーブルを行いたいと考えています。そこではまず4人が話題提供をします。文化人類学者といっても持っている知識も関心もノウハウも様々です。それらをどう使えるのか、アイデアを共有します。そのうえで、参加者と自由な話し合いをしたいと考えています。関心のある方はどうぞご参加ください。
 
〇日時:2020年3月29日(日)10時~12時半
〇場所:Zoomを利用します。この参加登録フォームにお名前とメールアドレスをお書きいただいた方に、URLをお伝えします。
 *Zoomは、パソコンやスマートフォンを使ってオンライン会議を開催するためのツールです。特に準備は不要な簡単なツールですが、ここからでアプリをダウンロードしておいた方が確実かもしれません。
 
〇タイムテーブル
 
 ・「はじめに」木村周平(10分)
 ・「ようこそケアの世界へ:2つのノスタルジアから環境の改編へ」浜田明範(25分)
 ・「新型コロナウィルスの時代のケア:Social distancing の受容について」西真如(25分)
 ・「感染症対策のデジタル民族誌:アラスカ先住民の対応から」近藤祉秋(25分)
 ・「ローカルな対応のドキュメンテーションの取り組み」木村周平(20分)
 ・ディスカッション(30分)
 
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以上です。お楽しみいただけましたか?
みなさまからの情報もお待ちしています。
 
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