FENICS メルマガ Vol.107 2023/6/25
1.今月のFENICS
夏休みが、近くなってまいりました。夏に海外調査を計画している方も多くいらっしゃるでしょうか。
1USドルが、目を疑うような140円台となり、航空券をはじめ、海外での滞在もかなり厳しくなりました。もとより海外で生活をしておられる方々には、切実な問題です。今月にFENICS総会を開くにさいし、正会員のみなさまからいただいた近況のなかにも、子連れでの研究生活についてのあらゆる厳しさにふれておられる方がいました。
今月は、コロナ禍以降、初めての対面イベントを17日に開催、その翌週に総会をオンラインで開催しました。 新シリーズ FENICS 連続トーク「フィールドワークと生き方・働き方」の第1回「人類学からはじめる食・農ビジネス」を、「フィールドワークのつづき」と題し東京の代々木上原にて実施したイベントには、多くの方々が北は北海道から、西は京都、大阪から、いらしてくださいました。
本号ではイベントリポートを掲載しております。次回イベントも含め、お楽しみに!
FENICSでは会員間の交流と新しいコラボレーションが生まれる素地を、改めて支え、作っていきたいと思います。私たちは、役員の研究費で多くの活動をまかなっておりますが、活動を次世代の方々や様々な立場の方がたにも有効なものにするためにも、どうか正会員へのご登録、会費のご支援も、なにとぞよろしくお願いいたします。https://syncable.biz/associate/FENICS
さて、本号の目次です。
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1 今月のFENICS
2 子連れフィールドワーク(3)(杉江あい)
3 子連れフィールドワーク(4)(椎野若菜)
4 イベントリポート(津田啓仁)
5 FENICSからのお知らせ
6 FENICS会員の活躍(古閑恭子)
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2. 子連れフィールドワーク(連載)③(杉江あい)
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子連れフィールドワーク@陸前高田
杉江あい(FENICS理事 人文地理学/京都大学文学研究科)
フィールドワークのために岩手県陸前高田(以下,高田)に行ったのは,2018年からこれまで全部で7回。前回は,2018年9月に,2回目の研究合宿までをお届けした。今回は,3回目の妊娠中のフィールドワークの様子をお届けする。
2018年9月の研究合宿の後,私は11月下旬に民泊制度を利用して高田に滞在しようと考えていた。しかし,滞在をお願いしていたお宅の都合が悪くなったことに加え,11月に入ると私の体調は優れなくなり,特にお腹がすくと気持ち悪くなった。最初は原因がまったくわからなかったが,つわりだったのである(上の子の妊娠時は味覚が変わっただけで,つわりはなかった)。この状態では上の子を連れてフィールドワークに行くことはできないので,11月に高田に行くことは諦めた。安定期に入る前に飛行機に乗るのはリスクが高いということで,12月のサウディアラビア調査もドクターストップがかかり,2月のバングラデシュ渡航も夫1人で行くことになった。
いきなりフィールドワークをすべてストップすることになってしまったが,これは体力的にも止む得ないことだった。妊娠中は上の子を置いて1人で(お腹の子を入れれば2人だが)新幹線で移動するだけでも疲労がたまり,出張の次の日は午前中も寝ずにはいられない状態だった。このときはまだ上の子が保育園に行っていなかったので,母のサポートがなければどこにも行けなかっただろう。しかし,出産が近づいてくると疲れやすい身体にも慣れ,むしろ出産前にできる限りのことをやっておこうと,ゴールデンウィーク中に高田に行くことにした(4月28日~5月3日の5泊6日。出産予定日は7月上旬だった)。3度目の正直で東北新幹線は無事に指定席を予約できたが,高田市内の宿泊施設は3月末の時点ですでにどこも満室。やむを得ず,隣の大船渡市のホテルに泊まることにした。
