FENICS メルマガ Vol.97 2022/8/25 
 
 
1.今月のFENICS
 
東京でも小学校の夏休みが、8月末に始まるところも多いようです。みなさま、それぞれにどのような夏をお過ごしでしたでしょうか。暑さには弱いかと思われたコロナウイルスですが、日本では猛威をふるっています。編集者はウガンダから帰国したばかりですが、あちらでは、あたかもコロナ禍は終わったような状況でした。フィールドに行かれた方、これから行かれる方も、十二分にご用心を。
 本号で、ケニアでの現地還元に関する若手のフィールドワーカー(建築学)の連載が終わります。フィールドワークによる異分野との協働、という観点からも考えさせられる連載でした。大学ゼミなどでの試み、ぜひご紹介ください。
 
さて、本号の目次です。
 
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1 今月のFENICS
2 お世話になった「フィールド」へどう還元するか(連載・終)(神谷憲吾・近藤孝俊)
3 子連れフィールドワーク(連載)(椎野若菜)
4 FENICSからのお知らせ
5 FENICS会員の活躍(小林美香)        
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2. お世話になった「フィールド」へどう還元するか
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「ナイロビのノンフォーマルスクールとの関わり―その3」
 
「子どもたちのための家具 第二弾」
神谷憲吾・近藤孝俊(日本大学大学院理工学研究科建築学専攻)
 
前年度行ったナイロビ・ムクルスラムのノンフォーマルスクールに通う低学年の子どもたちに向けた家具の製作は、今年度も高学年の子どもたちに向けて行うことになった。昨年度のデザインは、机や椅子の多様な組み合わせ方のバリエーションや、教室を広く使うための収納性の点をコンセプトとした。しかし、日本からケニアに輸送するのに大切なコンパクト性に欠け、梱包や搬送の際に苦労した。その課題に対し今年度のメンバーにより議論を重ね、今回のコンセプトは輸送時のコンパクト性や狭い教室を広く使えるための収納性(スタッキング)を重視することにした。
 
また素材として日本産の木材を用いる事とした。その国産材について学ぶため、東京都西多摩で林業を営む(株)東京チェンソーズさん(https://tokyo-chainsaws.jp/)に協力していただき、木材の伐採現場を見学した。

西多摩の広大な山 (photo by Hayato Kurobe)

丸太伐採の様子 (photo by Hayato Kurobe)

実際に木材を伐採する様子や東京の森林のこと、季節によって木材の質が変化すること、出荷できない木材も用途を変えて利用していることなど、林業及び木材について色々と知ることができた。(株)東京チェンソーズさんは木材の生産だけでなく、木製のおもちゃや雑貨の製作販売のほか、山の価値を高めるために山の一角の貸し出しなどのサービスも行っており、ヨガ教室やキャンプサイトとして活用されているという。山の貸し出しのことを「山のサブスク」とおっしゃっていたのが印象的だった。東京都内にこんなにも森林が広がっているのかと驚かされたが、木材の価値の下落によって林業が難しくなり、放置される山も少なくないという。そんな東京の山を丁寧に管理し、新しい事業によって山や木材に新しい価値を見出したいというお話をお聞きし、今回の家具製作を東京の木材で行うことの意味を再確認することができた。

木材加工の現場 (photo by Hayato Kurobe)

森林見学の後、木材加工現場も見学させていただいた。現場では丸太から角材の切り出しが行われており、丸太が外側からスライスされて角材になっていく様子を間近で見学することができた。その中で木材を切り出す際に薄い無垢の板が量産されているところからインスパイアを受け、前年度は合板だったところを今回は無垢材を使用することとした。東京では幅の広い無垢材は採れないため、幅20cmの木材からデザインを考える必要があった。そこで、線材を組み合わせて天板や脚を作るということもコンセプトとして取り入れることとした。
 
デザインする際には、机と椅子の組み合わせによってコンパクトになるということを意識しており、現状二種類の案で検討が進んでいる。

案①の模型 (筆者撮影)

 

案①収納時 (筆者撮影)

