FENICS メルマガ Vol.16 2015/11/25
1.今月のFENICS
いよいよ、今年もひと月少々、となりました。芸術、学問の秋、満喫なさっているでしょうか。
11月1日、ぶじにFENICS総会イベントが盛会にて終えました。
<会場の様子>
NPO法人としての活動もまだ始まり半期がたち、また仕切りなおして来年度の活動も見通しながらやってまいります。みなさまも、どうかイベント企画や、イベント参加、よろしくおねがいいたします。今月も、スパイス屋さん、作曲家の方の新入会がありました。 このネット時代、ますますライヴで「会う」意味がましてきています。来月もFENICS関連ございます、みなさまとお目にかかれますよう楽しみにしております。ご活躍の様子も、お教えください。そうした情報共有がまた、FENICS内でのなにかのきっかけづくりとなります。
それでは本号の目次です。
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1.今月のFENICS
2.私のフィールドワーク(澤柿教伸)
3.フィールドワーカーのおすすめ(加藤久明)
4.フィールドごはん(平田正礼)
5.今後のFENICSイベント
6.チラ見せ!FENICS
7.FENICS会員の活動
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2.私のフィールドワーク
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澤柿教伸(法政大学)(1巻『フィールドに入る』分担執筆者)
大学院生のころから日本の南極観測事業に関わるようになってはや四半世紀。通算すると丸々3年間を南極で過ごしたことになる。これだけ南極に入り浸っていても、実際に体験できた地理的範囲は、昭和基地があり南極の中でも比較的温暖化の影響が少ないと言われている東半分の地域の沿岸部に限られている。広大な南極の多様性を見るために、地理屋としては是非ともほかの地域も体験してみたいと常々考えていた。
そんな中、極域でいつも一緒に研究している仲間を通じて、2014/15の夏シーズンに南極半島の氷河を掘削するプロジェクトに参加しないか、と誘われた。このエリアはアクセスが容易で、数多くの国の観測基地がひしめき、観光客やマスメディアが頻繁に訪れる地域であるとともに、南極の中で最も急速な温暖化が観測されている場所でもある。地球環境問題や気候変動を研究テーマにしている身としてその地の現状を実際に体験し、自分自身でも観測を通じて南極半島で起こっている温暖化の影響を明らかにできる絶好のチャンスであったことから、二つ返事で参加を決めた。
我々が調査に入ったのは、南極半島エリアにあるサウスシェトランド諸島の中で二番目に大きいリビングストン島にある、ファンカルロスI世基地(BAJC-I基地)というスペインの基地である。ここで我々は1ヶ月余りを過ごすことになった。
その滞在で感じた、昭和基地と大きく違うことのひとつが、国際性の豊かさである。昭和基地周辺は現在でも気軽に立ち寄ることが困難であり、隣の基地とも500km以上離れていて他の基地との交流は稀である。これに対して南極半島は船舶でも空路でも、年間を通じてそれなりに文明圏との往来が確保されており、各国間の協力や相互利用が盛んに行われていた。
そうしたなか、かつて海洋覇権国家として一世を風靡したスペインの、中南米諸国の旧宗主国としての威厳が健在であったのは印象的であった。南米の基地の「おざなり感」と比べてこの基地は何かとしっかりしており、南極条約に基づく査察で予告なしに突然やってきた英国海軍にも毅然と対応していた様子はことに見物であった。かつて世界を相手に覇権を振るっていた経験を有するかどうかは、その道義的な是非は別として、国際社会の中で敬意を得られるような行動をとれるかどうかという技量にも反映されるのではないか。同じ海洋国家であっても、日本はまだまだその経験値は足りない。昭和基地が国際化していく必要性も言われ始めているけれども、南極ですら孤立しがちな田舎モノが、実質的な国際性を発揮できるまでになるにはまだまだだろうな、と実感した滞在であった。
南極半島への行き方
南極半島へは、半島に基地を有する各国の観測船や航空輸送便に同乗する他に、多くの観光クルーズが就航している。観光クルーズは、チリ最南端のプンタレーナス、あるいはアルゼンチン最南端のウシュアイアから出港する。環境保護に関する南極条約議定書名などの法律により、南緯60度以南での活動全てについて手続きが必要。探検や科学的調査・研究の場合には「確認申請」、クルーズ等の観光の場合は「届出」が必要となる。
詳しくは環境HP(http://www.env.go.jp/nature/nankyoku/kankyohogo/kankyou_hogo/tetsuzuki/tetsuzuki.html)を参照されたい
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3.フィールドワーカーのおすすめ
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「マタイ受難曲」(J.S.バッハ) 加藤久明