高田では,これまでの連載で触れた「高田の母」Wさん,りんご農家のCさんご夫妻,そして,漁業に従事しているAさんと再会し,お話をうかがうことができた。このときはまだ国の復興事業である嵩上げが終わっていなかったが,嵩上げされた土地のほとんどが未利用地(空き地)になることがすでにわかっていた。このことはメディア等でも取り上げられており,インタビューでもこれから高田の中心地がどうなっていくのか,心配する声が聞かれた。
震災前,高田の中心市街地は住宅を兼ねた商店が軒を連ねており,夜も明かりがともっていた。この3回目のフィールドワークまでにいくつかの店は中心地に本設店を再建したが,住宅がないので夜間は人通りもなく,明かりが見えないまちになっていた。観光面においても,観光協会は仮設の市役所の中にあり,高田の「玄関口」となる道の駅はオープンしておらず,観光客を集める「奇跡の一本松」もまだ工事が終了していなかった(ご存知の方も多いと思うが,一本松はすでに枯れてしまい,今あるのは1億5000万円かけてサイボーグ化されたモニュメントである)。一本松までは一番近い駐車場から少なくとも1 kmは歩かねばならなかった。しかも,その途中には急傾斜の仮設階段があった。ベビーカーを折りたたんで2歳の子の手を引き,身籠ったお腹で足元が見えない状態の中,急な階段を上り下りするのは至難のわざだった(今思えば,転げ落ちたら大変なことになっていたので,よくも強行突破したと思う…)。ゴールデンウィークだったので一本松には観光客が集まっていたものの,高田では震災から8年経過してもハード面の復興もまだまだという状況を目の当たりにし,私たちもこれからこのまちがどうなっていくのか,心配になってしまった。当時喧伝されていた「復興五輪」という言葉には,違和感を抱かざるを得なかった。
フィールドワークを終えて名古屋に帰り,7月に出産を経て11月の科研ミーティングで研究の進捗状況を報告したときには,「来年(2020年)のゴールデンウィークには次女もフィールド・デビューします」と意気込んでいた。しかし,周知の通り,2020年はCovid-19でまったくフィールドワークに行けなくなってしまった。なかでも高田はバリアでも張られているかのように,2021年2月まで陽性判定者が1人も出なかったので,「自分たちが調査に行ったがためにCovid-19を持ち込んでしまったらどうしよう」という不安を強く感じていた。そのため,東海新報という地方紙のデジタル版やSNSなどで情報を得たり,調査協力者の方にオンラインでインタビューをお願いしたりする日々が続いた。高田に行くチャンスに恵まれたのは,全国的に感染者数が下火になった2021年12月だった。このときには,1年半ぶりに訪れた高田の変貌に驚くことになる。次回はこの4回目フィールドワークの様子をお届けする。
(つづく)
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3. 子連れフィールドワーク(連載④)(椎野若菜)
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小学4年、10歳とケニア調査へ行く
椎野若菜(社会人類学/東京外国語大学AA研)
この度、Jとの旅であることもあって、ナイロビから西ケニアまでの車の運転をお願いした。その運転手はルオ人の隣人であるグシイ人。ルオ人の村にいるのは、ちょっと居心地悪い感じで私たちを待っていた。車に乗り、走り出してからも村人が追いかけて挨拶をしに来てくれるので、後ろ髪ひかれつつ、ルオ人のK村をあとにして目的地である田舎町Nにむかう。
田舎町Nまでの道もよくなっていた。以前はアスファルトに大きな穴があちこちあったのに、あまりによくなっていてスムーズに走れるので、景色を追っても、記憶にある目印も分からない場所もあった。以前に住んでいたM村あたりは、土地利用が変わり、村への入り口も私には分からなくなっていた。
●田舎町N・・なぜゴミが
