FENICS メルマガ Vol.45 2018/4/25 
 
1.今月のFENICS 
 
 あちこちに花があふれる、新学期が始まった4月。新生活の始まった方々、少しは落ち着かれましたでしょうか。
 来月には、NPO法人FENICSとしての総会と、あわせてFENICSサロンを開催します。今年度、FENICSとともに何かご企画がある方、ぜひともご連絡、ご相談ください。
 FENICSサロンでは昨年につづきフィールドワーカーの話者お二人をむかえ、フィールドワークの視点から「教育」について考えます。
 5月26日(土)@東京・武蔵小金井、ぜひともおいでください。詳細は下記にて。
 
 また、今月から子連れフィールドワークの連載も始まります。先だってVol.43 2018/2/25に、単発で古謝麻耶子さんにお書きいただきました。つづきまして中川千草さんです。
少しずつ、FENICSの活動が何か動いているような気がしてうれしく思っています。
 
それでは本号の目次です。
 
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1.今月のFENICS 
2.私のフィールドワーク(澤藤りかい) 
3.子連れフィールドワーク(中川千草)
4.FENICSイベント 
5.FENICS会員の活躍(松本篤)
          (大平和希子)
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2.私のフィールドワーク
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「コペンハーゲン滞在記」
(澤藤りかい・人類学・琉球大学大学院)
 

写真:チボリ公園での花火の様子

 2017年12月から今年の3月にかけてコペンハーゲン大学のGeoGenetics centorで古代DNAの実験をしてきた。4年前の同じ時期にも縁あって同じ研究所に滞在していた。先月(2018年3月)のFENICSメルマガ※1でも書かれていたが、デンマークはライフワークバランスがとても良い。ただしスタイルは人それぞれである。8時に来て、4時頃子供を迎えに行く人もいれば、午後から来て夜遅くまでラボにいる人もいる。データ解析が専門の研究者は、在宅ワークであまり研究所に来ないこともある。どのスタイルにせよ、家族やパートナーとの時間を大事にしていて、なおかつ仕事でも結果をきちんと出している。

 仕事をする環境もよく整っている。仕事机は上下に動くタイプで、座って仕事をすることもできるし、健康のために立ちながらパソコン作業をすることもできる。エスプレッソマシーンが休憩室に置いてあり、会議や休憩時にコーヒーやカフェラテが無料で楽しめる。妊娠しながら働く人も多いため、妊婦のための注意書きがある(この部屋では有害物質を使用するため妊婦の人は入らないでください、等)。更に研究者の仕事環境を改善するために、研究者が直接相談できるコンサルタントが常勤で雇われている。小さなことでも相談すれば、改善するために仕事をしてくれるのだ。私が出ていた会議中では、「アウトリーチの一環として、所属する研究者のフィールドを全て地図にプロットし、それを会議室に貼りたい」という案が出て、コンサルタントの人が対応していた。
 
 12月上旬には既にクリスマスパーティーが始まる。大学生は3回から多くて10回くらいのクリスマスパーティーに参加するようだ。デンマークのクリスマスパーティーにはヴァイキングのような豪快さが感じられて面白かった。まず参加するのに必要なものは、300円程度のプレゼント。これを3つほど買っていき、会場の中にあるクリスマスツリーの下に置いておく。座る席はくじ引きで決まり、ヴァイキング(ビュッフェ)形式で料理を皿に盛って行く。料理はデンマークの伝統的なクリスマス料理で、特にリスアラマン(刻んだアーモンドが入った甘いお粥に、サクランボのソースをかけたデザート)が美味しい。ひと通り食べ終わるとテーブルにサイコロが配られ、ゲームが始まる。順番にサイコロを振って行き、6の目が出たらプレゼントを1つ取りに行き、急いで戻ってきてまたサイコロを振る。全てのプレゼントが人の手に渡ってもまだ終わりではなく、今度は6の目が出たら他の人のプレゼントを奪っていく。そうしてサイコロを振り続け、人のものを奪い続け、終了の合図が鳴る時に持っていたプレゼントは自分のものとなる。仁義なき戦いが終わった後は、音楽に合わせて踊り、お酒を飲み、深夜まで騒がしいパーティーは続いていく。
 12月20日頃からラボにいる人が少なくなり、みんな家族の住む町へと帰っていく。4年前のこの時期はドイツ〜北欧電車の旅(オーロラ行き)を決行したが、今年は夫と滞在していたのでのんびり過ごす。
 

