FENICS メルマガ Vol.71 2020/6/25
1.今月のFENICS
梅雨の季節となりました。
すっかりインドアに慣れた日常ではありますが、雨か日差しが強いか、の毎日。みなさんはどのような気分転換をなさっていますか。
日常を取り戻していく動きとともに感染者数の増加のニュース。大人ですら、どう自らの精神状況をコントロールしていいかわからない現実。そして容赦なく入るオンライン会議と保育の同時進行は疲労甚だしく、私はいまだに全く慣れません。しかし先日、小2の息子も小3の友人と約束してzoom飲み会ならぬzoomおやつをしだす始末。同じようなことが、世界でおきているのでしょうか、、
先月5月30日(土)9:30~、『フィールドワークの安全対策』にちなんだ分科会を文化人類学会研究大会(オンライン)にて無事、終えることができました。ご視聴のみなさま、まことにありがとうございました。会場からの質疑応答では、セクシュアル・ハラスメントについて二件、コメントがありました。これまでほとんど表にでてこなかった分、深刻であることがうかがえます。今後、組織や業界にこだわらないFENICSだからこそ扱えるトピックとして、企画していく予定で、すでに動きだしております。ご関心おありの方は、お声かけください。
また、コロナ対応のため例年より遅れておりますが、FENICS総会の開催(7月)にあわせ正会員の会費振込システム、新しく導入させていただく予定です。おってお知らせいたしますので、何卒よろしくお願いいたします。
それでは本号の目次です。
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1 今月のFENICS
2 フィールドワーカーのおすすめ 連載(小森真樹)
3 子連れフィールドワーク 留守宅編 連載1(椎野和枝)
4 会員の活躍 (吉國元、藤元敬二、吉崎亜由美、遠藤聡子・クラベール・ヤメオゴ)
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2.私のフィールドワーク
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コロナ禍のフィールドワーク(連載3)
東京・代々木「ブラック・ライブズ・マター・トーキョー」デモのエスノグラフィー
――ネットで軽やかにフィールドをつなぐこと、「見えない」ものに目を凝らすこと
小森真樹(武蔵大学 アメリカ研究、文化人類学『フィールドノート古今東西』執筆者)
――――前回までは、コロナ禍でフィールドに出られない状況でアメリカで起こっていた自動車を使ったデモについて報告してきた。その折にアメリカのデモに関わる歴史的事件が起こった。もちろんそれは、白人警官による黒人男性ジョージ・フロイド氏の殺害のことである。圧死殺害の様子を捉えた動画が即座にネット上で拡散する一方で、加害者デレク・ショーヴィン氏が立件されず免職処分のみに終わったことをきっかけに、全米各地で抗議の声が上がった。ここから再燃したブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大切だ/BLM)運動は、未だかつてない規模で世界へと拡がっている。日々状況が変化する事態で即時性が求められ、また数多くの報告が続く状況で、本誌の読者にお届けすべき題材についてとても悩んだが、日本語で「いま読まれる」という点を大切にして、今号では6月14日に東京・代々木で行われた日本における最大規模の「ブラック・ライブズ・マター・トーキョー」デモに参加したエスノグラフィーを寄稿したい。
(2020年6月20日執筆時点での話であることをお断りしておきたい)
若年層、インターネット、バイリンガル
僕がデモのことを知ったのは、SNS経由だった。参加する三日ほど前に、世田谷区に住むアメリカ人の友人が英語でフェイスブックに投稿していたのを読んだ。リンク先も日英バイリンガル。公式ウェブサイトが流暢な英語で書かれ、また配布しているハッシュタグなどの日本語も「#BLMTokyoMarch = #東京行進」とやや翻訳調だったので、文化的にも英語圏ベースの活動だろうかと想像した 。
フロイド氏の事件以降、アメリカでは多くのブラック・ライブズ・マターのデモがSNSを使って組織化・連帯していた 。今回のデモも同様の特徴があるように思う。公式サイトの情報はSNS経由で発信され、そこから多く拡散されている 。MeetUpは主催したイベントをユーザが投稿できるアメリカ初のサイトで、関東圏にも英語圏のユーザーが多いが、そこでもこのデモの情報が発信されていた 。SNS別に見れば、主催者は主にインスタグラムを使って情報発信していた。これも世代的にティーンから20代が中心となったということを示唆する 。
