FENICS メルマガ Vol.69 2020/4/25
 
1.今月のFENICS
 みなさま、この異様な「ステイホーム」状況下、いかがお過ごしでしょうか。編集人は1歳児と7歳児とともに在宅勤務となっているわけですが、彼らはどうしてもオンライン会議に登場してしまいます。会議の発言中にそれぞれのお宅から子どもたちの声がきこえてきて、何やらなごやかな雰囲気で会議がすすんでいるようにも思えます。
「フィールドに出よう!」と機会あらば呼びかけている私たちFENICSですが、いまは「外」のフィールドでなく、フィールドにでる準備をインドアで、あるいは立ち止まって自らのフィールドワークについて振り返る機会に、また「どこにフィールドがあるのか」と考える機会にもなっているかと思います。そうした試行錯誤についても、FENICSをつうじ情報交換ができれば幸いです。
 大人のこうしたコロナ渦中の対策、コロナ後の世界、などの議論はよそに、子どもの日常は毎日、何を食べどう遊ぶかが大問題。限られた空間のなかで、各家庭が日本で、世界でどう過ごしているのか?!と思いつつ文字通り息つく間なく追われる毎日です。
 
 多くの東京の大学は、春学期はオンライン講義となりました。準備するほうも、受講するほうも、いままでの対面とは異なる対応をせまられています。
ここでFENICS正会員の方で、オンライン講義の相互協力の輪に加わろうという方は、ぜひご連絡ください。フィールドワーク系の授業でしたら、初めてフィールドに入るとはどういうことだったか(1巻『フィールドに入る』http://www.kokon.co.jp/book/b178120.html)、フィールドでの衣食住はどうだったか(11巻『衣食住からの発見』http://www.kokon.co.jp/book/b178418.html)など、著者に短いインタビュー、短く章に関連するフィールド話を聞く、といったことも課題を出すにあたってもいいかもしれません。
いままでは個別にやってきた授業も、この機会に気軽に協力できればと考えております。なにとぞよろしくお願いいたします。(fenicsevent[@]gmail.com)
 
それでは本号の目次です。
 
ーーーーーーーーーーーーーーー
1 今月のFENICS
2 私のフィールドワーク(小森真樹)
3 フィールドワーカーのおすすめ(小西公大)
4 子連れフィールドワーク(椎野若菜)
5 FENICSイベント      
ーーーーーーーーーーーーーーー
 
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
2.私のフィールドワーク
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
コロナ禍のフィールドワークとアメリカのカーデモ (連載1)
 
小森真樹(武蔵大学 アメリカ研究、ミュージアム研究『フィールドノート古今東西』執筆者)
 
路上=フィールドに出たい
道端で誰かが声を上げていると、覗かずにはいられないタチだ。窓から顔を出したり建物から飛び出してみれば、子供が泣いたり何かが壊れていたり。時には怖いおっさんが恫喝していたり強盗を目撃したりとおっかいないこともあるが、どうしても覗いてしまう。
何か近くでデモがあるなどと聞くと、ちょっと顔を出して話したり写真を撮ったりしたくなる。呑気で無責任なもので、運動が掲げる目標を成し遂げたい!という意識など大してなくても、観察したくなるのだ。
 
アメリカに住んでいた頃、運良く(いや、普通に考えたら運悪くだが)トランプ大統領が当選を果した。差別と分断が支配する未来の圧政に対して「女性の行進」が起こった。「女性」と名に掲げるが、きっかけが女性だったということで、非白人やイスラム教徒や障害者などトランプ派が排除する人々が連帯した運動だ。当時住んでいたフィラデルフィアでも、市庁舎周辺の大通りが全面的に封鎖された。もちろん覗きに行った。
 
最近は困った。路上に出にくい。もちろん新型コロナウイルスでのことだ。今住む東京では、「自粛」のスローガンのもと人々が路上に集う機会が減り、世間の目も冷たくなりつつある。4月12日には、安倍首相邸がある渋谷の一角で「要請するなら補償しろ!」と掲げて行われたデモが、感染を拡大すると一部で非難された(*1)。
 
コロナ禍におけるアメリカのデモ
アメリカ各州でも多くのデモが起こっている。ミシガン州では、感染拡大を防ぐために隔離政策を強化したい州政府と、経済危機にあえぎ、長引く規制を憂う労働者との間で大きなデモが起こり、今月半ばには州全土へと拡大した。渋谷のデモ同様に、参加者は感染リスクをかけてでも主張せねばならない苦境にある。その一方で、このデモには保守派や白人至上主義者が多く、トランプ大統領が民主党の各州知事への威圧をツイートしたことが火に油を注いだ感もある。つまり党派的で政局で動かされている面も強い。経済活動や移動を制限された市民が、知事を連邦地検で多数提訴してもいる(*3)。

