FENICS メルマガ Vol.93 2022/4/25 
 
 
1.今月のFENICS
 コロナ感染状況を見守るなか、新学期が始まりました。世の中全体が、withコロナで動いてきました。
大学でも、対面授業を本格的に始めたところも多いかと思います。そしてやはり、感染者もでます。ハイブリッドでの授業、イベントは「ノーマルな」選択肢となってきましたが、運営側に負担がやはり、大きいのも事実。諸事情が重なり、今号は発信が遅れ失礼しました。
 目を閉じ、耳を閉じたくなるようなニュースが絶えません。我が家の3歳児もウクライナ、ロシアの大統領の名前をある一定の文脈をもって連呼するようになってしまいました。
世界中のそれぞれの国家が、大人が作った「文脈」に、家庭の子どもも影響されているのかと思うと、またぞっともします。
  
 南極にいるFENICS副代表、澤柿教伸さんから便りが届きました。7月には、FENICSとFENICS正会員の吉崎亜由美さんが中心になり南極教室も開催します。ぜひ、参加をご検討ください。南極との生中継!聞いただけでもワクワクしませんか?
 
 それでは本号の目次です。
 
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1 今月のFENICS
2 私のフィールドワーク:椎野若菜
3チラ見せ!FENICS:『月刊地理2022年5月号』の特集
4 FENICSからのお知らせ:20220521ライフイベントのサロン
           :20220713南極教室の参加者募集!
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2. 私のフィールドワーク
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南極からのたより  
:観測開始以来60年にわたる膨大な蓄積である昭和基地の図書に関心のある方はいらっしゃいませんか?
 
      椎野若菜
  
第63次南極地域観測隊で越冬隊長としていま昭和基地にいる澤柿教伸さんより、私に便りが届きました。
  
しっかりマイナス20度  
さきの2月1日に前次越冬隊から昭和基地の管理を引き継ぎ、澤柿さんら、63次越冬隊が32名だけが残って孤立生活をはじめてから、2ケ月あまりが経過しました。春分の日を過ぎて以降、どんどん日が短くなっており、これから迎える本格的な厳冬期にむけて冬ごもりの準備をすすめている、とのこと。先月の3月は、ブリザードが4回も襲来し、10日以上も建物中からでることができずにいたそうです。気温は月平均としては過去最暖で比較的だったものの、南極はそんなになまやさしいものではなく、便りを下さった日もしっかりマイナス20度を下回る冷え込みだったとか。
  
唯一のコロナフリーの清浄な地域?  
澤柿さんらが日本を出発した昨年2021年11月までは、南極大陸は世界でもほぼ唯一のコロナフリーの清浄な地域でした。小松左京の「復活の日」さながらに、南極にウィルスを持ち込むことは決してあってはならない、と澤柿さんらは出発前の準備や検査も慎重に進め、2週間の隔離で感染や発病がないことを確認してから、南極へ出発しました。現地の岸壁にはわずか数人だけが手を振るという、寂しい見送りだったようです。ですが、そのおかげで、現在の昭和基地はマスクも黙食も必要なく普通に過ごせていることにもなります。
  
同様の南極観測にたずさわる各国の慎重な対応にもかかわらず、南極地域に出入りする航空網のクルーに感染者がでたことを発端にして、昭和基地から500kmほど離れた隣のベルギー基地で集団感染が発生してしまったそうです。日本の観測隊も同じ航空網を利用しているため、澤柿さんは近隣基地で現場を指揮する隊長として南極に関する国際学術委員会への対応に迫られるなど、緊張感が増す場面もありました.
  
「しらせ」が迎えに来られなかったときのために・・物資輸送作業  
南極に到着した2021年12月中旬から2月上旬までは、砕氷船「しらせ」が昭和基地沖に停泊していました。越冬隊が一冬を過ごし、さらに次の夏に万が一、「しらせ」が迎えに来ることができなかった場合にも耐えられるだけの物資約900トンを輸送することを最優先に、作業がすすめられてきたといいます。その約7割は発電機や車輌用の燃料で、観測機材・食料・建築物や車輌の補修・更新のための大量の物資。その輸送作業の傍らで、最先端の観測課題に取り組む40名ほどの夏隊で参加している研究者たちのための支援活動を実施する必要もありました。そんな忙しい夏のオペレーションも2月中旬には終了して、夏隊の人たちは帰還し、今現在は32名だけの越冬隊員が残って、60棟を越える建物や数十台の車輌を抱える基地設備を維持しているそうです。
  
