FENICS メルマガ Vol.83 2021/6/25
 
 
1.今月のFENICS

 COVID-19の感染状況は、また東京でも増加の傾向にあるニュース、同時にお祭りモードで報道される聖火リレーの様子。いまの子どもたちは、こうした矛盾しあふれる情報にたいする判断力を磨かねば生きていけない、と感ずる毎日です。  

 明後日はいよいよFENICSの総会と、総会イベントがあります。
 本メルマガは、正会員と、賛助会員と、FENICSシリーズ著者の方々、メルマガ購読会員の方々がお読みになっています。
 FENICSの活動は、正会員と賛助会員の方々からの年会費1,000円をベースにしており、ほかはボランティアで成り立っています。活動に賛同いただいている方は多いのですが、会費、寄付がきわめて少ないのが現状です。
会費・寄付のシステムも新しくしました。なにとぞ、ご協力のほど、改めてお願いいたします。
 
 正会員・賛助会員になってくださる方は、総会への出欠Googleフォーム記入をお願いいたします。
 昨年度より新しい会費システムsyncableを導入しました。
 
 総会には欠席の方も、お気になさらず、ぜひ総会イベントにおいでください。
 副代表の澤柿教伸さんが第63次南極地域観測隊越冬隊長になられた記念イベントです!2021年6月27日(日) 11:00am~
 ご家族で、お子さんも一緒にぜひどうぞ。
 Zoomお申込みはこちら、6月27日9:00amまで
 
 以上、正会員のみなさまには重複した情報となり恐縮です。
 
 それでは本号の目次です。
 
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1 今月のFENICS
2 フィールドワーカーのライフイベント<連載②>(網中昭世)
3 お世話になった「フィールド」へどう還元するか<連載④>(椎野若菜)
4 フィールドワーカーのライフイベント<連載③>(本田ゆかり)
5 FENICSイベント 
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2.フィールドワーカーのライフイベント:連載②
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短期滞在編:子と練習
 
  網中昭世(FENICS正会員・モザンビーク社会経済、国際関係・アジア経済研究所)

助走期間:出産後半年
そもそも妊娠・出産に向けて動き出せたのは、研究自体が楽しくて散財することもなく、助教と学振PD通算5年で、非常勤の収入が減っても2年くらいは生きていける生活費プラス「自己投資資金」ができていたからだ。他方、学振PDは中断せずに続行することにした。履歴書上の空白云々というよりも、一旦止まると、再び走りだせるかどうか、正直言って自分自身、怖かったからだ。 

子は2013年7月半ばの前期終了間際に生まれた。8月、前期レポートの採点締め切りまでの束の間、新生児とゴロゴロしていると、出産前に応募していた博論の出版採用の朗報が舞い込んだ。果報は寝て待てとは…俄然やる気になった。8月から10月にかけては母の助けとファミリー・サポート制度(厚生労働省の交付金で各自治体が実施する地域の有償ボランティアとのマッチング・サービス)を利用し、9月半ばから後期の非常勤を始めた。11月からは津田塾大学内の保育所を利用開始できた。学内の保育所までは授乳も送迎も研究室からダッシュで2分。育児のアドバイスもしてくれるベテランのチーフ保育士さんを筆頭に、笑顔で安定感のあるスタッフには子以上に自分が安心させてもらっていた。  

乳幼児あり、非常勤はコマ数を抑えて週1、学振PD研究生活のリズムがなんとか掴めてきたところで、年末年始には成田からツレの実家・福岡へ、飛行機移動の練習が始まった。頭には次なる目論見があった。
 
共同調査が開く新境地:生後8か月
通常営業のツレに「じゃ、いってくるわ」と言い残し、翌2014年3月に8カ月の子を連れ、ポルトガルの公文書館で2週間、史料調査をした。居住地を離れれば、育児に関する公的支援からは切り離される一方、短期間とはいえ育児は必須だ。これを支える同伴者は、旅費・滞在費を私が持つという条件で同行ベビーシッターを引き受けてくれた非常勤先大学4年生のHさん。Hさんは中南米一人旅の経験者=スペイン語対応可=ポルトガル語もなんとかなるね、と。準備段階でHさんのお母さんが保育士と判明し、同行前の「修行」で準備万端。それに今やネットで検索すれば、子連れには必須のキッチンやくつろげるリビングがあるアパートメント・タイプのリーズナブルな宿泊施設がすぐに見つかる。ハイハイする子対応のため宿泊地に到着後、私が最初にしたのは雑巾がけ。のちに室内は土足厳禁とし、あとは子を解き放って皆、一息。