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3.子連れフィールドワーク 留守宅編(連載)
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まだ見えない先のくらし ―年寄りのつぶやきー
椎野和枝(FENICS正会員)
言葉が充分通じないままに
6月10日、3ヶ月ぶりに電車に乗った。久しぶりに見る車窓の動く昼の景色が楽しい。JR南武線登戸駅から小田急線に乗る。直下の見慣れたはずの多摩川の雄大な流れに目をうばわれじっと見入る。昨年19号台風で荒れ果てた河川敷きの大小の樹木が美しい、緑を繁らせている風景が妙に新鮮だった。車内の人びとを見ると座席に間隔をできるかぎり均等に空けて坐っている。マスクを誰もが残らずつけている。これは珍しく見慣れぬ風景だ。若い人がほとんどで白髪の私のような年寄りはいなかった。
私のコロナウイルスによって被る予想外な出来事は、今年2月26日の夕刻、突然安倍首相の「学校を休校にする」発言で始まった。フィールドワーカーの娘、椎野若菜は乳飲み子の二男ルーカスを連れて2月20日、ナイロビに出かけて行った。長男のジェイソン(以下J)は小学1年生の3学期の終わりを、はじめて母親と別れて過ごすことになった。留守宅は父親のイアンと祖母の私の三人でのくらしが始まる。一週目は早朝からイアンはJのお弁当をつくり、服装、ランドセルの中の確認をして送りだす。私とのパン食のジュースや卵料理も手際よく準備してくれる。学校の授業と放課後時間は母親とたてたスケジュール通り進んでいった。日課にリズムがではじめた矢先に“休校”の知らせだった。日本中の教育現場にも私たち各家庭にも混乱が起る。学校からの急の連絡の書類は漢字が多い。それは私が読むこととなる。ナイロビの若菜にも学校からスマホに届いていてイアンは英語でその説明を聞いているだろう。学校からは大量の家庭学習のプリントが送られてくる。
三人の留守宅はごくわずか解っている英単語を並べるくらいの私の発言と、日本語の“てにをは”が整わず流調に話せないイアンとの奇妙な会話で進む。中に入って聞いている一年生のJが時々通訳して補っている。大人二人は相手の思いや考えを具体的に充分わかっているのではなく、多分こうしたいのだろうと想像もまじると、まるで事実とは違った方向でわかったつもりでいるのだった。
学校の宿題は一学年の教科書の予定通りにできなかった[国語]を私が担当し、「さんすう」の計算の速さを計るのはイアンが英語の個人レッスンと共に父の分担ですることとした。ママの予定表にはなかった日課を創り出さないと始まらない。イアンも私も学校の放課後を仲間と思い切りサッカーボールで遊べなくなったJの気持ちに添うよう過ごした。だが日増しに日本に居ないママが用意した励ましの手紙やプレゼントの本が魔法のような力でJを喜ばせ、あと何日と留守の日を数えている。そんな中でもJと私との会話は深まった。
留守宅は時に行き違いも起こった。ある時Jのバイオリンの稽古をすませたあと見たいと言っていたTV番組見ていると、二階で自分の仕事に区切りをつけて降りてきたイアンはいきなりTVを消す。イアンは私と交代してJを見守る気持ちらしい。Jは不満をあらわにしている、私は戸惑いを抱えながらここは父との時間の大事さをJに告げた。またある休日のこと、まだ不要不急の外出を控えよの声は高くなかった頃、家での縄とびの縄が欲しいというので私の所用もかねJとともに出かけた。縄とびをやっと見つけ求め、その喜びは帰ってさっそくひと飛びしようと気持ちに弾んでいた。夕方になって帰宅すると、イアンの考えは遊びの縄とびは明日でよいという。縄の長さの調整をすませていざやろうという時、私らの届かない高いところに彼の手は伸び縄をさっと置いてしまった。説明の会話を細やかにできずにいるJの困惑。大人二人の方針の違いがむきだしになる。それまでの感情を無視するやり方に私も穏やかではいられない。「私が懸命に子どもに対処している時は私にまかせておいて!」とすっぱり英語で言いたいところだが言えない。いつになく語気も声も強く訴えていた。私の態度がどこまで彼に通じたか分からない。おそらく察したのであろう。縄はJの手に戻っていた。