越冬交代してからの作業  
越冬交代して孤立状態になってからすぐにとりかかった仕事は、基地内にある図書室と庶務室をネット会議スタジオに改装する工事。昭和基地の図書とは、観測開始以来60年にわたる膨大な蓄積になるそうですが、論文などの学術資料はいまでは昭和基地のネットでも閲覧できるため、利用頻度は高くなくなっているとのこと。そしてなによりもこれ以上書籍を追加していくスペースが足りなくなってきたため、今回の改装工事を期に必要最小限の蔵書だけを残して全てをいったん日本に持ち帰り、国内の専門家の手によって国内アーカイブするものと、昭和基地に再度戻すものとに選別する手はずになったそうです。
  
昭和基地に残す書籍の選別
その「必要最小限の文献」として基地に残す書籍の選別、が越冬隊長の澤柿さんの手に委ねられたわけですが、非常に悩ましい問題となりました。長く閉ざされた基地で過ごす隊員のために、研究に必要なものだけでなく、夏目漱石全集といった著名な日本の文学全集も多数。ですが結局は入手困難な文献や記録性の高い探検記と地図を中心に500点ほどを残すことになったといい、それ以外の全てはいま、貨物コンテナ2つ分に押し込められて来年の帰国を待っているそうです。
  
実は、今回の基地の図書の扱いについては、一方的に破棄するという線で当初の計画が組まれていたのですが、澤柿さんがその指令を受け取ったときにちょっと引っかかるところもあって、観測隊OB団体や国会図書館にいる知人に相談したりして、適切な処方について模索した結果、今回のように扱うことになったといいます。とりあえず「廃棄」は免れたものの、まだしっかり見守っていく使命が待っているとのこと。
  
孤立した遠隔環境で最先端の科学観測基地をこれまで支えてきた「書籍群」とは?  
のりかかった船としてこの先数年がかりの仕事になりそうな、この作業。澤柿さんは言います。孤立した遠隔環境で最先端の科学観測基地をこれまで支えてきた「書籍群」とはどんなものなのか、本好きや極地ファンでなくても、これだけのひとまとまりの文献であれば分野によってはそれなりの研究対象にもなるのではないか、興味のある方はいらっしゃいませんでしょうか? 
  
食堂の片隅の隊長机から引っ越し  
この図書室改装工事のあおりを受けた庶務担当とLAN担当隊員の仕事場として、澤柿さんが執務室にするはずの越冬隊長室を明け渡して仮住まいしてもらい、ご自身は当初から食堂の片隅でずっと隊長としての仕事をしてきたそうです。先々週に改装工事が一段落して、ようやく本来の隊長室で執務することができるようになったところとか。食堂の片隅で、隊員それぞれが動く姿を見ながらの執務から、なんだか急に客間に入れられたようなかんじで気分的に落ち着かない、とのことでした。
  
澤柿さん、来る7月13日の南極教室にて、ライブでいまの昭和基地、南極の様子をお知らせくださること心待ちにしています!
 
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3. チラ見せ!FENICS
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昨年に出版された、100万人のフィールドワーカーシリーズ4巻の『現場で育むフィールドワーク教育』(増田研・椎野若菜編)。
 
この巻をより、深く広く知っていただくため、番外編を含んだ特集が『月刊地理2022年5月号』に組まれました!
チラっとお見せいたします。
 
★特集:現場でこそ学べる! フィールドワークのススメ
  
地理「学」のフィールドワーク論 宮本真二  
「1.露呈~現場に行けば(本当に)なんとかなるのか?
 昨年古今書院で刊行し、私自身も執筆した『現場で育むフィールドワーク教育』の編者が描いた「あとがき」を読んで、う~んと、51歳の誕生日直前にとてもなやんだ・・・・。そう、なやんだ理由とは、(フィールドワークが好きな研究者は)「現場に行けばなんとかなると思っているフシがある・・・」=オレのことやん、と。)・・・」
  
中学校・高等学校におけるフィールドワークの学びのデザインと生徒の変容 吉崎亜由美  
「新学習指導要領は、よりよい学校教育を通じてよりよい社会を創るという理念を学校と社会が共有し、未来の創り手となるために必要な資質・能力を育む「社会に開かれた教育家庭」の実現を目指している。私は、新しい時代に求められる資質・能力を育む学びの一つに、フィールドワークがあると考える。・・・・」
  
コラム:コロナ禍の地理教育 吉崎亜由美  
  
大学生がアフリカで自炊合宿する、現場のリアルな実習活動 増田 研  
「1.フィールドワーク教育が直面するコロナ禍という障壁。
 新型コロナウィルス感染症の世界的まん延によって、教育現場は大きな変革を強いられた。教室での対面授業は制限され、留学生も来日できなくなった。・・・」
  
