FENICS メルマガ Vol.102 2023/1/25 

 
 
1.今月のFENICS
 
1月、寒波が襲いましたがみなさま、お元気でお過ごしでしょうか。年始まりのメルマガは、FENICSの理事による記事となりました。
コロナ以降、久しぶりの国際シンポジウムを月末に開催していた関係、また著者の都合で今回は大幅に発行が遅れてしまいました。
調査者としてすでに海外と出入りしている方も多いと思いますが、日本に海外から招へいする場合、3回のワクチン接種をしていないとPCR検査が求められます。アフリカではワクチン接種をすすめられても、ストックがないことも多いようです。寸前に陽性になったら来られませんから、コロナ禍の国際シンポジウムははらはらしっぱなしでした。ウィズコロナの活動は楽ではありませんが、シンポジウム以外の時間をともに過ごすこと。それが何より大事であることを、久しぶりに実感しています。
 
FENICS副代表の澤柿教伸越冬隊長、長い南極での任務を終え、昭和基地を発ったようです。昨年に開催した南極教室以後の南極話を、また聞く機会を楽しみにしています。
 
さて、本号の目次です。
 
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1 今月のFENICS
2 私のフィールドワーク(佐藤靖明)
3 フィールドの乗り物 (福井幸太郎)
4 FENICSイベント
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2. 私のフィールドワーク
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ホースセラピーの面白さと学生実習(1)
      佐藤靖明(民族植物学/『衣食住からの発見』編者/長崎大学)
 
 馬とのふれあいによって主に心身に障がいがある人たちの社会復帰を早める動物介在療法(アニマルセラピー)を、「ホースセラピー」という。私は2022年4~7月、長崎大学多文化社会学部の「リサーチ基礎(インタビュー、参与観察)」という学部2年生向け科目で、ホースセラピーに関する実習を担当した。馬を扱うことについては素人で恥ずかしい限りだが、実習を進めてみたらたいへん面白かったので、そのことについてお伝えしたい。
  
 文化人類学とその隣接分野において、フィールドワーク教育はもっとも重要な活動の一つである。各大学では、これまで関係を築いてきた場所で実習したり、数か月から1年かけてじっくりと場所や対象を探したりする場合が多いようである。それに対して多文化社会学部では、ときに異なる分野が協働する形がとられ、毎年交代する教員がフィールドを自由に決めることになっている。  
  
 私は4月に長崎に引っ越したばかりで、どこで実習をしたらよいのか見当もつかなかった。しかも長崎大学は新型コロナ対策の厳しい制限を設けていて、学生を遠くまで行かせることが難しかった。そんな中、科目の代表教員である賽漢卓娜(サイハンジュナ)さんが、知り合いのモンゴル人が働いている馬の牧場が長崎市内にある、と教えてくださった。さっそく、一緒に下見に行くことにした。
  
 牧場は、農業公園型レジャー施設「あぐりの丘」の中にあった。社会福祉法人南高愛隣会が、障がい者向け運営事業「TERRACE からふる」の一環として運営していた。まずアクセスだが、大学からはバスや車で1時間足らずで行けるため、学生だけでも気軽に何度も通えることが分かった。そして牧場というだけあって、コロナ感染の心配がほとんどないのもうれしい限りであった。現場では、モンゴル人の絢野那陳(アヤノナチン)さんを含む施設の職員さん、そして数人の障がい者と支援員の方々が、牧場の整備とアヤノ、マロンという中型の2頭の世話をしていた。辺り一帯は春の陽気に包まれていて、コロナ禍で狭い空間に閉じこめられている学生にもぜひ来させたいと感じた(学生と訪問した時は、調子に乗りすぎてひどい日焼けをしてしまったが)。受講生約25人が分散して別々の日に聞きに来れば、インタビュー調査にも対応していただけることも分かった。
 