イーロイのカーデモで自動車を停めて声を上げる人々

こうした状況下、人との距離(social distance)を保ちながら安全に行うデモのことをニュースで知った。自動車によるカーデモである(*4)。
 
アリゾナ州イーロイでのデモの相手は移民局。日本の入国管理局と同様、アメリカでも当局は非人道的なことで知られる。移民勾留所それにホームレス施設や留置所では、脆弱な医療体制下での拘束が、感染を拡大させ死者を出した。命の危機だ。抗議をしなくてはならない。だが、街は日本以上に厳粛なムードでStay Homeを守っている。
 
そこで人々は車に乗って隊列を為した。4月11日のことだ。ガソリンスタンドで集合し、旗やプラカードを車にデコレーション、拡声器を持って砂漠のど真ん中、勾留所前の道をゆっくりと進む。マスク代わりのバンダナを口元に巻き、コスプレマスクをしている人もいる。窓から身を乗り出して声をあげ、路肩に降りて太鼓を打ち鳴らす(*5)。
 
「彼らを解放せよ!」
「勾留者たちは死ぬ寸前」
「彼女は勾留所で感染して死んだ」
「死の収容所」
「今こそ民主主義を!」
プラカードの言葉が力強い。
 
自動車が使われるデモはよく見るが、参加者全員が車に乗ってもおかしくはないのだ。距離も保って、やかましい音も立てられる。「正義のクラクション」とは、なかなかうまいことを言う。フィールドに出にくいなら、こんな工夫もできるのだ。
 
(つづく)
*2:
*3:
 
 
 
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
3.フィールドワーカーのおすすめ
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「オススメ!インド 映画」
 『きっと、うまくいく』 2009年公開のインドの映画。監督: ラージクマール・ヒラニ
 
小西公大(東京学芸大学 社会人類学 『フィールド写真術』編者)
 
コロナ禍の影響で、オンライン会議のラッシュ、慣れない授業準備に追われて、だいぶん疲れてきましたね。こんな状況でも笑い飛ばしてしまうような、スカッとした映画を観て、少しリラックスしませんか?
というわけで、インド映画を取り上げるわけですが、色々考えて、やっぱり『きっと、うまくいく』をオススメしようと思います。映画配信サイトのどこでも転がってるし、STAY HOME!の大合唱のなか、普段はなかなか観ることのできない長編映画(前編・後編合わせると3時間!)にトライしてみるのも良いかもしれません。
原題は[3 Idiots]で、「3バカ大将」みたいなものでしょうか。(実際に)世界の一流企業がハンティングを狙っているスーパーエリート大学であるインド工科大学(IIT)を舞台に、資質や個性の異なった3人が大暴れします。過度の競争社会に向かうなか、若者の自殺率が高まっている現代インド社会の問題をベースに、いかに常識に囚われず、自身の心の赴くまま、様々な圧力を跳ね除ける強さを持ちながら、創造的に生きていくためのヒントをたくさん盛り込んだ映画です。彼らの合言葉で、大ヒット主題歌ともなった「Aal Izz Well」は、英語の「All Is Well」、(インド人がよく口にする)ヒンディー語の「Sab Theek Hai」のことで、どのような状況であったしても、それを力に変えてやろうとするポジティブワードです。これを口にしながら、鬱屈した毎日を乗り越えようとするのもまた一興。
映画配給会社の宣伝文のようになってしまいましたが、今こそ楽観的に、ここぞとばかりに濃密な日々を過ごしましょう!というメッセージです。Zoom飲み会もいいですが、じっくりと映画に浸る夜はいかがでしょう?さあ、みんなでAal Izz Well!
 