案①は机と椅子をそれぞれ大小2種類ずつ作り、小さな方を反転させることで大きな方の下に収めることができる。また、足をV字にすることによって構造的に強くするほか、収納した際に収まりが良く安定させることができる。足の本数は天板の線材の本数に合わせて決まっており、複数本ある足は机や椅子を構造的に強くするほか、線材を用いるからこそのデザインとなっている。

案②の模型 (筆者撮影)

案②収納時 (photo by Hayato Kurobe)

案②は長方形の机と椅子の天板を三角形と台形に切り分けている。それによって並べ替えが可能となり、用途に合わせて様々な形態に変化させることができる。こちらも高さを2種類用意し、スタッキングでコンパクトに収納可能である。

現在は模型での試作段階で、今後は実際に木材を使った試作や改良を行い、9月末の発送を予定している。
  
コロナ禍の現地に行けない状況において、アフリカのフィールドにどう関与できるかというところから始まったこのプロジェクトは、実際に現地を知らない我々学生にとって現地のことを考える良い機会となった。コロナ収束の兆しが見えない中、今後も海外のフィールドとのつながり方を考える必要がある。

 
(終)
 
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3. 子連れフィールドワーク
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コロナ禍での子連れアフリカフィールドワーク:ウガンダ
  
椎野若菜(FENICS・東京外国語大学・社会人類学)
  
3年ぶりのウガンダへ
この夏、3年ぶりに、ウガンダへ子連れフィールドワークに行ってきた。日程の前半は日本学術振興会の二国間交流事業/オープンパートナーシップ共同研究「東アフリカのポスト大学大衆化状況と人社系の進路決定:その考慮事項と選択構造の解明」(代表:白石壮一郎/弘前大学・FENICS)が本年度より始まり、コロナ禍が始まったときからzoom等で培ってきたウガンダの研究者との関係を土台に、対面にて「共同研究」を始めることが大きな目的だ。後半は、本年度に採択された私自身の科研の調査のため、7月31日~8月24日の予定で出かけた。
 
夫と相談し、これまでのマケレレ大学との関係の構築過程、二国間交流事業のプロジェクト(2年間)に夫婦ともにメンバーであるため、キックオフの会合にそろって出ることにした。それゆえ二人の子供を連れてのフィールドワークとなった。コロナ禍で治安が悪くなっていると言われ、3年間のフィールドワーク空白期間を経て、感覚の鈍っている自分に不安があったことも否めない。
 
4歳と9歳の子どもとともに
コロナ禍に日本を出ること/帰ること、そして渡航先によって準備することは変わってくる。厚労省の水際対策で滞在国・地域の区分が三つあるなかで、ウガンダはコロナ感染程度が低く、青色区分であった。ウガンダへの入国のためにはワクチンを2回以上接種している証明書、接種できない4歳はPCR検査での陰性証明が必要である。接種証明書をあらかじめ自治体に申請してとっておかねばならない。幼児もPCR検査を入国72時間前に行い、その陰性証明書を渡航する際に携帯していないと、現地についても入国できない。(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00209.html)渡航先の区分によって帰国後に隔離が必要か否かによっても、もちろん旅程が変わってくる。いずれにしても、日本に帰る際にはPCR検査は必須なので、現地を出る前日にはPCR検査を行わねばならず、いつもよりも少なくとも一日は余計に手間をとられる。

 
初めてのエチオピア航空
なにかと事故のニュースも多い気がして正直、これまで避けていたエチオピア航空を利用することにした。子どもの航空運賃の節約のためである。’ The New Spirit of Africa’と歌う航空会社であるが、機内の清潔さ、サービスはいいとはいいがたい。ただ利点は一人当たりの荷物が23キロが二つOKであり(オンラインチェッキングをするとさらに5キロ増し)、空港での待ち時間がほとんどないことだ。夫は、2年前に始まったコロナ禍でウガンダから日本に帰れなかった際、エチオピア航空のチャーター機で脱出できた経験から、好感をもっていた。いざというときに、アフリカらしく対応する「幅」がある、という。