 ヨーロッパのお正月は花火を打ち上げるので有名だ。コペンハーゲンでも大晦日の午前中から(下手したらその前日から)遠くのほう、近くのほうで花火の音が聞こえ始める。夕方になると次第に数が増え、止めどなく鳴り続ける。家の窓から数えたら20ヶ所近くになった。みんな個人で花火を打ち上げているのだ。夜になり、私と夫は町の中心部に向かった。チボリ公園にまず行く。メルヘンな公園には人が集まり、花火をみんな待っている。チボリ公園ともなると花火も大きい。日本で見る花火を、もっと近くで見ているようだ。公園でひとしきり花火を見たら、23時くらいに市庁舎の前の広場のほうへ。ここもかなり盛り上がっている。手で花火を持ってパンパンと打ち上げる人多数。しかもみんな酔っ払っている。あんなのふざけて人に向けたら笑い事では済まない。日常では感じることのない生命の危機をほんの少し感じる。素敵なドレスやタキシードを着た人達がワインの瓶とグラスを持って歩いている。若者が家に集まっての年越しパーティーも、この時間になるとみんなで広場にお祝いに駆けつける。それにしても零度近いというのに薄いドレスとストッキングでとても寒そうだ…。

 新年が近づくにつれて花火は勢いを増し、年越しの瞬間は「ハッピーニューイヤー!」と言って乾杯を始める。弾幕のような花火。音がうるさすぎて声が届かないし、煙がひどくて周りもよく見えない。煙の匂いに喉がやられる。年越しを迎えたらすぐに家に帰って来たが、まだ色んな所で花火を打ち上げる音がする。家は郊外にあるのでうるさいという程でもない。まだ起きている人がいて、花火を打ち上げていて、その中で眠るというのはなんだか安心感がある。
 そしてデンマークの仕事は少し早く、1月2日頃から始まる。
 
※1 http://www.fenics.jpn.org/mailmagazine/vol-44-2018-3-25/

 
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3.子連れフィールドワークの道 (連載)
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子連れフィールドワークの道 −乳児・パリ編−第1回
中川千草(12巻『女も男もフィールドへ』執筆者・環境社会学・龍谷大学)
 

写真: 洗い物をする夫とそれをベビーカーから見学する子ども

 これまで、周りの子連れフィールドワーカーを見ては、そのたくましさや潔さに感心し、またそれをうらやましく思う自分がいた。しかし、子連れフィールドワークの詳細を聞く機会には恵まれていなかった。わたし自信が子持ちではなかったから、蚊帳の外だったのか。あるいは、そもそも語られる場やきっかけなかったのかもしれないが、100万人のフィールドワーカーシリーズ第12巻『女も男もフィールドへ』に寄稿したことをきっかけに、子連れフィールドワーク経験者の語りに触れる機会が増えた。

 同じ頃、わたしは39歳で妊娠した。立派な高齢出産コースだ。だからなのか、妊娠中から産後にかけて体調はあまりよくなく、子どもが生まれてからは次第に体力・気力が奪われ、我がキャパシティの小ささにすっかり落胆していた。「いっぱいいっぱい」というやつだ。しかし、子連れフィールドワークへの意欲だけは消えなかった。むしろ、それに思いを巡らせることが、研究活動がストップし、仕事から離れ、人と会う機会が減る日々のなかで募っていく漠然とした不安を払拭する術であったように思う。それがようやく実現したのは、子どもがちょうど8ヶ月になろうとする、2018年3月のことだった。ただし、子どもの体調面を考慮し、ギニア行きは断念し、フランス・パリを、はじめてのフィールドワーク先として選んだ。

 子連れフィールドワークを敢行するにあたり、わたしが最初にぶつかった壁、つまり最も重要だったことは、フィールドワーク中の子守りについてだ。パリでのフィールドワークは初めてに等しく、現地で子守りを任せる伝手はなかった。しかし、息子を置いていくということも考えられなかった(子連れフィールドワークこそ、わたしが挑戦したいことだったから)。同行者が必要だ。「抜擢」されたのは、夫である。夫は研究者ではないが、海外を旅する経験は豊富で、メイン調査地であるギニアへも二度渡航していた。しかも、夫はパリに知人がおり、現地で趣味を楽しめるというメリットもある。加えて、当時、彼は育児休業中だった。あと一点、忘れてはならないことは、夫は育児に長けているということだ。おむつ替え・食事・風呂・抱っこ紐をはじめとするさまざまなグッズの使いこなしなど、赤子の世話においては全く問題ない。夫の気持ちを確認する前から、同行しない理由などないだろう、と思っていた。後に夫は、「まぁ、(同行を)断る理由は特になかった」と言っていたので、無理強いでなかった点は強調しておきたい。

 子どもが哺乳瓶でミルクを飲むことや、父親と二人で過ごすことに慣れていたことも幸いし、わたしの念願、初の子連れフィールドワークへの挑戦に、夫と子どもは巻き込まれることとなった。           
つづく
 
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4.FENICSイベント
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2018年度総会開催のおしらせ
 
2018年度総会を下記の要領で行う予定です.あわせてFENICSサロンも開きます。
 
日時:2018年5月26日(土)13:00〜18:00
場所:東京学芸大こども未来研究所 Codolabo studio
   東京都小金井市本町6-5-3
   シャトー小金井#109)
 
