FENICS メルマガ Vol.67 2020/2/25  Web版 

1.今月のFENICS

 海外で調査中の方も多いでしょうか。あるいは、新型コロナウイルスで渡航をキャンセルした方もいらっしゃるでしょうか。最新刊『フィールドワーカーの安全対策』に、関西医科大学の三島伸介さんが「フィールドワーカーのための感染症対策―マラリア対策にみる自己防衛・社会防衛の考え方」という章を書いていらっしゃいます。改めて、必読と感じています。

 編集人は1歳8か月の子どもを連れ、調査のためナイロビにきています。慣れたナイロビとはいえ、歩き始めた、まだ授乳中の1歳児の日常を1人で保ちながら調査、は何とも想像以上に大変。食べる暇もなく、体力も消耗していく悪循環。メルマガ始まって以来の、大幅な送信遅延となりましたこと、お詫びいたします。

 本号には、これまで3回連載してくださった松本美予さんの夫、松本英男さんによる留守宅編が掲載されています。ぜひお楽しみください。そして感想もお寄せください。

最新号、『フィールドワーカーの安全対策』につきまして;
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定価本体:3400円(税込3740円)のところ、FENICS割引15%で送料無料、3200円にてお求めになれます。ご希望の方は、FENICS会員のログインをしてオーダーフォームでお申込みください。
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それでは本号の目次です。
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1 今月のFENICS
2 子連れフィールドワーク4 留守宅編(松本英男)
3 フィールドワーカーのおすすめ本(澤柿教伸)
4 FENICSイベント 
5 会員の活躍(吉國元)       
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2.子連れフィールドワーク(連載)
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ちょっと大きな子連れフィールドワーク4 留守宅編
松本英男

 平成30年晩秋のある晩,妻が,「あのさー。夏休みに,またスリランカに調査に行きたいんだけど。」と言うのを聞き,条件反射的に私は身構えた―

 私と私たちの3人の子供は,平成29年8月,夏休みを利用して,妻のスリランカでのフィールドワークに同行した。生後6か月の三男も連れたこの無謀な試みで経験した数々の出来事は,ハワイとヨーロッパしか海外渡航経験のなかった私にとってあまりにも強烈な体験であり,人生を終えるときに見るであろう走馬燈の一コマにも必ず現れるに違いないと思う。このときの経験だけでもお話ししたいことは山ほどある。そのため,“調査”という言葉に反応し,身構えてしまった。
さて,様々な観点から検討した結果,昨年(2019年)の妻のスリランカ調査には長男(9歳)が同行することになった。妻は,同年4月のスリランカ連続爆破テロ事件に関連した情勢変化に長男が巻き込まれることを心配していたが,私自身は,楽観的に考えており,今回の旅が9歳の感性に何かをもたらしてくれることを期待していた。

秋芳洞への小旅行

秋芳洞への小旅行

 留守宅の態勢は,前半10日間は私一人で子供2名の面倒を見て,後半10日間は妻の両親が私のサポートに来るというものであった。次男(6歳)には事情を説明していたが,三男(2歳)にとっては,母親がある日突然いなくなるのであるから,相当なパニックを起こすのではないかと心配していたが,この点は杞憂に終わった。彼には,お母さんは長男と少し遠いところに行っていてしばらく戻ってこない旨を話していたが,母に会わせろと泣くこともなかった。親の想像以上に,子供は幼い頭なりに状況を理解できる能力があるのかもしれない。あるいは,妻とはスカイプ等を通じて頻繁に連絡を取ることができており,このような文明の利器によるところも大きいかもしれない。それにしても,2歳児が約6500km離れた異国の農村にいる母親とテレビ電話で会話を楽しむ状況は,改めて思い返してみると,凄い。

 留守宅を預かる身として心掛けていたことは,まず一つ目は,次男と三男に寂しい思いをさせない。そして二つ目は,長男だけを贔屓していい思いをさせているなどと誤解されないようすることであった。一つ目の点については,私の仕事は,段取り次第では夏休みの間に出勤しないで済むし,比較的時間の余裕があったため,子供と向き合う十分な時間を取ることができた。留守宅の一日のサイクルは毎日ほぼ変わらず,次男と三男が起床したら朝食を食べさせ,三男を保育園に送り,洗濯や掃除をし,次男の夏休みの宿題に付き添い,間もなく昼が来て,次男に昼食を食べさせ,更に次男の相手をし,買い物などをしていると夕方になり,夕食の準備を始め,三男の保育園のお迎えに行き,三人揃って夕食を取り,風呂に入れ,歯磨き等をし,本の読み聞かせをして添い寝して,自分も寝入ってしまうなどというものであった。そして二つ目の点については主に次男に対する対策であったが,子供たちを1泊2日の小旅行に連れ出したり,三男を保育園に預けた後,次男の希望を聞いて外食したりするなどした。妻の両親が来た後半になると,私の家事の負担はほぼなくなったが,反面,子供たちと触れ合う濃厚な時間は減ってしまい,やや物足りなくも感じた。
 