(総合地球環境学研究所 第3巻『共同調査のすすめ』執筆者)
私は、多くのフィールドワーカーと同様に、昼はフィールドで動き、夜はフィールドで得たことを野帳でまとめ直しながら、深い思索の糸を紡ぐことが多い。ここ数年は、そのような時にバッハの「マタイ受難曲」が欠かせなくなっている。もっとも、フルサイズで3時間もある曲なので、フィールドでは冒頭合唱といくつかのパートを聴くだけである。
きっかけは、フィリピンでラグナ湖の水質調査を行っていた頃、夜に得られたデータを整理し、静かに結果を考えていた時に、ふと何か音楽を聴きたくなり、ノートPCに入れていたこの曲をかけたことにさかのぼる。恐らく、地域に生きる人々が向き合わざるを得ない水質環境の現状を考え、さらにこれらの問題をどのような課題に整理できるのか、ということに苦悩していた時に、この曲が持つ独特の不協和音が色々な気づきのきっかけを与えてくれたのだと考えている。それ以来、この曲はフィールドでの夜に欠かせなくなっている。和声による不協和音だけでなく、冒頭合唱がこれから起きるイエスの受難を対話形式で歌う時、これらの声が私の頭の中を和らげてくれるのかもしれない。
(YouTube動画)
J.S.バッハ《マタイ受難曲》第1部全曲 カール・リヒター(1958) https://www.youtube.com/watch?v=ba9TMBUAmMc
J.S.バッハ《マタイ受難曲》第2部全曲 カール・リヒター(1958) https://www.youtube.com/watch?v=8ZUFrlzX4Ko
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4.フィールドごはん
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平田正礼(隠岐世界ジオパーク、13巻『フィールドノート古今東西』分担執筆者)
フィールドでごはんというと、やはりキャンプのご飯みたいなイメージがあります。あるいは異国の地での地元の方と一緒にテーブルを囲んでご当地の郷土料理、なんてのも良いものです。
ところが私は職場になっている地域(隠岐諸島)そのものがフィールドのようなものなので、そこでのおすそわけが、私の感覚におけるフィールドごはんです。
そんなおすそわけですが、隠岐では面白い言葉があります。「カニはもらうもの」「魚はもらうもの」です。漁業が盛んな地域なのですが、水揚げはほとんどが本土側の境港で行われるため、島の中では、採ってきた、あるいは釣ってきた魚をご近所の方におすそわけするのです。そして、頂いた側は、例えば野菜をお返しするわけですが、相手が畑も持っておられる方であれば、頂いた分の一部を料理して返します。何らかの形できちっとギブ&テイクします。
そんなお金を介さないギブ&テイクの社会で、私は機会があればちょっとした科学の話を提供し、お返しに色々頂きます。サザエの混ぜご飯や、採れたて、海水ですすぎたての甘みすら感じる白バイ(貝)、先日などは島内産の御松茸様一本……丸々一本を手でほぐして作った松茸ご飯、最高でした。お金で買わない方が良いものが手に入る不思議。
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5.今後のFENICSイベント
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来月は、FENICS共催、協力イベントが3件あります!FENICSの会員も活躍します!ふるってご参加ください。
(1)12月8日 エンサイクロペディア・シネマトグラフィカ(ECフ ィルム)を見る連続上映会11「子どもからの世界」@東中野ポレポレ
(2)12月12,13日@東京外大AA研 国際シンポ「シングルの多様性」について考える
(3)12月15日@東京外大 アフリカ研究公開セミナー
:::::: (1)20世紀の映像百科事典 エンサイクロペディア・シネマトグラフィカ(ECフ ィルム)を見る連続上映会11「子どもからの世界」
■日時 :2015年12月8日(火)18:30開場/19:00開演 ■場所:東中野ポレポレ坐 http://za.polepoletimes.jp/map/
■ゲスト:齋藤紘良(さいとうこうりょう)しぜんの国保育園園長兼学童施設長/作曲家
分藤大翼(ぶんどうだいすけ)信州大学准教授/映像人類学
■予約:03-3227-1405 event@polepoletimes.jp(ポレポレタイムス社)
■料金:予約:1,500円/当日:2,000円(ワンドリンク付)
〈上映プログラム〉 【ECフィルムより】
■中央アフリカ バヤカ・ピグミー族 与える 取る 分ける/1975-80年
■中央アフリカ バヤカ・ピグミー族 母子関係/1975年
■パプアニューギニア トリブリアンド人 3歳半の幼児と遊び仲間との相互関係/1984年
■南西アフリカ ヒンバ族 幼児と4歳の少女の遊びの発展/1985年
■南西アフリカ ヒンバ族 少女の1人遊びと幼児による完成/1985年
■ベネズエラ ヤノマミ族 少女の乳児の世話/1983年 【特別上映】
■バカ・ピグミーの子供たちによるエロチック・パフォーマンスなど(分藤大翼)
※昭和初期のモノクロ視聴覚教育映像も。お楽しみに!