プログラム
 
 13:00-14:30 総会(年次報告、年次計画・予算審議)
 15:00-18:00 FENICSサロン 「野(フィールド)と遊びと教育」
 
 話者: 小森次郎さん(自然地理学・平成帝京大学) 
  『泥遊び・石遊びで学ぶ地域と自然』
 
 話者:二文字屋脩さん(文化人類学・早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター)
  『遊=育のすゝめ:ポスト遊動狩猟採集民ムラブリにみる遊びと教育』
 
 
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5.FENICS会員の活躍
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(1)松本篤さん(15巻『フィールド映像術』執筆者)
(2)大平和希子さん(正会員・日本学術振興会・東京大学)
 
お二人からご活躍の様子をお知らせいただきました。
 
(1)4月30日@京都 恵文社 記録集『はな子のいる風景』重版記念トーク:人と象を隔てるもの
 
平和の象(しるし)としてタイから来日し、生涯のほとんどを井の頭自然文化園で過ごし、日本で最長寿となった、象のはな子(1947-2016)。
 
 記録集『はな子のいる風景』(武蔵野市立吉祥寺美術館 2017)は、市民が撮影した169枚の写真、飼育員が記した日誌、写真の提供者およそ100人が綴った言葉、新聞や図面といった資料など、異なる複数の記録の断片を繋ぎ合わせながら、1頭の象とそれを取り巻く人びとの69年間に光をあてたものです。
 昨年9月に初版が刊行された本書の重版(第2版)を記念して、本書の企画・編者であるAHA(アハ)!の松本篤氏と文化人類学者の佐藤知久氏が、本書について語ります。
 
【日時】4月30日(月・祝)14時〜15時30分
【参加費】1000円
【ゲスト】松本篤・佐藤知久
 
松本篤(まつもとあつし)
1981年、兵庫県生まれ。「文房具としての映像」という考え方を実践・提案するremo[NPO法人記録と表現とメディアのための組織](大阪)の取り組みに、2003年より参加する。2005年より、8ミリフィルムや家族写真など、“市井の人びとの記録”に着目したアーカイブ・プロジェクト、AHA(アハ)!を始動させ、現在に至る。
佐藤知久(さとうともひさ)
1967年、東京都生まれ。芸術と社会運動の接点からひろがる地平について、記録とアーカイブを切り口に、文化人類学的な視点と方法を用いて研究している。近著に『コミュニティ・アーカイブをつくろう』(晶文社 共著 2018)などがある。現在、京都市立芸術大学芸術資源研究センターにて准教授を務める。
 
【ご予約方法】
・コテージご予約フォーム https://cotage.sakura.ne.jp/event_form/
(イベント名「はな子のいる風景トークイベント」とご記入ください)
・電話 075-711-5919(恵文社一乗寺店)
 
 
(2)参加型教育教材『スマホから考える世界・わたし・SDGs』が発行!!!!
大平和希子(東京大学大学院博士課程)
 
 (特活)開発教育協会(DEAR)より参加型教育教材『スマホから考える世界・わたし・SDGs』が発行されました。
この教材発行の背景には、ドキュメンタリー映画『女を修理する男』の主人公、コンゴ人婦人科医デニ・ムクウェゲ医師の来日(2017年10月)がありました。
 この映画は、長年武装勢力がはびこってきたコンゴ民主共和国の東部で、想像を絶するほど残忍な組織的性暴力を生き延びた女性たちがもう一度自らの人生を生きられるよう、医師として、そして一人の人間として支え続けてきたムクウェゲ氏の姿を描いたものです。
 ムクウェゲ氏は、グローバル経済下での紛争鉱物と組織的性暴力の関係性について長年訴えてこられました。一次産品とは違い、鉱物は生産から消費までの過程が複雑です。PCやスマホに使われる鉱物が紛争鉱物ではないと明らかにすることは、企業による取り組みが進む一方で、まだまだ難しいのが現状です。
 もしかしたら電子機器に囲まれた私の便利な生活がコンゴ人女性の深い苦しみにつながっているのかもしれない。「私たちがほしいのは平和だけ。」そう訴え、未来を信じて日々を生き抜く女性たちとともに、私が日本でできることがある。そんな想いからこの教材作成チームに加わりました。
 
 「わたしにとってスマホとは何か」を考えるアイスブレークにはじまり、スマホの生産過程・その過程で起きている問題を知り、「わたし」なりの行動を考えることができる参加型教育教材です。幅広い教育現場で使っていただけると嬉しいです。
 
教材情報はこちら
映画情報はこちら
 
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以上です。お知らせ、いつでもご連絡ください。発信、掲載いたします。
FENICSと共催・協力イベントをご企画いただける場合、いつでもご連絡ください。
 
 
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お問い合わせ・ご感想などはこちらよりお寄せ下さい。
メルマガ担当 椎野(編集長)・澤柿
FENICSウェブサイト:https://fenics.jpn.org/

寄稿者紹介

環境社会学 at 龍谷大学

人体解剖学 at 日本学術振興会特別研究員/総合研究大学院大学

日本学術振興会特別研究員/総合研究大学院大学