今回はJも一緒なので、小学校の教員をしている友人Lのいる村の近くの田舎町に滞在することにしていた。いつも公共の乗り合いバスを使い、歩いてきていたので、車でどうやって友人の家まで行けばよいか分からない。雨などで土がえぐられ、普通車が耐えられる道でないことを覚えていたからだ。何人かの子どもに「マダムLの家、知っているか?」と聞きつつ、四苦八苦して家の近くまで車でたどり着いた。30キロあるスーツケースを、Lは頭にのせて運んでくれる。以前は彼女の家に直近の隣人はいなかったのに、小さな田舎町付近の土地は小さく区画され、長屋の借家も増えている。家まではひしめきあった家々のあいだをぬって、小道を歩いていく。そこで驚いたのがゴミ!ポイ捨てゴミ、家庭のゴミが道端にあふれている!Jは驚いて絶句していた。「毎日歩く道、なんでこんなにゴミだらけで平気なの?」
7時半ごろ、日が暮れてくる。10年ぶりのN町には、電気が通っていた!そしてソーラー電気も併用でついている。少々暗いけれど、その電気の灯りのもと、家のなかのトイレ兼シャワールームで、バケツ一杯のぬるま湯で水浴びをする。昨年のウガンダでも経験しているので、Jも慣れたものだ。友人Lが、歓迎して夕食のために鶏を屠ってくれる。Jは興奮して初めて鶏をしめて調理するところを観察、撮影する。(意外にスローターするところも、怖がることなく、ちゃんと観察できていた)
●M村へ・・リアル一夫多妻コンパウンド
私が、初めてアフリカに来て過ごした村に、Jを連れていく。私のほうが、また勝手にどきどきしている。やはり村人は私を覚えていて、「え、あのWakanaなのか?」と何度も足止めされる。訪ねたい家につくまでに、さまざまなコンパウンドの傍をとおるわけだが、なかには、一夫多妻のところもある。家の人びとに握手して挨拶しつつ、Jに「ここは第一夫人の家ね」「ここが第二夫人」というと、目がくるくるしている。コンパウンドを出たあと、歩きながら「え!奥さんが二人もいるの!」とJ。「ママはダディがもう一人、奥さんがほしいって言ったら、さよならするな。」と私が言うと「ええ!そうしたら、ぼくたちどうなるの?ぼくはママについて行くよ!」急にびっくりして理解できないJは、とりあえずそんなことをいう。そう、一夫多妻社会に生まれ育つ感覚は、なかなかすぐには分からない。私だって、長年のつきあいのなかで、この社会を理解しようとしているのだ。
インタビューのあと、ルオ人が昔住んでいた、Ohingaという石囲いにも久しぶりに足を伸ばす。Jに、昔の人がこの石垣をしっかりつくって、そのなかに住んでいたこと、当時は外からライオンやサイ、ゾウのような野生動物もいるし、となりの民族と闘っていたから、そのために高い石垣を築いてその中に住んでいたことを話す。(戦国時代の歴史が好きなJは想像が飛躍していった)
友人Lの義父は、この石垣で生まれた最後の世代で、40人以上妻をもったことで有名なアクク・デンジャーのイトコ(従兄)であった。そのおじいさんには、私は何度も昔のことを聞きに通ったものだ(「ケニア・ルオの居住形態の変遷」『アフリカ・レポート』2000年9月号(http://hdl.handle.net/2344/00008349)。
(つづく)
(4)★イベントレポート(津田啓仁)★FENICS 連続トーク「フィールドワークと生き方・働き方」
イベントレポート 第一回「人類学からはじめる食・農ビジネス」(2023/6/17開催)
(津田啓二 文化人類学 秋田公立芸術大学)
第一回、無事終了いたしました。ご来場いただいた方ありがとうございました!満席につきご参加いただけなかった方は、本報告書をお読みいただきながら、次回以降のご参加をぜひお願いいたします。
<坂ノ途中・小野さんのお話し>
まずは坂ノ途中・小野さんから、坂ノ途中が大切にしていることと人類学を研究されたご経験の共通点についてお話しされました。興味深かった点を3点にまとめますと、
●学生時代に巡った「遺跡」から感じた「社会は終わってしまうものなのだ」という感覚が原点の一つ。だからこそ持続的な農業という企業の方針が見えてきた。
●野菜ビジネスも人類学も、身体感覚がとても重要。まず食べてみるという経験を重ねることで、事業領域の理解や自信が高まっていく。
●わかりやすさに逃げない。企業経営の中では、わかりやすい言葉に頼ってしまいがちだが、さまざまなステークホルダーと関わる上では、わかりあえなさを楽しむことこそ、遅くても近道なことがある。
こうした点は、フィールドワークの経験がある人や人類学を学んだ人にとってとても重要なポイントかもしれません。
また、トークの最中、坂ノ途中のチャイとクッキーが振舞われました。大変濃く、おいしいチャイでした!
