FENICS メルマガ Vol.99 2022/10/25 
 
 
1.今月のFENICS
 
一気に秋になりました。10月上旬にFENICSとジェンダー・セクシュアリティ人類学研究会、そして「志縁の苑」と共催でサロンを開催しましたが、その会場であった長野・望月は、黄金色の稲穂がまぶしい田んぼと、稲刈りを済ませた田んぼ、そして少し紅葉し始めた木々、といった素晴らしい風景でした。今年は5月より、もろさわようこさんが創った長野の「家」の家開きから通いましたが、日本の四季を風景と食べ物で感じることができました。日本を知ることで、また海外のフィールドを見る。これも、フィールドワーカーとしてたいそう重要であること、今更ながら実感しています。
さて、本号はそんなことをとうに体験している若手フィールドワーカーの多良さんのエッセイ、またアフリカと日本のフィールドをもつ分藤大翼さんのイベント紹介もあります。お楽しみください。
 
さて、本号の目次です。
 
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1 今月のFENICS
2 私のフィールドワーク(多良竜太郎)
3 子連れフィールドワーク(連載③)(椎野若菜)
4 FENICS会員の活躍     
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2. 私のフィールドワーク
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日本とアフリカで木炭生産の現場を探る(その4)
タンザニアの「伏せ焼き法」に内包された技術
 
多良竜太郎(京都大学、生態人類学)
 
伏せ焼き窯とはじめて対面したとき、日本の炭窯を見慣れていたこともあったためなのか、私はどうしてこのやり方で木炭が作れるのかわからなかった。なぜなら、日本での木炭生産に関する調査から、炭焼きには経験にもとづく繊細な技術が求められる、と感じていたからである。
  
その真っ黒な見た目からなのか、木材を燃やしたら(燃焼)木炭を作れると考える人は少なくない。しかし、単に木材を燃やしても、水、二酸化炭素、灰が生じるだけで、木炭にはならない。木炭を作るには、酸素供給が不十分な状態で木材を不完全燃焼させ、それで生じる熱で残りの木材の熱分解(炭化)を促していく必要がある。これは伏せ焼き窯でも同じで、木炭を作るには、その一部の木材を燃焼させて、窯内の温度を高く保ち、残りの木材の炭化を促さなければならない。そこで私は、現地の製炭技術を明らかにするために、調査集落のなかでもっとも炭焼き技術が高いと評されるAさんにお世話になりながら、彼の一連の作業をつぶさに観察することをはじめた。  

Aさんは伏せ焼き窯を設ける場所にこだわっていた。山林であればどこでも良いというわけではなく、水はけのよい尾根の稜線上付を選んでいる。幹の直径が20㎝ほどの樹木を10本ほど伐倒すると、幹や太い枝の部分を約90㎝の長さに切り揃え、およそ200本の木材を用意する。地面に深さおよそ30㎝の穴を掘って伏せ焼き窯の土台をつくると、層状構造になるように木材を隙間なく積み上げていく。このとき、Aさんは必ず下部に細い木材、中央部に太い木材、上部に中くらいの太さの木材を配置している(写真1)。

写真1 積み上げられた木材


積み上げた木材を周辺から刈りとった総重量90㎏を超える大量のイネ科の草で覆い、さらにこの上から厚く土を被せれば、蒲鉾のような形をした土のマウンドが現れる。このマウンドの短い辺にたき口を、その反対側の短い辺に排煙口を設ければ、伏せ焼き窯の完成である。
  

写真2 木炭の取り出し


たき口に火を付けると、伏せ焼き窯の木材の一部が燃焼する。その熱によって残りの木材の炭化が促され、排煙口の方へ時間差をともないながら進んでいく。Aさんは炭化し終えた部分を適宜崩して、窯の中から完成した木炭を取り出す(写真2)と、窯の断面に土をかけて修復する。この作業を数回繰りし、10日ほどかけて1つの伏せ焼き窯を炭化させる。
木炭を取り出す際に、伏せ焼き窯の断面を注意深く見てみると、下部の木材は灰、中央部から上部の木材は木炭になっていることに気が付く(写真3)。

写真3 伏せ焼き窯の断面。中層の木炭の一部が燃焼して、表面に白い灰がかかっている


Aさんは、「太さのことなる木材をバラバラに並べる、あるいは窯の上部に太い木材を並べると木炭の収量が減ってしまう。これまでの試行錯誤してきた結果、中央部に太い木材を並べると木炭の収量は増えることが分かった。」と教えてくれた。この証言をふまえると、中央部に太い木材を配置することで、中央部から上部の木材の延焼を防いでいて、これは木炭の収量を増加させる技術といえる。さらにAさんは、水はけの良い場所を選び、木材を大量のイネ科の草と土で被覆することで伏せ焼き窯内の温度を上げて保温性を高めることで、スムーズな木材の炭化を進めているのである。調査をとおして、「原初的」のように見えたタンザニアの伏せ焼きのなかに、繊細で巧妙な技術が注ぎ込まれていることが、だんだんと見えてくるようになった。
 
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3. 子連れフィールドワーク
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コロナ禍での子連れアフリカフィールドワーク:ウガンダ③
 
椎野若菜(FENICS・東京外国語大学・社会人類学)
 
