FENICS メルマガ Vol.59 2019/6/25
1.今月のFENICS
今月はライフイベントのサロン、そして総会と「川」をめぐるサロンを開催し、新しい分野の方々ともお会いできました。ある大学の探検部の学生たちもやってきました。正会員サイトに資料をアップしました。
総会に際しましては、ご参加、また委任状にメッセージ、まことにありがとうございました。お返事、ご報告はおっていたします。年に一度、コミュニケーションさせていただくこと、大切に思っております。いつもご支援をありがとうございます。
正会員・賛助会員(年会費1000円)が増えますと、活動に幅がでてまいります。メルマガ購読の方々も、この機会に会員になりご協力お願い申し上げます。社会貢献としてみなされます。https://fenics.jpn.org/about_us/membership_fee/
6月1日には東北大にて山口未花子さんが、FENICSサロンにおいて『家族フィールドワーク』の可能性:カナダ、ユーコン準州での経験から」と題しお話くださいました。少しずつ、実践する方が多くなった感触を得ています。
そしてちょうど蔦谷さんより、Natureに、フィールドに子供を連れて行くことに関する記事が出ていると教えていただきました。
記事のなかで、人類学者に対するフィールドと子育ての実情についてアンケート調査をした結果が論文になっているのが紹介されているとのことです。われわれも英語発信したいものです!!
それでは本号の目次です。
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1 今月のFENICS
2 フィールドワーカーのライフイベント(連載7)(蔦谷匠)
3 子連れフィールドワーク(連載5) (椎野若菜)
4 フィールドワーカーのおすすめ (浅川郁文)
5 FENICSイベント
6 会員の活躍 (大石高典・野中健一)
6 会員の活躍 (大石高典・野中健一)
7 本の紹介 『ナウリコット村の子どもたちと絵を描く旅 2008-2017』
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2.フィールドワーカーのライフイベント(連載7)
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おっぱい研究者の子育て 7 ~育休編~
蔦谷 匠(人類学・海洋研究開発機構)
私 (神奈川) と妻 (沖縄) は勤務地が離れており、同居して主体的に育児をするため (「育児を手伝う」とか「育児に関わる」ではなく)、私は、少なくとも1年間は育児休暇をとることにした。育児休暇中は、雇用保険から育児休業給付金が支給され (つまり雇い主の財布を痛める心配がありません)、子供が1歳になるまでのあいだは賃金の67%から50%が保証される。博士号をとるまでに学費や奨学金 (という名の金融ローン) で負債を抱え、任期付きの職を転々としながら数年先どうなっているかも見えない生活費の心配をする若い研究者夫婦にとって、この制度は本当にありがたい。
しかし、私が育児休業給付金を受けるに際して、問題が生じた。支給要件として、育休に入るまでの2年間で、勤務月が12ヶ月以上なければならない。現在のポスドク職には2018年4月から就いており、子供が生まれたのは2018年の11月で、勤務月が7ヶ月しかなかった。2018年3月までは学振PDの研究員として給料をもらいながら研究をしていたものの、学振やハローワークに問い合わせると、研究員と学振や大学のあいだに雇用関係はなく、雇用保険にも加入していないため、学振の採用期間は勤務月としてカウントされないのだという。(この「雇用関係にない」問題は、学振研究員が子供を認可保育園に入れようとする際にも大きな障壁になっていると聞きます……)
この衝撃の情報を聞いたあと、私と妻はスプレッドシートにカレンダーを作り、所属機関の勤務表をにらみながら、何度も計算をした。2018年11月から2019年3月までの5ヶ月間を、振替休日や有給休暇や必要に応じた勤務で乗り切りながら、12ヶ月分の勤務月を達成し、育児休業給付金が支給される要件を達成して、2019年4月からはじめて正式な育休を取ることにしたのだ。フィールドワーカーの端くれである私は、フィールド調査が休日にかぶることが多く、振替休日が比較的多く溜まっていた。勤務月と認定されるには勤務日が11日以上なければならず、これを達成できるよう、子供が生まれてからのスケジュールを綱渡りのようにやりくりする計画を立てた。沖縄と神奈川を何度も行き来し (もちろんその交通費は自費です)、最低限の仕事はしっかり進めつつ、大部分は妻子と同じ場所に暮らし子育てができるようにした。妻も私も実家が東京にあり、妻は出産後から2019年3月まで育休をとっていたため、この期間の後半は妻子とともに実家に暮らし、私だけ横須賀の職場に出勤するような形になった。
何よりも本当にありがたかったのは、職場の上司や同僚たちがこうした計画に対して非常に協力的だったことだ。見ようによっては、勤務と育児がごっちゃになり、どちらも中途半端になってしまう恐れをはらんでいる。そんなことならすっぱり無給の育休に移ってしまうか、育児はあきらめてフルタイムで仕事をするべきだと言われる恐れもあった (とはいえ、研究者の仕事は、腰を据えて実験ができないならデータ解析をしたり論文を書いたり、状況にあわせて自分の裁量で進めていけるのが大きな特徴ではあるのですが)。けれど、職場の人たちはそうしたネガティブなことを一切口にせず、やりくりのためにときどき迷惑をかけてしまう私に、「育児は大変だけど楽しいからがんばってね!」「困ったことがあったら何でも言ってね!」と常にポジティブな励ましをくださった。そうした温かい協力のおかげで、支給要件を達成でき、私は2019年の4月から「本当の」育休に入った。