〈連続上映会11「子どもからの世界」〉 人類の一生は、何万年の間、さしたる変化を感じません。子が生まれ、成長し、学び、家庭を持ち、伝え、老いて死ぬ。文化によって多少の相違はありますが、人生の本質は一貫しています。特に、子育ての本質はホモ・サピエンス以降変わっていないのではないでしょうか。「強く育ってほしい」という子育ての本質。私たち人類の、古くからの子育ての願いはこんな具合にシンプルなはずなのに、ついつい余計なこと考えているうちに、この願いを見失ってしまう。しかし、ECの映像を見ていると、見失う前のことを思い出します。そして、「ああ、そうだった、こんなだった。」と、何万年も前の、子育ての本質の生まれた瞬間が蘇ってくるのです。保育園という場で子どもに日々向き合う齋藤紘良さん、バカ・ピグミーたちが暮らす森をフィールドに研究する分藤大翼さんとともに貴重な映像資料から各所の民族の子育て観をのぞき、人類における子育ての本質を考えてみませんか。
〈ゲスト〉 齋藤紘良(さいとうこうりょう) しぜんの国保育園園長兼学童施設長/作曲家 森の循環システム「里山文化」を体現するプ ログラムと、長期にわたりヨーロッパの福祉や文化を視察してきた経験をもとに、芸術と自然、そして食を基盤とした保育実践を行っている。 分藤大翼(ぶんどうだいすけ) 信州大学学術研究院総合人間科学系・准教授、FENICS/映像人類学。
■共催:公益財団法人 下中記念財団、ポレポレタイムス社
■企画:EC上映班/下中菜穂、丹羽朋子 (FENICS)、ポレポレタイムス社
■協力:川瀬慈(国立民族学博物館)、岡田一男(東京シネマ新社)、NPO法人 FENICS
上映会サイト http://ecfilm-screening.jimdo.com/
(2) 12月12、13日@東京外大AA研 国際シンポ「シングルの多様性」について考える
2月12日はインドからデリー大学の著名なMeenakshi THAPAN教授やAnurita JALAN准教授、アイルランドからAttracta BROWNLEEさんを迎え、13日はウガンダからマケレレ大学から気鋭・若手の研究者Dr.Christine MBABAZI MPYANGUやMr.Gordon Ainebyonaをむかえ、シンポを開催します。 発表者にはFENICSメンバーもいます。一日だけでもけっこうです、世界の「シングル」について、社会学、人類学ご関心ある方はぜひお運びくださいませ。
くわしいプログラムやポスターは⇒http://goo.gl/aHz0uj
Diversity of the Meaning of Being ‘Single’ in the Global Societies : Drastic Changes of the Way of Life, Human Relations, and Kinship With the rapid globalization and urbanization, patterns of our lifestyles, social customs and relationships are changing drastically. In this symposium, we will focus on our experiences of social and physical interruptions in different situations and places in order to examine the contexts of being single or becoming single. Moreover, we will reflect on the current situations of our livings through the lens of various singles of this globe.