 ナチンさんは、モンゴルの遊牧と草原生態系の関係についての研究で博士号をとり、大学や研究機関で勤めたあと、3年ほど前にこの法人のホースセラピー研究センターに来た。馬が大好きで仕方なく、馬の表情やしぐさから、その気持ちが分かるのだという。彼は、アヤノとマロンの性格やおたがいの関係、そしてこの2頭が今何を感じているのかについて、常時解説してくれた。そして、馬がまわりの環境に影響を受けやすい繊細な動物であることも説明してくれた。たとえば、馬房という狭い空間の中で長時間過ごすのは実につらいことなのだそうだ。そこで、昼も夜も馬房の柵を外しておいたら、いつも好きなところで過ごせるため、劇的にストレスが軽減したのだという。また、牧場内が土でむきだしになっているのも馬にとって良くない環境であり、草を生やすことに努めているという。そのようにして馬が伸び伸びと穏やかに過ごせるようになると、こんどは牧場の管理に携わる障がい者にとっても馬に接しやすくなり、セラピーの効果が高まることが期待できるそうだ。
(つづく)
 
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3. フィールドの乗り物シリーズ
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「ウラジオストクの蒸気機関車」  

福井幸太郎(自然地理学/立山カルデラ砂防博物館/6巻『マスメディアとフィールドワーク』編者)

 
私が住んでいる富山県射水市の伏木富山港からはロシアにむけて日本の中古車が大量に輸出されている.国道8号線沿いにはロシア語で書かれた中古車輸出業者の事務所や車の集積所が多数ある.ロシアのウクライナ侵攻を受けて2022年4月にロシア向けの中古車輸出には規制がかかり,「これで中古車輸出ビジネスも終わったな.息子が通っている保育園のロシア人達は大丈夫かな」と思っていた.しかし,輸出規制に該当するのは600万円以上の高級車だけで,それ以外は輸出規制の対象外なのであった.ロシア人は政情不安になると財産として車を買い求める習性があるようなので,ウクライナ侵攻後の方がむしろ輸出が増えているとNHKが報じていた.  

日本から輸出された中古車の多くが陸揚げされるのがロシア極東のウラジオストクである.ウラジオストクには2003年9月と2004年9月にカムチャッカ半島の永久凍土調査の際に立ち寄ったことがあった.今回はウラジオストクの駅で遭遇した珍しい蒸気機関車を紹介する.

ウラジオストク駅

ウラジオストク駅は,言わずと知れたロシア連邦を横断する世界最長(9,297km)と称されるシベリア鉄道の終着駅である.2004年9月13日,この駅を訪れたところ,客車を連結した重連の蒸気機関車が煙をあげながらホーム停車していた.蒸気機関車前部の連結器脇にはEA2533と書かれていた.しばらく見学していると機関車は汽笛を鳴らした後,出発していった.    

日本に戻ってこの蒸気機関車のことをネットで検索して調べてみた.この蒸気機関車の呼称EAのうち,「A」はアメリカのAで,なんとこの機関車はアメリカ製であった.第二次世界大戦中アメリカ合衆国は、連合国であるソビエト連邦を支援するためレンドリース法(武器貸与法)を制定し、その援助物資としてこのEA形蒸気機関車を輸出したとのこと。大戦中,物資輸送の多くを鉄道に依存していたソ連にとって,戦争を進める上ですさまじく効果的な援助物資だったはずである.今の米ロ関係からは全く考えられない話である。

ウラジオストク駅に停車中の蒸気機関車EA2533形

このEA形蒸気機関車が走っている動画は検索してみてもなかなか見つからなかった.実はとても貴重なものを見られたのかもしれないと後から思った.
 
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4. FENICSイベント
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せんだってお知らせしましたように、2023年2月6日(月)夕方から、吉國元さん(画家)×ポール・カニ(コンゴ共和国出身 画家)をむかえFENICSサロンを開催します。

ふるってご参加ください。

 
 
2023.2.6(Mon) 18:00~19:30
FENICSサロン’Being an Artist reflecting Africa and Japan’(アフリカと日本、2つの社会を生きること、描くことについて)
 
どんな思いで、アフリカの自国を思い、幼少期の記憶から、描いているのか。二人のアーティストに作品とともに語っていただきます。
 

日時:2023年2月6日(月) 6th (Mon) February 2023.  

   Start 6:00pm (JST: Japan) ~7:30pm

 
場所:東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所303 (Zoomでも配信するハイブリッドですが、会場が主となります。)
 
*Pre-registration is required.  事前登録をGoogleフォームかQRコードにて前日の2月5日までにお願いします。
 
 
 
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以上です。お楽しみいただけましたか?
みなさまからの情報、企画、お待ちしています。
 
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