ところがこのやりくりの過程で、自身の視野の狭さに驚愕するような事実を知る。これについてはまた次回。
(つづく)
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3.子連れフィールドワーク
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二人子連れフィールドワーク(ウガンダ編)5
椎野若菜(社会人類学・東京外国語大学AA研)
今回のウガンダ滞在。どうも車の運は悪かったようだ。ボンネットから煙がでた次は、ガス欠だった。渋滞するカンパラの道路で、突然、3回も止まった!いい迷惑だ。経験したことがなかった長男Jは、なにごとかとびっくり。運転していた夫・イアンはさっと降りてその道沿いをざっと眺め、大きな広告看板の下でなにやらやっている男たちのもとへ走り話をし、小さなジェリカン(容器)を借り、渋滞のなかをすり抜け、近くのガソリンスタンドまで走っていった。私といえば、子どもたちと共に車がびゅんびゅん飛び交う大きな道路に残されて、あまりいい気持ちではない。しばらくして彼がガソリンを買って戻ってくると、小さなペットボトルを斜めに半分に切り、即席ロートをつくってジェリカンから車へガソリンを入れだした。やっぱりウガンダ人、慣れている。いちいちうろたえない、日常茶飯事のこと。どうも今回借りたこの車、オドメターが機能していないようだった。
初めてウガンダの街中でガス欠を経験してから、やっとカンパラ市内のある小学校に到着。車をでるなり、多くの子どもたちに取り囲まれる。調査のためにやってきたのだったが、長男Jはさっそく同い年くらいの子どもたち相手に走り回り、遊び始める。生徒たちへの調査のため、ある教室で父や母(イアンや私)が生徒に話しながら教室内を歩くあとを、Jもついて歩く。生徒たちにちょっかいだされたり、だしたりしていた。調査の授業時間が終わりになると、何人もの生徒たちが今度はベビーLを抱く私の元に集まり、抱きたがり、何人かの手に渡るL。帰路も、多くの生徒たちに囲まれ、私たちが学校の門を出る最後まで子どもたちは走って、車をおってきた。
休む間はまったくない。翌日に別の学校へ行く前も、マケレレ大学の近くの、人通りの多い、車も多い坂の上でスタック。またガス欠。イアンがまたジェリカンをもって近くのガソリンスタンドへ走っているあいだ、ずっと車の助手席でLを抱き待つ。通りすがりのマケレレ女子大生らが、「ムズング(白人)の車、ガス欠かしら」と話しているのが聞こえる。けっこう恥ずかしい。多くの車が行き交うなか、坂の上でどうどうと止まっているのである、目立つのだ。
次の日は西部にむかって旅立つ日だ。二男のベビーLは、9か月になる日に、カンパラをでて西部へ約290キロ、ムバララという父の故郷に行くことになった。
(つづく)
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4.フィールドワーカーのおすすめ
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松村圭一郎・著『うしろめたさの人類学』
浅川 郁文(東京外国語大学国際社会学部 英語科アフリカ地域専攻)
アフリカやインドから日本に帰ってきたとき一種の「さびしさ」のようなものを感じることがある。なんでも手続き通りにコトが運ぶ便利な社会なのに、どうにも窮屈なものを感じてしまう。
『うしろめたさの人類学』(松村圭一郎、ミシマ社)は、この不思議に考えるヒントを与えてくれる。
市場/国家/社会/個人の関係を分析・再構築する「構築人類学」の試みに、少しだけ力を借りたい。
人はモノや行為のやり取りによって関係を変化させるが、重要なのはその形態だという。
まず、例えば、等価の物を取引する「交換」。
これは均衡を崩す余計な感情を抑圧したいという意識が伴う。対して、半ば一方的に気持ちを示す「贈与」は互いの存在を強く意識させ、感情を増幅させる。
著者が指摘する通り、日本の窮屈さは”感情も人間関係も抜きに取引だけ済ませろ”という「交換」の圧力なのかもしれない。
イレギュラーな「贈与」が混ざりこむスキマが、もうちょっとほしい。
バイト中、終始無言で会計を済ませ、商品を奪うように掴んで去っていく客の背中を見送りながら、一方で、笑顔で受け取ってくれる常連さんにほっとしながら、今日もムンバイの喧騒を思い出す。
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5.FENICSイベント
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*6月9日に開催されたサロンの資料は、正会員の限定サイトにアップされました。
野中健一さん、大石高典さんの資料をみることができます。(会員はログインするとアクセスできます)https://fenics.jpn.org/member_only/
*6月9日に開催されたサロンの資料は、正会員の限定サイトにアップされました。
野中健一さん、大石高典さんの資料をみることができます。(会員はログインするとアクセスできます)https://fenics.jpn.org/member_only/
*12月7日(土)に吉祥寺にて第9巻『経験からまなぶ安全対策』のイベントを東京・吉祥寺で開催することが決定しました!