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
4.子連れフィールドワーク2(連載)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
1歳児と二人でフィールドワークへ      
 
 椎野若菜(東京外国語大学AA研 社会人類学)
 
一歳児とのナイロビ調査は、調査を始めるまえに生活のリズムを整えるのに時間がかかる。
初日は疲れて蚊帳をするのを忘れて寝てしまい、翌朝起きると二男の顔、手足はおそらく蚊に刺されたために膨れ上がっていた。(同じベッドで寝ていた私は刺されていなかった。)さらに、子どもがおっぱいを飲もうと乳首をくわえると、そのとたんに激痛が走り思わず叫ぶほど痛いのだ。どんなに眠くても目がピーンと開く。もう耐えられず次の日、子どもの蚊刺されを理由にいつもいく小児科へ走った。すると案の定だが、さんざん待たされたあげく血液検査と触診で、「乳腺専門医にみてもらい、切って膿をとる手術をすぐすべきだ」と紹介状を書かれた。明らかに日本の病院の専門科にあるような高性能のマンモグラフィーがあるはずがなく、切られるのは避けねばと頼んで抗生物質をもらい、日本での処方が済んだあとに改めて服用しはじめた。

馴染みになってしまった子ども病院にて

 仕事の打ち合わせで会いにきてくださった京大の太田至さんが、「乳腺炎か・・・大変だな。(太田さんのフィールドである北ケニアの)トゥルカナでも、ある女性がなって、みんなで乳房を絞ってたのを思い出したわ。抗生物質をあげたら治ってたな。」とおっしゃっていた。私は自分が村でフィールドワークをしていた頃は、女性特有の病気、妊娠、出産後の体調などほとんど気にもしていなかったのか、自分が体験するまでまったく知らなかった。
改めて、出産後の授乳中の女性への注意として、授乳している自らの身体をあまくみてはいけないということだ。出産直後はまだ周りも自分も気を遣うが、子どもが一歳をこえたあたりから、授乳を含めた子育てがあまりにも日常化してしまう。授乳が生活の一部となると、実際には身体は母乳を生産するのにフル回転であるにも関わらず、本人もまわりも気にしなくなる。子連れの旅はただでさえ準備段階から疲れる。何かと自分のことが後になってしまうが、初心を忘れずに授乳期はとりわけ水分をとらねばならない。帰国後に病院に行って改めて感じさせられたが、乳腺炎はこじれてしまうと大変やっかいな病気である。

幼少期から知る青年のナイロビ・スラムでの住処にて

 それにしても、家族の協力をえて留守番している長男、世話してくれている夫と母の顔を思い浮かべると、乳腺炎で痛い痛いといって家にうずくまっているわけにもいかない。ベビーシッターをさがしつつ、調査のコーディネートを始めた。ベビーシッターといっても、二週間強の滞在で、1歳8か月の子が見知らぬ大人といきなり二人でいられるか、といえば難しい。考えたのは、(1)友人の同い年の子がいるお宅に、シッターができる方とお出かけしてくれるか?(2)シッターさんに子ども(2歳)を連れてきてもらい、一緒に面倒をみてもらう。まず、友人の同い年の子と一緒に遊んでくれそうか、みなでがやがや会うことにした。大丈夫そうである。次の問題はシッターをしてくれる女性だ。面会して、子どもとともに居る時間を過ごしてみて・・とお試しデーが必要だ。思ったとおり、二男は近くにも寄りつかなかった。私が彼女に調査に関連する質問をできたのは一石二鳥であったが、シッターとしてお願いするのは難しそうだった。二回目は、彼女の2歳の子どもも遊び相手に連れてきてもらったが、かなり深い咳をしていたので、申し訳ないが帰っていただいた。  

 というわけで、限られた二週間を有効に過ごすためにも、子連れスラム調査をするしかなかった。共同研究者の野口靖さんもナイロビに到着し、いよいよ調査が始まった。いま現在、遂行しているのはナイロビのスラムの人々の生活空間の作り方、インテリアをはじめとした工夫、ナイロビに来るまで/来てからの移動史、である。私が西ケニアの村落に暮らして調査をしていたときには小学生の低学年だった青年がいまやナイロビ大を卒業し定職につかずスラム暮らしなので、手伝ってもらうことにしていた。その青年が打ち合わせにくると、シッターさん候補には近づきもしなかった二男は嬉しそうにちょっかいを出して遊び始めた。
(つづく)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
4.FENICSイベント
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
来年度はじめに予定されていました12巻に関するFENICSサロン 三学会連続リレー企画「フィールドワーカーのジェンダー・ライフステージ」は、このご時世で、学会と共催で企画していたサロンはすべて来年に延期となりました。
FENICSとして、オンラインでつながりながらのサロンを改めて企画したいと思います。
 
こうした状況だからこそ、集まるイベント型ではないつながり方、企画を考えております。
 
:::::
 
以上です。お楽しみいただけましたか?
みなさまからの情報もお待ちしています。
 
====--------------======
お問い合わせ・ご感想などはこちらよりお寄せ下さい。
https://fenics.jpn.org/contact/
メルマガ担当 椎野(編集長)・澤柿
FENICSウェブサイト:http://www.fenics.jpn.org/