荷物は現れなかった!
アディスアベバで次の飛行機に乗る待ち時間がない、というよりも、荷物検査を経て、あわてて子どもたちを急き立て走りつつウガンダ行の飛行機のゲートに向かった。機内に乗り込むとすでにほとんど満席で人々が座っており、機内持ち込みの荷物の置き場に困るほど。そして案の定、ウガンダのエンテベ空港に着くなり、待っても待っても私たちの荷物は現れなかった。ラゲッジクレイムをするにも、並ぶことから始まり、一苦労だ。朝の10時半にはエンテベ空港に着いていたのに、空港を出られたのは午後3時をまわっていた。やはり、こういうことはあるので、1泊分は少なくとも着替えを機内もちこみとしないといけない。とくに子ども服は現地ですぐに手に入らないので、今回はその備えが大変助かった。とにかく、アフリカは「待つ」ことに慣れないといけない。子どもたちも、久々の日本からの長旅のあとに、初めからその訓練が始まった。
水は、どこにいても大事。
アフリカでは首都にいようが、田舎にいようが、水は大事だ。水道があっても、いつでも止まる可能性がある。日本で育っている子どもには、日本で、いくら口で「水を大事にしなさい、ママがアフリカの村にいるときはね・・・」などといっても体感しないとわからないものだ。一日、一日、過ごしながら水を大事にすることを体験で知っていく。温水での水浴びがいつもはできないことも、学んでいく。たらい一杯で水浴びすることを覚えていった。電気もいつもあるとは、限らない。急に、いつ消えるかわからない。ウガンダに着いた晩から首都でも毎晩、1時間以上の停電の経験をして懐中電灯とろうそくの力を知る。
 
二国間交流事業のプロジェクトミーティングもうまく始まり、マケレレ大学の若手研究者らと「共同研究」の始まりを感じたとたん・・・二男のLが夜中に嘔吐、下痢、翌朝も嘔吐、下痢・・・「これはまずい!!」。病院に走ることになった・・・(つづく)
 
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4. FENICSからのお知らせ
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(1) 南極教室@桐朋女子高等学校の報告事項
 
極地研のHPにて、南極教室に参加した桐朋学園の高校生、むさしの学園の児童の感想を含んだ報告がアップされました。
子どもたちが、それぞれの感性で刺激されたことを知り、うれしいばかりです。
フィールドワーカーによる「〇〇教室」、さまざまな形で行いたく思います。未来のフィールドワーカーのために、アイディアがある方は、ぜひともご連絡ください。
 
 
(2) ECフィルム連続上映会18 / EC自由研究シリーズVol.4

「捨てるものなどはない」〜かじがらで何ができるか〜

研究呼びかけ人 西村優子/紙の造形作家
 
■日 時:2022年9月2日(金)開場18:30 開始19:00
■会 場:Space&Cafeポレポレ坐(中野区東中野4-4-1-1F)
■参加費:1,000円 ワンドリンク付
■予 約:電話:03-3227-1445 Mail:za@pole2.co.jp
 
▼テーマ「捨てるものなどはない」〜かじがらで何ができるか〜
 
楮。和紙を作るための原料となる植物で、原料としては、皮の部分を使います。皮を剥ぎ取った後に残る、幹の部分を地元では「かじがら」と呼んでいます。ドキュメンタリー映画『明日をへぐる』にも、登場していたものの、残された「かじがら」はどうなっていくのか。地元では、かじがらは、煮る時のかき混ぜ棒や、火の焚き付けに使ったりぐらいにしか使っていません。まだまだ利用の可能性が未開拓。生産者が大事に手入れをしてきた、楮に「捨てるものなどはない。」はず。かじがらのその佇まいからも、今、「かじがらで何ができるか」試行錯誤中。ジタバタしながら考えています。今回、ECフィルムの映像の中から、利用の可能性を見出すヒントをみなさんと探ってみたいと思いました。(研究呼びかけ人 西村優子/紙の造形作家)
※西村さんが探求している高知の土佐和紙づくりについても紹介いただきます。
 
▼必ず上映するタイトル
アシで切妻屋根の小屋を葺く/イラク/マッダン・アラビア/E0153/1955/10:30
ドーム型家屋の建築/西アフリカ オートボルタ/リマイベ族/E0588/1962/9:00
牛の糞での大皿づくり/スーダン コルドファン/カトラ族/E0669/1963/8:30
生垣づくり/アフガニスタン バダクシャン/タジク族/E0709/1963/9:00
キバラニワシドリ あずまやづくり/E1080/1963-64/2:30
テントの組み立てと撤収/東サハラ チベスチ山地/トゥブ族/E1210/1963/21:00
 