自分自身が、また学生とともにフィールドワークするうえで、必須の重要な問題です。
ぜひご予定にお入れください!!!
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6.会員の活躍
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「川」サロンにご登壇いただいた、大石高典さんと野中健一さんの関わるイベントのお知らせです。
1)本日!6月26日「私たちはなぜ犬が好きなのか?」
大石高典氏×池田光穂氏×近藤祉秋氏
『犬からみた人類史』(勉誠出版)出版記念トークイベント@八重洲ブックセンター
https://www.yaesu-book.co.jp/events/talk/16341/?fbclid=IwAR3PbiN3e4MHqenWs-_jIDnCPSjzDMpbcQulQwwp_K89ZaYuXFE8Q-mgtHA
2)すべてはカレから始まった ママテツクラブ展
息子の願いを叶えたい」、「家族の来し方と未来を四季に織り込みたい」、「アリの世界はおもしろいよ」、「手を動かして作るって楽しい!」
こんな思いで集まったママテツクラブの半年を紹介します。(野中さんによれば、研究室での部活なのだそうです!)
集まって楽しい♪作ってうれしい! ママテツワールドをご覧ください。
期間 2019年7月6日(土)~7月21日(日)
10:30~19:00 木曜定休日
会場 さかつうギャラリー
入場料 観覧無料
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7.本の紹介
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堀木一男(アーティスト・デザイナー)さんより、ネパールの「ナウリコット村の子どもたちと絵を描く旅」プロジェクト10周年を記念した写真集をご恵贈いただきました。
紹介いたします。
『ナウリコット村の子どもたちと絵を描く旅 2008-2017』
ネパール児童絵画教育プロジェクト
A4並製フルカラー・240頁 1-61000002(日キ版) 発行年月: 2018/03 本体:3000円(税別)
紹介者:椎野若菜
A4判のフルカラーの写真集である。ある日本人女性が、定年後にネパールに赴き、女性たちの自立支援を促すための裁縫のアトリエをカトマンズにつくった。彼女の友人に、ネパール人実業家がいた。彼らは故郷の教育に絵画などの情操教育の導入を希望しており、その思いを知った彼女は、観光を兼ねてやってきた身内の画家に伝えた。そして画家は現地の子どもたちの瞳をみて考えたという。「この子たちと一緒に絵を描いたら楽しいかもと。」
そこで画家は絵を描く仲間に声をかけ輪がひろがり、毎年、標高2650メートルにある、8000メートル級の山々に囲まれた小さな村「ナウリコット」に絵や音楽、手品や紙芝居と10年にわたりネパールの通って子どもたちとアートをすることになった。
その記録が分厚い、写真集になった。「印刷は実力のある地方の業者にお願いして並製でありながらかがり綴じで手になじみやすいものにしました」とのことです。
すてきな一冊です。このアーティストの活動、写真集にご関心があり、ぜひ手元に、という方は椎野まで(wakanatokyo[at]gmail.com)ご連絡ください。
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お問い合わせ・ご感想などはこちらよりお寄せ下さい。
http://www.fenics.jpn.org/modules/query/query.html
メルマガ担当 椎野(編集長)・澤柿
FENICSウェブサイト:http://www.fenics.jpn.org/
寄稿者紹介
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- 椎野若菜, 蔦谷匠, 子連れフィールドワーク, おっぱい研究者の子育て