 留守宅を守るというのにはやや不安はあったが,終わってしまうと,余裕こそ全然なかったが,意外と何とかなっちゃったなという感想である。妻は,近々また調査に行きたいと言っているが,「どうぞ行っていらっしゃい。」と言えます(本当に)。

 今回の妻の調査は私の夏休みに合わせたため,普段放課後学童保育に行かせている次男を家でみることになった。しかし,もし調査が夏休み以外の期間であったら,学校や学童保育からの急な呼出しなどに私一人では対応できないので,我々のような核家族にはハードルはやや高かったかもしれない。その意味では,片方の親が渡航するにあたって実家のサポートは不可欠なように思われる。皆さんは一体どうしていらっしゃるのでしょうか。それにしても,保育園は,我々のような多頭飼育の家庭ではなくてはならないものと再認識させられたし,子育て世代に対するさらなる制度的なサポートも期待したいところではある。

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3.フィールドワーカーのおすすめ本
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『その犬の名を誰も知らない』(嘉悦洋:著、北村泰一:監修/小学館集英社プロダクション)
澤柿教伸

 令和も2年となり,日本の南極基地が冠する元号は二つも前の時代となってしまいました.南極観測開始50周年の2007年1月に,宇宙飛行士の毛利衛さん,医師で登山家の今井通子さん,作家の立松和平さんら3名が,開拓されて間もない南極航空ネットワークを乗り継いで昭和基地を視察訪問されたことがありました,当時2度目の越冬で昭和基地にいた我々は,そのホスト役を仰せつかることとなり,伝統ある観測隊の沽券を守ろうと緊張しながら対応したことを思い出します.

南極枯山水

写真:昭和基地の食堂の窓から望む「岩島」と,ビーナスラインに浮かぶ南極大陸からの月の出.
昭和基地を訪れた立松和平氏が「これぞ南極枯山水,初めて見た風景なのに慣れ親しんできた感じがする」と評した.

 VIPのお三方は昭和基地滞在中にそれぞれに名言を残されました.某アニメのタイトルにもなった「宇宙(そら)よりも遠い場所」というのは,毛利さんが昭和基地に来られた最初の晩餐での挨拶で述べられた言葉です.立松さんは作家らしく「物事をながく継続していくには語り継ぐべき『物語』が必要」と言われました.これは,昭和基地の中でも最も眺めの良い南向きの食堂の窓から赤く染まった氷の大陸(右写真)を眺めながら「これぞ南極枯山水,初めて見た風景なのに慣れ親しんできた感じがする」と感嘆されたのに次いで発せられた言葉です.立松氏の目の前に広がった昭和基地の風景が,これまで『語りつがれてきた物語』の中にずっと織り込まれてきていたのかもしれない,と,当時立松氏のそばで言葉を聞いていた私はそう思いました.

 前置きが長くなってしまいましたが,最近でたばかりの『その犬の名を誰も知らない』(嘉悦洋:著、北村泰一:監修/小学館集英社プロダクション)をさっそく入手して,コロナウィルス騒ぎで会合がキャンセルになった時間を使って一気に読みました.

 タイトルはなにやらミステーリーじみた感じですが,本著は「第二の映画『南極物語』」とでもいうべき,カラフト犬たちを軸とした南極観測草創期のドキュメンタリーです.西日本新聞の記者だった著者が2018年に,第一次越冬隊で犬係だった北村泰一九大名誉教授から話を聞き取りを始めたのがきっかけで始まった60年ごしの謎解きの話に仕上がっています.観測隊で活躍したカラフト犬の話は,すでに多くの書物や映像で伝えられていますが,こうして繰り返し「タロ・ジロ」の話が掘り起こされ,語り継がれていくことは,まさに立松さんがいう「語り継ぐべき『物語』」が存在してる証しなのだろうと思います.