コラム:拾いモノ考古学:増田研  
  
街の看板からジェンダーを読み解くフィールドワーク 椎野若菜  
「1.コロナ禍によって明確になってきた点
 コロナ禍になってまる2年が経ち、研究・教育の現場ではっきりしてきたこと――言うまでもなく、オンラインで授業・研究をすることになったため、現場に行く機会が失われた分、ネット上やSNS,ズームなどの調査、さらにはインテンシブな文献調査をするようになったことである。すでに・・・」
  
コラム:『現場で育む フィールドワーク教育』のススメ 椎野若菜  
 
★★★★★  
月刊地理2022年5月号
立ち読みで、目次や各記事のトップページをご覧いただけます。
 
入手方法
(1)ご近所の街の書店さんにご注文ください。2週間くらいかかりますが、送料かからずに届きます。「月刊地理2022年5月号」と伝えてください。
 
(2)古今書院HPから、ネット書店に注文
ネット書店で品切れの場合は、出版社には在庫がありますので(1)の方法で発注ください。
 
(3)電子版の購入もできます。(2)の古今HPに電子版の注文ボタンがあります。
 
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4. FENICSからのお知らせ
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(1)2022年5月21日17時~19時 FENICSサロン「大学院生でママ・パパになれる?:研究室仲間と歩んだ子育て院生生活」
 
FENICSが長年行ってきた、ライフイベントに関するサロン。
今回は、FENICS正会員が総出の企画です!
2022アフリカ学会FENICS ポスター 0412PPT最終のサムネイル
大学院進学を決める時点は、人それぞれでいい。日本でもようやく、学士をとりさまざまな業界で経験を積んだのち、大学院に入る人も増えてきている。子どもをもつ時期を選ぶのも、個々人の自由であるはずだ。ただ、まだ大学院に在籍しながら子どもをもつ選択肢は決して容易ではない。あなたの院生の同期が、子連れで大学院に来たら、どう接したらいいだろう?あなたが、在学中に妊婦になったらどうする?パートナーと、どのように妊活を計画したらいいだろう?あなたの学生が、妊婦になったら、どう指導・アドバイスしたらいいだろう?
今回は大学院在籍時の子育てとフィールド研究の両立に焦点をあてます。院生、ポスドク、指導教員、と立場の異なる男女の参加を期待しています。
 
日時:2022年5月21日 夕方 17時~19時(2時間程度)
場所:zoom
どなたでも参加可能、無料。申し込み、こちら:
https://forms.gle/xxMtDE5fPR66MASz5

2022年5月21日(土) 夕方 17時~19時(2時間程度)
 
<プログラム>
 
はじめに  椎野若菜/東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所
 
聞き手:網中昭世/アジア経済研究所
 
話者:日達真美/世界食糧計画セネガル事務所
   山田直之/アイ・シー・ネット株式会社
   星友矩 /長崎大学熱帯医学研究所
 
ディスカッション
 
ブレークアウトルームのトピック
・「研究室に妊婦・子持ちがいたら、どうする?」 (担当:日達真美)
・「学生で妊婦になったら、どうする?」(担当:網中昭世)
・「男性研究者の子育て」(担当:佐藤靖明)
・「研究と子育ての両立実現の工夫」(担当:大平和希子)
・「子連れフィールドワークをしたい」(担当:椎野若菜)
 
 
(2)南極教室@桐朋女子高等学校 2022年7月13日(水)14:15~15:05 FENICS参加者募集!
 
FENICSと桐朋女子高等学校、桐朋小学校、むさしの学園小学校が合同し、南極の昭和基地にいる澤柿教伸隊長とつないだ南極教室が開催されます。
会場は桐朋女子高等学校にて行われます。
 

ただいま、学校同士で内容を企画中、5月初めには澤柿隊長も含め企画を練っています。
桐朋女子高等学校では、FENICS100万人のフィールドワーカーシリーズ1巻『フィールドに入る』に寄稿した澤柿さんの章「これからの「南極フィールドことはじめ」―フロンティアを目指す人のための温故知新術」を読んで準備しています。  

限られた50分、参加者だけの南極との50分で、何をしたいか、いいアイディアをお持ちの方は、ぜひお知らせください!
  
FENICSの枠は、7名あり、参加希望者、募集します!もちろん親子もOKです。
fenicsevent[at]gmail.com まで、参加ご希望の方のお名前を記してお申込みください。
5月31日までとします。参加はFENICS正会員を対象としますが、お気軽にご相談ください。
 
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以上です。お楽しみいただけましたか?
みなさまからの情報、企画、お待ちしています。
発表の場、トークイベント等ご希望の方、「こんな話が聞きたい」、など持ち込み、共催企画も歓迎します。
 
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メルマガ担当 椎野(編集長)・澤柿
FENICSウェブサイト:http://www.fenics.jpn.org/