入院中、頑張ったのでプレゼントをもらった二男Lは喜んで、めでたく予定どおり退院することになった。その後、劇的な回復をみせ、私も首都カンパラでの調査を再開。そして休みなし!の子連れ強行調査旅が始まった。  
  
まず、3年前も月経の調査で訪ねた、夫の実家のある西部へ300kmほどの5時間のドライブ。カンパラで車のチェック、タイヤのプレッシャーなどを調整していざ出発。赤道で休憩のために止まったほかは、ときに子どもたちはミルクとパンをかじりつつ車のなかで過ごした。西部に近づくと車窓には、3年前には見られなかった湿地を利用した稲づくりの風景が続いた。

西部に行くには、赤道を通る。

大家族にびっくり
夕方の薄暗くなりかけた頃、西部ムバララにある、夫の生家に到着。コロナ以前、3年前に訪れた際、長男Jは小学校に入る直前の6歳だった。10歳になった彼は、祖父母のほか、知らない子どもたちがいる環境に、まずたいそう驚いていた。「なんでこんなに人がいるの?」祖父母をはじめ、遠くにいる祖父母の息子の孫、出稼ぎに行った息子の妻とその子供たち、隣国ルワンダから流れ着いたシングルマザーとその子供たち、祖父の兄弟の息子たち、近所の子供、第一夫人の老姉・・とにかく、子どもが10人近くいる。日本から来たというと、Jと同い年の男の子は空手風の遊びをしかけてきて、二人はすぐに仲良くなった。カメラも大人気。Jと二男Lは子どもたちと遊びまわり、夜中の12時をすぎても走り回っていた。さてそろそろおひらき、と思いきや、外では鶏を屠り羽をむしりとるところから、炭火でまるごとチキンのローストが始まっていた。Lは驚いてずっと凝視している。羽のない鶏は小さな恐竜の鳥のような、なんとも奇妙な形だ。

羽毛をとり、ローストされるチキン。



アフリカの子どもは家事で忙しい
翌日も同様に、Jは昨夜遊んだ同い年のイトコと朝から遊ぶ気まんまんだった。だが、気づくとつまらなそうに椅子に座っている。どうしたのかと聞くと、さて二人で遊ぼう、とすると、そのイトコが大人に呼ばれてしまい、遊びが中断してしまうのだという。そう、アフリカの子どもは大人に呼ばれて拒否はしない(できない)のだ。日本の子どものように、「あとでね」「いま行けない」などと大人に応対する子どもは皆無である。10歳ともなると、重要な労働力であり、家には用事がたくさんあるのだ。  

家畜の世話も少年の仕事。photo by Jason


血縁でない人もともに
Jはとにかく、ともに「居住」している家族の大きさに、かなり驚いたようだった。あの人は誰、とあとでいちいち聞いてきた。夫によれば、彼自身が記憶にない赤ん坊だった40年近く前、ウガンダ国内が紛争のため、一時的に一家でルワンダの村に身を寄せていたことがあったという。そしてその地を引き上げる際、夫の父(Jの祖父)は世話になった村にいたシングルマザーと子どもも引き取って帰村し、それ以来、今もなおともに暮らしている親子もいるという。祖父は困った人を血縁がなくともひきとる人で、一夫多妻であったことからも、常に多くの人が「家族」としてともに暮らしていたという。日本のクローズドな核家族家庭に育っていると、こうした多くの血縁以外の人も含む、大勢で暮らす感覚、には私ですら驚いてしまう。そう、そしてこのように子どもが多い環境では、親が教えずとも、子どもたち同士で家庭内から社会化が始まっているのが垣間見られる。日本の家庭ではそれがない、つねに親vs子の関係性であると感じる。
多くの人々が集まってきて記念撮影をし、カンパラに戻ったのは夜中の0時すぎだった。
(つづく)
  
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3. FENICS会員の活躍
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●分藤大翼さん監督映画「からむしのこえ」上映@つくば

2019年、福島県奥会津の昭和村の、からむしにまつわる記録映画である「からむしの声」が分藤大翼監督、撮影・録音は春日聡さん、分藤大翼さんにより製作されました。つくばにある「千年一日珈琲焙煎所」で実施される「うみつなぐ からむし」展の関連企画として、iriai Tempoにて映画「からむしのこえ」が上映され、上映の後には、監督である分藤大翼さんや、明治大学の鞍田崇准教授、からむしの可能性を探る活動をされている渡し舟のお2人も交えた座談会もあります。詳細は下記のとおり。

イベント主催: iriai Tempo
時間: 3時間
公開 
↓お申し込みはこちらから
 
【日時】
11/5(土)
①13:00~(映画上映のみ)
②17:00~(映画上映+座談会つき 分藤大翼×渡し舟)
11/6(日)
①10:00~(映画上映+座談会つき 鞍田崇×渡し舟)
②16:00~(映画上映のみ)
 
【定員】各回 15名
【料金】
・映画上映のみ
一般:1,500円、学生:1,000円
・映画上映+座談会つき
一般:2,000円、学生:1,500円
 
【注意事項】
・「上映のみ」「座談会つき」の2本立てになります。お申込みの際はお間違えのないようにご入力ください。
・詳細は「千年一日珈琲焙煎所」までお問い合わせください。
メール:1001coffee@gmail.com
Tel:050-3707-4414
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以上です。お楽しみいただけましたか?
みなさまからの情報、企画、お待ちしています。
 
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