阿弥陀如来像

1992年(JARE34)当時昭和基地で撮影した阿弥陀如来像.愛犬家らの寄付で作られた.東京学芸大の山本豊市教授作(本著p203に記述).現在は日本に持ち帰えられたと聞くが,これは現地にこそあるべきと私は思う.

 私は,出身の北大繋がりで,本著にも登場する,安藤さん,菊池さん,小林さん,佐伯さんなどから,昔話しをたくさん聞かせていただいてここまで育ちました.自分自身も昭和基地に滞在するようになって,日本の南極観測の生みの親である永田武教授の遺骨を納めたケルンを作ったり,本著にも出てくる「N基地上陸点」の再発掘に携わったり,ボツンヌーテンに登ったりと,歴史を刻み,掘り起こす作業にも携わってきました.本著を読むことは,それらを総ざらいして追体験することでもあったわけですが,今風の「読ませる」タッチに,語り継ぐにはそれ相応のフォーマットの乗り継ぎを繰り返す必要もあるのだなぁ,と思わされた次第です.

 ミステリーの部分は読んでからのお楽しみ,ということで,皆様にも一読をお勧め致します.なお,2020年3月19日(木)には,NHK-BSの番組「偉人たちの健康診断」で,「南極観測隊のイヌたち」の回が放映されます.その中でもこの「名を誰も知らない犬」に関係した話題が盛り込まれているとのこと.そちらも併せてご覧いただければと思います.

 


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4.FENICSイベント
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来年度はじめになりますが、12巻に関するFENICSサロンは、FENICSサロン 三学会連続リレー企画「フィールドワーカーのジェンダー・ライフステージ」として計画されています。コラボをご希望の方は、ぜひご連絡ください。

詳細が決まりましたら、お知らせいたします。

日本アフリカ学会第57回学術大会 
日時:2020年5月24日(日)
場所:東京外国語大学 話題提供:網中昭世さん

文化人類学会 第54回研究大会 GEHASS(人文科学系学協会男女共同参画推進連絡会)シンポと共催
日時:2020年5月31日(日)
場所:早稲田大学戸山キャンパス
 窪田幸子さん (神戸大学)
 嶺崎寛子さん(愛知学院大学)
 椎野若菜さん(東京外国語大学)

熱帯生態学会
日程 6月13日
場所:広島大学  話題提供:松本美予さん

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5.会員の活躍
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1)吉國元さん(画家)

日本に暮らすアフリカ人の友人たちを取材する『MOTOマガジン』、創刊します!初号はセネガルご出身のバ・アブさん。

(前書きより)
本誌『MOTOマガジン』の内容は日本に暮らすアフリカ人との「世間話」を主とする。故郷のアフリカを離れて暮らすのはどのようなことだろう。世間話としたのは、異国で生きていく事の日常のディテールと手触りを、彼らの声と生活を通じて知りたいと思ったからだ。共にアフリカを想い、また彼らから見た「日本」と呼ばれてる社会についても考えさせられた。僕にとってアフリカは常に「むこう側」にあったが、日本の中にあるアフリカ、本号ではインタビュー頂いたバ・アブさんの中にある故郷セネガルを私と地続きにある場所として捉えたいと思ったのだ。アフリカと日本は地理的に遠く離れているが、決して対極にある場所ではない。

タイトル:MOTOマガジン vol.001 Arrival
著者・企画・編集・発行・絵: 吉國元
写真:久光菜津美
ページ:20ページ
版元:Self published
Edition:50

現在、個展開催中。吉國元展「来者たち」(2020年2月2日[日]~5月2日[土])
https://nanawata.com/814/

会場:CAFE &SPACE NANAWATA 埼玉県川越市松江町2-4-4
西武新宿線本川越駅より徒歩10分

吉國元(よしくに・もと)/美術家。1986年ジンバブウェ・ハラレ生まれ。父はジンバブウェ現代史、アフリカ人都市労働史を専攻した社会学者。幼少時より絵を始め、主にアフリカで出会った人々の肖像を描いている。1996年日本に移住。高校を卒業後に主に清掃の仕事を5年間続けた後、社会人として2011年に多摩美術大学造形表現学部造形学科油画科に入学。2015年卒業。現在もアフリカの経験と記憶を基に絵を描き続けている。2020年2月、在日アフリカ人を取材する『MOTOマガジン』を出版開始。

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以上です。お楽しみいただけましたか?
みなさまからの情報もお待ちしています。

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メルマガ担当 椎野(編集長)・澤柿
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