機内にて、子の人生でモテ度最大のひと時

 
さらに今回は文化人類学を専門とするGさんとの共同調査の試みでもあった。私は出産前から従来の調査地モザンビークに加え、アンゴラの調査に取りかかっており、アンゴラ調査については先輩である同年代のGさんにお世話になっていた。ポルトガルの公文書館の利用歴は私の方が長かったのでガイダンス可能だし、なにより厄介極まりないアンゴラ・ビザ手配の恩返しもしたかった。結果、ディシプリンの異なる研究者との共同作業は私にとって実り多いものだった。自分にとって紙に書かれた史料が不十分で農村でオーラルヒストリーを集めたのとは逆に、農村で参与観察してきたGさんが史料を必要とする状況に接し、様々なデータと分析手法を積極的に取り入れて構成される地域研究の学際性に勇気づけられた。こうして私とGさんが公文書館調査をする間、昼食時にHさんと子と合流し、昼食後に調査組は公文書館内に戻るというパターンだった。日中Hさんは子を連れてリスボン市内を観光し、美術館では子が絵画より造形ものに反応すると、私にとっては目新しいレポートもしてくれた。
 
(次回は、アフリカ長期滞在にむけて)

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3.お世話になった「フィールド」へどう還元するか
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ケニア・小学校での水タンク設置の場合(4)
 
  椎野若菜(社会人類学・東京外国語大学AA研)
 
今回は、ケニアから届いたビデオクリップをお見せしたい。
先週に書いたとおり、リネットによればンディワ小学校の新任校長の態度が水タンクが届いたとたんに急変し、水を受ける傾斜のよい設置予定の場所から、教員室の横にすると校長の権力をちらつかせ変更させたという。
そのためにコストがかかってしまったこと、そして当初の予定であったタンクの周りのフェンスができなくなってしまったことが、リネットは気がかりでならない。
彼女がクラスルームで撮った生徒たちへのインタビューもどきのビデオクリップには、そのことを語らせようとしていることがみえる。
 
ケニアの小学校では、公用語である英語・スワヒリ語が教えられる。とはいえ、田舎では子どもが英語を使用する機会はいつもあるわけではないので、読み書きをふくめあまり上手くはない。ビデオでは、日本のFENICSの人々に英語で話さねばならないため、高学年の子どもたちになんとか話をさせたと思われる。また日本の小学校よりも、かなり教員が生徒に対し威圧的に話をすることにも気づかれるだろう。教師による生徒への体罰もめずらしくない。
ギュウギュウ詰めの教室の様子もわかる・・・等々、現地の様子がややわかる、生の(教員によるいささかやらせの)レポートをご覧ください。
 
3)クリック →  水タンクのあと、教員の反応は・・・
 
(つづく)
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2.フィールドワーカーのライフイベント<連載>
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海外日本人社会というフィールド ―駐在員の妻として、女性研究者として―③
 
  本田ゆかり(東京外国語大学大学院総合国際学研究院 特別研究員)
 

マーケットのビーズ店


前回は駐在員家族を中心とした海外日本人社会のジェンダー不平等について触れたが、今回はもう少し明るい側面について書こうと思う。  

中小規模の駐在員家族を中心とした日本人社会は小さな村社会のようで、日本人というだけでお互いよく会う。子供がいて一緒に遊ぶ年齢なら、まるで職場の同僚のように駐妻ママ友と週に何度も顔を合わせる。中には気の合う人もいる。駐在する先々で友人関係が広がるのは嬉しいことだ。そういう人たちとは今でも仲良くさせてもらっている。世界を転々とする駐在員家族同士、またいつかどこかの国でご一緒させてもらえるかもしれない。    