Date 12th, 13th December 2015 Venue Room 304, Research Institute for Languages and Cultures of Asia and Africa (ILCAA), Tokyo University of Foreign Studies (TUFS)
Language English Admission Free Contact wakana@aa.tufs.ac.jp 使用言語:英語 主催:東京外大AA研 共催:NPO法人FENICS
(3) 12月15日@東京外大 アフリカ研究公開セミナー(2015年度第5回)
ウガンダ・マケレレ大学から気鋭の社会学、人類学の若手研究者をむかえ, 「アフリカにおけるテクノロジーのインパクトと脅威について考える」と題し 2015年度第5回公開セミナーを開催します。 ふるってご参加ください。
くわしいプログラムやポスターは⇒http://goo.gl/qN5cPE
1. ゴードン・アイネビョーナ(マケレレ大学准講師・ウガンダ) “The impact of Technology on Crime in Uganda”
2. クリスティン・ンババジ・ンピャング(マケレレ大学講師・ウガンダ) “Technology as a threat to African norms and values”
使用言語:英語 主催:基幹研究「アフリカ文化研究に基づく多元的世界像の探求」
共催:NPO法人FENICS
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6.チラ見せ!FENICS
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100万人のフィールドワーカーシリーズ第2巻 『フィールドの見方』(増田研・梶丸岳・椎野若菜編)
「人とバナナのかかわりを探る方法を求めて-民族植物学調査の試行錯誤」 (佐藤靖明)
農村での滞在にようやく慣れた頃、収穫日記や畑の計測などの定量的な調査と並行して、植物に対 する人びとの知恵や技術にかかわる調査も徐々に進めていくことにした。しかし、このテーマは目に 見えないだけに、特徴や全体像をつかむことが難しい。何をどのように質問すればよいのかがわから ず試行錯誤ですすめ、村人には子どもじみた質問を何度もする羽目になり迷惑をかけてしまうことも あった。だが、そのたびに新たな学びを得ることができた。
たとえば、バナナの調理方法を記述する際には、彼らの認識をよく知っておくことが必要であっ た。バナナの葉で果肉を包み、それらをさらに葉で覆って蒸す場面がある(写真8)。しばらくの 間は、ずいぶん葉をたくさん使うなあ、と感心しながら1カ月間ほどぼんやりと観察しつつフィー ルドノートにその様子を記述していた。あるとき、蒸す場面と食事の場面の間も意識してみてみ ると、蒸す際に覆うために使われた葉が配膳用の敷物にも利用され、また次の日の調理にも再利用されているではないか。そこで居候先のお母さんに聞いてみると……
(2巻のご注文はFENICSホームページhttps://fenics.jpn.org/よりログインして、サイト内のオーダーフォームからご注文いただくと、FENICS紹介割引価格でご購入いただけます。ぜひご利用下さい)
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7.FENICS会員の活動
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第4巻『現場で育つ調査力』執筆者の、田村賢也さんの活動紹介です。
私がクライシスマッピングの活動を始めてからもう5年が経ちました。我々は、災害発生後、主に地球観測衛星などから撮影された画像を元に、地図に迅速に現地の被害状況をトレースし、発信して参りました、この5年間で情報が取得されるスピードも当初よりは早くなっており、それと共に被害状況が反映された地図作成のスピードもあがっております。 しかし、場所によっては現地の状況が画像で提供されるまでにまだまだ時間がかかります。そのため、災害発生後、迅速にドローンが飛び立ち、撮影及び後処理を含めて2時間以内にウェブ上に公開、地図作成を始める作業を行うことを目的とした「DRONE BIRD」計画をたてました。 安心・安全にドローンの操縦を行えるパイロットを全国的に増やし拠点となる基地のような場所を全国に約10ヶ所設置したいと考えています。その第一歩として、24日(火)からREADYFORにてクラウドファンディングを始めております。 どうか皆様のご支援・ご声援を賜りますようお願い申し上げます。
■■■災害ドローン救援隊「DRONE BIRD」プロジェクト■■■
災害時に「地図」を使って活躍する、 かつてない世界初の市民ドローン部隊をみんなの力で誕生させよう! その名も「災害ドローン救援隊 DRONE BIRD」!
隊員募集中:https://readyfor.jp/projects/dronebird
Facebookページ:https://www.facebook.com/dronebirdproject/ 以上です。
みなさまのご活躍の様子、いつでもお知らせください!
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