<魚草・大橋さんのお話し>
続いて、魚草・大橋さんから上野に構えるお店のご様子と店での様々な取り組みについてお話がありました。
大橋さんからは、….続きはこちら<イベントリポート>へ!! https://fenics.jpn.org/event_repo/event_repo-tsuda-2023-6-17/
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5. FENICSからお知らせ
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FENICS総会 6月23日(金) 21:00~22:00 オンライン開催報告
メルマガをいつも楽しみにしてくださっていると複数の方から声を頂きました。近況としては育休中にMBAを取得しようと、経営管理大学院に通い始めた方、制作された映像作品について教えてくださった方、具体的に今年度のイベントとして提案してくださった正会員のみなさま、ありがとうございます。FENICSがこれまでイベントで扱ってきた地域について、「南アメリカがないですね!」というご意見もいただきました。ぜひとも、何かやりたいと思います!
近況を具体的にお教えいただくと、イベント実施に動きやすいので、たいへん嬉しいです。イベントについては、詳細をつめさせていただきます!ほかの会員の声も紹介します。
会員の声の紹介:
●ESG投資や気候変動対策・生物多様性保全での「先住民の権利の尊重」などの動きがグローバル(特に政治と経済)で大きく取り上げられるようになっていますが、文化人類学の研究者の方をはじめ、フィールドワーカーの皆さんはどのように関わっているのでしょうか。否定的な方が多いように思いますが、避けて通れなくなりそうで、組織的な取組(情報発信含め)も必要なのかなと思っています。(正会員:久世濃子 霊長類学)
●消滅危機言語のワークショップをつくりました。文化人類学とも関連のある分野ですね。(正会員:吉崎亜由美 地理学 中高教員)
●現在はアメリカで息子と2人暮らしで、周りに頼れる人もいない中で、日本の家族と離れてワンオペで研究を続けることの難しさを実感しています(アメリカは驚くほど公的の子育て支援がなく、金銭面においても、特に東海岸は生活費もあまりにも高く日本の給与で学童費用まで賄うのはかなり厳しいものがあります)。他方、研究環境は良いし、息子には小さな頃から多様な経験を積んでほしいと思うし、何を優先させるべきか相変わらず葛藤の日々です。子育てをしながらの海外での研究活動など、FENICSのみなさんと情報交換できると嬉しいです。(PD@アメリカ)
フィールドワーカーとライフイベントのサロンは、例年5月頃開催してきましたが、今年度はあらためて企画したいと思います。
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6. FENICS会員の活躍
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古閑 恭子さん(FENICS正会員・言語学・高知大学)
【小学5・6年生向け語学講座】
✨親子でいっしょにアカン語✨
開講日:7月29日(土)10時am
アカン語は西アフリカガーナ共和国で話されることばの一つです。ネイティブの先生と日本人の先生の2人で授業を行います。ネイティブの先生とあいさつの練習してみませんか❣️
申込締切は6/30です‼️
↓詳細はこちら
(2) 20世紀の映像百科事典をひらく 映像のフィールドワーク展 vol.2
ひもをうむ、あむ、くむ、むすぶ
会期:2023年7月25日(火)~2023年10月22日(日)※月曜休館(祝日の場合は開館)
時間:9:00~21:00
入場無料
会場:生活工房ギャラリー(三軒茶屋駅直結キャロットタワー3階)
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以上です。お楽しみいただけましたか?
みなさまからの情報、企画、お待ちしています。
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メルマガ担当 椎野(編集長)・澤柿
FENICSウェブサイト:http://www.fenics.jpn.org/
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