▼その他の(上映するかもしれない)タイトル
アシのむしろづくり/イラク/マッダン・アラビア人/E0152/1955/9:30
木綿糸紡ぎ/ブラジル トカンティンス地方/クラホ族/E0430/1959/3:30
木琴づくりと演奏/西アフリカ 象牙海岸/バウレ族/E1533/1968/13:00
小屋づくり/南アフリカ カラハリ砂漠/コ・ブッシュマン/E1850/1970/5:30
架橋/西ニューギニア 中央高地/アイポ族/E2708/1976/7:30
センネグラスと靴/ノルウェー/サーミ人/SD01/1975/16:00
 
▼ EC自由研究とは…「観る、やってみる、問いつづける」

 
ECフィルムをテーマに開催した「映像のフィールドワーク展」(2019年@生活工房)での「観る、やってみる、問いつづける」の精神を引き継いだ連続上映シリーズです。ECの映像からもたらされる技や暮らしの楽しみ、豊かな生の集積。展示で生まれた「ECに触発される場」を続けて行きたいと思います。参加者ひとりひとりが研究する人になって映像をみて、ときには語り合います。ECから何を受け取るのか。何が始まるのか?参加者から次なる研究テーマも募集します。ぜひお集まりください。
 
時間が許せば「その他の(上映するかもしれない)タイトル」も見られます。
 
▼予告:次回11/2(水)「火」をテーマに上映会を予定しています。
 
(3) 2022.9.10 共催イベント FENICS×志縁の苑×ジェンダー人類学研究会
 
信濃毎日でも紹介されています。
 
もろさわようこさんが佐久市に開いた「はじめの家」が40年
これからを考えよう
 
共催イベント「女性史家もろさわようこの築いた『歴史を拓くはじめの家』のこれから」
日時:2022年9月10日(土) 13時~16時
場所: 志縁の苑(歴史を拓くはじめの家)と ZOOM(申込制)
    (長野県佐久市望月804番地7)
 
お問い合わせ:fenicsevent@gmail.com
 
(4) 2022.10.09(日)共催イベント FENICS×志縁の苑×ジェンダー人類学研究会
日時:2022年10月9日(日) 13時~16時
場所: 志縁の苑(歴史を拓くはじめの家)
    (長野県佐久市望月804番地7)
 
志縁の苑(歴史を拓くはじめの家)は、長野の冬期には閉めるため、10月末には家じまいを行います。その前に、FENICS、ジェンダー研究会とのコラボレーションを続けて行なう予定です。
テーマは「セクシュアリティ」教育です。
詳細はまたおってお知らせします。 
 
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5. FENICS会員の活躍
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小林美香さん(写真研究者):リーヴ・ストロームクヴィストの『欲望の鏡』刊行記念のオンライン読書会(レクチャー動画配信付き)
2022年8月27日(土)
19時30分~21時00分、Zoomミーティングにてオンライン開催(事前予約制、アーカイブの配信はありません)
 
リーヴ・ストロームクヴィストの『欲望の鏡』刊行記念のオンライン読書会を翻訳者のよこのななさんとの共同企画で開催。
事前・事後に視聴可能な『欲望の鏡』に関連する解説・レクチャー動画配信つき。
レクチャー動画では、リーヴ・ストロームクヴィストの活動の背景や、スウェーデンの政治、フェミニズムの展開についてよこのさんが解説し、小林美香さんが『欲望の鏡』で触れられている、3人の女性(カイリー・ジェンナー、キム・カーダシアン、マリリン・モンロー)の表象について解説します。
本作では、スーザン・ソンタグの『写真論』にも言及されており、SNSの時代において、フェミニズム的な視点から写真について考える上でも有益な作品だと思いますので、写真に興味のある方にもオススメ。!
 
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以上です。お楽しみいただけましたか?
みなさまからの情報、企画、お待ちしています。
 
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メルマガ担当 椎野(編集長)・澤柿
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