ほんのひと時、戸外の庭で飛ぶことになった。Jは弾んだ声になり「かぜさん飛べる?」「え?」二度も骨折した足だが何十年ぶりに飛んでみる。体を動かし気持ちはチェンジしていく、オヤ飛べるではないか。飛びながら走ることもやってみる。こんな時に思わぬ喜びがあるものだ!翌朝早くJが縄とびしようとベッドにやってくる。今度はイアンが引き受けて縄とびは続いた。昨夕の私の会話はどのように受け止めたのか若菜を通してやがてわかるだろう。その休日の夜は私の和風献立、鮭にお味噌汁、春菊の胡麻和えをおいしいと食べてくれる。こんな風に三人の留守宅の日は流れ、三月八日、若菜とルーカスは無事に日本に戻った。
家族揃って賑やかに過ごした三日後、交代してイアンは2週間の予定で仕事のためウガンダに向かって飛び立った。私らの判断は甘かった。三月半ば頃からコロナウイルスはその勢いを世界中に強めていた。イアンが十日後調査を終えて、日本に戻る日も近づいた日曜、チケットを手に空港に走ったもののウガンダ国は外国人の出国は許したが自国民は禁止と決定。子どもたちの待ちわびる父イアンは空港ぎりぎりのところで出国できないこととなった。6月半ばの現在も止めおかれている。空港の開かれる日を家族のそれぞれが待ち続けている。(2020・6・19)
(つづく)
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4.FENICS会員の活躍
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(1)吉國元さん(美術家)
先日にご紹介した、吉國元さんの個展「来者たち」は、川越のCAFE & GALLERY NANAWATAにて開催中です。
3月のトークイベント「なぜアフリカを描き続けるのか」につづき、7月5日にオンラインイベント『来者は巡る』木村哲也さんをお迎えして
が行われます。
本個展のタイトルの「来者たち」は木村哲也著『来者の群像』(2017年、水平線) に触発された経緯があるそうです。その著者との対談。
ゲスト:木村哲也 (歴史・民俗学者、『来者の群像』著者)
ホスト:吉國元 (美術家)
進行: 岡村幸宣(原爆の図丸木美術館学芸員、『 非核芸術案内―核はどう描かれてきたか』(岩波書店、2013年)など。)
トーク: 2020年07月05日(日) 17時よりこちらのURLにてご視聴頂けます。https://www.motoyoshikuni.com
(2)藤元敬二さん(写真家)
「TOKYO DOCUMENTARY PHOTO」というイベントに、7名の写真家と参加。
以前に撮影した、ネパールの人身売買を取り扱ったシリーズの展示をするそうです。
キチジョウジギャラリーでの展示、是非お越しください。
開催日程
2020年6月30日(火) – 7月5日(日)
12:00 – 19:00 ※最終日は18時まで / 会期無休 · 入場無料
会場詳細
キチジョウジギャラリー
〒181-0001 東京都三鷹市井の頭3-32-16セブンスターマンション105
展示作家: 冨永 晋/ 藤元敬二 / 丸山 耕 / 龍神 孝介
(3)吉崎亜由美さん(正会員 桐朋女子高等学校 教員)
一般社団法人Think the EarthによるSDGs for Schoolに桐朋女子高等学校、高校3年生(進路決定者向け講座)でのフィールドワークの授業実践が掲載されました。授業では、FENICSシリーズ1巻『フィールドに入る』を授業で参考にしてくださいました。
(4)遠藤聡子さん他、出版
FENICSシリーズ5巻『衣食住からの発見』の執筆者のおひとり、遠藤聡子さんよりご恵贈いただきました。遠藤さんのパーニュという女性の衣服についてのエッセイのほか、
編者の清水さんをはじめ、FENICS 100万人のフィールドワーカーシリーズの執筆者の川瀬慈さん、小川さやかさんも寄稿なさっています。
また、アフリカのアニメについて、自身もアニメーターのクラベール・ヤメオゴさんもアフリカ人のよるアフリカのアニメについて寄稿。
以前、氏が来日の際、FENICSと共催で上映会もしました。ご関心ある方、こちらをぜひ。
AFRICARTOONS STUDIOのサイト
またすでに有名な方ですが、編者のウスビ・サコさんの最近の興味深い記事
ウスビ・サコさん「アフリカ出身・京都精華大サコ学長 コロナ問題でわかった「日本人のホンネ」」
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以上です。お楽しみいただけましたか?
アーティストの方々からの、コラボ企画もちこみ、大歓迎です。
みなさまからの情報、お待ちしています。
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