とんぼ玉


ガーナにいた頃は「ビーズの会」という趣味のサークルに参加していた。これは平日の昼間に集まり、お茶を飲みおしゃべりしつつビーズアクセサリーを作るというサークルである。西アフリカ諸国では奴隷と引き換えにビーズを輸入した悲惨な歴史があるが、ビーズアクセサリーは今でも人気だ。マーケットへ行けばビーズの玉やアクセサリーを作る道具が豊富にそろっているし、ビーズ専用のマーケットもある。駐妻専業主婦生活をはじめたばかりの私は正直なところ、平日の昼間からこんなふうにブラブラしていていいのだろうか?と思ったが、当時はまだ子供がいなかったので、こうしたサークルにでも入っていなければ引きこもりになり、日本人駐妻社会で孤立してしまいそうな気がした。
  

リサイクルガラスで作るビーズもある


また、ビーズの世界が奥深く面白かったので、論文や本の原稿を書く合間の気分転換にもなってよかった。友達と集まってビーズアクセサリーを作りマーケットに通う私を見て、夫は毎日遊んで暮らしていると苦々しく思っていたようであるが、このぐらいの楽しみがあってもいいだろう。我が家のメイドが興味を持って私のビーズ制作を覗くので一緒に作ってみたこともあるが、テグスがビーズの穴を通らないなど、びっくりするほど不器用だった。彼女が作り方を覚えたら、売ってお小遣い稼ぎでもすればいいと思ったのだが。

 マーケットでは、アフリカンワックスプリントの布もいろいろ買った。これもやはり平日の昼、日本人の友人と買い出しに行くことが多かった。布地は手芸作品を作ったり、テーラーに持ち込んでオーダーメイドの服を作ってもらったりするのに使う。赤道に近いガーナ、海辺の首都アクラの昼間は大変蒸し暑く少し外を歩いただけで大汗をかくが、熱中症のリスクを冒してでも広い屋外マーケットをウロウロするのは楽しい。  

布屋さん。アフリカンプリントに魅了されます

いずれも現地で手に入る素材で手芸楽しむという趣旨で、こうした活動は日本だけでなく諸外国の駐妻にも人気だ。しかし、ビーズも布もマーケットに売られているものは中国製が多い。私がいた10年ほど前は、半分以上が中国製であったかもしれない。安価で質のいいものも多いので、ガーナ製品は競争で負けてしまう。ガーナ製はよく見ると布のプリントがずれていたり、ビーズの玉の形や大きさが不ぞろいであったりする。私から見るとそういう点が魅力なのだが、安くてきれいなほうが売れるのは必然だ。こうして現地の産業が経済のグローバル化によって衰退するのだろう。お気楽駐妻として不要な買い物をするためにマーケットをうろつきながら、その現場を目の当たりにして暗い気持ちになったり、いろいろと考えさせられたりした。
 
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4.FENICSイベント
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今週末の日曜には総会と、総会イベントがあります。7月には二件、共催サロンがあります。下記、詳細をご覧ください!
 
(1)FENICS総会 6月27日 10:00~
 
2021年6月27日(日)10:00~10:50 zoomにて。
(参加の方に前日夜にzoom情報を送信します)
https://forms.gle/mDVeJsmXhm6qdWnBA

  ≪審議事項≫
第1号議案 2020年度(2020年4月1日から2021年3月31日まで)事業報告書及び収支計算書承認の件
第2号議案 2020年度(2020年4月1日から2021年3月31日まで)事業計画及び収支予算承認の件
第3号議案 新理事の着任の件
 
(2)2021.06.27(日) 11am-正午 FENICS総会イベント「FENICS副代表 澤柿教伸さん第63次南極地域観測隊越冬隊長決定記念!」
 
日時:2021年6月27日(日) 11:00am~12:00pm
場所:ZOOM
 
「これまでの南極経験と、第63次南極地域観測隊のミッション」
 
お話:澤柿教伸さん(自然地理学/法政大学)
 
澤柿さんは27歳で第34次南極越冬隊(Japanese Antarctic Research Expedition: JARE)に初参加、39歳で第47次越冬隊、45歳で第53次夏隊に参加してこられました。
FENICS100万人のフィールドワーカーシリーズ1巻『フィールドに入る』に、どのように南極をフィールドにするに至ったか、幼少期のころからのエピソードが述べられていますが、今回はついに、隊長として観測隊(JARE)に参加されることになりました。どのように活動なさるのか、その抱負をうかがいます!
 
