FENICS メルマガ Vol.43 2018/2/25
1.今月のFENICS
寒さのなかにも、花もちらほらみられ少しずつ春を感じるようになってきました。寒い日本を離れ、暑い、あるいはより寒いフィールドにお出かけのみなさまもいらっしゃるかと思います。
今月のメルマガも子連れフィールドワークのエッセイ、おいしいエッセイ、1月のサロンのリポート、ご著書の紹介と充実しています。お楽しみください。
それでは本号の目次です。
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1.今月のFENICS
2.私の(子連れ)フィールドワーク(古謝麻耶子)
3.フィールドごはん(山口欧志)
4.FENICSイベントリポート(四方篝・椎野若菜)
5.FENICS協力イベント
6.FENICS会員の活躍(西原智昭、小林美香)
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2.私の(子連れ)フィールドワーク
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「ミュージシャンが集う家で子連れフィールドワーク」
古謝 麻耶子(民族音楽学)
去年、モザンビークの首都マプト市に、3才になって間もない娘を連れて行った。夫も同行し、調査日程の前半の10日間を、中心街から40分ほど離れた郊外にある木琴ティンビラ奏者の友人の家で過ごした。彼は、ティンビラ以外にも多様な楽器を演奏することのできるマプト市生まれのミュージシャンで、数年前に建てたスタジオつきの家にアーティストやティンビラ愛好家、学生などを呼び集め、様々なアーティスティックな活動をしている。小さな楽器工房もあり、庭には彼が楽器の素材にしている瓢箪がたくさんなっている。部屋の壁全体がオレンジ色で、明るい雰囲気の家だったためか、娘は思ったよりも早く場に慣れ、のびのびとしはじめた。
私たちが着いた翌日、南アフリカやベルギーから新たに3人のミュージシャンがやってきた。2週間後のコンサートに向けて、一緒に寝泊まりしながら音楽を作るためだ。木琴ティンビラ、弓に瓢箪の共鳴器のついた打楽器シテンデ、ドラムなどいろいろな楽器や音響機器が部屋に並んだ。私は初めての人に会うときには緊張してしまうタイプだが、娘のおかげで、すぐにみんなと打ち解けることができた。娘は、誰かが踊ると真似して踊ったり、歌を一緒に歌ったり、散歩について行ったりして楽しそうに過ごしていた。市場周辺の賑やかな場所に行くと、近所の子どもがわーっと寄って来て、娘の髪を触ったり、話しかけたりするのだが、娘はそれに普通に日本語で返した。通じないはずの日本がなぜか通じていたりする。
その様子を見て、南アフリカから来たアーティストの女性が、「子どもってすごいよね。たとえ言葉が通じなくても一緒に遊ぶことができる。垣根がない。私たちが音楽を通して味わいたいのはこの感覚・・・」と言った。たしかに、ジャンルや国籍の異なるミュージシャン同士の音楽セッションと、幼い子どもの遊び方は似ているかもしれない。まず相手を観察する、相手の真似をする、相手がそれを見て反応したら反応し返す、時に面白いことをしておどけてみる・・・。そうしているうちに、互いが一緒に何かをするのに夢中になっている。ミュージシャンはそれを音で行う。
彼らのセッションは、毎日6時間以上行われた。もちろんそれを見ているだけだと娘はすぐに退屈してしまうし、インタビューの時に騒ぎ出したりもして、子連れのフィールドワークの難しさも痛感したが、皆の対応が本当にあたたかかったことが、娘を連れて来てよかったという気持ちにさせてくれた。車酔いでぐったりした状態の娘と夫を空港で見送り、急に心に穴があいたような状態になってしまった私に、南アフリカ出身の女性が「あなたが今とってもさみしいってこと知ってるよ」と、優しく声をかけてくれた。
アクセス
モザンビークへ行くには、香港、ヨハネスブルグを経由する。そのほか、アディスアベバを経由する経路、ドーハやドバイを経由する経路がある。
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3. フィールドごはん
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草原のごはん
山口欧志(6巻『マスメディアとフィールドワーカー』執筆者)
建物も道路もない。地平線の彼方まで広がる青い空、見渡す限りの大草原。そう、ここはモンゴル。遺跡で調査をしていると、ふと背後で何かが動く気配。振り返るとそこにはのんびりと草を食む羊の群れ。
あー、まるまると肥えてなんて美味しそう。
それにしても、腹減った。お昼、まだかなあ。
結局午後3時過ぎになって、かなり噛み応えのある羊肉入りパスタを寒さに震えながら食べた。予算がなくても他の調査隊と同じようにコックさんだけは手配しよう、心底思った昼飯だった。
別の調査のある朝、外に出ると一頭の羊がゲルにつながれている。さてはアレですよ。アレ。
ホルホック。
血を一滴も漏らさず羊を解体して、その内臓と肉と骨、ニンジンとジャガイモ、そして真っ赤になるほど熱した拳大の石を鍋に入れた、羊の蒸し焼き料理。
御馳走ってやつです。
さあ晩飯。もう体はへとへと。お腹はぐーぐー。
まずは新鮮な内臓から。そして肉。味付けは塩少々のみ。うまい。力が漲ってくる。アルヒと共にいただいて皆の熱気も上昇。
身体も心も温まりゲルの外に出ると、真っ暗な地上に怖くなるほどの満天の星空。
そこに一筋の流れ星。出来すぎ!