めったに聞けない南極観測隊の計画。日曜の午前、ご家族で、お子様も一緒にご参加ください。
 
Zoomお申込みはこちら、6月27日9:00amまで
 
               
当日の朝に参加者のみなさんにズーム情報をお送りします。
 
(3)2021.7.16 FENICS×ASC(東京外国語大学現代アフリカ地域研究センター)共催サロン
 FENICSの賛助会員である村橋勲氏の最新作についての合評会です。評者もFENICS関係者によるサロンです!
 
合評会:
村橋勲著『南スーダンの独立・内戦・難民―希望と絶望のあいだ』昭和堂、2021年。
 
日時:7月16日(金)19:00~20:30 (長くて21:00)
会場:zoom
 
司会:椎野若菜(東京外国語大学AA研)
挨拶 武内進一(東京外国語大学ASCセンター長)
 
スピーカー:村橋勲氏 自著『南スーダンの独立・内戦・難民―希望と絶望のあいだ』を語る
     (FENICS 6巻『マスメディアとフィールドワーカー』執筆者・賛助会員)
コメント 久保忠行氏(大妻女子大学)
コメント 村尾るみこ氏(総合地球環境額研究所)FENICS 11巻『衣食住からの発見』編者,7巻『社会問題と出会う』執筆者
ディスカッション
 
長い内戦の後、 新しい国家の誕生とともに期待の膨らんだ南スーダンをフィールドにした著者。 だが、 間もなく新たなコンフリクトが次々と生じ、 人類学者が調査のために滞在できる状態ではなくなった。 自らもウガンダへ退避した経験 *をし、 フィールドの人々も隣国へ難民として逃げ出すことになった。 その後、難民になった人々を追って、ケニアやウガンダの難民キャンプに赴くことになる。 調査開始時に想像していた民族誌の世界とは異なる、他国で 「難民」 になる人々の生活を描くことになった。  

2021 年 2 月、 博士論文をもとに発表された本書について、 ご本人からご紹介いただき、 二人のフィールドの異なるコメンテーターも迎え参加者とともに議論したい。 著者はアカデミアだけでなく、 報道カメラマンとしての経歴ももつ。 着眼点、 フットワーク、追い続けるエネルギー。 このコロナ禍、 著者の切り開いてきた道筋に、 刺激され力を得る若手研究者も多いはずである。
 
* FENICS 100 万人のフィールドワーカーシリーズ 6 巻 『マスメディアとフィールドワーカー』 (古今書院) に書かれている。
 
参加申し込みはこちらから:https://forms.gle/d1Q5npMBFCWqmr8b8
定員:300 名。
申し込み〆切:2021 年 7 月 14 日(水)。定員に達ししだい締め切らせていただきます。Zoom 情報は 7 月 15 日(木)に登録メールアドレス宛てにお送りします。
 
共催:東京外国語大学ASC×FENICS
協力:日本文化人類学会次世代支援WG
 
(4)「フィールドにいけない人類学(者)」シンポジウム
 
日時:2021年7月24日(土)13:00~15:30
会場:オンライン(ZOOM)
主催:日本文化人類学 次世代支援WG
協力:NPO法人 FENICS

2020年初めより突然に、瞬時に世界を覆ってしまった新型コロナウイルス。
博士論文のため、まさにフィールドに行く準備をしていた研究者の卵にとっ
ては大きな打撃だ。フィールドワークをベースにする学問、文化人類学に
とっての難局をどう乗り越えていくか。先輩の経験から学びたい。
 
1) 大川謙作(日本大学)
「フィールドに行けない/行かない人類学
:現代チベット研究と代替民族誌の問題」
 
2) 川口幸大(東北大学)
「『竹のカーテン』の向こうにモデルを描け!
:1950-70年代の中国研究に見る新型コロナ下の人類学の可能性」
 
3) 伊藤亜人(東京大学)
「手記を手掛かりに生活実態に迫る
: 脱北者と人類学者の立ち位置」
 
4) ディスカッション
 
 
ご参加希望の方は2021年7月23日(金曜日)17:00までに、下記のリンクより参加登録して頂くようお願い致します。
ご登録いただいた方には、シンポジウム前日の夜に、ミーティング参加に関する情報のメールをお送りいたします。
 
 
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以上です。お楽しみいただけましたか?
みなさまからの情報、企画、お待ちしています。
 
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メルマガ担当 椎野(編集長)・澤柿
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