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4.FENICSイベントリポート
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四方篝・椎野若菜(12巻『女も男もフィールドへ』執筆者)
2018年1月20日(土)、京都大学稲盛財団記念館において、FENICSサロン「子育てフィールドワーカーのロールモデルを探る」が開催された。インフルエンザが全国的に猛威をふるうなか、お子さんの発熱等で参加を予定されていた方から欠席の連絡が相次ぎ、どうなることかと心配したが、当日は20代〜80代まで、老若男女、子連れカップル、教員、研究員、学生、留学生、妊娠中の方など、京大内外からさまざまな立場の方々が足を運んでくださり、スピーカーをあわせて総勢20名ほどの参加となった。今回のサロンは、民族自然誌研究会、京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科(以下、ASAFAS)子育てフィールドワーカーワーキンググループ、ASAFASキャリア・ディベロップメント室との共催で行われた。ASAFAS子育てフィールドワーカーワーキンググループの協力のもと、子どもが遊べるスペースを会場内に設け、3人の子どもたちが遊ぶなか、終始なごやかな雰囲気でサロンは進行した。
まず、司会・進行の四方が趣旨説明を行った。以下、少し長くなるがその内容を紹介したい。「子育てフィールドワーカーのロールモデルを探る」という今回のテーマ着想の経緯には二つある。ひとつめは、
つづきは、こちらで⇒ https://goo.gl/r2cxCY
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5.FENICS協力イベント
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映像のフィールドワーク・ラボ vol.3「みみをすます」
日にち:3月24日(土)31日(土)
場所:生活工房ギャラリー(東京都世田谷区)
20世紀の映像百科事典「エンサイクロペディア・シネマトグラフィカ」の映像をたっぷりと鑑賞し、ほぼ無音の映像群のなかにあるはずの音を探します。今回は映像のなかの営みを全身で想像/創造する実験です。ぜひ、ご参加ください。
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6.FENICS会員の活躍
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会員からの二件の本の紹介をいたします。
(1)西原智昭氏 『コンゴ共和国 マルミミゾウとホタルの行き交う森から』(現代書館、2018)
(2)小林美香氏 『〈妊婦〉アート論 孕む身体を奪取する』(青弓社、2018)
(2)小林美香氏 『〈妊婦〉アート論 孕む身体を奪取する』(青弓社、2018)
(1)西原智昭さん(6巻『マスメディアとフィールドワーカー』執筆者)
この1月、現代書館より、拙単著『コンゴ共和国 マルミミゾウとホタルの行き交う森から』が刊行されました(2,200円+税、全256ページ)。
生物多様性保全などが謳われている昨今、コンゴ共和国などで日常的に起きている野生生物の乱獲危機は一向に収まらず、むしろ悪くなる一方です。象牙、木材、ヨウム、海産物などその対象はあげれば切りがありませんが、それはアフリカ現地だけでの問題ではないのです。むしろそれらの問題は国際的な需要に大きく起因します。特に日本を初めとする先進諸国の問題なのです。いったいどこの誰がその課題に向けて具体的な解決策を見出し実行していくのでしょうか?そこで、まずは多くの人に知られていない事実を、日本人として日本語で日本人に伝えていかなくてはならないと思い立ったのが本書の執筆の動機でした。
自然保護活動や保全教育は何年も前から始まっていますが、なぜ野生生物の生存状況の大半は改善されてきていないのでしょうか。動物が「かわいい」「賢い」「すばらしい」あるいは「かわいそう」、だから「守る」ということだけでは通用しないのは明らかです。保全の問題の根幹には、アフリカ現地での政治体制や経済状況とも深く関わる一方、先進国のライフスタイルとの関連性をも鑑みる必要があります。自然保護NGO の諸活動、学校教育や動物園・水族館などにおける保全教育などはこれまで自己満足の域を出なかったのではないでしょうか。たとえばゾウの保全に関して、「象牙を使う者は悪者だ」といった敵視する態度だけでは解決にはつながりません。またクジラの保全に関しても「先住民の生存捕鯨」を無視できません。そこでは「伝統・文化」の精細な歴史的吟味と検討が必要不可欠なのです。
読者層には理系も文系もありません。
アフリカでの長年にわたる現場の経験をもとに、こうした事情を横断的に真摯に分析と考察を試みたのが本書です。本書の対象読者は限定されません。なぜならば、野生生物保全の問題は野生生物だけの問題ではなく、社会、経済、文化、教育をも含めた視点が望まれるからです。先住民問題も見過ごすことができないため、その理解も必須となります。理系も文系もありません。分野は問いませんが、生き物、自然、環境、保全、動物園・水族館、自然科学、教育、国際関係・国際協力、経済、政治、社会、歴史、文化、先住民、芸術など関心のある方には是非手にとって読んでいただきたく思っております。
(2)小林美香(写真研究者・東京国立近代美術館客員研究員)
『〈妊婦〉アート論 孕む身体を奪取する』(青弓社、2018)
菅実花の作品『ラブドールは胎児の夢を見るか?』は、妊娠した女性型愛玩人形を写真に収めるアート・プロジェクトで、見る者の「常識」と「感性」を揺るがし、大きな話題になりました。本書は、菅の作品の問題提起を受け、孕む身体と接続したアート――マタニティ・フォト、妊娠小説、妊娠するファッションドール、胎盤人形、日本美術や西洋美術で描かれた妊婦――から、女性の身体経験が社会にどう意味づけられ、人々はそこに何を読み込むのかを照らし出す論集です。
-本の詳細はこちら-
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以上です。お知らせ、いつでもご連絡ください。発信、掲載いたします。
FENICSと共催・協力イベントをご企画いただける場合、いつでもご連絡ください。
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メルマガ担当 椎野(編集長)・澤柿
FENICSウェブサイト:https://fenics.jpn.org/
寄稿者紹介
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- 山口欧志, 四方篝, 古謝麻耶子, ライフイベント, 子連れフィールドワーク